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都市伝説ファイル  作者: 藤笠 紺
警察の捜査
10/13

高遠の調査

 翌日、二階の寝室から一階の事務所に降り、窓を開け朝の空気を入れる。昨日はやや涼しい風が吹いていたが、今日はそうでもない。七時というのに蒸し暑い。高遠はまだ起きていないようだ。調査はなるべくやる気のある方がいいと言っていたのは、高遠だ。しかし、言い出しっぺが起きていないのはおかしいだろう。私は再び二階へ戻り、朝食の準備を始めた。においが寝室にも届いたのか、高遠がキッチンへやってきた。おはようの挨拶は言わず、そのまま洗面所へ。普段から眠そうな顔をしているが、朝は特にひどい。洗面所から戻ってきて、ようやくおはようと言う。

朝食は、ハムエッグを作ろうと思ったのだが、途中で挫折してハム入りのいり卵に変更したというのが一目瞭然な代物だった。

高遠はそんなことはまったく気にしていないようでむしゃむしゃと食べている。

「なぁ、高遠。今日は本当に調査をするのか?」

と私は聞いてみた。すると彼は一冊の本を差し出した。

「この本は?」

「読んでみたまえ」

本のタイトルは、『都市伝説大百科』

途中に付箋が貼ってある。このページを読めということか。

開いてみると、口裂け女についてが書かれてある。

口裂け女は、1970年代の終わり頃、全国に広まった噂だという。

 顔の下半分を覆う、大きなマスクをしている女性の妖怪で、学校から帰宅途中の子供などに声をかけてくる。

 ……「アタシ、キレイ?」と。

大きなマスクで顔がよく見えず、問われた子供はとまどう。

でも、質問に答えようとする。

「……キレイです」

そうお世辞で言ったが最後。その女はおもむろにマスクを引き剥がし……その耳まで裂けた大きな口をあらわにし……そして叫ぶのだ。「これでもキレイかーー!?」と。

 ……また、「キレイじゃない」と答えれば、手に持った鎌やナイフで引き裂かれて、殺される。

 その口裂け女の問いには、「それなりに」と答えるのが正解らしい。それで女の感情は逆なでされずに、事は無事に済むのだろう。

逃げても無駄らしい。彼女は100mを6秒台で走るというのだから……

主な対処法としては、べっこう飴を与えるか、ポマードを三回唱えるなどなど。

口裂け女は三人姉妹の末の妹とされることが多く、口が裂けた理由はこの三人姉妹と言う部分と関係していることが多い。まず、三人姉妹は(もともと美人だったのだがさらに)きれいになりたくて整形手術をするのだが二人は成功し、末妹だけは失敗し、結果口が裂けてしまったという整形手術失敗説。

さらに三人姉妹の一番上の姉は整形手術に失敗し口が裂け、二番目の姉は交通事故で口が裂け、それをうけ末の妹が発狂し、自分の指で口を引き裂いたとする説、あるいは1人だけ元の美しい顔のままの妹の口を一番上の姉が鎌で裂いたり、さほど美人ではない姉が美貌の妹を妬んで裂いたと言う姉の嫉妬説がある。

こうして生まれた「口裂け女」であるが、姉妹説を取る話の中には、三人のうちの二人はすでに警察に捕まっており、末の妹だけが凶行を繰り返しているのだと言う説明がつくことがある(五人いて三人警察に捕まったと言う話もある)。

他には草刈をしていて、誤って草刈鎌で自分の口を裂いたと言う自傷事故説。

熱いコーヒーによるやけどが原因という火傷説。

さらに難産で医者のメスが口を切ったという医療事故説も。この場合、シチュエーションがちょっと分かりづらいが、口を切られたのは母親の方である。すると、口裂け女は子持ちと言うことになり、若い女性のイメージとはちょっと結びつきにくい。


ある程度まで、読んだところで尋ねてみた。

「この内容が一体?」

「ん?ああ、予備知識ってやつだよ。君も名前は聞いたことがあっても、詳細なんかは知らないだろう?僕は自称都市伝説マニアだから、今さら読む必要はないけど、君は読んでおかないと事件についていけないだろうと思ってね」

「事件についていけないって、おいおいそこまでする必要があるのか?口裂け女を知らなくても、事件の詳細を知ることができたならそれでいいじゃないか?」

「確かに事件については、島田さんから聞いたが、僕にはそんなことは関係ないさ。あくまで、逮捕するのは警察の仕事。僕が知りたいのは現代に彼女がいるかどうかだけ」

「ずいぶんと余裕そうだな。君はそんなに会うのが楽しみなのかい?」

「もちろんさ。できれば、事務所にでも誘って一緒にホットコーヒーでも飲みたいところさ。いや、まてよ。本にはコーヒーでやけどを負ったという説がある。それだと、逆ギレされて、殺されてしまうな。うむ、ホットコーヒーはやめて、アイスコーヒーにでもするか……」

また、始まった。高遠はこの話になると恐怖心は一切感じず、むしろ歓迎してしまうのだ。しかも、周りを気にせず一人で演説をしてしまう。困った癖の一つだ。

簡単な朝食を終え、出発の支度をする。

この日は珍しく高遠は清潔感あふれるクールビズシャツを着ていた。いつもそうすればいいのにと思うが、高遠からすれば、シャツほど気持ちの悪いものはないらしい。

午前十時。まずは、岡本綾子の自宅へと向かうことにした。


パジェロミニを走らせて、約20分。車内にエアコンが効いていたおかげで、たれずにすんだ。どうやら、ここが岡本家らしい。車を降り、玄関の呼び鈴を押した。どなた様?という女性の声がし、探偵です、という場違いな発言をした高遠。探偵って名乗ったら、警戒されてしまうのではないか。そう思ったが、意外にも岡本さんは警戒心が見受けられず、私たちを中に入れた。


リビングのソファに案内され、座る。新品なソファで、あまり汚したくはないのか、シーツが被せてあった。けど、ソファにシーツはミスマッチのような気もする。

「へぇ、探偵さんですか。まだお若いのに」

岡本さんは感心したようだ。

「いえいえ、自称探偵です。まだまだ未熟者ですがね」

私はそう答えた。

「その探偵さんがどの用で?」

来た。答え方によれば、口を聞いてもらえなくなる。どうする、高遠?

「用件は簡単です。昨日起きた口裂け女殺人事件についてのお話です」

「あら、その件については散々警察に問われたわ。あなたに話すことは……一体どうして?」

「実は私、都市伝説を研究にしていまして、不謹慎ながら口裂け女について調べたくなってしまいました。しかし、この事件を解決に導くことができたなら、あなたの容疑を晴らすこともできます。それで……」

岡本さんはふふふと笑い、

「ありがとう。気持ちは嬉しい。けど、アリバイのない私の容疑は晴らせませんよ」

「この際、アリバイは関係ありません。噂によると、被害者の屋代洋子さんの口が耳まで裂かれているそうですな。犯人は何らかの目的で、口を裂いたのでしょう。言い換えれば、その目的が分かれば、犯人も分かるのではないか、私はそう思いますね」

そういいながら、高遠の目線は彼女の右手に注目していた。高遠は怪しいと思うものに目を向ける。今回もそうなのか。

私も彼女の右手を見た。とりわけ、不自然な点はない。強いて言うなら、女性にしては爪が短いことぐらいだろう。最近切ったような感じだ。

その後も話は続いた。しかし、あの島田警部の同じく、収穫はなかった。

さて、帰るかと高遠がいうので、仕方なく立ち上がった。リビングを出るとき、高遠の目線が綿棒や爪切りがはいっている箱に向いていた。また何か、不自然な点があるのだろうか。もやもやとした気持ちを抱えて、車に乗る。

「えーと、次は美影さんの家か。ここから、そこそこ距離があるな。ヒロ、眠かったら寝ててもいいぜ」

「いいよ。距離があると言っても、一時間そこらで着くだろう。起きてる」

再び、車を走らせた。


夏にもかかわらず、道が空いていたため、思ったよりも早く目的地に着いた。

「ここか。まあ、聞くことはさっきと同じだし、あまり時間をかけずに行こう」


「え、探偵?へぇ、いるんだな、探偵って。推理小説の中だけかと思ったよ」

美影さんも同じく、警戒心が見受けられない。

「それで、僕に聞きたいことは?」

「大したことはありません。昨日起きた、口裂け女殺人事件についてのお話を聞きたいのです」

「警察も、聞いてきたよ。僕にはアリバイなんてものはない。だが、洋子さんを殺害する動機もない。心の優しい洋子さんを……」

岡本さんと同じく、話が続いたが、ここも収穫がない。高遠は事件を解決できるのだろうか……


美影さんの家を出たのがちょうどお昼の十二時。さほど動いてもいないのにお腹が空いてきた。

「高遠君よ、事件の方は進展があるのかい?あれじゃ警察が事情聴取をするのと同じことじゃないか?」

思わず言ってしまった。この暑さのせいなのだろうか、私も頭が動いてないようだ。

「進展ねぇ……動いてないことはない。ただ、まだ手がかりが足りない。何故、犯人が口を耳まで裂いたのか。また、どうして朝の時点で遺体が発見できなかったのか。それが分かればな……」

これまで、鮮やかに怪事件を解いてきた高遠でも今回は苦戦している。


コンビニで買った鮭とおかかのおにぎりを、公民館近くの公園で食べることにした。日陰が多いからだと言う。

「あの二人のうちどちらが犯人だろう?さっぱりわからん」

私は鮭のおにぎりを食べながら、呟いた。

「口裂け女はいるのだろうか?さっぱりわからん」

私の言葉を真似したのかどうかは別として、高遠にしてみれば、犯人なんかどうでもいいのか……そう思っていると、公民館から人が出てきた。明らかに二日酔い気味の様子である。

「疲れた〜。お祭りの準備にその夜は飲み会。そして、翌日には後片付けときて、昼にはあんな事件があったんだろう?もう怖くて外に出歩けないや」

「ああ、そうだな。犯人捕まったのかな……」

「……」高遠は何か思案してるようだ。そして、その二人組の男性に近づき、話を聞いていた。それが終わると戻ってきた。

「どうした?何か閃いたのか?」

「うん……あの二人、事件前日、友人の家に集まり、朝まで飲んでいたそうだ。そして、その日の午前お祭りの後片付けをしていたと……」

「お祭りって、R公園の近くであったな」

「……」

「てことは、後片付けも公園の近くであったことだよな」

「……」


公園に小学生3〜4人が集まり、鬼ごっこなんかで遊んでいた。その中の一人が転び、ジーパンのもも部分が1cmほど破れてしまった。

「うわ〜かっこ悪いな。どうにかならないかな……」

その少年はお母さんに怒られるよりも、かっこいいかどうかを心配していた。すると、少し太った少年が、

「そういう時はな、こうやるんだよ」

ビリ!小太り少年は破れたあとをさらに広げた。

「こうすれば、かっこいいだろう?」

まさか、そんなことをするとは……今時の小学生は気が知れない。そう思っていると、突然、

「そうかそういうことだったんだ……ヒロ、わかったぜ。この事件の真相が」

「へ?もう一回言ってみて」

「だから、わかったんだ、真相が」

「うそ……」

「ようやくわかったんだよ、何故犯人が口を耳まで裂いたのか、さらに何故朝、遺体が発見されず、昼に発見されたのかが。そして、真犯人も」

なんということだ!昨日起きたばかりの事件をもう解いてしまったとでもいうのか?この男はいかにして真相にたどり着いたのか?いつもの【発想】なのか?私は思わず、

「おい、高遠!本当に犯人はいるのか?」

と聞いてしまった。すると、

「いるさ。岡本綾子、美影伸也のどちらかが犯人だよ」

焦らすつもりなのか、どちらかが犯人だよというだけで直接には教えてくれなかった。

「さて、ヒロ。帰って、島田警部に知らせよう。犯人がわかったとね」

「ああ……」

「どっかの漫画の主人公が使ってたセリフを言おう。謎はすべて解けた!」




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