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Free story  作者: 狐鈴
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王城

 シロが城門に到着するとカインズが門の前で待っていたが、南坂(みなさか)の姿を見つけるとシロに説明を求める。


「え~と……さっきそこで会って、そしたら俺と同じ異世界から来たみたいだから一緒にお城に入れてほしいな~なんて……」


 シロが言い終えるとカインズはシロの方をじっと見据えるが、しばらくするとため息をついて頷く。


「ふぅ……いいですよ、どうせルシア様に伝えれば城に招くように言うでしょうしね」

「あっ、ありがとうございます!」


 礼を云うとカインズが先導をし始め、門をくぐり庭を越えると立派な扉があり、近づいていくと扉の前にいた騎士が黙って扉を開けるが、横を通り過ぎる時にシロ達の様子を伺っていた。

 城に入り扉から少し離れた所までくるとカインズが不意に謝ってきた。


「不快な思いをさせて申し訳ない、あとで扉の所にいた騎士には私から注意しておきます」

「いえいいですよ、こんな所に俺達みたいなのが居る方が不自然ですもん、俺達を警戒するのは当たり前ですって」

「そう言ってもらえると助かりますよ」


 そう言ってカインズが部屋の前で立ち止まると扉を開けてシロ達に入るように促した。


「私もこれから報告があるので失礼しますが、なにかあれば部屋の前に騎士を一名待機させておくので彼に申し付けて下さい」


 それだけ伝えてカインズは部屋を後にすると、南坂と二人きりになる。

 王城のでかさは外から見て分かっていたが、中もかなり広くシロ達が通された客間でさえ相当な広さで高そうな壷や花瓶、装飾が施された椅子など使うのも恐れ多い家具が置いてある。


「ねえ、こんな豪邸持ちの人と知り合いなんて成瀬君て何者?」

「いやー、ここのお姫様とたまたま知り合って、たまたま助けたら、たまたまお城の一室貸してくれた……みたいな?」

「お姫様!? じゃあやっぱりここには王様っていうかキングが居るってこと!?」

「そりゃいるでしょ、南坂さんだってお城って言ってたから分かってるのかと思ってたよ」

「ま、まぁ異世界だしね王様だっているよね……うん」

「まあ俺達が居た所とは違うわけだし、分からない事は沢山あるけど俺が知ってる事は話しておくよ」


 シロは今いる国、アーウェンブルグと魔法について南坂に簡単に説明を始めたが魔法の話になると胡散臭そうな顔をしだす。


「ふ~ん、魔法……ね」

「信じてないだろ?」

「だっていくら異世界っていっても一人でお屋敷をドーン! なんてできると思う?」

「気持ちは分かるけど本当なんだって俺は使えないけど、あとで他の人に見せてもらえばいいよ」

「それじゃ楽しみにしとくね~」


 全然と言っていいほど信じていない様子で返事をする南坂と、今度は日本の話をする。

 どうやら南坂はシロの居た所の隣県にある、女子高に通っている三年生らしい。


「成瀬君は二年生なんだ、私の一つ下なんだね」

「じゃあ南坂先輩って呼ぶ?」

「南坂でいいわよ後輩君」

「俺の事は成瀬でも白でもどっちでもいいですよ」

「やっ! ほら、さすがに男の子を下の名前で呼ぶのは抵抗があると言うか……さ、最初は成瀬君て呼ばせてもらうよ! もうちょっとお互いを知ってから名前で呼ぶことにするよ!」


 なぜか一人でテンパって勝手に彼氏彼女の愛称を決める時のようなやり取りを始める南坂さん……きっと女子高だから免疫ないんだろうなとシロが一人で納得していると、使用人がノックをしてから部屋に入ってくると食事を運んできた。


「おおっ宮廷料理……」

「南坂さんヨダレ……」


 使用人が料理を運び終えると二人で食事を始める。


「ぅ……えぐ、おいひぃよぉ……」

「確かに美味いけど泣くほどかよ」

「だって昨日から碌に食べてないし、さっきだってあんまり食べてないから」

「わかったから慌てずに食べなよ」


 南坂が嬉しそうにして食事を終えてからも二人で話し込んでいたが、ルシアもカインズも顔を見せないので今日は早めに休む事にしたのだが。



「私の方に来たら殴るからね!」


 なぜかベッドが一つなので寝る場所で揉める、主に南坂さんが……


「急に襲わないでよね……」

「襲わないって……って、もう寝るからな」

「ん、おやすみなさい」

「おやすみ~」


「「……」」


 お互いが無言となり部屋が静かになると、唐突に南坂が口を開く。


「成瀬君」

「……なに?」

「今日は……ありがと」

「どういたしまして」


 そうして二人は眠りについた。



 朝になりシロが目を覚ますと南坂はまだ眠っていたので、起こさないようにベッドから出ると部屋の外に向かう。

 部屋に出ると昨日とは違う騎士が立っており、こちらに挨拶をするとまたピシッと背筋を伸ばして見張りを続ける。


(昨日の夜のうちに交代したんだよな、さすがにずっと一人で見張りをするわけないもんな)


 考え事をしながら廊下の窓から空を見上げていると、ルシアがお姫様のような格好でこちらに歩いてくる。


(そういえばお姫様だっけな、素を見ていると忘れちゃうな……)


 真面目な顔をしているせいか気品漂う、美しいという言葉が似合う顔をしているので一瞬見惚れてしまうが、すぐ傍にいた騎士の挨拶で我に返る。


「ルシーナ王女、おはようございます!」

「おはようございます。シロ様、昨日はよく眠れましたか?」


 シロ様ってだれ? と考えるが自分しかいないのですぐに挨拶を返す。


「あっと、おはようルシア…………さま?」


 ルシアの名前を呼び捨てにした途端、後ろの騎士が咳払いをしてくるのでとりあえず様をつけてみたが、おかげで疑問形になってしまった。


「シロ様、お連れの方にもご挨拶をしたいのですけれど、構いませんか?」

「それがまだ、ねっ――っ!」


 シロが眠ってると言おうとしたらルシアが騎士に見えないように足を踏んでくる……ヒールで。


「そ、そろそろ起きるんじゃないかな~」

「それでしたら是非、ご挨拶を!」


 そして強引に部屋に入っていくルシア様。

 ルシアは部屋に入り扉から離れたところまでくると深くため息をついた。


「はぁ~敬語って面倒だからイヤなのよね~、シロも鈍いんだから」

「すんません……でもヒールは痛いってマジで」

「シロがお断りを入れるから悪いんです~」

「ルシアのその格好が新鮮だったから……」

「……から?」

「綺麗だなって見惚れてた」

「――――……なっ」


 急に顔を真っ赤にして手で覆うと目を逸らしてしまうルシア、どうやら自分から裸で布団に潜り込むのは平気でも直球で褒めるのには弱いらしい、やだこの子可愛い。

 シロが分析していると南坂が目を覚まし、ルシアと目が合う。


「うっわ本当にお姫様だ……って成瀬君! 朝からお姫様連れ込んでナニしてるのよ!?」

「ナニもしてないよ?! ルシアが南坂さんに挨拶したいからって来ただけだよ!」


 そこまで言うとルシアが前に進み出て南坂に挨拶をする。


「えっと、みなさかさん……ですか? 私はルシーナ・アルテシアです、どうかルシアと呼んでください」

「あっはい! よろしくお願いしますルシアさん」

「ルシアと呼び捨ててくれていいですよ?」

「えっ? でもお姫様だし……」


 やっぱりその辺りは気にするよな、と思いシロは助け舟を出す事にする。


「ルシアが良いって言ってるんだし、その方が気が楽なんだってさ」

「それじゃあルシアで……私は南坂(みなさか) 香織(かおり)です、かおりって呼んでねルシア」

「かおり……うん! よろしくねカオリ!」


 ルシアと南坂は同い年ということもあってか随分と楽しそうにガールズトークを始めたのでシロはベッドに潜り込んで二度寝を始めようとするとカインズが部屋にやってくる。


「やはりここでしたかルシア様」

「うっカインズ……」

「また稽古をサボっては先生に怒られますよ?」

「まだカオリと話したいー」

「夜になれば来れるんですから、まずは稽古です」


 ルシアがカインズに無理やり連れて行かれると二人になってやることがなくなる。

 仕方がないので部屋の前にいる騎士に城の案内を頼むと引き受けてくれたが、一般の騎士が出入りできる場所は限られているらしく案内できる所は食堂と訓練所と書庫くらいしかないそうで、とりあえず騎士の訓練を見学させてもらうことにした。

 訓練所にくると沢山の騎士達が試合をしたり素振りをしていて、それを見ていると南坂がシロの裾を引っ張ってくる。


「どしたの? 南坂さん」

「あそこ見て…すっごい……」


 南坂の指差すほうを見てみると鎧を脱いだ騎士達が上半身裸で汗を拭いている、正直メシが不味くなる光景なのだが南坂は騎士達を凝視している。


「ねぇ南坂さん? すごいってなに?」

「えっ? わかんないの!?」

「わかんないっす」

「はぁ~なんであの綺麗な筋肉見てグッとこないかな? 成瀬君も男ならあんな風にならなくちゃ!」


 南坂さんの新たな一面を発見するシロだが話しについていく気はないので訓練の方に目をやると、人間離れした動きをしながら打ち合っている騎士を見つけるとシロは案内役の騎士に尋ねる。


「あの二人ってもしかして身体強化ってのを使ってるんです?」

「はい、騎士団は皆、使用できますがあそこまで使いこなすのは難しいですね、あの二人はもうじき魔法騎士に昇格するのでああやって別で訓練してるんです」

「ちなみに身体強化って俺でもできます?」

「魔力持ちなら可能ですが、魔力は制御できてますか?」


 騎士の質問に首を横に振ると、騎士は少し考えた後に書庫へ移動しようと提案し、それに従う事にすると南坂が筋肉を見ていたいと反対するので、南坂を置いて書庫へと行こうとすると渋々ながらついてくる。

 書庫へ行くと一人の老人を紹介される、老人はグローウィルと名乗り司書をしているとのことだ。


「グローウィル様は魔法騎士に所属されていた事があり引退された後もここで魔法について研究なさっています」

「研究なんて大層なもんじゃないて、ただの爺の趣味じゃよ」

「あの俺…魔法に興味があって色々と教えてもらえると助かります」

「ふむ……魔力を制御できないんじゃな?」

「わかるんですか?」

「それくらいならの」


 そういってグローウィルは席を立つと手招きしてシロ達について来させる。

 書庫の奥にある個室にグローウィルと書いたプレートがあり、そこへ入ると本や様々な道具が置いてあり、そこから水晶玉を取り出すとシロに手渡す。


「そこの玉を両手で持って玉に魔力を流すイメージをしてごらん」


 シロは言われたままに従うが変化は見られない、退屈だったのか南坂は貸してごらんよといいながら水晶玉を取り上げるがやはり変化がない。

 そこでグローウィルが騎士に手本をさせると水晶玉から強い光が放たれる。

 南坂は凄い! とはしゃぎながら喜んでいる、どうやらすでに魔法を受け入れてるようで逞しい限りである。


「やはりの……」

「「……?」」


 グローウィルの言葉にシロと南坂、騎士も首を傾げている。


「お前さん達二人は。きちんと魔力が扱えておる」

「え?」

「しかしグローウィル様、彼らは水晶玉を使えてませんよ?」

「おぬし!」

「はい!?」


 いきなり声をあげるグローウィルに騎士が驚く。


「ワシはおぬしの名前を聞いておらんかったな」

「へ? 自分ですか? じ、自分はヒルトンであります!」

「そうかヒルトンよ、ワシの名前は長いからの老師と呼んでくれんかの」

「わ、分かりました、グローっ……老師」

「よろしい、シロとカオリだったかね? お前さん達も老師と呼んでおくれ」

「「はい」」

「さて話が逸れてしまったが、二人は魔力は扱えてはいるが外に出す事ができないようじゃな」

「?」


 三人が一様に首を傾げると老師は魔法陣を展開し説明をしなおす。


「皆が知っているのは術者の周囲に魔法陣が展開される"展開術式"という魔法でワシやヒルトンも含め皆がそれに該当するんじゃが、お前さん達は少し特殊なもので文献通りなら"深層術式"という魔法に分類されるはずじゃ」

「深層術式?」

「ワシも見たことがないので詳しくは知らぬが"失われた魔法"の一つなんじゃよ」

「失われた魔法……という事は強力な魔法なんですかね老師!」


 ヒルトンが興奮気味に訊ねると老師は首を横に振る。


「魔法は決して万能ではない……少し長いかも知れぬが"展開術式"と"深層術式"の違いを説明するかの……」


 老師はそう前置きをしてから椅子に座ると講義を始める。


「まずは展開術式じゃがこれは周囲に魔法陣を描きそこへ術者の魔力を流す事で、魔法陣が魔力を魔法へと変換する、この術式は二つの特徴があり一つは魔法陣をいくつでも展開でき、同時に何個もの魔法を放つことができるということじゃな、まぁ展開するに時間はかかるしそれを維持しながらまた別の陣を描くのも難しいから一人ではできたもんじゃないがな」

「もう一つは?」

「もう一つの特徴はどんなに魔力を流しても描いた陣の性能を上回る事がないということじゃな」


 つまり魔法陣が蛇口、魔力が水だとするなら、いくら水を流しても蛇口の大きさを上回る水の量は出せないという事だ。


「そして深層術式は術者自身が魔法陣となることで魔法を使うことができるらしいの」

「術者自身が?」

「術者が魔法陣ということは展開する手間が省ける分、速く魔法を放つ事ができるが、本人が陣そのものということは陣は一つしか展開できず、魔法を複数使用する事ができないのが欠点じゃな」

「つまり速攻型の魔法使いってことなんです?」

「そういう訳ではないの、魔法陣の精度は術者によっていくらでも強化できる、つまり修練次第では強力な魔法も使えるようになる、ということじゃ」

「大きな砲台にもなりうる、ということなんですね!」


 老師とヒルトンは話に夢中でシロ達は完全に置いていかれているが、情報を得られたのはよかった。


「その深層術式を扱えるようにはなれますかね?」


 シロが今度は魔法の扱いを教えてもらおうと老師に聞くと、残念そうな顔をする。


「すまんの、ワシは深層術式は使えんので教えるのは無理じゃの」

「そうですか……でも魔法の話は勉強になりました、ありがとうございます!」

「年寄りの話でよければいつでも来なさい、それと修練場を貸してもらえるように頼んでおくから、もし使いたいならいつでも言いなさい」


 シロは老師の申し出に礼を云うと、今度は元の世界に帰る方法について聞いてみる。


「お前さん達は異世界から来た者か……」

「はい、なにか心当たりはないですか?」

「昔、研究していた人物がいたそうだが……はて、どこにあったかのぅ…その研究資料は後で探しておこう」

「すみません、お願いします」


 老師との話を終えると三人は書庫を後にし、部屋へと戻る途中ヒルトンが口を開く。


「なんか異世界とか、自分場違いでしたよね……」

「でもヒルトンさんのおかげで情報も手に入るかもしれないし助かりましたよ」

「お役に立てたのならよかったです、それに自分も老師の話が聞けて感激でした!」

「そんなに凄い人なの? あのお爺ちゃんって」


 南坂がヒルトンに質問を投げかけると、急に振り返る。


「あの方は魔法騎士の中でも数多くの武勲をあげて、隣国には"震将(しんしょう)"と云われ恐れられていた程ですよ!?」


(震将って……なんか情けない呼び名だな……)


 シロはそんなことを考えながら、ヒルトンの話を聞いていたが、話は終わりそうもなく部屋に戻ってからも武勇伝を延々と聞かされ続ける事になった。

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