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Free story  作者: 狐鈴
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三者

 自分の周りが騒がしい、多くの人の叫び声が聞こえてくる。

 その騒音が暗い闇の中に沈んでいた意識を引き戻す。

 体を起こしまだボンヤリとする頭を振るい、確認すべき事をしなければならない。


「クロネ!」


 意識を失うまでは、その少女の為に戦っていたという事はハッキリと覚えている。

 だが自分は敗れ、それからどれ程の時間が経ったか定かではない。

 御堂はどうにか状況を確認しようと周囲を見渡すと老師ことグローウィル、カインズそして国王ザイアスが意識を取り戻した御堂に気付き視線を向けていた。

 そしてザイアスが簡単な説明を始める。


「おう、起きたか。ここは処刑場内にある部屋の一つで、そこの窓を覗けば処刑跡が見れるぞ」

「処刑跡? どういう……意味だ?」


 言葉の意味を問いつつも嫌な予感がする御堂は外に視線を向ける。

 処刑場は石で造られた円型状の舞台になっており、その舞台の中央には柱が立ててあり、それを中心に焼け焦げた跡が広がっていた。

 そして御堂は最悪な状況を予想しまうが、その予想を頭の隅へと追いやる。そこへザイアスが聞きたくもない言葉をかける。


「残念ながら獣人の嬢ちゃんの処刑なら今しがた終わったところだ」

「なっーー」


 御堂の思考が凍りつく。

 この世界に来てからというもの他人とはなるべく関わらないようにしてきた。しかし、ようやく重い腰を上げ人と関わり旅に出て、その先で守りたいと思える人に出会ったにも関わらず守る事ができずに死なせてしまったのだ。

 自分の行ってきた事を全て否定された気分だった。

 そして、それと同時に目の前にいる処刑を命じた国王や処刑が執行され歓声を上げている民衆に対して憎しみが込み上げてきた。

 軋みをあげるほど奥歯を噛みしめ強く拳を握る。

 この場で殺されても構わない一人でも多く殺してやる、そんな感情が御堂を支配しようとした時カインズが口を開く。


「ミドウ殿、あなたの怒りは理解できます。しかし、その前に一つ確認をしたいのですがよろしいですか?」

「あ?」


 襲いかかる寸前まできていた御堂が構えながらも応える。それを確認したカインズが質問を続ける。


「シロ君はどうしたのですか? どんな状況であれ彼が仲間と呼んだ者を見捨てて逃げるとは思えないのですが……」

(そうだ、成瀬はレクトを追って……あっちの方も気掛かりだが、クロネ殺したコイツらにレクトに関する情報を与えるなんて……)


 それは恨みある者達を少しでも困らせようと言う嫌がらせに他ならないが、それにシロを巻き込むのは違うと御堂は分かっていた。レクトの事を伝えるべきかどうか御堂が逡巡していると、御堂達が居る部屋に地響きが伝わってくる。


「なんだ地震か?」


 ザイアスがそう聞きながら皆の反応を見る。どうやら全員が地震ではないということは感じ取っているらしかった。

 だが御堂だけは違った。今起こった地響きがどういった行為で起こったのかは分からなかったが、レクト絡みだという事だけはすぐに分かった。

 そして御堂は決意する。

 自分が抱えるこの国の者に対する憎しみと、自分を旅に誘ってくれた少年の心配は別だと。


「レクトだ。ヤツがこの城に忍び込んでいる。それを成瀬が一人で追っていたから、恐らく今の地響きはレクトの仕業だ」

「なんだとっ!」


 ザイアスが声をあげて驚くがそれは同じ部屋にいるカインズとグローウィルも同じだった。

 だが驚きもすぐに飲み込み、落ち着きを取り戻したザイアスがカインズの方へと向く。


「カインズ見物人達を退場させろ。そっちには外へ誘導させる為の最低限の人数だけ騎士を回せ。残りはレクトの捜索、最低でも三人で組ませろ。見つけ次第報告、間違っても手は出させるな無駄に犠牲が出るだけだ」


 と、矢継ぎ早に指示を出していくザイアス。

 事は一刻を争う、御堂は自分の中にある黒く渦巻くものを抑え今だけはシロを助ける為にこの者達に協力しようと動く。


「さっき成瀬と別れた所まで案内する」

「いいのか、お前にとって俺達は憎い仇なんだろ? それなのに……」

「良いわけあるかっ…! 許せるわけ無いだろ。だが成瀬を助けるにはそうするしかない。なら成瀬を助けた後に恨みを晴らす、それだけだ……」


 それだけ言い残し御堂は部屋を後にする。そして残された三人も自分の役割を果たしに動き出そうとするが、ふと思い出したようにカインズが口を開く。


「陛下。おわかりだとは思いますが先頭に立って指示を出そうとはせずに、近衛騎士を側に控えさせ御自分の身を御守りください」

「…………。わかってるよ」

「なんですか今の間は……」


 口ではそう言うザイアスだが内心では舌打していた。王城での生活はなにかと退屈なため、この様な非常事態とはいえ気持ちが高揚しないわけがなかった。

 しかし、カインズが国王自らレクト捜索を認めるはずもなく無情にも護衛されていろ、と言うのだ文句の一つも言いたくなる。だがカインズの指示は間違っているわけではないのでザイアスは渋々引き下がる。

 ザイアスが諦めたのを確認してからカインズも部屋を後にする。そして部屋の外で待機していた国王付きの近衛騎士にしっかりと見張るように釘を刺し、カインズもレクトの捜索を開始した。







 靄に飲み込まれ視界が白く覆われたが、それも徐々に晴れていく。しかし僅かにだが部屋の空気が変わったような気がする。

 そしてシロにはその空気に覚えがあった。


「まさか…また?」

「また? 白君は以前にも似たような経験をしたのかい?」

「まあね……もしかすると、あんたの目的が果たせるかもね」

「ほぅ…?」


 レクトは首を傾げながらも何かを思案する。おそらくはシロの今の言葉だけで大まかな状況は把握できたのだろう。その黒い瞳に殺意が宿る。

 先程まで共闘していたとはいえ薄ら寒いものを覚える。やはりレクトは敵に回したくないとシロは思う。

 シロがそんな事を考えていると澄んだ少女の声が聞こえた。


『また、というよりもう来られたのですか? そんなに私に会いたかったのですか……ですが申し訳ありませんが私にはその様な自由はないもので、その好意には応えられません』

「いや、告ってもいないのになんで俺振られてんのさ?」


 脈絡のない話の振りにシロが突っ込みながらも声の主へと振り返ると、そこには銀髪の少女が立っていた。


「よっ、メルフィまた会ったな。寂しかったか?」


 先程の話を流す事にして挨拶をする事にしたシロ。

 それに対してメルフィは――


『寂しかったよーシロお兄ちゃん!』


 と言いながらガバッと抱きついてきた。


「え?」


 いきなりの事で一瞬反応が遅れる。そして僅かな間を要して抱きついてきた人物がメルフィかどうかをもう一度確認する。


「メ、メルフィだよな? どうしたんだ、おかしなもんでも食べたのか?」

『酷い…メルフィずっとお兄ちゃんの事待ってたのに……」


 そう言って俯くメルフィ。


「というか、メルフィ…キャラ変わってない?」


 シロがそう尋ねるとメルフィが深く溜息をつく。


『ふぅ……変わっていません。以前貴方が来た時はおもてなし出来なかったので今回はきちんと出迎えようと思ったのですが、シロさんが空気を読んでくれないので台無しです』

「俺のせい!? 無茶振り過ぎてついて行けねぇよっ!」

『貴方にはガッカリです』


 と、心底つまらなそうにするメルフィ。


「もてなそうとするのはいいけど品格とやらはどうしたのさ……」

『……冗談ですよ』

「ホントかどうかはこの際どうでもいいや……」


 疲れたようにシロが呟く。

 そしてメルフィがシロの横にいるレクトへと視線を向けシロに尋ねる。


『シロさんこちらの方は?』


 そう聞かれシロが返答に困る。何故ならレクトの目的は神の排除だからだ。その為に王城へと侵入していたのだ。

 その理由を考えるとメルフィを、神様だと紹介するのは不味いと考えていた。しかし黙っているわけにもいかないと名前だけでもと口を開く。


「こいつはレクト。俺とはただの敵同士だ」


 その紹介にレクトが肩を竦める。


「やれやれ白君はつれないね。僕等はただの敵同士と言うほどつまらない関係じゃあないだろう」

「むず痒くなるような事を言うなっ!」

『なるほどライバルとかいう関係なんですね。友情ですね、羨ましいです』


 レクトはいつも通り飄々と、そしてメルフィはなんかズレた解釈をしていて、もはやシロはツッコミを入れる気にもなれなかった。


「それで白君。そちらの子は誰だい? 出来れば僕にも紹介してくれるとありがたいんだが」


 レクトにそう言われてシロは今度こそ返しに困る。

 しかし、シロが逡巡しているのも構わずにメルフィが答える。


『私はメルフィ。一応このイルティネシアの神をしています。以後お見知りおきをレクトさん』


 メルフィがそう自己紹介するとレクトから明確な殺気が発せられ、手を掲げると有無も言わさず魔法を展開した。


「待てレクト!」


 当然レクトが待つはずもなくメルフィはレクトの展開した魔法で爆炎に包まれる。


「待つはずがないだろう。彼女がメルフィと名乗った時点でもう心構えは出来ていた。そして彼女の口から神だと聞けば十分だ」

「お前はそうやって障害となるもの全部を消していくつもりかよっ!」

「そうだよ。それが可能ならね……」


 レクトがそう言いながらメルフィが立っていた場所を見つめていた。


『本当にいきなりですね。ですが私は殺せませんよ』

「予想はしていたがやはり駄目か……此処は君の世界そのものだからね、それが分かっただけでも収穫だよ」


 本当にそう思っていたらしく、レクトからはすっかり殺気が感じられなくなっていた。


『潔いですね。もう少し躍起になって攻撃してくると思ったのですが』

「無駄な事はしない主義だからね」

「敵地に乗り込んでまでお茶しに来る奴がよく言うよ……」

「あれは結果としてそうなっだけで、元々はこちらの目的の説明をしに行ったんじゃないか」


 と、主張する。

 そもそも自分の目的を敵か味方かも分からない者に説明しに行くこと自体がまともではないと理解できないのだろうか……と思わないでもないが何を言っても通じなさそうなので止めておく。


 話が途切れたところでシロが疑問に思っていた事をメルフィに尋ねることにした。


「そうだメルフィ。俺達は表で邪神って呼ばれる奴を倒したら此処に来たんだけど、アレもメルフィの力の一つなのか? 以前の奴とは雰囲気が随分と違ったけど」

『そうですよ。あの子は邪神と呼ばれてはいましたが、元を正せば私から派生した力の一部です』

「それにしてもなんであんな禍々しいもんにしたんだよ。ヤバイにも程がある」


 そのシロの疑問に答えたのは意外にもレクトだった。


「そんなに不思議な事ではないだろう。メルフィをこの世界を作った創造神として崇めても、人間はいつかは別のモノへと心移りする、そうなればメルフィを貶める者も出てくるだろう。であれば最初から善と悪の両方を創っておいてしまえば人類の大多数がそのどちらかにつくだろうし、もし双方が争うとなれば神の名を使い止められる……どちらも元は同じなのだから争う理由もないだろうしね」


 レクトの説明にメルフィが頷く。


『レクトさんでしたか、貴方のように冷静に物事を把握できる方は珍しいですね。シロさんがここに来た時はそれはもう怒鳴りつけるは掴みかかってくるわで面倒…いえ大変でしたから……』

「なんだ白君は僕以外にもそんな態度をとっていたのかい? 君はもう少し落ち着きのある人物だと思っていたんだが……」


 メルフィとレクトが揃ってため息をつきながらやれやれといった表情をする。

 シロとしては二人にも問題があると声に出して言いたい所ではあるが、二人を相手に口で勝てるとは思えず黙っておく。


『レクトさんは私を殺せないと理解したのならどうするんです? 私を殺すことが目的だったのですよね』


 メルフィの発言にレクトが少し思案するように俯く。


「そうだね……ここで目的を果たせないのであれば仕方ない、やはり今までどおりのやり方でいくとするよ」

「それはあんたが知りうる何らかの手段で壁を破壊するということか?」

「そうだよ」


 シロの問い掛けに即答するレクト、そしてその言葉にメルフィが納得したような表情をする。


『ああ、貴方が世界の壁を破壊しようとしている方だったのですね。何故こんな場所に来たのかとは思いましたが漸く合点がいきました』

「そうか、君にはまだ説明していなかったね。だが、これで分かったと思うが僕は君の敵と言うことになる……そして世界の敵とも言える僕を君は神としてどうするんだい?」


 メルフィは目を閉じて静かに口を開く。


『どうもしませんよ。私が神として行ったことは世界の創造そして現在は世界の維持。もし貴方が世界を一つにしたのであれば世がそれを望んだという事、私はその意思に従うだけです。……不本意ながら私は神です、故に私が人に干渉することはできません。それが私達が自身に課した理です』


 そのメルフィの言葉にレクトは深く息を吐く。


「そうか……まぁ、そんな神も悪くはないか。今回はアテが外れたがなかなかに面白い体験ができたという事で良しとしよう。それでは白君、メルフィまた会おう」


 そう言ってレクトは二人に背を向けて歩いていく。







「…………なぁ、たしか此処ってメルフィが意識を繫ぎとめてるって言ってなかったっけ?」

『そうですね』


 しれっと答えるメルフィ。


「いや、あのままだとずっと果てまで歩いて行くんじゃいないか?」

『大丈夫です、此処に果てなんてありませんから』

「それって大丈夫じゃないじゃんっ!」


 シロが素早く突っ込みをいれるとメルフィが溜息をついてからシロの方へと視線を向ける。


『それは暗にここから早く出せと言う事ですね。そうですか此処には居たくないですか良く分かりました』

「そこまでは言ってないけどね……」


 若干むくれるメルフィの対応に困るシロだが、すぐにメルフィがくすりと笑う。


『冗談ですよ。ずっと一人で退屈だったので少しからかってみました』


 その言葉にシロは数千年も一人でこの空間にいた少女の心境を思い浮かべようとするが、そんなものは何の役にも立たないと分かっていた。

 だからこそシロはメルフィに向かい頭へと手を乗せてから言う。


「また来るからそんな顔するなって」

『シロさん……』


 シロの顔を見上げるメルフィ。

 そして自分の頭の上に乗っている手をペシっと払いのける。


『この手はなんですか、子供扱いしないでください。調子に乗ってると此処から出しませんよ?』

「ほんと品格の欠片もないのな……」


 呆れるシロにメルフィが背を向けて小さく言葉を発する。


『期待しないで待っています』


「ん? なに?」


 聞き取れなかったシロが聞きなおす。

 しかし、メルフィは――


『なんでもありませんよ! さぁ、あちらへと戻すのでさっさと目を覚ましてください』


 その言葉と同時にシロは意識が遠のいていくのを感じた。

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