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Free story  作者: 狐鈴
52/54

収束

とても遅くなりましたっ><;


でもなんとか更新はしますので今後とも温かい目で見守ってくださいっ!

 黒い影が目の前に佇んでいる。

 その影が揺れるとレクトとの距離を詰める。影を吹き飛ばした魔法を警戒しての事なのだろうか、影の標的はレクトへと切り替わっていた。

 レクトは手に持っていた石剣で攻撃しようとするが、影が左手で石剣を掴むと右腕を振るいレクトを殴り飛ばす。


「とんでもない力だね…まさに化け物だ」


 殴り飛ばされながらも体勢を整えて、そう口にするレクトだが余裕のない表情をする。

 そんなレクトへとさらに攻撃を加えようと真っ直ぐ走り出す影とレクトの間に、シロが消壁を展開して僅かでも時間を稼ごうとする。しかし――


 バキン


 影は走る速度を一瞬だけ緩め拳一つでシロの消壁(時間稼ぎ)をあっさりと砕いていた。

 だが砕くときに僅かにかかった時間だけで十分だった。


「上出来だ白君」


 レクトの声にシロが視線を動かすと影を囲むように複数の魔法陣が展開されている事に気付いた。


「いつの間に……」


 その展開速度は比べる対象があまりいないシロでも異常だとすぐに分かるものだった。先程レクトと戦っていた時にこれほどの速さと数で攻められていたら確実に死んでいたと容易に想像できる。

 それだけの力量差があると見せ付けられているようだった。


『ガッ…』


 レクトの魔法が展開される刹那、影が声をあげたような気がしたがその声はすぐに爆発音により聞こえなくなる。

 影は爆煙で見えなくなったが倒せないまでも、それなりの手傷を与えられたと思えた。

 警戒を解かずに構えていると煙の中から影が歩み出てくる。影なのだから当然血を流している、などという事はなかったが右腕が無くなっているのを見て安堵する。


(さすがにあの爆発で無傷なんて事はなかったか)


 人と同じ括りにするつもりはないがあの爆発で無傷だったらそれこそ悪夢である。レクトも同じように少し安心したかのような表情をしており、この調子なら勝てると感じさせた。


『ガァァ…』


 シロ達が相手の様子を伺っていると影が唸り前かがみになる。

 今の攻撃で立っていられなくなったのか? とも思えたがそれにしても少し様子がおかしい。影の動向を注意深く見ていると影の全身がボコボコと盛り上がり蠢き始める。


「うわぁ……気持ちわる〜」


 率直な感想を口にするが言葉ほど楽観視している訳ではない。あの異常な動きにどう動いたらいいか分からないだけだ。下手に動けば却って危険な可能性があるため結果として様子見となってしまっていた。


 影の体表から蠢くものは少しずつ身体を這って移動し右腕へと集中していく。


「嘘だろ…まさか治してるのかよ……」


 せっかく与えた傷を治そうとしている、まさに絶望的な光景だった。


「レクト!」

「分かっている」


 レクトが先程と同じように魔法陣を展開させようとするが、影が右腕を治しながらレクトへと向かって行く。その動きは攻撃を受ける前となんら変わらない。


「くっ」


 修復中にそこまで動けるとは思っておらずシロの魔法が間に合わずにレクトは蹴り飛ばされる。そしてそのまま追い討ちを掛けるべく影が追いすがる。

 不味い。あのまま攻撃を仕掛けられればレクトといえど危険だ。そしてシロにはレクトの様な火力のある魔法など持ち合わせてはいない。影の背を追いながら思案するが恐らくは影にダメージを与えることは難しい、そうなるとシロに出来ることはなにがあるのだろうか。

 レクトを押さえつけ始めた影に殴りかかるシロだが影は怯む様子もない。


(なんつー硬さだよ…本当は見捨てても良いかもしれないけど、さっき助けられたし俺一人じゃ確実に殺されるっ!)


 そんな事を考えながらも攻撃を続けるシロだが、影は気にもとめずにレクトを絞めていく。

 そこでシロは魔法を展開して剣の形を成すと、そのまま影に斬りかかる。しかし状況は変わらなかった。当たった剣は影を斬ることが出来ずに僅かに減り込んだだけだったのだ。

 だが影はそのシロの攻撃を鬱陶しいと感じたのか腕を振るいシロを殴り飛ばす。


(こんなの勝てるわけがない……)


 殴り飛ばされたシロは体を起こすが、何も通じない相手にどうする事も出来ずに思考が停止しそうになるが、不意にある二人の顔が浮かび上がる。


 それは南坂香織とアンリの顔だった。

 自分が無力だった為に助ける事が出来なかった人。元を辿れば目の前で組み伏せられてるレクトの所為なのだが、そんな理屈を語る以前に自分の力が及ばないがために誰かが死んでしまうという事実が許せなかった。

 故にシロがここで諦めるという選択肢は存在しない。


 ならば己に出来る事。

 手傷を負わせることができなくても引き剥がす事なら出来るかもしれない。


(よしっ)


 そこに至ったシロの行動は速かった。

 即座に展開する魔法の完成形を想像して魔力を身体に通す。

 そして右手を掲げ魔法を展開する。


「いっけぇ!」


 シロの叫びと同時に展開された魔法は直径が一mほどの円柱だった。

 円柱は影とシロの間を繋ぐだけの長さがあり、それだけでもかなりの質量と体積になるにも関わらず、今もシロの右手から魔力光とともに円柱が展開され伸び続けている。

 その円柱が勢いを緩めることなく影へと衝突しーー


『グガァアアアッ…!』


 叫びとともに影が吹き飛ばされシロの魔法に押しやられる形で壁へと減り込む。

 影が吹き飛んだ事で解放されたレクトが絞め付けられていた首をさすりながら立ち上がると、魔法陣を展開し始めながら口を開く。


「今のは本当に助かったよ白君。――と、感謝の言葉をもう少し述べたいところだが、そんな余裕はないようだし合図したら魔法を解除してくれ」

「分かった」


 レクトの言葉にシロが短く応えると、シロの消壁から軋むような音が聞こえてきた。


「あの状態でも動くのかよっ…」


 それは影が壁に減り込みながらも暴れ、消壁を砕こうとしている音だった。

 当然、唐突に力に目覚めて影を完封する事が出来るようになるはずもない。そんなシロに出来ることは魔力を流し続け消壁の硬度を保ち、影が暴れ消壁が削られる際にくる反動に耐える事だけだった。


「ま、まだかよ…。俺は良くても消壁の方が保たないぞ……!」


 まだかとレクトの方へと視線を向けるがいつもの様な飄々とした余裕はなく、若干だか焦りの色が出ていた。

 このまま中途半端な魔法を展開したところで影を仕留められなければ、先程のようにどちらかが抑え込まれ最悪殺されるだろう。そうなってしまっては完全に手詰まりとなる。ならここで、まだ余力のあるうちに決着をつけなければいけない。

 それを理解しているからこそレクトは魔法を放てないでいた。


「くっ…」


 レクトが限界か、と思い魔法を展開しようとした時だった。壁へと減り込んでいた消壁が大きな音とともに砕け、影が立ち上がろうとする。

 その姿を確認してレクトが魔法を放とうとするが、走って行くシロの後ろ姿に気付いた。


「せいっ!」


 シロは助走をつけ両足を揃えての飛び蹴りを放つと、体勢を整えきれていなかった影が再び倒れると、すかさず走りながら準備した魔法を展開する。


「今度は潰れてろっ!」


 シロが掲げていた右手を振り下ろすと斜め上から円柱が落ちてくる。影はそれを避けることもできずにうつ伏せの状態で押さえつけられる。

 そこへ魔法の準備が整ったレクトが声をかける。


「これで終わらせよう……待たせたね白君」

「ようやくかよ、ほんと待たされたっ!」


 レクトの合図とともにシロが魔法を解除すると影がすぐさま起き上がり、こちらへと走りだす。

 解除するのが速すぎたか? と一瞬不安になりレクトの方へ視線を向けると右手を前へと出しており、その掌の前方には淡く光る球体が浮かんでいた。

 あれも魔法なのかとよく見ると、いくつもの魔法陣が展開されており、それらが重なり合って球体を作り出していた。レクトは魔法陣を展開しながらさらに陣を展開する速度は異常で、それをこれだけの時間をかけて作り出したあの魔法陣の固まりがどれほどの威力を持つかなど想像することもできない。

 今は味方でよかったと思ってしまったシロは複雑な気持ちになるが、そんなシロの気持ちをよそに立体魔法陣とも言える球体がレクトの右手を離れ影へと迫る。

 だがレクトの魔法を警戒している影がそのまま魔法を直撃するわけもなく、速度を落とし避けようとする。


「やばいっ…!」


 このままでは回避されてしまうと思ったシロだったが、影が横へと逸れたところで立体魔法陣が強い光を放つ。


「…っ!」


 光に目を瞑ると同時に肌を焼くような熱風と爆音が響いた。

 影に放たれた魔法の余波とは言え、その威力は相当なものでシロもその場に立っているのが難しくその場に倒れ込んでしまい、さらには肌を焼くような熱風が吹き荒れる。


 爆煙が晴れてくると石造りの床や壁が抉れており、その威力のほどが伺える。

 そして周囲が見渡せるようになり、ようやく影を撃破できたことが分かった。

 その事実を確認し安堵の息を漏らすと、そこへレクトが手を差し伸べる。


「君のおかげでどうにかなった、僕一人ではどうにもならなかったよ……礼を言う、ありがとう」

「お尋ね者を助けてお礼なんて、自分が悪い事をやった気分だよ……」


 手を取り立ち上がりながら言ったシロの台詞にレクトがクスリと笑う。


「そんなに不本意なら、何もせずに見ていればお互いに遺恨も残せずに終われたのにね」

「遺恨は残らないかもしれないけど、あんたと心中するなんてゴメンだね」

「つれないね」


 戯けてみせるがレクトも当然そんなつもりはなく、やる事は終わったと周囲を見渡し始める。


「邪神を倒したがこれからどうしようか」

「邪魔者を片付けたんだから調べるんだろ?」

「そうしたいが、さっきの騒ぎでここに人が駆けつけるのも時間の問題だろう? だから困ってる」


 先程のレクトの魔法による爆音と振動はおそらく城内全体に響いていることだろう、すぐに場所の特定ができなくても警戒の為に人を寄越さなかったら危機管理能力を疑ってしまう。


「俺はやましい事してないから、そんな心配は頭にはなかったよ」


と、牢屋を抜け出した逃亡犯が答える。


「言ってくれるね。……僕も自分が行っているのが善だとは思ってないが必要な事だと思い動いている。だから戦う前にきちんと理解を得られるように説明している。それなのに襲って来るのだから正当防衛だとは思わないかい?」


 たしかに言われてみれば屋敷で会った時は、あまり話す余裕がなかったとはいえ敵意は無い、と言う様な事だけは説明していた。レクトにもレクトなりの筋を通して行動している事は理解できる。

 しかし、それでも――


「かも知れないが、あんたがやろうとしている事は最終的には甚大な被害が出るはずだし見過ごせる訳ないでしょ、無関係って事でもないし。まぁ破滅願望だったり、あんたみたいに理由でもあるなら別かもだけどね」


 と、理解を示してはみるものの理由があれば良いということにはならない。

 シロを懐柔できないのは分かっているレクトは仕方なさそうに頷く。


「そうだね、自分のやっている事を正当化するつもりはないよ。そして君のように守りたい人がいる者は皆そうやって僕を敵と認識するだろう……だから僕達は闘うしかないんだろうね」


 レクトの言葉にシロが身構えるがレクトが首を横へと振る。


「言ったろ? 時間が無いと。だから次回に持ち越しだよ」

「あの化け物に掴まれたところが痛むし、そうしてもらえると助かるよ」


 敵に弱点をバラす事も無いだろうが、レクトが騙し討ちなどするはずがないとシロは不本意ながら信じていた。

 そしてレクトが部屋を出ようと動きだそうとした時、魔法跡(爆心地)から白い靄が溢れてきた。


「なんだ?」


 シロは横目でレクトの様子を窺うが、やはりレクトが何かをしたというわけではないらしい。

 それなら一体何が起ころうとしているのだろうか? と身構えているとレクトがシロの手を引いて走り出す。


「何か分からないものに警戒するのはいいが、このままでは靄がこの部屋を覆い尽くす。僅かに魔力も感知できる事からして何者かの魔法だろう、たとえ君の魔法で全方位を塞いでも長時間は保たないだろうし逃げた方がいい」


 確かに消壁を張っても周囲の魔力全てを打ち消していたらシロの負担は相当なものになる。それなら逃げるしかないかとシロは大人しくついていく。


「とはいえ野郎と手を繋いで走れるかっ…! あとサンキュー」


 手をパッと離した後に小さい声で礼を付け加えるシロ。そんなシロにやれやれといった表情をするレクト。

 しかし、二人のそんなやり取りも関係なく靄は急速に増え、二人を呑み込み部屋を真っ白に包んでしまった。

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