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Free story  作者: 狐鈴
46/54

容姿

「お騒がせしました」


 御堂達がいる場所に戻って来てすぐにルシアは頭を下げた。

 ロックスとクロネは特に気にした様子もなく、普通に出迎えたのだったが御堂だけは難しい表情をしていた。

 それというのもシロとルシアがこれ見よがしに手を繋いで帰ってきたと思えば、謝罪をしたルシアの顔が笑みで緩みきっていたのが悪い。

 シロにハッキリしない二人の関係を早急にどうにかしろと言ったりもしたが、ここまで甘々の空気を作り出してほしかったからでは当然ないのである。

 嬉しそうに笑うルシアの横で満更でもなさそうな顔で笑みを浮かべて隣の彼女を見つめるシロを見て御堂が思う。


「ぺっ、成瀬(リア充)はこの世から消えればいい……」

「ん、御堂さんなにか言った?」

「べっつに……」


 ぶっきら棒に御堂がそう答えるとシロも気にせずに視線を戻す。


 つまらなそうに御堂はしばらくは二人の様子を眺めていたが、すぐに飽きたので旅の話を持ち出すことにした。


「成瀬、ラブコメはもういいだろ。そろそろこれからどうするのかを決めた方がいいだろ」


 口を開くと全員が御堂の方へと視線を向けるが、御堂だけはクロネを見つめていた。

 それで御堂が提案した"これから"の意味を皆が理解する。それは獣人(クロネ)を連れて旅をするのか、それとも王国の害意として城へと連行するのか、ということだろう。

 しかしシロとしては獣人だから、という理由でどうこうするつもりは毛頭ないので、この場合の問題は王国の一員(ルシアとロックス)がどうするかによって異なってくる。

 それらを含めてのこれからを御堂は聞きたいようだと全員が理解し、皆が言い難そうな顔になる。

 今ではルシアもロックスもクロネを獣人というだけで距離を置くつもりはないようだが、それでも個々の感情だけではどうにもならないのがこの種族間の問題だ。

 そんな風に考え、申し訳なさそうにしている二人をよそにクロネが喋りだす。


「王都へ行きましょう」


 クロネの言葉に全員が固まる。

 シロと御堂は知らないだろうが獣人を王城へと連れて行けばクェリコの間者と疑われ、その関係を聞き出そうと拷問を受けることは間違いないだろう。

 そうなる事が予想できているだろうクロネが王都へ行くと提案したのだ。それを御堂が確認の為に訊ねる。


「いいのか? 間違いなく待遇は最悪なはずだぞ?」


 御堂の問いにクロネはニコリと笑う。


「承知していますよ。それに仲間の捜索を手伝ってくれたら、その後の処遇はお任せすると言ったのは私ですし」

「それじゃ、お前は損してばかりじゃないかよ。元の国に帰るなら俺も手伝うぞ?」

「そしたらミドウさんに迷惑が掛かりますよ。大体あそこにはもう私の帰る場所なんてありませんよ」


 少し寂しそうにクロネが言う。

 御堂もそれ以上は何かを言う事は出来ないようで黙ってしまう。当然シロ達も掛ける言葉が見つからなかった。

 仲間の命を失い、今いる国は己の存在を許さない。今の彼女の心情を知る者などこの場にいるはずもなく、また人間というだけで優遇される彼等には同情する資格さえもないのだ。

 皆の顔を見てクロネは申し訳なさそうな表情をして喋りだす。


「そんな顔しないでくださいよ。皆さんには感謝しているんです、仲間の仇をとってくれてありがとうございました」


 そして深く頭を下げたのだった。


 それで踏ん切りがついたのか御堂がようやく動きを取り戻す。


「それじゃ次の目的地は王都でいいんだな?」

「はい。お願いします」


 死地に連れて行くのにお願いもなにもないだろ、と思いつつ頷く御堂が荷物を纏めだす。


「お前がそれでいいのならさっさと行くぞ」


 御堂の掛け声で皆が動き出すと、シロ達はすぐにその場を後にした。







 王都に向かう途中は何度か魔物と遭遇はしたものの竜種ドラゴンと比べると脅威ではなく旅路は順調だった。ルシアはシロと一緒にいたいと言う気持ちを抑えてクロネに何度も話しかけていたが、その中で一番驚いたのはなんと言ってもクロネの年齢だろう。


「私って皆さんから見てもそんなに幼く見えますかね?」


 と肩を落として訊ねてきたのでシロが頷く。


「まぁ、うん…そだね。初めてクロネを見たときは年下だと思ったもん」

「そうですよね……。私、昔から背が低くて子供っぽいって言われてたので慣れてはいるんですが…はぁ」


 落ち込むクロネの姿は幼さの残る子供にしか見えない。

 背の低さと童顔が合わさってシロ達はクロネを年下と見ていたが、実際はルシアの義姉ミリアナと同い年だというのだから本当に人は見かけでは判断がつかない。とは言ってもミリアナも実年齢よりも若く見えるのだから、こちらの世界の人は中々にシロの常識から外れているなと思い知る。


「動く分には体が小さいほうが便利だったりはするんですけどね。でも、あと少しだけ背丈がほしかったです……」

「身長の話はわからないけど、見た目で判断されたりする時は結構ガックリくるよね。俺もこの白髪で年寄りに見られることあって嫌だったっけ」


 シロが見た目について似たようなコンプレックスを抱えているクロネに共感する。


「子供と年寄りでは随分と違いますが、やっぱり間違って認識しているのを正すところからって言うのが嫌なのは同感ですね」


 似たような境遇であるシロの話を聞いて元気を取り戻したクロネだったが、その幼い体に似合わない厳つい首輪に手を添えると、


「今は首輪これのせいで本当に子供くらいにしか動けないんですけどね」

「それってただの首輪じゃないんだね」

「はい。――これは昔に私達、獣人の力を恐れた魔法使いが作った物だと言われていて、私達は"獣殺し"と呼んでいます。大戦時代にこれを使われ多くの獣人が殺されたと教えられましたが、今ではこの首輪も現存している物がほとんどないと聞きます」

「獣人にとっては厄介極まりない代物だな。しかし、そんなもんをホイホイと首に着けられるもんなのか? 戦闘中ともなれば獣人だって必死なはずだろうに……」


 クロネの話に御堂が当然の疑問をぶつけた。それもそのはずで戦となれば己の命が掛かっている、なのに首輪をつけて無力化するなど至難の業である。


「それができるから獣殺しと呼ばれるんですよ。――コレは狙った対象を捉え首に巻きつくうえに、獣気を無効にするので止める手立てもありません」

「追跡機能付きか……それじゃあ、その獣気ってのは?」

「獣気は私達の命の源……人間で言うところの魔力ですね」

「そんな特殊能力があるんだな。てっきり獣人は身体能力が異常に高いだけなのかと思ってた」


 実際に聞いてみるとルシアやロックスから聞いていた話とは異なる部分もあり興味を惹かれる。ルシア達も伝えられていた情報とは違う話に耳を傾けていた。


「身体能力が高いという認識で間違いはないですが正確ではないですね。獣気は魔法と似て非なるものですから……、私のでよければお見せしたい所ですが生憎なことに今は使えませんしね…」


 クロネが口を尖らせながら残念そうにする姿はまるで子供のようで、四人はクロネのそんな姿が可笑く笑ってしまう。


「わ、笑うなんて酷いですよっ!」


 照れながら、拗ねたように文句を言うクロネの姿を見てシロは思ってしまう……何故、人ではないというだけで獣人を迫害するのかと。共にいれば解る、獣人も人間も同じ人なのだと。それを口には出さないが四人とも似たような事を考えているのだろう。



 そして五人は王都へと到着し、短くも楽しかった旅路は終わりを迎えた。









 その日の王城は騒がしかった。

 昨夜は夜の見張りとして城壁へと立ち、そのまま日の出まで立ち続け交代の騎士が来てから自室へと戻り、ベッドへと潜りこんだのは今しがた。自分が交代する前は見渡せる限りには不穏な影もなく今日も平和な一日を迎えるはずだったのに、なぜ城内に騎士の足音が響いているのか。眠気はあるが、もし城内に賊でも侵入したのなら眠いなどとは言っていられるはずもない。


「行かなきゃ……よしっ!」


 彼――騎士ヒルトンは頬を叩いて眠気を飛ばすと脱いだばかりの鎧を着て部屋を後にする。

 ヒルトンが部屋を出ると他にも何人かの騎士が同じ方向へと向かっているのを見つけると、それに付いて行きながら近くを走る騎士へと訊ねる。


「なんの騒ぎなんだ、侵入者か?!」


 しかしヒルトンは訊ねながらも侵入者ではないと考えていた。何故ならどの騎士からも緊張や殺気立った様子を感じられないからだ。そしてその疑問に訊ねられた騎士が答える。


「違うって、なんでも先日、港町(フロート)から侵入した獣人をルシア様が捕まえたらしい!」

「マジかよっ!」


 その情報にヒルトンは声をあげる。

 ルシアが城を出たことは伏せられていたが、何日も姿を現さなければ城内にいる者ならルシアが城外へと出た事に気付くのは不思議な事ではない。

 そして騎士達は知る由もないが、自ら出頭してきたクロネをルシアが捕らえたと騎士が誤認してしまったのも、誰もが獣人を話しに聞く恐ろしい獣としてしか知らないのだから仕方がないのだろう。

 ヒルトンも当然それを知らない一人だが、彼はそれよりも気になることがあった。


(ルシア様ということはシロお前もいるんだよな……なんか大変な事に巻き込まれてるよな、お前は…)


 と、一ヶ月近く会っていない白髪の少年に同情の念を抱いていた。






 クロネを連れて城門に辿り着くと城は大騒ぎになった。

 獣人を見たことのない騎士達がクロネを見る為にと城門へと詰め掛けたのだ。

 クロネと一緒にいたシロや御堂はそれを不快に感じていたが、それを耐えていたクロネを見かねたルシアが詰め掛けた騎士達を叱る。


「彼女は見世物ではありません、栄えあるアーウェンブルグ国の騎士がこのような醜態を晒すなど恥を知りなさい!」


 ルシアのいきなりのお姫様モードに御堂とクロネが一瞬驚くが、それ以上に驚いたのは王族の怒りを買ってしまったと顔を青くして慌しく逃げていく騎士達なのは言うまでもない。

 その光景を見てクロネが申し訳なさそうな顔をして、


「私の事なら気になさらずともよかったのに……でも、有難うございますルシアさん」


 礼を述べた。

 そしてシロが辺りを見回すと逃げ帰った騎士達のいた場所に見知った顔を見つける。


「ヒルトン!」


 それはシロが南坂と共に城に滞在している間、自分達の案内役兼警護に付いていてくれた騎士だ。

 ヒルトンもシロに気付くと歩み寄って肩を叩き合う。


「久しぶりだなシロ。前に帰ってきた時は話できなかったしな、っとその前に。……ルシーナ様ご苦労様でした。――その者はこちらで引き取りましょうか?」


 とヒルトンは定型文を投げかけるが、ルシアが首を横に振る。


「必要ありません。彼女は私が父上の所まで連れて行きますのでヒルトンは話を通してきておいて下さい」

「承知いたしました」


 話を手短に済ませヒルトンは城の中へと入っていってしまう。もう少し話をしていたかったシロは少し名残惜しく感じたが仕事では仕方がない。

 しばらくすると他の騎士が国王の所まで案内する為にやってくるとそれについていく。

 途中、警備をしていた騎士とすれ違うとクロネの方をジロジロと見てくるのが気にはなったが、シロや御堂では騎士達に何かを注意することもできないのでクロネと騎士の間に立つ事で僅かばかりの牽制をするしかできなかった。

 そうして国王がいる謁見の間の前へと連れてこられると、相手が見知った人物(国王)でも緊張してしまう。

 ルシアとロックスは平気そうな表情をしていたが、御堂も顔が強張っており当の本人であるクロネに至っては胸を押さえ必死に鼓動を落ち着けようとしているようだった。

 そんなクロネの手をルシアがそっと握ると、


「大丈夫だよクロネ。王女()がついてるから」

「ルシアさん……」


 ルシアの言葉にクロネが泣き出しそうになるが、そんな二人に構わず騎士が扉を開ける。


 すると、


「獣人は等しく敵です! 即刻処刑するべきです!!」



 そんな一方的な暴言が聞こえてきたのだった。

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