化物
最近、更新がカメですね…。
でも、すこしずつでも書いていこうと思ってるんで、
これからもお願いします。
シロが目を覚ましたケモミミ娘の側へと行くとロックスが渡したのか夕食で余ったスープを少しずつ飲んでいるところだった。
温め直したというふうでもないのに、ケモミミ娘がゆっくりとスープを飲んでいたのでシロは猫舌なのか? と一人考えていた。
しばらく、その様子を眺めていると全員の視線が自分に集まっている事に気付いたケモミミ娘が、スープが入ったカップを自分の膝の上に置くと頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「気を失っているところを助けていただいて感謝します。――それと、私以外には誰か近くに居ませんでしたか?」
「それは、君と同じ獣人…という事か?」
ケモミミ娘はロックスの言葉に首を縦に振った。そしてロックスが言葉を続ける。
「この辺には君しか居なかった。君が言う誰かとは君の仲間か?」
「はい。私を助け出し、ここまで逃がしてくれた勇敢な戦士達です……」
「そうか。それで一応確認なんだが君は…いや、君達は自分たちがこの国には本来ならば立ち入る事が出来ない、と言うことについては知っているのか?」
「……」
今度のロックスの問いには、ケモミミ娘は沈黙で返す。つまりは知っているという事だろう。
「なら君達は密入国者。クェリコの間者と疑われても仕方がない…とも理解できているな?」
ロックスがそう口にした瞬間ケモミミ娘の体がビクッと震え、シロの後ろで御堂が殺気立っているのが分かった。
ケモミミ娘萌えが発動しているようだったが、それ故にケモミミ娘が怯えてると伝えながら必死にシロが抑えこむ。
「私はスパイなんかじゃありませんっ」
御堂の殺気が収まってきたところでケモミミ娘がそう口にした。
本来なら疑いがある者をおいそれと信じるわけにはいかないが、ケモミミ娘がスパイであるなら行動を制限するであろう首輪をつけて送り込む事などまずないだろう、とシロは考えていた。
敵を欺く為にとも考えられなくもないが、元々入国自体禁じられていて見つかれば何をされるか分からないのに、そんな風を装う事に意味があるようには到底思えなかった。
ロックスも同様の考えだったのか、首を縦に振りながら頷いていた。
「その格好から見て大体察しはつく。だからと言ってこのまま獣人である君を野放しにするわけにもいかん」
「そんなっ……森には仲間がいるんです。せめて彼等だけでも助けてください…彼等以外にこの国で頼れる人がいないんです。彼等を助けてくれたら私はそれ以上のことは望みません、どうかお願いします!」
頭を下げ、泣きそうな声をあげながらケモミミ娘は、そう懇願した。
しかし、ロックスの表情は硬い。助けてやりたい気持ちはあっても自分の立場上それが難しいのだろう。
ルシアも同様の様で獣人が絡んでくるとなると慎重にならざるを得ない様子だったが、そこで御堂が声をあげた。
「なら、そこで俺を頼れよ」
「え?」
その言葉にケモミミ娘は素っ頓狂な声をあげながら振り返る。
「いや、なんでそこで御堂さんに頼るって選択肢が生まれるのさ?」
ネジの緩んだ御堂の発言にシロがすかさず突っ込む。
「俺は困ってるケモミ…ごほん。困ってる奴は放ってはおけない性質だからな」
「趣味でしょ? っていうか性癖っ…って!」
「あっはっは。口は災いの元って知ってるか? 成瀬」
突っ込んだら御堂の持っていた刀の鞘で脛を容赦なく殴られ、その場に蹲る。
しかし、そんなやり取りに目もくれずに、ケモミミ娘が御堂の下へと駆け寄り縋る様に胸元を掴み喋りだす。
「本当に助けてくれるんですか!? あ、……でも私に支払える物は何も…ありませんよ?」
喋っていて不安になったのかケモミミ娘の声はどんどん小さくなっていってしまった。
しかし、御堂は気にしていない様子でケモミミ娘の頭に手を乗せ小さく笑った。
「大丈夫だ。もう報酬はもらっちまったしな」
「え?」
ケモミミ娘はなんの事か分からず首を傾げる。ルシアとロックスも同様に首を傾げていたが、シロはある推測をしていた。
(もしかして、ケモミミ娘に近寄られて服をギュっと掴まれ上目遣いされたせいで理性吹っ飛んだのかな?)
と、呆れていたがシロの推測は外れていた。
(うおおおぉぉぉ! 良い匂いだし可愛いし目がクリっとしてるし柔らかいし可愛いし、もう死んでもいいぜぇぇぇ!)
御堂は壊れてしまっていた。
壊れた御堂を見ながらシロはやれやれと溜息をつく。
「御堂さんがコレじゃあ、しょうがないね。俺も手伝うよ」
「いらねえよ」
「そこ拒否るとこ!?」
御堂の発言にシロが驚く。
「いやいや、獣人だって強いんでしょ? それが何、行方不明? ヤバいじゃん手伝うってば」
「馬鹿言え、そんなことしたらケモミミ娘の感謝が二分の一にされちまうだろうが!」
「そんな理由!? 馬鹿はそっちじゃん! 御堂さんさっきので脳みそ蕩けてんじゃないの!?」
と、ケモミミ娘に聞かれないように小声で言い争う二人。
その二人の間に今度はルシアが入ってくる。
「二人とも獣人を助けるって意味分かってるの? この国では色々と問題なんだよ!? 話しを聞く為にこの娘は助けたけど…」
「わかってるって。だからこの娘の仲間は俺と御堂さんで助けるよ、この国の人間じゃないなら関係ないって王様辺りなら言ってくれるでしょ」
以前にカインズに似たような事を言われて不快な思いをしたのに、それで誤魔化そうとするなんてズルイなと思わないでもないシロだったが、頼れる者がいないと聞いては他人事のようには思えなくなってしまっていたのでそれで通す事にする。
それに以前、国王と何度か話した印象では結構、適当な感じがあるのでシロはどうにかなるような気がしていた。
ルシアもシロの言い分でどうにかなりそうではある、と考えたようだったがそこで頷くとシロを関係のない人間と言っているような気がしてしまうようで、納得しにくい様子だった。
そんなルシアを見てクスリと笑いながらシロはケモミミ娘に視線を向ける。
「そんじゃ、俺と御堂さんで手伝うとして。まず君の名前を聞いてもいいかな?」
シロが名前を訊ねるとケモミミ娘も失念していたようで慌てて名乗る。
「申し遅れました。私はクロネ、猫の獣人です」
「俺は成瀬白。こっちがルシアで向こうがロックスさん、んでこの人が――」
「御堂貴弘だ、よろしくな」
「はいっ! こちらこそよろしくお願いします!」
普段はクールに見える御堂は平静を装いつつもケモミミ娘、もといクロネと自己紹介を交わす。若干ではあるが鼻の下が伸びている事にシロは気付かなかった事にした。
紹介を終えた後、シロ達はクロネが仲間達とはぐれた場所を確認しているとクロネが何かを思い出したのか急に顔色が悪くなっていく。
気分が悪くなったのかと思ったが、それとも様子が違うようで何かに怯えている様子だった。
「どうした? なにかあったのか?」
さすがに怯えるクロネを見て興奮するような変態ではないらしい御堂がそう訊ねると、クロネは小さく頷く。
「…そう、私達は化け物に襲われて……」
「「化け物?」」
シロと御堂の言葉が重なった。
クロネから詳しい話しを聞くと、森を移動中にその化け物に襲われ仲間が足止めをして自分を逃がしてくれたとの事で、気を失ってしまったせいかその時の事を思い返すことでようやく思い出したらしかった。
その事を思い出してからのクロネの表情は暗く、シロ達も掛ける言葉が見つからなかった。
もし話通りであるなら間違いなく、そのクロネの仲間は死んでいるからだ。しかし可能性は低いだろうがシロはクロネの仲間を探しに行く事を止めるつもりはない。
なぜなら御堂がたとえ一人であったとしても探しにいくであろうことが、その態度から見てとれたからではなく、御堂もそしてシロも、誰も頼れる者がいなかった時の心細さや不安というものを理解しているつもりだったからだ。
二人がクロネの話からどの方角を探せば良いかと話しをしているとルシアが話しに入ってくる。
「本当に探しに行くの?」
「ん…、やっぱ仲間が心配だってのは分かるしね。それに生きてるにせよ…手遅れにせよ、待ってるのは辛いもんだしね」
「それはそうだけど……」
ルシアがシロの言葉にどう返したら良いか分からずに口ごもる、ルシアもその気持ちは十分に理解できるからだ。
だが、だからと言ってシロ達を危険に晒していいという理由にはならない。
「なら、せめて日が昇るまでは動かないほうがいいよ。夜に森の中に探しに行ったところで見つけられるものも見つからないよ」
本当はクロネが言う化け物を警戒しての言葉だったが、それでは止まらないかもしれないと考えルシアはそう口にした。
すると、シロと御堂は少し悩んだ後、顔を見合わせてから頷いた。
「分かった。探しに行くのは日が出てからにするよ、クロネの仲間も暗がりに隠れてるかもしれないしな。クロネもそれでいい?」
クロネはすぐにでも探しに行きたそうな表情をしていたが、これ以上迷惑を掛ける訳にはいかないと思ったのか少し逡巡した後に首を縦に振った。
「はい、それで構いません。…どうか宜しくお願いします」
クロネが了承したところで直ぐに出発するつもりだったシロ達はやる事がなくなった為、シロは先程の会話で出てきた化け物についてクロネから話しを聞くことにするが、シロの質問に対しクロネは申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、私もアレがなんなのかは把握できていません。手も足も出ず、逃げるのに精一杯だったので……ただ、私がいた所ではあんな魔物を見たことはありませんでした……」
少しでも情報があれば相対した時に役立つとも思ったのだが有益な情報はなく、重い空気だけが残ってしまい、気まずく思ったシロはどうにか話題を変えようとする。
「あーっと、そういえばさ。クロネって猫の獣人って言ってたけどさ、クロネがいたクェリコだっけ? そこには猫とかいるの?」
以前に御堂からこちらには動物が存在しないと教えられていたので、猫と言う単語が出てきたことにシロは引っかかっていたので聞いてみることにした。
「猫とか? いますよ、私が猫ですしね」
「……」
どうやら上手く伝わらなかったらしい。本当に言葉と言うものは伝えにくいなと、こちらに来てからはよく思うようになったなとシロは心の中で呟く。
しかし、聞いた言葉をその者が持つ常識に照らし合わせて理解、認識しようとしてしまうのだから無理もないかと諦め、思考を切り替えて確認をする。
「えっと、つまり猫って言葉は獣人の中での種類ってこと?」
「そうですね、その認識で問題ないです。私のような猫の他には犬や狐、兎とか熊など様々な獣人がいますよ」
「へ~。それは是非会って見たいなぁ~」
シロの言葉に御堂が頷いていると、クロネが少し不思議そうな表情を見せる。
「あなた達は変わっていますね。人は私達、獣人を恐れて近づこうとはしないのに」
「そうなの?」
シロがそう聞き返すとロックスが後ろから声を掛けてくる。
「それはクェリコでは、先の大戦で捕らえた人々を奴隷として扱い、腹が減ればその肉を食べると言われているからだろう」
そのロックスの言葉でクロネは俯くがそのまま喋りだす。
「昔は人を食べていたそうですが今はそんなことありません。それに私達は人を奴隷として扱う事を良しとしてはいません」
「だが、クェリコには奴隷制度があると聞く。そんな発言は故国への敵対となるのではないか?」
「…………だから逃げてきたんです」
クロネが俯いたまま、そう口にした。
「私達は奴隷制度をなくそうとして……そして私が捕えられてしまったから皆が私を逃がす為にと一時的に国外へと……」
「なるほどな。それでアーウェンブルグへと入ったわけか……。だがそれでも君を見逃す事はできないがな」
「承知しています」
クロネは覚悟をした目でロックスを見据える。ロックスはクロネのその態度を見て溜息をついて座り込む。
「まぁ、シロ殿とミドウ殿がやると言うのだ。俺がとやかく言うことはできんよ」
国としては見過ごせないが個人でやる分には関係ないから勝手にしろと言う事だろう。ロックスとしてもこれ以上は口を挟むつもりはないようだった。
ルシアもなにか言いたげではあったが、やはりロックスと同じで諦めた様子だった。
クロネもそんな二人の様子に安心したようで、ほっと胸を撫で下ろす。やはり随分と気を張っていたのだろうと思えた。
「そんじゃ、そろそろ休むとするか。明日は早いからな」
御堂がそう言って疲れているであろうクロネにそう言った時だった、クロネが耳をピクッと動かしながら何かに気付いたようだった。
「この音はっ……!」
クロネが叫ぶと同時に森の方から木々を薙ぎ倒すような音とともに何かがズルズルと這うような音も聞こえてきた。
そして、それは薙ぎ倒した木々と一緒に森から飛び出してきた。
「なんだ、アレは!?」
ロックスが叫ぶがルシアも初めて見る、森から出てきた全長十五mはあるであろうその魔物を見ては言葉が出てこなかった。
だがシロは、現れたその巨大な魔物を見ることこそ初めてではあったが、その正体に心当たりがあった。
そして隣にいた御堂もありえないだろ、と言いたそうな表情でその魔物を見つめている。おそらくシロも御堂と同じような顔をしているのだろうなと一瞬考えた後に魔物へと視線を移す。
「御堂さん、これって……」
「ああ、多分そうなんだろうなぁ……」
シロと御堂は目の前にいる魔物を観察する。
鋭い牙に爪それに瞳。そしてトカゲのような体をしていて、その背中には飛べはしないだろうが翼のような物が生えている。
それらを見据えて御堂が呟いた。
「竜種かよ……!」




