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Free story  作者: 狐鈴
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菓子

「はい、本当にすいません。みんな寝落ちしてると思って少しはしゃいでました」

「いや、何も言ってねぇし……それに、お前の言わんとしてることはなんとなく理解できるしな」


 その言葉に頭を下げていたシロが訝しげに御堂の顔を覗き込む。


「理解あるの? 自分で言っておいてなんだけど引くわ~」

「成瀬、殴っていいか?」


 拳を作った御堂がそのままシロを殴ろうとするが、シロはそれを避けるとルシアの方へと目を向ける。


「とりあえず、酔いつぶれてる二人を運んじゃおうか……」

「はぁ……そうだな」


 溜息をつきながら了承する御堂を横目に、シロはルシアを抱えて寝室へと向かおうとして御堂に声をかける。


「あ、御堂さんはロックスさんをよろしくね~」

「マジかよ……」


 心底嫌そうな顔をしながらもロックスを運ぼうとするので、やはり御堂は良い人なのだと認識して今後もなにかあったらお願いしようと心に決めるシロ。

 やはり運ぶなら筋肉質の男より綺麗な女の子を運ぶほうが精神衛生的に大変よろしい。

 二人を運んだ後、御堂は水を飲みながらシロにシトラトを出てからの経緯を尋ねてくる。当然その中には今ここにいない南坂の事も含まれている。

 シロも敢えてその話題を口にしようとはしていなかったが、ルシアが寝てくれている今ぐらいしか御堂に話す機会がないと思い話すことにする。


「そうか……あの南坂バカがな。――俺は余計な事をしちまったのかな」


 シロが今までの事を話し終えると御堂がそう呟く、その言葉の中にはきっと後悔も含まれているのだろうと感じられた。


「そんなこと無いと思うよ、魔法が使えなかったら道中で死んでいたかもしれないし。それに仇は討てなかったけど南坂さんはロックスさんを助けた、だからきっと後悔はしてないんだと思う」

「そうかもな。まぁ、過ぎた事を言ってもしょうがねえか……それであのルシアって娘が王女様か、なんか厄介事に巻き込まれてるな、お前」

「自分でもそう思うよ…………。でも俺さ取りこぼしてばっかりで助けられなかった人は結構いるけど、だからこそルシアは守りたいって思うんだよ」

「惚気か?」

「茶化すなって! 結構真剣なんだけど……」


 ジト目でシロが睨むと御堂が肩を竦める。


「悪かった…それで? 成瀬はここに来て何をするつもりなんだよ?」

「そりゃ、御堂さんを厄介事に巻き込みに来たのさ~」

「だよな……まぁ構わないけどな」

「へ?」


 また拒否られるかと思っていたシロは意外そうな声をあげる。


「なんだよ? 勧誘しに来たんだろ、もっと喜ばないのかよ?」

「いや、ありがたいけどさ~。意外とあっさり了承を得られて驚いてる」

「魔具の研究もいよいよ行き詰ってきてたしな。お前について行って気分転換でもするさ、それに……」

「それに?」


 そこまで言いかけると、御堂は獰猛な獣のような目をしながら答える。


「レクトのお仲間が魔法を使える小道具を持ってるんだろ? ならそれを奪って利用させてもらうさ」

「悪い目してるな~。止めはしないけどさ」

「あのイケ好かない野郎を殴るためなら、アイツの仲間を締め上げるくらい嬉々としてやるさ」

「それじゃ、危ない人でしょ……」

「だから成瀬。お前にも多少の無理には付き合ってもらうぜ?」


 ああ、この人を誘ったのは失敗だったかも……寿命が縮みそうだ。と若干、後悔しながら大変な事が起きませんようにと祈りつつ御堂の言葉に頷いた。


「しっかし、こっちの世界イルティネシアと俺達がいた世界の間に、世界を隔てる壁…か。レクトのその話を信じるのならヤツがやろうとしてる事は見過ごせねえな」


 シロの旅路を話す際に、レクトとのやり取りで得た情報は帰る方法を模索している御堂にも話すべきだと判断して説明していた。


「見過ごせないけど、そもそもその壁とやらをどうやって壊すかがわかんないんだよね~」

「ならレクトをとっ捕まえればいいじゃねぇか」


 お手上げだとばかりにシロがそう言うと、御堂は事も無げにそう言い放つと呆れたようにシロは溜息をつく。


「御堂さんって意外と猪突猛進タイプなの?」

「分からない事に悶々としているくらいなら、動いたほうが良いって思ってるだけだよ」

「おお、なんか良い事言おうとしてる!」

「張り倒すぞお前……」


 先程、茶化された意趣返しにと思ったが、睨み返されたのでおっかなくなったので黙ることにする。


「まぁ、レクトの事は旅をしながら考えるとして、俺達がその壁に開いた穴に迷い込んだってだけなら根気よく探せば案外簡単に戻れるのかもな」

「でも、こっちに来たのにさえ気付かなかったくらいだし目には映らないんじゃないのかな?」

「かもしれないが、それならそれでダウジングみたいに探し物ができる道具を作れるかもしれない」

「おお、さすがド○えもん!」

「もう、言い返す気にもなんねぇ……」


 御堂が呆れたようにそう呟いた。そして一通り話し終わったシロ達も休むことにして床へとついた。




 朝になって、シロが目を覚まし起き出すと御堂がすでに朝食を作り終えており、そこにはロックスも座っていた。


「おう、成瀬も起きたか。メシは出来てるから適当に食っとけ」

「ん、サンキュー。しかし御堂さんの主夫スキルはなかなか素晴らしいね」

「褒められても嬉しくねえな、それ……」


 嫌そうにする御堂だが若干、嬉しそうでもあるようだった。素直じゃないらしい。

 そして、シロも含めて三人で朝食をとっていると、ルシアがいない事に気付く。というよりは昨夜の出来事で妙に意識してしまっている為、考えないようにしていたと言う方が正しいのかもしれない。


「そういえば、ルシアはまだ起きてないの?」

「姫さんは昨日あんだけ飲んでいたんだから、起きるまでは放って置いたほうがいいだろ」

「そっか」


 御堂がルシアの事を姫さんと呼んだことに、ロックスが反応していたがシロが目配せすると察してくれたらしく何も言ってはこなかった。

 シロもルシアが王族であることを話すことは良くないとは思っていたが、以前にここに訪れたときにシロ達が王都に関係している事は話しているので、これから一緒に旅をするのでいずれは知られるのであるなら先に言っておいた方が良いだろうと考えていた。


 朝食をとり終えてから三人が雑談をしているとフランカがやって来た。


「タカヒロー、お菓子ちょーだーい」

「家に上がり込んでの第一声がそれかよ……」


 呆れたように御堂がそう口にしながら、香ばしい匂いが漂うお菓子を取り出した。


「お、御堂さんクッキー焼いたの? ほんと、材料ないのによく作れるね」


 シロが感心しながら御堂の焼いたクッキーを見ていた。


「なにそれ! 美味しそう!」


 運ばれてきたクッキーを興味深そうに眺めるフランカに御堂が一つ手渡す。


「まだ、少し熱いぞ。気をつけて食えよ」


 嬉しそうにしながらも御堂の言い付け通りに、そ~っとクッキーを口に運ぶと小さく齧るフランカ。


「んっ! 美味しいよコレ!」


 そして、そのままポリポリと平らげていく。その姿はリスが頬袋に食べ物を溜め込んでいる姿に似ていた。

 その横で御堂がお茶を飲みながら、フランカを見てホッコリとしていた。

 いつぞや、南坂が御堂の事をロリコンではないか? と言っていたがどうなのだろう、と疑問が湧き上がってくる。


(いや、大丈夫。御堂さんはきっと常識人、決して特殊な性癖を持った人ではないはずだ)


 シロは半ば強引に自分に言い聞かせながら、そう納得させ御堂へと視線を向ける。


「成瀬、お前なにか変なこと考えてるだろ?」

「いんや、全然!」


 とっても鋭い洞察力に内心僅かに慌てるが、表情に出すようなことはしない。

 御堂に疑いの目を向けられながらシロもクッキーを頂くと、絶妙な焼き加減と香ばしさに唸る。


「おお、マジでクッキーだ……。材料や道具が揃わない中でほんとよくここまで再現できるよ」

「ここに至るまでの道のりは険しかったが、ついに辿り着いたぜ。我ながらよくやったよ」

「うむ、確かにこれは美味だな。ミドウ殿は元々こういった菓子を作っていたので?」

「いんや、これは完璧に趣味だな」


 しれっと、そんな事を言う。ここまでやろうって思えること自体凄いのに、本職でもないのに趣味でここまで作り上げるのは尋常ではない事だと素直に思った。

 そして、ある程度クッキーを平らげると御堂がフランカに話しを切り出した。


「そうだフランカ。俺はしばらく出かけるから町の子供達にも、そう伝えておいてくれ」

「え!?」


 御堂の言葉にフランカは驚きを隠せない様子だった。


「そんな……それじゃお菓子はどうするの!?」

「気にするところはソコかよっ!」


 子供達にとっての御堂の扱いと言うものは純粋に酷いと思った。


「今のは本音…じゃなくて冗談だよ」

「本音だったんだな……」

「でも、タカヒロどこ行っちゃうの? 帰ってくるんだよね?」


 御堂本人か、お菓子かは分からなかったが、その表情は本気で心配しているようだった。


「帰ってくるかは、わからない……。だけど戻ってくることがあるなら、その時はまた知らない菓子作ってやるから楽しみにしてろ」

「……うん」


 そう言うとフランカが俯き、御堂が頭を撫でているとフランカが顔を上げる。


「ならタカヒロが出かけてる間、私が飴作る!」

「ああ、いいぜ。この家は自由に使っていいから好きにしな」

「うん!」


 御堂が許可を出すとフランカは嬉しそうに笑い、町へと戻っていく。


「よかったの?」

「なにがだ?」


 フランカの背中を見送っていた御堂にシロが声をかける。


「幼女好きの御堂さんがこの町を離れて生きていけるのかなって……」

「よく分かった。お前死にたいんだな……!」


 御堂が刀を抜き放ちシロに斬りかかるが、シロは身体強化を使い脱兎の如く全速で逃げる。命を懸けた鬼ごっこがここに始まった。




 日が真上に昇った頃、ルシアが頭をかかえて起きてきた。


「う~頭痛い……って、二人ともなにしたの?」

「別に……」

「なん…でも………」


 息も絶え絶えに二人は地面に伏していた。それを首を傾げて見ていたルシアにロックスが説明を始める。


「先程まで身体強化を使った走り込みをしていて、今はこうして休憩中らしいです」

「ああー、なるほど」


 とは言うものの御堂は刀を振り回した挙句に、自身の魔法を使って斬撃まで飛ばしていたので危うく手足が斬り飛ばされるところだったとはロックスも口には出さない。

 そして地べたに座り込んでいるシロに、ルシアが近づくとシロの体が強張る。


「すごい汗だね。どれだけ走ってきたの?」

「町の外周を三周ほど?」

「それはまた無茶をするね……」


 さすがにルシアも呆れて何も言えなくなるが、そのまま近づくと持っていたハンカチで汗を拭い始める。


「ル、ルシア……それくらい自分で出来るからっ!」


 顔を赤くしながらハンカチを取ると少し距離をとる。


「ルシアはお酒は抜けた? 二日酔いとかは大丈夫?」

「うーんと。まだ少し頭痛いけど平気だよ?」

「そっか。今日一日ゆっくり休んで明日には出発できるようにしないとね」

「うん、そだね。それよりシロ、顔赤いよ?」

「え? ああ、さっきまで走ってたからじゃないかな!?」


 どうにか誤魔化そうとするが、もはや余裕がかけらもなかった。


「そうだったね。それじゃ私、水持ってくるから待っててね」


 そう言ってルシアが家の中へと戻っていく。その時のルシアの顔が赤かったのを御堂は見逃してはいなかった。

 ルシアが離れるとシロは、ようやく落ち着きを取り戻す。


「はぁ……やばかった」


 そう口にすると、御堂が肩を掴んでシロに喋りかけてくる。


「姫さんが離れた途端に溜息とは失礼なやつだな、成瀬は」

「昨日の見てたんだろ……あんなことあった後に意識するなって方が無理でしょ」

「分からなくもないが、近くでラブコメ臭い空気出されるとこっちが辛いから早急になんとかしろ」

「なんとかって無茶言うなよ!」


「なにが無茶なの?」


 御堂の無茶振りに困っているとルシアが水を汲んで戻ってくる。

 それをシロと御堂に手渡すと二人はそれを一気に飲み干す。


「いや、こっちの話だ気にすんな」


 そう言って御堂がシロから離れると、退散してしまう。


(くっ、逃げたな)


 とは言うものの、ルシアも何かを言ってくることもなかったので、シロは安心するが御堂が詰まらなそうに舌打ちしているのが聞こえた。けっこう性格悪いのかもしれない……。



(たぶん姫さんは昨夜の事、覚えてるな。意外と押しが強いかもしれないし……成瀬そのままだといつか食われるぞ。――まぁ、何事も経験だしな、頑張れ若人よ)


 無責任なエールを御堂が送っていることをシロが知ることはなかった。

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