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Free story  作者: 狐鈴
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野盗

ちょっと更新が亀ですが……

これからも頑張って書いていきますよー!

 朝、シロが目覚めると最初に目に入ったのは石の天井だった。


「ああ、そっか。宿か、ここ」


 誰に聞かせるわけでもなく、一人呟くとシロは身体を起こす。

 昨夜、坑道から血塗れで帰ってきた三人は、宿屋の店主に気付かれないように部屋へと戻ると、そのまま各自部屋で休む事にしたのだった。


(ルシア、大丈夫かな……)


 シロ自身も昨夜の出来事に対して気持ちの整理が出来ていた訳ではなかったが、それ以上にあの時あの場で友人を諦めると言わざる終えなかったルシアの事を考えると、居ても立ってもいられなかった。

 少し躊躇しながらもシロは部屋を出るとルシアの部屋へと向かって行く。


「ルシア、居る?」


 恐る恐るといった風にドアをノックすると部屋の中から僅かに声が聞こえた。


「……シロ?」

「うん。……入ってもいい?」


 返事はなく、どうしようかとシロが悩んでいるとドアが開き、中から目を赤く腫らしたルシアが顔を覗かせる。

 シロはどう言葉を掛けて言いか分からずに黙ってしまうが、ルシアが中に入るように促す。


「廊下で話すのも何だし、中入ったら?」


 その言葉に頷いて部屋の中へと入ると、ルシアがベッドへと腰掛ける。

 シロも近くの椅子へと腰掛けると部屋に沈黙が訪れる。

 元気付けようとルシアの元へと来たのは良かったが、シロにはルシアに掛ける言葉が見つからなかった。

 暫く無言だった二人だが、最初に口を開いたのはルシアの方だった。


「シロ、ゴメンね……」

「え?」


 シロもそんな言葉が出てくるとは思ってもいなかった為、聞き返す形になってしまった。


「あの時、シロはカオリを助けようとした。でも私がそれを止めた……シロは私を恨んでいるんじゃないの?」

「馬鹿、んなことあるかっ! 確かにあの時のルシアの言葉に苛立ちや怒りを感じないでもなかった。でも、もしルシアが止めてなかったら俺はあの場で死んでいた」


 あの時、シロ達が出て少しすると完全に坑道は崩れていた。つまりはあのまま南坂を助けようとしていたら全員生き埋めになっていたのは間違いなかった。

 だから、あの場でのルシアの判断は間違ってはいない、確かにそれでも割り切れない部分はあるが、それでルシアを恨むと言うのは筋違いだと分かっていた。


「もし南坂さんを助けられなかった事に責任を感じているなら、それはルシアだけのせいじゃない。俺に力がなかったからだ」

「シロ……」

「あの時、俺を救ったのは間違いなくルシアだ。だから自分を責めないでほしい」

「……うん」


 シロの言葉に頷くとルシアの瞳から涙が零れ、嗚咽の声が漏れる。

 その声に堪えかねシロは椅子から立つとルシアの隣へと座り、その震える肩をそっと抱くとルシアはそのままシロの肩にもたれかかり泣き続けた。






「ふぅ……」


 シロが肩を回しながら宿の一階へと降りてくると、すでにロックスが朝食をとっておりシロの姿を見つけると手を振ってくる。


「おう、シロ殿。目が覚めたか」

「ロックスさんは早いんですね」

「傷の方はルシア様に治してもらったし、あの後すぐに眠ったからな。それよりルシア様は?」

「ああ、どうも昨夜は寝てなかったらしくて、眠ったばっかだよ」


 ルシアはシロの肩で泣き続けた後、疲れからかそのまま眠ってしまっていた。


「そうか……無理もないな、ルシア様の同年代の友人はカオリ殿とシロ殿くらいしかいないからな。シロ殿はもう平気なのか?」

「平気ではないけど、さっきルシアと話をしてたら落ち込んでる場合じゃないって思えてきてさ。ロックスさんの方こそ大丈夫なのか?」

「酷な言い方だが人の死には慣れているからな。だが……」


 そう言ってロックスの表情が暗くなる、そして怒気のようなものをシロは感じた。


「だが年端もいかない娘に守られ目の前で死なれた事などなかった……。これほど己の無力さを呪った事はないっ」


 ギリっと歯を噛みしめながらロックスはそう話す。悔やんでも悔やみきれないと、あの場に居たカルラという敵を自分自身を許すことができないと語り、最後にシロに頭を下げた。


「ロックスさん?」

「シロ殿の同郷であるカオリ殿を守ることが出来なくて済まない」

「悪いのはあのカルラって人であってロックスさんの責任じゃないよ、それに俺があの時、管理の屋敷で殺していればこんな事にはならなかったはずだし……。だから今は前を見なきゃ、カルラを、そしてレクトを倒す。それが今やらなきゃいけないことだと思う」

「シロ殿……そうだな、それじゃあ俺は食料等を買ってくる。もう奴等は此処には居ないだろうからルシア様の目が覚めたら次の町へと向かおう」

「わかった」


 シロが頷くのを確認するとロックスは宿屋を出て行き、残されたシロはそのまま朝食をとったあと旅支度をするために部屋へと戻って行った。

 昼過ぎにはルシアも目を覚まし、町を出ることを伝えると、一日だけだが世話になった酒場のマスターにお礼を云いたいとルシアが言い出したので酒場へと立ち寄った。



「そうかい、もう町を出るのか。……昨日は久々に親方達もはしゃいでたんだが、町での用事が終わるまでって言ってたしねぇ。また近くを通りかかったら遊びに来てくれな、カオリちゃんにもよろしくな」

「……はい」


 南坂の名前が出るとルシアの表情が僅かに暗くなったが、すぐに笑顔を浮かべマスターの方へと顔を向ける。


「お世話になりましたっ」


 普段出来ない事をさせてもらった事にたいしてか、ルシアは深く頭を下げた。

 こうして三人は鉱山の町を後にした。







「それで、次はどこに向かうんだ?」


 ロックスが次の目的地についてシロに尋ねてくる。


「ん~、シトラトに行きたいんだよな~」

「シトラトになにかあるのか?」


 シロが目的地を告げるとロックスが不思議そうに聞いてくる。


「ちょっと知り合いが居るもんで」

「シトラトってシロが王都を出て最初に向かった町だっけ?」

「そっ。そこに力を貸してくれそうな人がいるから様子を見に行こうかと思って」


 シロがそう答えるとロックスは地図を取り出すと、現在地からシトラトまでのルートを探し始める。


「ふむ、そこなら一週間ほどあれば着くな。道の近くにチェロという村があるから、そこを経由して食料の補給などを行おう」

「了解っ。それじゃ、まずはチェロの村へ向かうとしよっか」


 シロ達は目的地を決め歩き始めた。

 シェーバを出て三日が経ち、そろそろチェロの村に着くだろうという時だった。

 シロとルシアが話をしていると急にロックスが人差し指を口に当てて、会話を止めるようにと促してくる。

 その様子から何かが起きたかだろうと判断をして二人も辺りを警戒すると、遠くで金属がぶつかる音が微かに聞こえた。


「ロックスさん、今のは?」

「誰かが戦っているな……数は多くないから村ではないな」


 そう言ってロックスが走り出すと、前方に転倒した荷車の周りで数人が争っていた。


「野盗?」

「どうやら、そのようだな。助太刀するぞ!」


 ロックスがシロにそう叫ぶとルシアが勢いよく飛び出した。その手には鞘に収まったままの細剣を持っている、どうやら殺さずで挑むらしい。

 シロも走りながら野盗の数を確認すると数は五人、荷車に乗っていたと思われる乗員は三人で剣を持って振り回してはいるが、その動きはシロから見ても素人のものだった。

 その乗員のうちの一人が相手の一人に倒され尻餅をつく、まだルシアも距離があるため間に合いそうもなかった。


「くそっ」


 シロが慌てて魔法を展開し野盗が振り下ろす剣を消壁しょうへきによって防ぐと、追いついたルシアが容赦のない突きを放つ。


「ぐえっ!」


 突き飛ばされるまでルシアに気付いていなかった野盗は、そんな声をあげて動かなくなる。

 そこでようやく、こちらに気付いた野盗達がすでに腰の抜けかかっている乗員からルシアに目標を変更する。

 それでもルシアは臆す様子もなく平然と対峙していると、野盗たちは少し尻込みするが声をあげて襲い掛かってくる。


「おらぁ!」


 ルシアが一歩下がり相手の一斉攻撃を避け、そのまま攻撃に転じ突きを繰り出し一人が呻き声とともに地に伏した。

 攻撃を避けようとした野盗たちがルシアから離れて散ると、そこにロックスが太い腕を横にして勢いのままぶつけ一人が撃沈する。

 シロも野盗の一人に近づくと当然切りかかってくるが、それを避け懐に飛び込むと相手の頭を両手で掴みそこへ膝蹴りを叩き込んだ。

 相手が倒れたのを確認するとルシアも最後の一人を叩きのめしていた。


「やっぱりルシアの突きはおっかないな~」


 会ったばかりの時からルシアの突きは洗練されていて惚れ惚れするものだと思っていたが、それは今も変わらないのでそう口にするとルシアが呆れたような顔をする。


「それはシロの方だよ……戦闘になるとシロって容赦ないよね……」

「え? そうかな、普通だと思うけど?」


 心外なとばかりにシロが口にすると、今度は大きな溜息をつく。


「はぁ、自覚ないんだもんなぁ。もう少し加減してあげないとその人、顔真っ赤だよ」


 そういい残してルシアは乗員の方へと向かい怪我がないかの確認をはじめ、ロックスも野盗の身柄を拘束していく。

 シロは首を傾げながら足元に倒れている男に目をやると、歯が何本も折れており口と鼻から血が溢れていて赤く染まっていた。


「あー、加減したつもりだったんだけどなぁ」


 実際、身体強化は走った時しか使用しておらず攻撃に関してはシロ自身の力しか使っていない、それでも身体強化における加速により強力な一撃になってしまったのだ。


(野盗とはいえ魔力が使えない人と戦うときは注意しないとだな~)


 このアーウェンブルグでは魔力・魔法が扱える者には、それなりの地位が約束されているかわりに国に管理されており、結果として野盗等のならず者たちは魔力を使うことができない者がほとんどとなっている。


(まあ、やりすぎた事を後悔するよりも次に生かすことにしよう。加減して返り討ちにされても堪んないし)


 そう前向きに考えてからシロは乗員を治療しているルシアのそばへと向かう。

 彼等は安心したような表情をしており、互いの無事を喜んでいるようだった。

 すると三人のうちの一人の男が立ち上がるとシロ達に頭を下げてきた。


「君達のおかげで助かった。私達はすぐ近くにあるチェロの村の者でフロートという港町から荷をこちらに運んでいたら賊に襲われて……それで、もし良ければ是非お礼をさせてくれないか?」


 シロ達は顔を見合わせ、問題がないかを確認してから頷いた。


「わかりました。私達はチェロの村で宿をとるつもりだったので、お言葉に甘えさせてもらいます」


 ルシアがそう答えると男が喜んだ表情をした後、少し困り顔をする。


「それで、申し訳ないのですが村まで荷車を押すのを手伝ってもらっても宜しいでしょうか? 先程の襲撃で荷車の車軸が破損してしまって……」


 それにシロ達は苦笑しながら応じると、のびている野盗も荷車に乗せた後、乗員の三人とシロとロックスで荷車を押しながら村に向かう事になった。

 ちなみにルシアは荷車の上で野盗の怪我の治療中である。

 荷車に積まれている荷物+野盗×五人とルシアだったので、シロとロックスは身体強化を掛けて運んでいくことになった為、村に着いた時には疲労困憊になっていた。


 村に到着すると村人が何人も出てきて荷車の積荷を降ろし始める、それはこの村にとっては当たり前の光景らしい。

 その様子を見ているとお礼を申し出てきた男が改めてお礼を云ってきた。


「本当に助かりました、私はこの村の村長のヨークと申します。野盗については我々が後日、町の方へと移送しておきますので、お三方はどうぞ私の家へ」


 そうして促されるままシロ達は村長の家へと向かって行った。

 村長の家へとあがると、飲み物や軽くつまめる物を出して迎えてくれる。


「あー、肉体労働のあとの水は美味いねぇ~」

「中々の重労働だったな、いい汗がかけた」


 シロとロックスが水を一気に飲み干し食事はまだかと待っていると、家の奥から十歳くらいの女の子が出てきた。


「ん、お客さん? どーも」


 ペコリと軽く会釈をすると腰まで伸びた赤髪がさらりと前にたれる。


「こらチチェ! お客人に失礼だろ、きちんと挨拶しなさいっ」


 ヨークがそう叱るとつまらなそうな顔をしてチチェと呼ばれた女の子は部屋の奥へと引っ込んでいってしまった。


「申し訳ない……家を留守にする事が多いせいか言う事を聞かなくて」

「いえいえ、あれくらいの年頃ならあんなもんですって、気にしないでください」


 シロはそう言うと先程のチチェの表情を思い出す。


 グーー

(なんか思い詰めてるような顔だったな……)


 シロはそんな事を真剣な表情で考えていた為、大きく鳴った腹の虫は聞かなかったことにした。

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