邂逅
ちょっと更新遅れました(><;)
これからもボチボチ投稿していきます!
マグラスの襲撃から一週間が経ち、あの夜の緊張が大分抜けシロ達がミリアナと閑談をしていたときだった。
「ねぇ! 折角だしマラカトの町を観光しようよ」
と、唐突にルシアが切り出してきた。
しかし、今の状況で町を出歩くのは危険が伴うのでは? とシロが少し悩んでいるとミリアナが両手を合わせながら微笑む。
「観光できるほどの所はないけど、ずっとここにいても退屈だろうし三人で息抜きしてきなよ~。でもルシアちゃんはお忍びで来てるんだから多少なりは変装していってね~」
「やった! それじゃあカオリ、シロ行きましょう!」
ルシアは子供のように無邪気にはしゃぎながら南坂の手を引いて早速出かけようと動き出すと、ミリアナがリューゼアを呼び出した。
「リューゼア、ルシアちゃんが外に出られるように服を見繕ってもらいたいの」
「分かったわ、ルシア様こちらです」
ルシアと南坂はリューゼアに連れられて部屋を出て行くと、ミリアナと二人きりになってしまった。
風呂場での一件もあり、シロはなんとなくミリアナに対して苦手意識を持っているが、シロのそんな気持ちなど知らずに近づくと微笑みながら話しかけてくる。
「ルシアちゃんはたった一人の女の子ってことで、お義母様が特に厳しくてね、だから少しくらいは大目に見てあげてね」
ミリアナは本心からルシアの事を気にかけていることが、その真剣な眼差しから感じ取れた、だからシロもそれに応える。
「ルシアは真っ直ぐな奴ですからね、だからあいつがあのままでいてくれるなら俺はルシアを守りたいと思います」
「それって変わっちゃったら見捨てるってことかな?」
意地悪そうにクスリと笑いながらミリアナが聞き返してくるが、シロは表情を崩さずにそのまま言葉を続ける。
「そうならないようにするのも守るうちに入ると思いますよ」
「そうだねぇ~……やっぱシロくんは良い子だなぁ」
「そんなことないですって」
子供を相手にしているように褒めてくるミリアナに少し照れながらも、シロはミリアナが通ってきた道の方が険しかったのではないかと思い興味もあったので聞いてみることにする。
「ミリアナさんってあれだけ強いんだから、やっぱ昔は遊んだりとかって出来なかったんじゃないですか?」
「あ~、たしかにねぇ。でも今はクロちゃんに甘えさせてもらってるし幸せだよ~」
「そんなもんなんですかねぇ」
「それに私のお爺ちゃんが魔法騎士だったって事もあって、小さい頃から魔法は習い事の一つでしかなかったんだよ」
なんて事もないように、そう言うミリアナだったが少し暗い表情をする。
「辛かったといえば、お爺ちゃんがスパルタだったって事だけだよ」
「もしかして魔法使いって自分の魔法を伝承するのに躍起になるもんなんですか?」
なんとなく自分の持つ魔法使いのイメージというものが、積み上げた知識を絶やさないようにする、というものだったのでそんな質問をしてみる。
「ううん、私はお爺ちゃんとは得意分野が違って植物が得意だったから、それで自分を倒して見せろ! って、もう厳しくてね~」
「無茶苦茶ですね……、ちなみにお爺さんは何魔法なんですか?」
「衝撃魔法だよ」
衝撃……は扱いが難しいと聞いていたが結構使ってる人がいるんだなと思うシロは、ミリアナにさらにその辺の質問もする。
「衝撃って習得が難しいって聞いたんですけど、結構いるんですか?」
「皆、使おうとするんだけど扱いきれずに諦める人がほとんどだよ。ちなみにシロくんの知ってる使い手って誰がいるの?」
「あ、えーと。この前襲ってきたマグラスって奴と……」
敵の名前を出すのはどうかと思ったが、ミリアナは気にした様子もなかったのでそのまま続ける。
「――あとは『震将』グローウィル老師とミリアナさんのお爺さんですね」
「えっとね、それが私のお爺ちゃんだよ」
「はい?」
言ってる意味が分からず聞きなおしながらシロは固まった。
あの少しぼけたジジ……お爺さんがミリアナさんの祖父? そんな馬鹿なと思ったところで、なんとなくポケーとしているとこが似ていると思い始めた。
シロの表情を読み取ったのかミリアナが怪訝そうな顔でこちらの顔を覗き込んでくる。
「なんか失礼なこと考えてるでしょ?」
「そんなことないですって!」
慌てて否定するが疑いは晴れそうもなかったので、すぐに話題を戻す事にする。
「で、でもそれだけ有名人の孫なら、強いのも納得ですよ」
「も~、それじゃあ才能があるから強いみたいな言い方じゃないの。もうちょっと努力の方を褒めてほしいんだけど?」
少し拗ねたような顔で文句を言ってくるミリアナの仕草が可愛らしく、不覚にもドキリとさせられてしまうシロは必死で平静を装う。
(いかんいかん! 人妻相手に何ドキドキしてるんだ俺!)
ミリアナが天然なのかは分からないが一緒にいると色々とよろしくないので、ルシア達に合流すると言って部屋を出ようとするシロにミリアナが声をかける。
「シロくんにも色々あると思うけどルシアちゃんを悲しませたら駄目だよ」
ミリアナはシロの事情をどこまで知っているかは分からなかったが、その言葉はシロの胸に突き刺さる物があった、だからこそシロはなにも言えずにそのまま部屋を後にした。
部屋を出てすぐに壁にもたれかかると
「ほんと、どうしたらいいんだろうな……」
誰に聞かせるでもなくシロがそう呟くと正面玄関に向かって行った。
玄関に着いてから少し待つとルシアと南坂がやってきた。
ルシアがどんな変装をするのかと期待していたが服装はたいして変わりはなく、そこら辺で誰もが来ている布服で、先程までと違うところは髪を頭の後ろで団子状にして結ってあり羽を模した髪飾りを付けているということだけだった。
「それがルシアと分からないようにする為の変装?」
想像と違っていた為に、そのままポッと思ったことが口をついて出てしまっていた。
「へ、変かな?」
少しガッカリした様な顔で聞き返してくるルシアを見てシロは慌てて否定する。
「い、いや、変とかじゃないよ! ただ変装って聞いてたからつい……。いつもは髪とか結ってなかったし新鮮で良いと思うよ、それに王都で買った髪飾り……付けてくれたんだな、うん似合ってるよルシア」
「ふぇ!? あ、ありが…とぅ……」
照れてしまったらしく顔を赤くして俯くと、南坂がニヤニヤしながらシロに耳打ちしてくる。
「いやぁ、成瀬君って結構ルシアの扱いに慣れてるわね~。しかも、自覚ありなんでしょ? もうガバッといっちゃいなよ~」
「んなことできるわけないだろ!」
「なによ……ルシアだってまんざらじゃないと思うわよ?」
「こっちにだって色々あんの! とにかくその話題は止めてくれよ……」
シロがそう言うと南坂が少し不機嫌そうな表情になり、やはりルシアには聞こえないように喋りかける。
「気持ちは分からないわけじゃないけど、ずっと中途半端なままだと余計に傷つくわよ?」
「分かってるよ……でも、まだもう少し時間がほしいんだ」
「……まあ、成瀬君の問題なんだし、とやかく言いたくはないんだけどルシアを悲しませたりしたら軽蔑するからね」
「はいよ」
まさか同じ事を二人から言われるとは思わず、屋敷を出る前から疲れてしまったシロだが気を取り直して観光に出ることにする。
しかし観光とは言っても王都より土産も少なく見て回るほどのものはないので、ただ散策するだけなのだが、ルシアはそれでも楽しそうにしており気付けば夕方になってしまっていた。
シロもなんだかんだで楽しんでいたのだな、と考えながら歩いていると不意に後ろから声をかけられる。
「やぁ成瀬 白君、久しぶりだね」
聞き覚えのある声に背筋がヒヤリとしてすぐに振り返り身構える。
そんなシロの動きにルシアと南坂が気付くと、ルシアがシロの目の前に立ち不敵に笑う黒髪黒目の男の存在を認識するとその名を口にする。
「レクト……」
レクトはシロとルシアの反応を見て楽しそうに笑うとシロ達の後方を指差す、その先には喫茶店がありそちらに向かって歩いていく。
「せっかく会ったんだし、あそこで話でもしないかい?」
南坂もレクトの名前を聞いて臨戦態勢に入ってはいるが手を出そうとはしない、それはシロも同様で迂闊に手を出せばその瞬間に殺されると肌で感じ取っていた。
だからとはいえ暢気にお茶をする気にもなれないので当然その申し出は却下する。
「あんたとは馴れ合うつもりないね」
「おや? そちらの君は新顔だね、名前を聞いてもいいかな?」
「あ、あの……か、香織、南坂香織……」
南坂が気圧されながら名乗ると、レクトは以前シロに向けた言葉を南坂にも伝える。
「香織さんだね、僕はレクト。僕は君を元の世界に帰す方法を知っている。もし香織さんが僕に協力してくれるのなら君を元の世界に戻してあげよう」
南坂はレクトの言葉を聞いて一瞬迷いを見せたが、すぐに首を横に振った。
「せっかくの申し出ですけど、私は友達を裏切りたくはないです。あなたがルシアの敵なら私の敵です」
友達の中に俺の名前が入ってないよ、と心の中でツッコミをいれて虚しくなるシロをよそにレクトが少し笑みを崩しながら南坂を見る。
「敵……か、僕は君達のような人達を救いたくて動いているんだけれどね」
「どういう意味だ?」
思わずそう聞き返すシロだがレクトは表情を元に戻して笑いながら、また喫茶店を指差す。
「聞きたいのなら、あそこで僕の話を聞くべきじゃないのかい? せっかく君達の敵である僕が目的を話すと言っているんだ、たとえ罠でも聞く価値はあると思うんだが?」
「罠なのかよ……」
「冗談だよ、それとお姫様もし人を呼ぼうとしたら、この周辺が吹き飛ぶ事になるから止めておいた方がいい」
「くっ!」
ルシアに釘を刺すとレクトは喫茶店へと移動し店員に四人分の紅茶を注文し始め、それが終わるとこちらの顔を見て何を思ったのか財布を取り出した。
「ああ、大丈夫だよ。ここは僕が奢るから気にしないで好きな物を頼んでくれ」
などと訳の分からないことを言い出した、シロはそれを無視してルシア達にとりあえず話だけは聞こうと伝え三人はレクトから少し席を離して座る。
「ひどいな、僕達は敵同士だが今は攻撃の意思はないよ。そのつもりなら声をかける前に殺している」
この男ならそれが十分に可能だと分かるので、その言葉を信じることはできるが気を許すわけにはいかないので警戒は解かない。
レクトは残念そうな顔をするがすぐに諦め三人の顔を見渡す。
「さて、どこから話そうか……」
「――なら、まず聞きたいことがあります」
ルシアが言葉を発するとシロ達はそちらに目を向ける、ルシアは先程までの動揺した表情ではなく官吏の屋敷を襲撃したときのような真面目で凛々しい顔をしていた。
「聞きたいこと?」
「ええ、あなたは二百年ほど前に断絶したフォーエン家最後の当主、レクトエス・フォーエンですか?」
その質問にレクトは目を見開くとルシアを見据える。
「――驚いたね、まさかその質問がくるとは思ってもいなかったよ」
あまり表情には出てはいなかったが確かに驚いているのだとレクトの口振りから感じ取れた。
「ということは本人なのですか? 記述には銀髪赤眼の方だとなっていましたが」
「たしかに今は香織さん達のような日本人のような容姿をしているけど、その記述は僕の本来の姿だね」
「本来というと――」
「それは後で話すよ、今は彼の体を借りている、という事だけ理解してくれればいい」
ルシアの質問を最後まで聞かずにレクトがそう答えると、紅茶を一口飲み話を再開する。
「――さて本題に入ろうか。……僕の目的は君達のような異世界からこちらに迷い込んでしまうという現象の解明と、それの根絶だよ」
レクトがさらりと自分の目的を話すもので三人は一瞬固まってしまうが、笑みを浮かべるその表情からは真意が読み取れない。
シロ達が不審がっているのを察したのかレクトはそのまま言葉を続ける。
「さっきも言ったが、こちらは協力を求めているのだから伝えていない事もあるけど嘘はないよ」
「なら、それらも含めて全て話すべきでは?」
ルシアがそれに対して不十分だと訴えると、レクトが椅子に深く腰掛け足を組みなおすと笑みを消してルシアに冷たい視線を投げかけた。
「僕が協力を求めているのは君ではない、本来なら君に聞かせることは何もないのだが、君を遠ざけたら白君や香織さんが話を聞いてくれなくなるだろうからね」
最後に仕方がない、とレクトが付け加えるとルシアは険しい表情のまま口を閉ざした。
その様子を見てレクトは満足そうに頷くと口を開く。
「それじゃあ、まずはこの世界の成り立ちから説明しようか」