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Free story  作者: 狐鈴
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避難

 シロ達はカインズに起こされて、目を擦りながら身体を起こす。

 昨夜ルシアに遅くまで付き合わされたおかげで、十分な睡眠がとれていなかった。二人は未だにはっきりしない頭で、どうにか起きようとゆっくりベッドから出るとカインズが大事な話があると真面目な顔つきになる。


「お二人とも今回、冒険者が招集されたことは既に知っているとは思いますが、あなた方には理由を説明しておきます」

「戦力の補充ですよね?」


 確か昨日ナラクトに会った時にそのような事を言っていたはずだったので、シロはそう聞き返すがカインズが首を横に振った。


「確かに補充ではありますが正確ではありません……、実はシロ君たちが旅に出てすぐにいくつかの町の官吏が殺害されました」

「官吏って、もしかして……」

「恐らくはレクトかその仲間の犯行だと思われます。そして殺された官吏の屋敷には何かしらの実験の痕跡もあったことから、官吏がレクトの計画に加担していたと考えてます」


 あの町での騒動のせいで他の町で行われている実験が露見するのも時間の問題だと考え、口封じの為に官吏を殺害していると考えるのが普通だろう。

 それにしても今まで影に潜んで行動していた彼らがこれほどの行動を起こすだろうか? とシロは少し悩む、会ったのはあの時だけだがレクトという男はクレアノの実験が知られた時に驚くどころか、むしろ予想外の出来事を楽しんでいる様にさえ感じられたからだ。。

 あの男を理解する気はないが、秘密を隠す為だけに各地の官吏達を襲うとはシロには考えられなかった。


「もしかして陽動とか……ですか?」


 シロがポツリと呟くとカインズが少し驚いた様子でシロを見ると、小さく頷いた。


「推測でしかないですが、国王や私も同意見です。しかし敵の狙いが分からない以上、王都をそして国王を我々は守護しなければなりません」

「それは分かりますけどカインズさん、結局私達に話ってなんなんですか?」


 南坂が質問するとカインズは話が脱線しかけている事に気付き本題に入る。


「王都エリステルが狙われていると言う事は、ここに居れば君達に危害が及ぶ可能性がある……だから城から離れてもらいたいんだ」

「「いやです」」


 二人は不機嫌そうに口を揃えてそう言った。

 危険だから自分達に良くしてくれた人達を見捨てる、なんて事をしたらきっと自分が嫌いになってしまうだろう、なにより君達は関係ない人間だと言われた様な気がしたのが一番不快だった。


「俺達はこっちの世界の人間じゃないから関係ないかも知れないけど、知り合いが困ってるのに見捨てるなんて――」

「君達はそう言う様な気がしたよ……」


 軽くため息をつきながらカインズが言うと、少し嬉しそうに笑った。


「そんな君達に頼みたい事があるんだ」

「頼み…?」

「ああ……、ルシア様を君達の旅に同行させてもらえないだろうか?」

「いいんですか? 私は構わないですけどルシアのお母さんが反対しているって聞いてたんですけど……」

「事情が変わったんですよ、王妃殿下も認めて下さっています」

「そっか、よかった~」


 南坂が安堵の表情をする、母親が認めたなら構わないが少し気になるものがあった。


「カインズさんは旅に同行しないんですか?」

「ええ、この状況なのでね」

「そうですか……、だってさ南坂さんルシアに許可が出たって教えてあげれば?」

「それじゃ成瀬君も一緒にいこうよ」

「少ししたら行くよー」

「ん、それじゃ先に行くねー」


 嬉しそうに南坂が部屋を出て行くと、シロはカインズに訊ねる。


「つまりは三人仲良く安全な所にいろってことですよね……」

「すまないね」

「まぁ南坂も喜んでるし良いんですけど、本当に大丈夫なんですか?」

「その為に、守る対象を絞りたかったというのもあって君達にルシア様を託すんだ」

「責任重大ですね……、それにカインズさんとルシアのやり取りを見てるとお守りの方が大変そうだ」

「君ならできると信じているよ」


 今のシロの発言の後だと丸投げしたようにしか聞こえないのは気のせいなのだろうか……シロは深く考えないようにしてルシアの部屋へと向かって行った。

 部屋に着くと南坂がルシアに向かって何かを言っている、どうしたのかとシロが近くに寄ると南坂が困ったような顔をしていた。


「なにかあったの?」

「あ、成瀬君。それがルシアが旅に付いて行かないって言い出して……」

「ごめんねカオリ……私も一緒に行きたいんだけど」

「なら行こうよ~……」


 つまらなそうに南坂が言うがルシアは首を縦に振ろうとはしない、王都が危険なのはルシアも認識しており、それでもなお付いて来れないと言う事は先程シロがカインズに言った理由と同じなのだろう。

 だからシロはその気持ちを無下にはできないのでルシアにある提案することにした。


「ならマラカトの町に行こうか」

「マラカト?」


 ルシアがキョトンとした顔でこちらを見てくるがそのまま説明する。


「ルシアは家族を見捨てることが嫌なんだろ?」

「うん……」

「でも、ここは沢山の冒険者たちがいるから他より安全なはずだし、それなら警備が行き届いていないマラカトに行って、ルシアのお兄さんのクロウを守りに行くっていうのはどうかな?」


 此処が完全に安全とは言い切れないがレクトの狙いが分かっていない以上、守りが整っていない町にいるクロウの方が危険とも言えたがシロもこれ以上はルシアの家族を死なせたくはなかった。

 シロの提案にルシアは固まったままでいたが、少し間をあけてから大きく頷いてマラカトへ行く事を決めたようだった。


「でも、素直にマラカト行くって言ったら止められるかも知れないから、カインズには秘密にしなきゃね!」


 子供が悪戯を思いついた時のように嬉しそうにルシアがはしゃぐと、南坂も一緒になって喜ぶ。

 もしかすると行った先で大変な目にあうかも知れないというのに気楽なもんだと、シロは呆れながらに笑う。

 ルシアが旅に同行すると言う話をカインズに報告すると、そのことは他言するなとカインズに口止めされる、なのでそれを知っているのは城の中でもほんの一部の人間だけだ。

 シロ達は長く留まる事はせずになるべく早く城を出ることに決めて準備を進める、準備と言っても食料の用意はカインズがしてくれるので、シロ達は街へ下りてルシアが着る為の一般的な服を買いに行く事にした。


「あ、カオリ! これなんかどうかな!?」

「それだと地味すぎないかな? こっちなんてどう?」


 女の人の買い物というのはなかなか長い、シロはあれでもないこれでもないと様々な服を手に取る二人を微笑ましく思いながらも、退屈そうに欠伸をして待っていた。


「こうしていると平和なんだけどな……」


 今のような時間がずっと続けばいいなと考えながら空を仰ぐ。

 どれくらいそうしていたのだろうか、気付くと二人は服屋ではなく隣の雑貨屋の方へと移動していた。

 今度は小物を手に持って悩んでいる様子だったが、南坂はどれを買うか選んだようだった。


「私はこれにしよっと! なんか綺麗な石だなぁ……」


 そう言いながら碧い石がはめ込まれたブレスレットを手に取ると店主が話しかけてくる。


「お嬢ちゃん良い目してるね! そりゃ中々採れない希少な石でね、本当なら店に並べられないくらい貴重なもんなんだ。けど、その価値が分かるお嬢ちゃんには特別に売ってあげよう!」

「わっ、ホントですか!? やったー!」


 とても胡散臭い説明を述べる店主になら店に並べるなよ、とシロは言いたいところだったがそこは抑える事にする。

 そしてその説明を聞いて嫌な顔せずに喜べる南坂は、さすがは現役女子高生と言うべきなのだろうか?

 店主と南坂が話しに夢中になっている間にシロは未だに悩んでいるルシアの元へと向かう。


「なにか決まった?」

「う~ん……もうちょっと待って! むむ~」


 かなり真剣に悩んでいるルシアを横目にシロも小物を見てみると、羽を模した髪飾りが目に付いた。

 特別な装飾がされていたわけではなかったが、なんとなくだがルシアに似合いそうだなと頭をよぎったので、それをルシアに見せてみる事にする。


「これなんかどうかな? ルシアによく似合いそうだよ」


 言った途端にルシアの顔が茹で上がったように真っ赤になってしまうが、必死に平静を装いながら髪飾りを受け取る。


「あああ、ありが……とぅ…」


 最後は消え入りそうなくらい小さな声だったが、からかわないでおいてあげる。そんな自分を我ながら紳士だなぁと褒めてあげながら、ルシアの熱を冷ましてあげることにする。


「羽って奔放なルシアにはピッタリだよね」

「むぅ……それってどおゆう意味?」

「別に~」

「もう! シロの意地悪、罰としてこれ買ってきて!」

「はいはい」


 最後には元通りとまではいかなかったが、普通に話せるように戻ったので良しとしておく。

 髪飾りを店主へと持っていくと南坂がまだ喋っていたが、シロに気付き手に持っていた髪飾りを見てニヤニヤしだした。

 この顔をした時の南坂には敵わないので下手に刺激するのは止めておこう……


「まだ会計済ましていないなら、俺が払うから何も言うなよ……」

「あら、という事はブレスレットを私にプレゼントしてくれるって事なのかな~?」

「そういう事にしておいて下さい」

「それじゃあ、ご好意に甘えさせてもらうわね~」


 どうにか南坂をやり過ごしてから三人は城へと帰っていった。


 その日、ルシアは家族で食事をとり、そのあと南坂と部屋へと戻っていく。

 翌日には王都を出ることになっているので、ヒルトンや老師にも挨拶をしたかったのだが忙しそうにしていたので諦めて一人廊下に出ては月を眺めながら時間を潰していた。

 すると、子供がこちらに向かって走ってきて跳び蹴りをしてくる。


「とりゃ~!」


 ――ガシッ!


 跳んでくる蹴りを身体強化を使い片手で掴んで止めると、そのままぶら下がりジタバタと暴れだした。


「こら! 離せこの無礼者!」

「別に構わないけどこのまま離すと頭から落ちるよ?」

「間違えた! そっと降ろせ無礼者!」

「ん~、口の利き方がなってない坊ちゃんですね~」


 どうしてやろうかと考えていると二人の騎士が音も無くシロへと向かってきた。


「っ!」


 既に剣を抜いていた二人はシロに斬りかかる、実質には三人なのだが一人はシロに掴まれている子供を助けようとしているようだった。

 仕方なくシロは手を離さずに子供を自分の前に盾のように出して声を上げる。


「この子に怪我させたくなかったら動くんじゃねぇ!」


 言っておきながら自分が人質を抱えた強盗にでもなったような気分だった。


「くっ卑怯な!」

「卑怯じゃねえよ! というより子供で不意打ちして三人掛りで襲ってくるほうがよっぽど卑怯じゃん!」

「貴様がマルクス様に危害を加えようとするからだ!」

「マルクス様って…ルシアの弟か……」

「姉様を呼び捨てにするなー!」


 シロがルシアの名前を出した途端また暴れだす悪ガキ(マルクス)だが、どうしたものかと逡巡していると近衛騎士達の後ろから聞き覚えのある声がする。


「吠えるのは構わないが、そんなくだらない事をする為に近衛がいるわけじゃないんだぞマルクス」


 ビクーンと身体を伸ばして固まるとマルクスは震えだした。


「おい、大丈夫か?」

「…………」


 カタカタと震えたまま廊下の向こうを見続ける、声の主は分かったがよく考えてみれば名前を聞いていなかったなと思いながら、どう呼ぼうか思案するシロ。


「……庭師のおじさん」

「一度、国王として会ってるのに良い度胸だな、お前は」


 国王は呆れながらこちらに向かってくるが、近衛騎士達が国王を止めようとする。


「陛下! マルクス様が人質に取られています! 無闇に動かれては……」

「……はぁ、悪いなシロ、うちの馬鹿共が迷惑かけた」


 ため息をつきながら国王が頭を下げると、近衛騎士達が王が頭を下げてはいけません! などと騒ぎ立てる。

 正直、騎士達の戯言を聞いているのは耳障りでしかなかったが、国王がきちんと謝っているので聞かないわけにはいかなかった。


「お前らはマルクスを甘やかしすぎなんだよ! 大体あれが人質に取られてるって言うのか!? 大方そこの馬鹿息子(マルクス)がルシア絡みで粗相をやらかしただけだろ?」

「やっ、まったくその通りで」


 まるで見ていたかのように的確に言い当てると、国王が騎士達を一発ずつ小突いていき最後にマルクスへ拳骨をお見舞いすると、マルクスを騎士達に預けて下がらせた。


「今度こんな馬鹿なことしたら、お前ら全員仕置きしてやるからな……」

「ばい……」


 マルクスは半べそをかきながら戻っていってしまった、しかし振り返りながらこちらを睨んでいた様な気がしたのは気のせいか?


「はぁ、悪いな…マルクスは末っ子なもんで甘やかしすぎたかもしれん……」

「危なかったですけど、タイミングよく来てくれて良かったですよ、あのまま犯罪者扱いされたら最悪でした」

「お前に話があってな、来てみればこの騒ぎだ……」

「いろいろとお忙しいようで」

「だろ? お前王様代わってくれる気ない?」

「絶対にお断りです」


 にべもなく断ると、国王は残念そうに肩を落とした。


「それで話ってなんですか?」

「話ってほどのもんじゃないさ、明日ここを出るんだろ? だからルシアを頼むって言いに来たのさ」

「なんかお義父さんみたいですね」

「その表現は止めろ、次言ったら殴るからな」


 そう言うところはクロウに似ていると思いやはり親子なんだな、と思ったら笑いがこみ上げてくる。


「まあいいか、話はこんだけだ。じゃあな」

「あ、お義父さんちょっと待ってくださ――ぶほぁ!」


 少し茶目っ気を出してみたら問答無用で殴られた。


「……なんだぁ? シロなにか言ったか、お?」

「ちょ、ちょっと待ってください国王陛下……」

「なんだよ?」

「そういえば俺、王様の名前知らないなって思って」

「ああ、そういえば名乗ってなかったな、俺はザイアスだ。アーウェンブルグ国、国王ザイアス・アルテシア様だ」


 腰に手を当て胸を張るその姿は確かに一般人とは違うオーラを纏っていた。


「まっ、聞いても呼び捨てなんてできないんですけどねっ」

「それじゃあ、なんの為に聞いたんだよ」

「なんとなくですね」

「そうかい……それじゃ、俺は戻るぞ」

「あ、ザイアス王あと一つだけ」

「なんだ?」


 振り返るとシロの目を見て真面目な顔つきになる、こちらが真剣だということに気付いたようだった。


「ルシアは俺が守ります、だからその条件として絶対に死なないって約束してください」

「…………当たり前だろ、心配すんなって。ルシアやお前達の帰る場所は絶対に守り通すさ、約束する」



 ザイアスの言葉は信じられると思える強さがこもっており、シロはその言葉に頷いた。



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