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Free story  作者: 狐鈴
20/54

子供

「それにしても本当に無茶苦茶するわよね、あんた」


 冷めてしまった牛丼を食べながら御堂に文句を言う南坂は、先程の戦い(御堂は魔法を使えるようにする為の特訓と言い張っているが……)の事を言っているのだろう。

 その冷たい視線をやはり気にも留めずに受け流しながら、御堂はシロの肩の手当てをしている。


「悪いな成瀬、怪我増やしちまって……」

「本当だよ……と、言いたいけど結果オーライって事で」

「ホントに腹立つわね、あんた」


 持っている箸をへし折りそうな勢いで拳を握る南坂は途中で馬鹿らしくなったのか、かきこみながら牛丼を平らげる。

 御堂はそれを見届けてから南坂に目をやると、真面目な顔つきになる。


「なによ?」


 不機嫌そうに訊ねると御堂は一息ついてから口を開いた。


「まだ……仇を討ちたいって思っているのか?」

「………………当たり前でしょ」

「――そうか、ならいい」


 御堂の言葉が予想外だったのか、南坂は口をポカンと開けている。


「なんだよ? 変な顔して?」

「変な顔なんてしてないわよ! ってか、あんたは仇討ち反対なんじゃないの!?」

「さっきはお前を本気にさせる為に怒らせただけだ、そもそも俺は仇討ちを止めろなんて一言も言ってねえぞ」

「……む?」


 一言呻ってから南坂は先程のやり取りを思い出そうと頭を捻っている、その間に御堂は刀を手元に持ってきて手入れを始める。

 その様子をシロはぼんやりと眺めていると南坂が「あっ」と声をあげる、どうやら御堂の言ってる事が分かったらしい。


「やっと分かったか馬鹿女」

「うるっさいわね!」


 意外とこの二人は仲が良いんじゃないのか? と思わせるがシロは命が惜しいのでそんな事は口に出さない。

 そして御堂が一通り南坂をバカにした後に本題に入る。


「俺だってもし赤桐が殺されたとなったらレクトを殺したいと思うだろうしな、だから仇討ちするのは構わないが、無駄に死のうとだけはするなよ。」

「あんたはなんというか、素直じゃないわね……」

「こっちで五年近くも一人で居たんだ、捻くれもするだろ」

「自覚がありってのがタチ悪いわね……」


 お互いに悪態をつきつつもどうにか和解? してくれたらしくシロはホッとしていると、南坂が思い出したように腕を前に出した。


「そう言えば、あんたと戦ってる時に服が伸びたんだけどアレが私の魔法?」

「分かって使っていたんじゃないのか?」

「全然、とりあえずあんたを締め上げてやろうと思って手を出しただけだし……」

「それであれだけ動かせれば十分だろ……」


 御堂が呆れたように言うと、南坂は自分の魔法について詳しく知りたいらしく御堂に説明を求めるのだが――


「知らん、王宮住まいのお前らの方が詳しいだろ」


 と、相手にしない。

 当然シロにも魔法について知識があるわけではないので説明はできないので、明日ラグネの所で実践するしかないと言う事になり休む事にした。

 休むと言っても御堂の家は広くはないので毛布を掛けて椅子に腰掛けて寝るしかなく、そのまま二人は眠りについた。





 翌朝、南坂は軽い足取りでラグネ牧場に向かっていく、シロはあまり速く動くと肩の傷が痛むので置いてかれない程度についていく。

 牧場につくとラグネを一匹用意してくれており、さっそく南坂は柵に入っていくが身体強化はまだ教えていない、しかし昨夜の様子を見る限りでは大丈夫だろうと御堂が言うのでそのまま対峙する事にさせたのだ。


 南坂が柵の中に入るとラグネが南坂めがけて勢い良く突進してくるが、南坂は回避しようとはせずに左腕を前に出すと袖の部分がラグネに向かって伸びていき頭部に直撃した。

 伸びた袖が当たると頭蓋が砕ける嫌な音が響きラグネはその場に倒れる。


「い、一撃……」


 そばで見ていた牧場主が驚きの声を上げる、昨日まで手も足も出なかった女の子が一撃で魔物の頭を粉砕すれば当然である。

 しかしラグネが突進する勢いも相まって威力が上がったとはいえ、シロも一撃で倒せるとは思っていなかったので内心はかなり驚いている。

 そして南坂はというと震えて固まっている、どうしたのかとシロが近づくと左腕を出して南坂が困った顔をしていた。


「成瀬君! その剣で袖の部分切って!」


 何事かと思い袖の部分を見るとラグネの返り血がついていた、たしかにそれでは気持ちが悪いと思うのでスパっと切ってあげる。


「さすがに今のは想定外だったよ……」


 少し泣きそうな顔で南坂が呟くが、シロは南坂の魔法について考えていた。


(魔力で服が伸びているけど魔法を解くと返り血は残っていると言う事は、媒体となる服その物に力を与えているって事かな?)


 なんにせよ南坂の魔法は問題なく発動できているので、あとは身体強化を教えればいいだけである。

 南坂も返り血以外は不満はないようなので、大人しく御堂の家に戻る事にした。

 家に戻るとフランカと数人の子供が家の前に立って騒いでいる、なにをしているのか気になりシロ達が近くに寄ると子供が大声を出す。


「飴よこせー! くんないと家蹴るぞー!」


 と忠告しつつ家を蹴る子供達……その光景を見てシロはうんざりしてもう来るなと言う御堂の顔を思い浮かべた。


(ああ……本当に苦労してたんだな~)


 そんな感想を抱いていると突然ドアが開き御堂が顔を出すと飴を撒き始める。


「って、お前らもう来んなって言ってるだろうが!」

「わーい、タカヒロありがとー」

「飴だ、やった!」

「にいちゃんサンキュー」


 御堂の言葉とは裏腹に子供達は大喜びだった、まあ当然だろうが……


「塩じゃなくて飴撒いてるあたり結構バカなんじゃないの?」

「でも御堂さんは優しいと思うよ?」

「優しいかもだけど…やっぱ変なやつよ」


 いまいち素直にならない南坂は放っておいてシロは子供達の中へ入っていくと飴をキャッチする。


「いやっほぅ、飴ゲット! 貴ちゃんありがと!」


 刹那、御堂の手がシロの頭を掴むとそのまま持ち上げられる。


「あいててて! マジで痛い! ギブギブ!!」


 身体強化を使っているのか、まったく引き剥がす事が出来ずにシロは宙吊りになる。


「本当に良い度胸してるよな~、成瀬」

「あ、赤桐さんもそう呼んでたみたいだしいいじゃん!」

「それなら時と場合を選ぼうぜっ」

「へい……」


 ミシミシと頭蓋が悲鳴をあげる音を聞きながらシロは返事をするとようやく開放される。


「あー、痛かった……」

「ふざけてるからだろ」

「結構マジメだったんだけどなー」


 握りつぶされそうだった頭を擦りながらシロは周りを見ると、子供達が飴を取り合っているが皆楽しそうにしていた。


「貴ちゃ……御堂さんは子供に好かれてるんだね~」


 名前を呼ぶともの凄い勢いで睨んでくるので、シロは渋々普段どおりに呼ぶ事にする。


「これは好かれているんじゃなくて、飴ほしさだろ……」

「でも本当に嫌がってたら子供は寄り付かないんじゃないかな」

「かもな……」


 飴の争奪戦が終わると子供達は満足したのか町の方へと向かっていく。


「タカヒロまた来るからな!」

「おにいちゃん、じゃーねー!」

「また来なよ~」


 挨拶して帰っていく子供達に返事をするシロ、そして横で睨む御堂さん。


「勝手にまた来いとか言ってんじゃねえよ」

「えー、良いじゃん素直じゃないなぁ、貴ちゃんは」

「よしわかった、成瀬は飯抜きな」

「ええ!? ゴメン今のなし!」


 そんな他愛のないやり取りをしながら三人は家に入ると今後の事について話し始めた。

 最初に話を持ち出したのはシロだった、シロは南坂が魔法を扱えるようになったので、これ以上情報もないシトラトを出て次の町へと向かうつもりでいた。


「やっぱり御堂さんは一緒には来ないんだよね?」

「ああ、ここでやりたい事があるからな」

「それじゃあ、しばらくしたらまた立ち寄る事にするよ」

「それは構わないが南坂がもの凄く嫌そうな顔してるぞ」


 御堂に言われて南坂の方を向くと、心底嫌そうな顔をしてシロの顔を見ている。


「きっと南坂さんは寂しいんだよ」

「成瀬君って馬鹿なの!?」

「そこだけは南坂に激しく同意だな」

「あれ? 二人とも仲良いと思ってたのに、違うの?」

「そんなわけないでしょ!」

「嫌そうな顔は寂しいの裏返しかと思ったのに……」

「分かって言ってるでしょ?」

「うん」


 怒る南坂はとりあえず置いておくとして、シロは御堂に近隣の村や町で問題を抱えているような所がないか聞いてみるが、町の人間が知らないことを御堂が知っているはずもなく有益な話は聞けなかった。


「そうなるとやっぱり足で探すしかないか~」

「悪いな力になれなくて」

「いいよ、何日も泊めてくれただけで十分だよ」

「そうか」


 御堂から話を聞き終えると南坂が不服そうにしているので、シロは扱いに少し困っていると御堂が口を開く。


「南坂は俺がいなくて寂しいのか?」

「そんな訳ないでしょ!」


 と、火に油を注ぐ発言をしてくれる、なんともありがたいお言葉。


「でも南坂さん、この世界で折角こうして出会えたんだしさ、その縁を大事にしようよ」

「…………わかったわよ」


 南坂もシロに偶然、声を掛けられなければどうなっていたか分からない、と考えたのか少し考えると頷いてくれた。

 話がまとまると御堂が立ち上がり夕食を用意し始める、その匂いに腹の虫がなき食事が待ち遠しくなる。


「いやー、あれこれ考えるとお腹すくね~」

「成瀬の分はねえぞ」

「なんで!?」

「それは成瀬君の自業自得でしょ……」


 呆れたように呟く南坂と本当に用意してくれない御堂、シロはひもじい思いをしながら夜を過ごす事になったのだった。








 ――三日後


「それじゃあ、また縁があれば会えるかもね御堂さん」

「また来るよ貴ちゃん」

「成瀬は二度と来んな」

「ひどい!」

「南坂も無茶はするなよ」

「あんたには言われたくないわね」


 シロの怪我もだいぶ治りシトラトの町を出る事にした二人は御堂と言葉を交わした後、町を後にしたのだった。



 町を出てすぐにシロが地図を取り出すとそれを眺めながら歩いている。


「成瀬君、そんな事やってると転ぶよ?」

「ん~大丈夫だよ」

「それでなに見てるの?」

「次の目的地をどこにしようかなーと」

「まだ決まってなかったの!?」


 シトラトに滞在している時は次の町としか考えていなかったので、シロは目的地を特に決めていなかった。


「成瀬君って旅をなめてない?」

「でもまあ、それを今更突っ込む南坂さんも似たようなもんだって」

「くっ……反論できないけど成瀬君には言われたくなかったよ」

「それで次はさ、街道から逸れているけどこの村なんてどう?」


 聞きながらシロが地図を南坂に見せて指でその場所を示す。


「えっと、ベシアトル村?」

「そ、山に近いしなにか隠れてやるには丁度いいかなーって思ったんだけど、どう?」

「どうって言われても……特に行きたい場所もないし良いよ」

「よっし、決まりっと」

「それと成瀬君、今度は町から出る前に行き先は決めよっか」



 南坂に注意をされてから、次の目的地ベシアトル村に向かって二人は進路をかえた。

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