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Free story  作者: 狐鈴
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出発

 旅をすると決めたシロは路銀を稼ぐために村で手伝いをしてた。

 シロも最初は迷惑をかけたくないのもあってそのまま村を出ようとしたのだがレイナが無謀だと猛反対し、働き口を紹介するからまとまったお金が貯まるまでは家に泊まっていきなさい、と提案してきたのでそのまま彼女の家に転がり込む事となってしまったのだった。

 だが村には若い労働力がなく力仕事をする人間が少ないため、シロのような他所者でも村人は歓迎してくれたので、そのまま村仕事の手伝いをしながらの小遣い稼ぎは順調に進んでいた。

 そして今日も手に(くわ)を持ち布服に身を包んだシロが畑を耕している。


「思ったよりキツイなー」

「とか言いつつ逃げずにやってんじゃねえかよ」


 シロがぼやくと一緒に畑を耕していた強面のおっちゃんが話しかけてくる。

 このおっちゃんはガウロという名前でシロの仕事の面倒を見てくれている。


「そんじゃシロ、ここ終わったら昼飯にすんぞ」

「おおー、やったね!」


 飯と聞いておっしゃーと元気が出るシロ、それを見てガウロはガハハと笑う。

 二人が仕事を終え、ようやく昼飯にありつけたシロはこの村で採れる穀物ルオを炊いて握ったおにぎりを口に放り込む。

 名前は変わってるけどようは米である。

 違う名前なのにおにぎりと言う言葉が通じるのは少し可笑しくてにやけてしまうシロ。

 それを見ていたガウロは自分の水を飲み干してから。


「変なやつだなぁお前さんは」


 と、こっちを見て告げる。

 心外な、とばかりにガウロを見るが異世界からきた自分はたしかに変なやつに見えるかもなと思い、文句を言うのをやめた。

 そして丁度シロが昼飯を食べ終えると同時ぐらいにレイナがこちらにやってきた。


「こんにちはガウロさん、シロはちゃんと働いている?」

「おうレイナちゃん、だいじょうぶだぜ! ヒョロイなりしてるが町に行っちまったガキ共より真面目に働いてるぜ」


 ガウロさんの評価にいやーと照れるシロだが、そんなシロの様子を見てレイナがニヤニヤと笑みを浮かべる。


「でも、もうへばっちゃったんじゃないの?」


 と意地の悪そうなことを言ってくる。


「全然疲れてないね、なんならもうひとつの畑も耕してやろうか?」


 そういって余裕ぶるシロを横目にレイナがガウロに耳打ちするとガウロが頷いた。


「見たことないってんなら一緒に連れて行くか」

「連れて行くってどこに?」


 話が見えないシロは二人に訊ねるがレイナがいいからいいからと質問には答えずに立ち上がるとどこかへと歩き出す。

 そんな二人の後をシロはしかたなく思いながら追うと、途中ガウロの家へと立ち寄りそこでガウロがスコップを担ぎながらレイナとシロに木剣を渡してきた。木剣を渡されてシロは嫌な予感がしたが、ガウロが死にはしないと笑いながら背中を叩いてくるので嫌々ついていく。

 村を出てしばらく道なりに歩くと村人が十人くらい集まって地面に掘られた無数の穴を囲っていた。


「なにしてるの、落とし穴?」


 なにをしているか見当もつかないシロがレイナに聞く。


「この時期になるとねホルガーっていう魔物がこの辺を通るの、ホルガーはおとなしい魔物なんだけど色んな所に穴を掘っていくもんだから通行の邪魔にならないように穴を埋めていくの」

「そんな迷惑な魔物がいるのか……それでこの木剣はなにに使うのさ?」

「もし穴にホルガーがいたら思いっきり頭を叩くの」

「叩く? これで?」


 これで叩くってつまりは頭をかち割るってことだよね? と心底嫌そうな顔でシロは木剣を指差して訊ねると、そのシロ表情を見てレイナが付け加える。


「大丈夫、ホルガーはすごく頭固いから! 手加減しちゃだめだよ? そうすればびっくりしてすぐに逃げちゃうから」

「へーい」


 乗り気のしないシロを置いて穴を覗くレイナは、目的のものを見つけるとシロを呼ぶ。


「シロこっちだよ、ほらほら早く!」


 穴に近づき覗いてみると、丸っこいナニかが蠢いていた。

 丸い頭に獣耳、クリッとした目に耳と耳の間にあるリーゼントのような毛、その頭をよく支えられるなと思わせる小さい体に丸っこい手足。

 とりあえずの感想を述べると変な生き物だなという事とファンタジーみたいなものが出てくると思っていたのに小動物みたいなのが出てきて騙された感がハンパないということだけである。

 レイナの言うように無害っぽいので安心したシロは後ろから近づいて木剣で小突いてみる。


「シロ駄目!」


 その様子を見てレイナが咄嗟に声を上げるがシロが反応できるはずもない。

 頭を小突かれたホルガーが振り返ると一瞬で間合いを詰め、丸い手でシロの腹部を殴りつけ穴からはじき出した。


「ぐっは!」


 一瞬何が起きたか分からなかったがすぐにホルガーに殴り飛ばされたと理解したシロは、必死に息を整えながら駆け寄ってきたレイナに話しかける。


「うぅ……めっちゃ強いじゃん……!」

「だから思いっきり叩かなきゃ駄目って言ったのに……」

「たしかに言われたけどさ……げほっ」


 そう言って咳き込みながらシロは、あんな動きができることを教えてほしかったよとレイナを少し恨む。

 レイナはシロの息が整い殴られた所をさすりながら立ち上がるのを確認してから、シロが殴り飛ばされた穴へと入っていった。

 穴に入るとホルガーが地面を掘り始めていたのでレイナは慎重に背後へと回り込み木剣を構え、そのまま大きく横へと振りぬきホルガーの後頭部を叩いた。

 その様子を見ていたシロはバットを振るっている姿を連想していた。

 頭を叩かれたホルガーは驚いたように一瞬悲鳴をあげてから穴を飛び出して逃げていき、それを見送ってからレイナが穴から出てくる。


「こんな感じでやるんだよシロ、それじゃ次はあっちね」


 そういって次の穴を指差すレイナに促されるまま穴へと向かい入っていく。


「まだ一杯いるからどんどんやんないと終わらないよ~」


 と言い放ってからレイナは他の穴へと向かっていった。

 仕方ないと思いながらもシロはホルガーの後ろを取ってから木剣を握りなおして構える。

 そして先程レイナが実践したようにホルガーの頭をバットを振るように殴りつけた。

 木剣が後頭部に当たると岩でも殴ったかと思うような反動が返ってきて手が痺れたが、ホルガーは慌てて逃げていったようで安心するシロ。


「ふぅ……なんとかなったか~、というか魔物って全部あんなに硬いもんなのかな? 殴るたびにこれじゃたまらないな……」


 愚痴をこぼしてから穴を出たシロは他の穴を探すことにした。


 全部のホルガーを叩き出したら今度は穴埋めの手伝いをすることになり、全部片付いた時には日が落ちていた。

 岩のような後頭部を叩き続けたせいか手に力が入らないシロは手をさすりながらレイナの家へと向かう。

 レイナはホルガーの叩き出しが終わると食事の準備のため家に戻っていたので、家に着くとすでに夕食の準備ができているらしくいい香りがする。


「おかえりシロ、ご飯食べられる?」

「うん、もう腹ペコだよ」


 そういって二人で食事を始める、手に力が入らないままだがスプーンで食べられるように食事は細かく切ったものがほとんどだったので食べるのに苦労はしなかった。

 この気配りはさすがだな、と関心しながらシロは食事をおえてレイナと閑談していると、今日の肉体労働から考えても早めに休んだほうがいいとレイナに言われシロは寝床へと向かう。

 寝床はレイナの兄が使っていたものが空いていたのでそこを使わせてもらっている。

 布団に入ってから自分の数少ない荷物の制服から携帯を取り出して電源を入れる。


「こっちに来てから、もう十日かー」


 そう言ってから携帯の電源を落とす。

 さすがにそろそろ電池切れになる。

 圏外になっているので使いようはないが、携帯があるとなんとなく安心するので電池残量には気を使っておく。

 ここに来てから十日で分かったことは、レイナの兄を含めて村の若い連中のほとんどが町に稼ぎに行ってから約一年戻ってきていないということ。

 自分が村から出たら最初に行き着く場所と言うことなので、そこについたら村の人たちが心配しているということを伝えようと考えている。


「俺が村を出たらレイナはまた一人になっちゃうんだよな」


 そう考えると村から出るのを躊躇ってしまうが、そうも言ってられないと考え直す。


「町に着いたらレイナの兄さんも居るはずだし探して戻るように伝えればいいんだし、大丈夫だよな」


 自分の中で結論をだして瞼を閉じると疲労のせいかシロはすぐに眠りについた。

 朝になるとシロはレイナに起こされる。

 寝ぼけた目を擦りながら起き上がると不思議と筋肉痛になっていないことに驚いた。


「こっちにきて鍛えられたかな?」


 独り言を呟きながら力こぶを作ってみる。


「おお……少しは逞しくなったかも?」


 こっちに来てからずっと肉体労働で働かされていたからメキメキと筋肉がついてきたのか、と感心するシロをレイナが筋肉を見て喜んでいると勘違いして。


「朝から自分の腕を見てなにニヤニヤしてるのよ……」


 変なものを見るような目でこちらを見てくる。


「え? ニヤニヤしてた?」

「えぇ、恍惚に浸ったような顔してた……シロって筋肉見て喜ぶ趣味があったのねー」


 言いながら顔を引っ込めるレイナ、めっちゃ恥ずかしい……

 学生であるシロは働いていなかったため慣れない肉体労働で少し力ついたかも、のつもりだったのに変なところを見られて少し凹む。


 朝食を食べ終えてからシロは昨夜考えていたことをレイナに告げると、少し寂しそうな顔をしていたが、すぐに頷いてわかったと返事をした。


「それでいつ村を出るの?」

「明日には出ようと思ってる、急にごめんな」

「ううん、シロの問題だから無茶でなければ私が止めるなんてできないよ」

「ありがとうレイナ」


 礼を言うとレイナがむず痒く思ったのか照れくさそうにする。


「ほら、そんなことより仕事仕事! みんなの手伝いしながら明日出発することを伝えていかないと!」

「ああそっか……それじゃあ、いってきます!」


 レイナに言われ家を出たシロはこの村で最後の手伝いをするために走っていった。

 そんなシロの後姿を見送ってからレイナも村仕事をしに出かけていく。


 シロは畑を耕しながらガウロと話をしていた。


「そっかい明日村を出るのか」

「はい、すいませんガウロさん」


 そう言いつつ頭を下げるシロ。


「まったくだぜ、せっかく仕事も覚えてきたってのによ!」


 バシッと背中を叩いてくるガウロが言葉を続ける。


「なんてな! シロが小遣い稼ぐまでって最初に言ってたしな、それに今までずっと俺らでやってたんだ問題なんかありゃしねえよ!」


 そうしてまた背中を叩きながら笑っているガウロの行動は、こっちのことは気にするなと背中を押してくれているようにシロには感じられた。

 畑仕事を終えたシロは村の人たちに声をかけ明日出発するということを告げて家に帰った。

 家に帰るとレイナがすでに食事の準備を済ませていた。

 食事を終えるとレイナがテーブルに食料を詰めた袋を二つ用意していた。


「これが明日持っていく荷物ね」


 言いながら袋を一つ差し出す。


「あれ、そっちの袋は?」

「これ? こっちは私の分だよ」

「ん? それってレイナも町に行くってこと?」

「そうだよ私も町に行きたいと思ってたんだけど、一人では行っちゃ駄目っておばあちゃんに止められてたからね」


 まあ、町までがそこまで遠くないとはいえ女の一人旅となると親代わりである村長も心配なのだろうと思い、反対する理由もないシロはその言葉に納得する。

 その様子をみてレイナはうんうんと頷いてから。


「それじゃ明日の朝に出発ね」

「了解」


 返事をして部屋に戻るとシロは制服と携帯を荷物袋へと入れてから布団へともぐるが、まるで遠足にいく前日のような気分で興奮してなかなか寝付けなかった。



 朝になり少し早く目を覚ましたシロは少し寝不足気味ではあったが布団から抜け出すと身支度を整えて部屋を出る。


(この村の家って部屋ごとにドアがないけど、こっちの世界では当たり前なのかなー?)


 この村しか知らないので答えは出ないか、とシロは考えるのをやめる。

 まだレイナは起きてきてはいないようだったので、レイナの部屋へと様子を見に行く事にする。


「レイナ起きてる?」


 声をかけながら部屋を覗くと、ちょうど身支度の最中だったらしく片手に白い下着を持ち、なにも着ていない状態でレイナが立っていた。


「へ?」


 レイナがキョトンとした顔でシロを見ると目に涙をためて顔を真っ赤にすると、両手で身体を隠しながら俯いてしまった。


「ご、ごめん! 覗くつもりじゃなかったんだけど早く目が覚めちゃって…その……」


 後ろに向きなおして言い訳をするシロの後ろから睨む様な視線を感じる、そして下着を穿くような音がした後にレイナの気配が近づくのがわかった。


「シロのバカーー!」


 近づく声と足音にシロが振り向くと目の前にレイナの手があった……しかもグーで。

 その直後、シロの声が村中に響き渡った……


 村の出口には見送りに来てくれた村の人たちが集まっていた。

 町に行くだけなのに、わざわざ悪いなとシロは思ったが、町に行った村の人が帰ってこないとなると心配にもなるかと考えレイナの挨拶を待つ。


「それじゃあ、行ってくるね! おばあちゃん」

「気をつけて行くんだよ、レイナ……シロ坊、レイナをよろしく頼むよ」

「ふぁい……」

「大丈夫だよ、おばあちゃん町までは二日もあれば着くんだし」


 村長は心配そうにシロを見る、レイナに殴られて腫れた顔を見て心配してるんだろうか、少なくとも自分よりはレイナのほうが腕っ節は強い気がするので心配はいりませんとだけ言っておく。

 挨拶がおわると今度はガウロがシロの肩を掴みレイナに聞こえないように喋りだす。


「んで、その顔はどーしたよシロ?」


 ニヤニヤと聞いてくるので朝あったことを説明すると楽しそうに笑う。


「まあ、レイナの裸見といてその程度で済んだならよかったじゃねえか眼福ってやつだな」

「そうかもしれないけど、このあと二人になると思うとね…」

「襲うなよ?」

「この状態で襲ったら埋められちゃうよ……」


 違いねぇとまた笑うガウロが二本の木剣を渡してきた。


「この辺にはほとんど魔物なんざいないが護身用にとりあえず持ってきな」

「ありがとうございます、ガウロさん」


 受け取って頭を下げるシロ。


「男なんだから女の子一人くらい守ってやれよ」

「はい」


 元気よく返事をするシロを見てレイナが笑い。


「それじゃ行こっか」

「ああ!」



 こうして二人はサレット村を後にして町へと向かう。


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