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Free story  作者: 狐鈴
15/54

準備

 アンリが亡くなってから三日が経ち、葬儀は王城にいる関係者のみで行われた。

 葬儀が終わった後も南坂は部屋に閉じこもり泣いていて、シロも近づけないでいたが、ルシアが毎日のように南坂の所へ顔を出し少しは立ち直りつつあった。


「自分だって兄貴が殺されてるのに、やっぱ凄いなルシアは」


 シロは改めてルシアの強さを知って自分も負けていられないと、ヒルトンに鍛錬を付き合ってもらう。鍛錬が終わるとシロは休憩がてら庭にまで足を運び、中庭に腰を下ろすと一人座り込みながら物思いに耽る。

 国王と話をしてから少し気分が軽くなったのもあり、シロは暇を見つけては自分なりに今後の事を考えるようにしていた。


「やっぱり、あの大男を捕まえなきゃ気が済まない」


 それがシロなりに出した答えだった。


「そんなもんでいいのか?」


 独り言に返事が返ってきて、シロはハッと後ろを向く。

 そこには金髪蒼瞳の男が立っており、シロを見下している。


「噂通りの白い髪……お前がシロか?」

「そう、だけど」

「俺はクロウ、マラカトを治める官吏だ」

「クロウ? たしかルシアのお兄さ――んぐぁ!」


 シロが言い終わる前にクロウは容赦なく踏みつけてくる。


「ちょっ、痛いですって!」

「痛いようにしてんだから当たり前だろう! 頭ゆるいのかお前?」

「だ、だからなんで俺は踏まれなきゃいけないんですか!?」

「ああ? 弟でもない男に兄と言われて喜ぶ野郎がいると思ってんのか?」


 気持ち悪りぃ、と言わんばかりの顔で睨むクロウ、まるで不良のような態度に怯むシロ。


「す、すいません! それじゃあ……クロウ様?」

「なんで語尾が疑問系になってんだよ? これでも一応王族だぞ?」

「一応って……態度に問題があるって自覚はあるんですね……」

「言うじゃないか、覚悟はできてるんだろうな?」


 あまりの理不尽さに心の声が口から突いて出てしまい、ピンチに陥るシロだが意外にもクロウはなにもしてこなかった。

 クロウは頭を掻きながらシロの腕を掴むと、引きずり起こす。


「こんな事を言う為に来たんじゃないんだよ俺は……それと俺の事はクロウでいい」

「ど、どうも……」

「まずは弟、アンリの為に戦ってくれた事を感謝する……ありがとうな」


 国王にも言われた言葉だが、結果助けられなかった自分にとってはその言葉はやはり重たく感じられた。


「俺はアンリを助けられなかったです……」

「アイツだって戦いに出る以上、そうなる覚悟ぐらいはあったさ……それともアイツはお前に助けを求めて喚き散らしてたのか?」

「いえ、俺を逃がす為に立派に戦ったと思います」

「ならそれでいいさ、アイツが選んだ結果だ」

「皆、泣かないんですね……国王もクロウもルシアだって」


 それは少し冷たいのではないか? と、シロはそう考えていた。しかしクロウは前を見つめて答える。


「戦いは終わってないんだ、それに俺達にはそういう別れ方もあるってずっと教わってきた、泣いて前が見えなくなってちゃ死んだ奴の死が無駄になっちまう、それだけはしちゃいけないってな」

「前が見えなく…?」

「そうだ、俺達の前にはまだ道が続いてんだ。そして俺達はその道を進み続けなきゃいけないんだよ……シロ、お前の道はもう決まってるのか?」


 クロウの言葉はなにかを待っているように聞こえ、シロはその言葉に答える。


「俺はアンリの仇を取りたい! いつか元の世界には帰るけど、ここで一緒に過ごした人になにも報いずに帰るなんて事はしたくない」

「さっきの独り言よりはマシだな」

「あ、やっぱり聞いてましたよね?」

「ばっちりな」


 ニヤリとクロウが笑うとシロの背中を叩く。


「戦争がなくなってから、こちとら平和が長すぎた……魔法騎士にもまともな実戦経験っつー物を持った奴は少ない、だから期待してるぞ? シロ」

「過度な期待はプレッシャーになるからやめてくださいって」

「わざと掛けてるんだよ、さてと俺はそろそろマラカトに帰るから、ルシアの事頼んだぜ?」

「わかってるよ」


 じゃあなとクロウが手を振りながら歩いていく、その背中が見えなくなってからシロも部屋へと戻っていった。

 部屋に戻るとルシアが南坂に話しかけていた、南坂は今はもう泣いてはいなかったがルシアが何か言ってもあまり反応を返さない。

 シロも流石にこれでは良くないと思い南坂に話しかける。


「南坂さん、俺さアンリの仇を取ろうと思う」


 先程決めたシロの決意を南坂に伝えると、その言葉に反応したのでシロは言葉を続ける。


「俺一人じゃ荷が重いんだ、だから南坂さんにも手伝ってほしいんだ」

「仇?」


 仇討ちを理由にして南坂を動かすのはどうかとも思ったが、どのみちこのままでは南坂自身がまいってしまうと考えたシロはこの話を持ちかけた。


「そう、大男の情報を探しに他の町に行こうと思うんだ」

「見つけて殺すの?」


 その言葉を聞いて一瞬マズイとも思ったが、旅をしながら少しずつでも違う方向へ持っていこうとシロは考える。


「そこまではまだ分からないけど罰は与える、でもその前に少しは笑えるようになんないとな。女の子には皆、口が軽くなるって言うけどそんな泣き腫らした顔じゃ情報収集すらできないよ」

「うるさいわね……」


 南坂がボソっと突っ込むのを聞いてシロは少し安堵する、ルシアも同じ気持ちらしくシロを見ると笑いかけてくる。


「でもシロ、旅に出るって……いつ出るの?」

「う~ん、南坂さんが本調子になってからかな、まだ何日か先の話だよ」

「私も行っていい!?」

「俺は構わないけど……また勝手に城から出たら怒られるんじゃない?」

「こ、今度はきちんと伝えてから行きますよーだ! 今夜にでもお父様に聞いてみるわ」


 嬉しそうにはしゃぐルシアを見て南坂も少し笑っている。


(少しは前に進めたかな?)


 シロはそんな事を考えながら二人を眺めていた。




 その翌日からシロはヒルトンに協力してもらいながら魔法の修練に励んでいた。

 南坂もシロから少し離れたところで一人鍛錬を始める。


「ほんとに出て行くのか?」

「まあね、なにか情報を掴めれば城の皆にも恩返しできるしさ」

「ここに滞在してた事なんて、そんなに恩義に感じる必要ないと思うぞ?」

「言うと思ったよ、けど帰る方法も探さなきゃいけないしさ」


 シロは光る壁を展開すると、ヒルトンは壁に向かって魔法で石を飛ばしながら会話を続ける。


「やっぱ仇討ちが終われば帰っちまうんだよな?」

「まあね、向こうに残した妹が心配なんだ」

「そっか……」


 その言葉を聞いてヒルトンが少し残念そうな顔をする。


「成瀬君って妹さんがいるの?」

「ん? ああ、いるよ」


 それまで黙々と槍を振るっていた南坂が会話に入ってくる。


「私には兄弟いないけど、やっぱり両親は心配していると思う」

「向こうに帰ったら行方不明扱いされてるのかな?」

「だと思うけど、帰ったら帰ったで騒がしくなりそうだね」

「そうだね~」


 そんな先の話をしているとグローウィルが修練場にやってくる。


「やっておるの」

「あ、老師!」


 ヒルトンが急に畏まり老師に挨拶をするとシロ達もそれに倣う。

 挨拶を終えると老師がシロの方をじっと観察する。


「さっきのがシロの魔法かね?」

「はい、でも攻撃を受けると反動が強くて身体が持たないんですよ……」

「ふむ……もう一度見せてもらって良いかな?」

「わかりました」


 シロはもう一度集中して光る壁を作り出す、壁は二mほどの正方形で厚みが三十cmくらいのプラスチックかガラス板のような透き通った物で構成されている。

 その壁を見て老師が手を触れると火花か静電気のような物が散った。


「老師!」


 ヒルトンが慌てて駆け寄るが、それを老師が制す。


「驚いたの、これは障壁魔法か……」

「障壁魔法?」

「他には結界という呼び方もあるが、まあどちらでもええの。障壁は誰でも使えるが強い魔物を隔離したり、魔法を防ぐときに使う物なんじゃ」

「そういえば屋敷でルシアの剣を止めたりとか俺の蹴りを止めたりされたっけな」

「展開して待機させとけば二、三発ぐらいは止められる。、結構有用なんじゃがその後はそれを展開する余裕がなくなりジリ貧になる」


 確かに最初の二撃を防いだ後はあっけなかったなと、シロはあの時の事を思い返すとルシアが首を刎ね血がドバーの光景を思い出す。


(こっちに来て始めての血生臭いのがアレとか、本当に勘弁してほしかったな~)


 シロが遠いところを見つめていたが老師は話を進める。


「だから障壁は魔法騎士クラスになるには必須なんじゃが、今回は相手が悪かったようじゃの」

「皆、一撃でやられてました」

「障壁を一撃で破るとなるとの……話で聞いただけじゃから憶測でしかないが、恐らくは陣とともに殴るという行為が理由じゃな」

「一緒に殴るとなにか効果があるんです?」

「衝撃で障壁を消して拳を捻じ込む、そして接触した状態から更に魔法を展開する、言うのは簡単じゃが実行しようとするとかなり難しいの」


 それをあれだけの人数を相手に行っていたとなると、あの大男は相当厄介な敵だということが分かる。


「でもそれだと同じ方法で俺の障壁が壊せないのはなんでです?」

「単純な話で普通の障壁ではないという事じゃの」

「確かに俺が見た障壁は陣そのものでしたけど……」

「他にも土や岩、氷などでも壁は作れるがそれはただの壁、しかしシロのそれは魔法、魔力に対して反発する力が含まれているんじゃよ」

「反発ですか?」


 老師の話ではシロの障壁は、触れた魔法を削る事ができると言う、だから大男の陣を削り攻撃を防ぐ事ができたらしい、そしてその代償がシロに返ってくるあの反動とのこと。


「優れた防御力を持つけど万能ではないってことですよね……」

「万能な魔法なんてありはせんよ」


 それは最初に魔法の話しを聞いたときにもいわれた言葉だった。


「ですよね……でも魔法が使えるようになったのは素直に嬉しいです」

「そういえば魔法が使えるようになったのは、なにかきっかけでもあったのか?」

「きっかけは屋敷ですね、俺は既に魔法の使い方を知ってたみたいです」

「というと?」

「老師言いましたよね、深層術式は術者が魔法陣そのものだって、俺はきっとこの障壁魔法を使う為だけの魔法陣なんですよ」


 シロの言葉を聞いて老師は少し思案すると、納得したように頷いた。


「成程の、以前ここで失敗した時は自分の魔法をきちんと理解できていなかっただけで、その陣を理解してやれば何時でも使えたんじゃな」

「そうみたいです」


 うんうんと頷きながら老師は振り返ると修練場の出口へと向かいながら喋りだす。


「面白い話が聞けたわい、また見に来ても構わんかの?」

「はい、何時でも来てください! ……って老師はここに何しに来たんですか?」


 シロの言葉を聞いて老師はピタリと足を止めて振り返ると、こちらに戻ってくる。


「いや~忘れとった、以前話してた異世界への渡り方の話じゃ」

「大事なことじゃないですか! 忘れないでくださいよ!」


 すまんすまんと老師が謝ると一冊の本を取り出す。

 シロと南坂が近くに寄ると、ヒルトンも興味があるらしく側にやってくる。


「実は異世界に渡る方法を調べた研究資料はなかったんじゃ」

「え?」


 てっきり持っている本がそうだとばかり思っていたので、カクッと力が抜ける。


「期待させないでくださいよ!」

「望む情報が簡単に入ってくるわけないじゃろ」

「う~」


 正論になにも言えなくなるシロに代わって南坂が質問する。


「それじゃあ、その本はなんなんです?」

「これにはの、昔に異世界に渡る方法を調べていたある貴族の事が書かれているんじゃ」

「貴族ですか?」

「うむ、二百年程前に貴族フォーエン家の当主が随分と熱心に調べていたようなんじゃ」

「研究熱心な人もいるんですね」


 南坂がそんな感想を言っていると、シロが少し難しそうな顔をする。

 シロのその様子に気付くと南坂が尋ねる。


「成瀬君どうしたの?」

「フォーエンって聞いた事があるなって思って……」

「貴族に知り合いなんているの?」

「貴族にはいないけど王族の知り合いはいるな~」

「それは私もだよ……」

「ですよね~……で、そのフォーエンって貴族は研究してどうなったんです?」


 シロが聞くと老師はペラペラとページをめくりながら探すと手を止める。


「その研究熱心な当主が突然死して、そこで血が途絶えたとある」

「それじゃあ、その当主の名前わかります?」

「ちょっと待っておれ、――……あったここじゃ、16代目当主レクトエス・フォーエンとなっておる」

「レクト……」

「成瀬君?」


 シロの表情が固まり、南坂が心配になりもう一度呼ぶとシロは我に返り喋りだす。


「屋敷でやばい魔法使いがいたって言ったの覚えてる?」

「えっと、屋敷を吹き飛ばしたって言う?」

「そう、その魔法使いがレクトエス・フォーエンってたしか名乗ってた」

「でもそれって同じ名前ってだけじゃないの? その人が二百年生きてるなんてありえないでしょ?」

「だよね……でもこれはカインズさんあたりには言っておくよ、老師その本借りてもいいですか?」


 頼むと老師は本をシロへと手渡すと、目を見つめ言葉を掛ける。


「なにをするにしても焦ってはいかんぞ? 常に冷静にの」

「はい、大丈夫です! 本ありがとうございます!」


 シロが駆けて行くと南坂もそれに付いて行く。


「私も行くよ成瀬君」


 その二人を見送るとその場に残ったヒルトンに老師が話しかける。


「若いの~」

「まだ二十四なので私も若いです」

「ほっほっほ」


 同じ年寄り扱いしないでほしいと、ヒルトンなりに精一杯抵抗するのであった。

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