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Free story  作者: 狐鈴
11/54

舞踏

 シロは完全に浮いていた。

 ただの高校生でしかないシロにとって、セレブが催す舞踏会は住む世界が違い過ぎていた。


(まっ異世界だしな~、それにしても本当に貴族みたいな人ばかりだな)


 当然、周りにいるのは貴族なので口が裂けてもそんな事は言えない。

 落ち着きがないシロは、とりあえずグラスを手に持ち爽やかに笑っている。


(こんな姿をクラスメイトに見られたら一生笑いものにされそうだ……)


 シロがそうやって悩んでいると後ろから南坂が声をかけてきたので振り返る。

 南坂は薄紫のドレスを着ていて恥ずかしそうに俯いている。


「一瞬誰か分からなかったや、南坂さん凄く似合ってるよ」

「ほ、ほんとう?」

「本当だよ、それより顔赤いけど大丈夫?」

「あはは……あまり大丈夫じゃないかも、緊張しちゃって……」

「それは分かるな~、はい飲み物」

「あ、ありがとう……」


 シロは南坂に飲み物を渡すと会場を見渡しながら周りの人を観察している。


「南坂さんはルシアのお兄さん探さないの?」

「無理だって…今この格好してるだけで恥ずかしくてまともに喋れないんだから」

「肉食系かと思えばシャイだったりとかキャラぶれてるね、南坂さんは」

「何か言った成瀬君…?」


 睨む南坂を横目に、シロはまた周りを見渡すと人だかりが出来ているのに気付く。


「あ、ルシアが来たみたいね」

「人が多くて近くに行けないな……」

「成瀬君がルシアに近づくと他の貴族様に恨まれるんじゃない?」

「人の心配より自分の事を気にしなよな~」

「うるさいわね」


 二人でしばらく話をしていると会場がざわつくのが分かった。

 全員の視線がある方向へと向けられると正装に身を包んだ金髪蒼瞳の男が女性に囲まれ誘われているが、爽やかに受け流している。

 なんとも余裕ある態度にシロも見習わなければと思いながら、南坂に話を振る。


「あの人がアンリって人かなー? ――南坂さん出番ですよ?」

「成瀬君って意外と無茶振りさせるわね」

「南坂さんの反応おもしろいし」

「人を玩具にするなっての!」


 怒って何処かへ行く南坂を目で追っていると、水色のドレスに身を包んだルシアが声を掛けてくる。

 フワリと髪を靡かせてシロの前に立つと笑顔をこちらに向けてきて、不覚にもドキリとさせられる。


「シロ様、楽しんでいただけていますか?」

「…ええ、本日はお招きいただきありがとうございます、ルシーナ姫」


 ルシアがお姫様モードなので慣れない言葉使いで返すと、ルシアが可笑しそうにクスリと笑う。


「誰か良い方はいらっしゃいましたか?」

「ここにいらっしゃる方は皆さん魅力的ですので私如きでは声を掛けるのも憚られます」

「あらシロ様も十分に魅力的ですわよ? 私もシロ様の言葉を聞いてると楽しくなってしまいますもの」

(くぅ……完全に遊ばれてる、まともな突っ込みさえ出来ないところでなんたる仕打ち!)

「もっとお話をしていたいのですが、他の方に挨拶して周らなければならないので、これで失礼しますねシロ様」


 シロが悶えているのを見て満足したのかルシアが他の貴族の所へと移動する。

 慣れない喋りで疲れたシロは風に当たりにテラスへと出ると南坂が貴族と話をしていた。


(ってあれルシアのお兄さんじゃないか?)

「先程は失礼しました、周りには気を配っていたつもりだったのですが」

「いえいえ! 私の方こそ不注意で足を踏んでしまって、すみませんでした!」


 南坂はペコペコ謝りながらテンパっている。


「いや、それにしても、あなたがルシアが招いた客人だったとは驚きましたよ」

「や、やっぱり私…変ですか!?」

「とんでもない! 大変お美しいです」

「お、お美しい……」


 離れたところで見ているシロでも分かるほど、南坂が顔を赤くしてあがっているのが分かった。

 それはいいとしても、テラスの方を様子見しているのはシロだけではなかった、陰から女の子達が南坂…というかアンリに熱い視線を送っている。

 王子様も大変だと思いながらもシロはその女の子達に近づくと、爽やかな笑顔を向けて話しかける。


「君達のような可憐な女性がそんなところで固まっていないで、こちらに来て僕とこの国の未来について語り明かさないかい?」


 シロはわざとらしい笑顔と国を憂う青年を装いハッハッハと笑いながら女の子達に話しかけて注意を逸らすが、自分でもなにを言っているか分からない位に恥ずかしくて死にそうだった……

 とりあえずシロができる援護はここまでなので、あとは南坂次第だがシロは心の中で我ながらお節介だなと自嘲する。

 シロのそんな呟きも知らずに南坂はアンリとの話に夢中になっていた。


「そ、それでアンリ様は、誰か良い方は見つかりましたか?」

「私はまだまだ若輩者なので、パートナーを見つけるよりも自分を磨くべきだと思っておりまして今日は皆さんのお誘いを全て断るつもりできました」

「そうですか……」

「そんな事を父に言ったら怒られてしまいますが、あなたには何故か嘘をつきたくないと思いまして」

「アンリ様?」

「どこか惹かれているのかもしれませんね。……ところで、あなたのその黒髪はこの辺では見かけない色ですが、出身はどちらで?」

「あ、っと、ルシア……様から聞いてないんですか?」


 アンリが頷くと南坂が説明を始めるとアンリは頷きながら聞き、話を聞き終えると南坂を見つめる。


「なるほど私の顔色を伺うでもなく、地位や権力を欲しているでもないのに、そこまで緊張しているのはこういった場に来る事自体が初めてなんですね」

「は、はい」

「私の周りには私ではなく、王子としての私しか見ていない者が多くて正直、辟易していたのですがカオリさんのような方がいてくれて嬉しいですよ」

「あ、ありがとうございます!」

「宜しければ、これからも私の話相手をしてくれませんか?」

「私でよければ喜んで!」


 アンリは南坂の笑顔を見て心底安心する、昔から自分の周りには本心から接してくれる人間が居らず、彼は近衛騎士にさえ心を許してはいなかった。

 だが彼女は違うとアンリは感じ取り、既に会ったばかりの南坂に気を許していた。

 アンリがずっと南坂を見つめていると、恥ずかしそうに目を逸らされる、そしてアンリが南坂に踊ろうと話を持ちかけると丁度、音楽が始まり何組かが踊り始めていた。


「で、でも私踊れませんよ!?」

「大丈夫です、私がリードするので合わせてください」


 そう言ってアンリが手を差し出すと、南坂が手を震わしながらアンリの手を掴むと二人は前へと進み出て踊りだす。





 南坂とアンリが踊りだす少し前。


「それではシロ様、楽しかったですわ」


 女の子達はそう言って離れていった、シロは壁際に置いてあった椅子に腰掛け一息入れる。


「疲れた……なんで皆こんなの平気なんだよ、貴族と平民って差別用語かと思ってたけど同じ人類だとは思えない……」


 シロが呟いていると部屋に音楽が流れ踊りだす、心地よい音色を聞いていると少し離れたところでルシアが囲まれていた、どうやらダンスのお誘いを受けているようだった。

 疲れていたので最初は眺めているつもりだったが、ルシアが一人ずつ丁寧に断っても次々と誘いが来て動けなくなってしまっていたのでシロが重い腰を上げる。

 人混みを掻き分けると他の貴族に文句を言われるがそれを無視してルシアの所へ辿りつくと、シロが手を伸ばす。


「ルシーナ様よろしければ私と踊っていただけませんか?」

「……――っはい」


 シロのいきなりの申し出にルシアは一瞬止まっていたが、すぐに笑顔で手を取ってくれる。

 すると周囲から悔しそうな声が上がるが構わず進み、人混みから少し離れたところでルシアにだけ聞こえるように喋りかける。


「ちなみに俺、踊れないから」

「それじゃ、なんで誘ったのよ?」


 ルシアが笑いながら聞いてくると踊り始め、シロが恥ずかしそうに答える。


「なんか困ってるみたいだったからさ」

「ふふっ、ありがとうねシロ」

「笑うなって」

「感謝してるのは本当だよ?」


 照れくさくて目を逸らすが、顔が目の前にあるので効果がない。

 ルシアはシロの顔が見えるように少し覗き込んでくる、そんな事をしながらも踊れるから器用なものだ。


「それにしても今日のシロは面白かったよ」

「ほっとけ」

「またパーティー開くときは参加しようね」

「もう勘弁してください」


 このままではずっとルシアのターンなのでシロが話を変える。


「そういえばルシアのドレス姿初めて見たけど凄く綺麗だ」

「へ? って急になに言い出すのよ!?」

「最初見た時思わず見惚れちゃった程だよ」

「そんなこと言って、さっき話してた娘達にも同じ事言ってたんじゃないの?」


 ジト目でこちらを見るルシア、どうやら見られていたようだ……しかしその場のノリもあって可憐とは言ったがあくまでも社交辞令を言ったにすぎないので否定する。


「あれはお世辞みたいなものだけど、ルシアが綺麗ってのは本当だよ」


 流石に恥ずかしいがここで引いたら負けなので、目を逸らさずにルシアを見つめる。


「うぅ……なんでそんな事平気で言えるのよ、恥ずかしくないの?」

「恥ずかしくないと言えば嘘になるけど、折角パーティーに参加させてもらったんだし、言わなきゃ損かなって」

「さっきの仕返しとか、シロって負けず嫌いね」

「意趣返しのつもりもあったけど、さっき言った事は本心だよ」

「ばか……」


 耳まで真っ赤にして俯くルシアと踊りながら、シロはこれなら舞踏会も悪くないと思っていた。

 踊りが終わった後、恥ずかしさのあまりルシアが逃げ出した事以外、変わった事も無く舞踏会は無事に終わった。







 朝になるとシロはベッドの上で困り果てていた。

 昨夜はその場の雰囲気もあったせいかどうにも調子に乗りすぎてルシアに色々と言いすぎたと反省していた、このままではルシアの顔がまともに見れそうにない。

 あまり意識しすぎないようにしようと決めて、起き上がると部屋を出る。


「おはようございます、シロさん昨夜は楽しめましたか?」

「緊張しすぎていろんな意味で疲れましたよ……――それより南坂さん知らない?」

「私が交代してから部屋を出た人はいないので部屋に戻ってないのでは?」

「ああー、っていうことはお持ち帰りされたのかな?」


 ヒルトンがシロの言葉の意味を訊ねてくるので、シロが南坂とアンリが良い雰囲気だった事を伝えると驚いて声を上げる。


「ええ! アンリ様がカオリさんと!? それマジかよ、その辺詳しく教えてくんね!?」

「しーしー! ヒルトン素が出てるって! あと声でけえ!」

「あ、ああゴホン! 失礼」


 ヒルトンが咳払いをすると声を潜めてシロに聞く。


「で? 今の話って本当なのか? アンリ様は人嫌いで有名なんだぞ?――大きな声では言えないが男色なんじゃないかって噂もあったし……」

「ずっと見てたわけじゃないから言い切れないけど他の人に比べると楽しそうに話してたよ?」

「ま、まあ事の真相がわかるまでは突っつかないほうが良いよな」


 シロがヒルトンの意見に同意すると二人は修練場に移動する。

 南坂もシロが部屋にいなければ修練場にいると分かるはずなので問題はない。



 シロとヒルトンが鍛錬を始めた頃、南坂はルシアの部屋でテーブルに突っ伏して呻いていた。


「う~、もう死んでもいい」

「なに変な事いってるのよカオリは……」

「だってアンリ様と踊れたんだよ? これ以上望むのは贅沢だよー」

「もっと仲良くなろうとするのは普通の事でしょ? アンリ兄様もカオリのそうゆう所が嬉しかったから一緒に居たいって思ったんだろうし」

「や、やっぱり一緒に居たいって思ってくれてるのかな?」


 南坂はルシアの言葉に聞き返しながら勢いよく起き上がる。


「私が分かるわけないでしょ、やっぱそこはアンリ兄様に直接聞いてみるしかないんじゃないかな?」

「聞けたら苦労しないって……それよりルシアの方は昨日なにかあったの?」

「ふぇ!? わ、私?」


 聞かれた瞬間、ルシアは昨夜の事を思い出して顔を赤くする。


「な、なにもないし……」

「本当かな~? その反応はなにかあるな~、誰かカッコいい人でも居たの?」

「いません! もうこの話は終わりですよ!」

「そうやって否定するところが怪しいな~」

「私は習い事に行ってきます! カオリも鍛錬でしょう? さっ行きますよ!」


 ルシアは強引に話を切ると部屋を出て行った、照れて出て行くルシアを可愛いなーと思いながら見送ると南坂も部屋をあとにした。





 シロは一人で素振りをしてた、最初はヒルトンに稽古をつけてもらっていたが他の騎士に呼ばれて席をはずしていた。


「115,116,117……」

「君がシロ殿かい?」

「うおぅ!?」


 いきなり背後から声を掛けられシロは飛び退くとアンリが立っていた。


「やぁ、初めまして私はアンリ・アルテシア、ルシアの兄だ」

「ど、どうも…です」

「稽古の邪魔をしてすまない、実は君に聞きたい事があって来たんだ」

「聞きたい事?」

「君はカオリさんとは仲が良いのだろう?」

「まあ、同じ境遇っていうのもあって他の人よりは良いと思うけど」

「そんな君にカオリさんについて頼みがあるんだ!」

「はい?」


 全然予想していなかった言葉にシロは素っ頓狂な声を上げる。


「昨日のパーティーは君も参加していたろ? そこでカオリさんに会ったんだが…なんというか……」

「どうしたんです?」


 言い辛そうにするアンリにシロが訊ねると観念したように告げる。


「カオリさんは私が求める理想の女性なんです!」

「へ?」

「つまり恋です! 私は彼女を好きになってしまった!」


 アンリは修練場に響き渡る声で愛を叫ぶ、周りに騎士が居たら大騒ぎだろうなとシロは思う。


「そ、それで俺になにを?」

「カオリさんの好きな物を知らないか?」

「う~ん、会ってまだ一週間くらいだから、そういった事は知らないな」

「そうか……」


 肩を落とすアンリを見てシロがふと思い出す。


「あっ、そういえば」

「なにかあるのかい!?」

「南坂さんは筋肉が好きですよ」

「き、筋肉……」


 アンリが固まる、言わなければ良かったとシロは後悔する、確実に引いてらっしゃる。


「鍛えてはいるが自慢できるほどの筋肉は持ち合わせてはいないな……」

「ま、まあ引き締まってれば格好もつきますよ」


 とりあえずフォローをいれておくが保障はできない。

 するとアンリが急に服を脱ぎだした。


「って、なにしてるんですか!?」

「君とカオリさんは近しい人間だ、だから私の身体を見て彼女が認めてくれる筋肉かどうか判断してほしい!」

「俺には筋肉趣味なんてないんでわかんないですって!」

「頼れるのは君しかいない!」


 服を脱ごうとしているアンリを必死で止めようとするシロだがアンリがそれに抵抗していると、ヒルトンが帰ってくる。


「シ、シロが男を連れ込んで裸にひん剥いている!」

「違うっての! 見てないでこの人止めて!」

「お、おう! ってアンリ様!? ……まさか噂は本当だったのか!」

「とりあえずそこはいいから服を着させて! こんなん見られたら、なに噂されるか分かったもんじゃない!」


 ヒルトンの協力を得て、ようやくアンリを落ち着かせるとアンリが謝ってくる。


「すまない、取り乱した……」

「取り乱したってレベルじゃないですよ……完璧に痴態晒してましたよ」

「お、おいシロ! アンリ様になんてことを!」

「いや、いいんだ…カオリさんもそうだったが、そうやって自然に振舞ってくれたほうが私も気が楽だ」

「アンリさんがそう言うならこのままで、いさせてもらいますよ」

「そうか、ありがとう」


 ヒルトンは立場上難しそうだったが善処させてもらうというとアンリは喜ぶ、こういったところは兄妹なんだなとシロは笑うと話を戻す。


「アンリさんさっきの好きな物って話だけど指輪とかどうかな?」

「指輪? ……ああいった貴族が愛用するような物をカオリさんが喜んでくれるかな?」

「南坂さんの趣味はわかんないけど俺達がいた所では、結婚を申し込む時に指輪を贈るって習慣があるんですよ」

「そうなのかい!?」

「まあ婚約指輪としてではなくても気持ちが篭ってれば大丈夫だと思いますよ」

「そうか……よし! ありがとうシロ殿、またなにかあれば相談に乗ってくれるとありがたい」

「いきなり服を脱いだりしなければいいですよ」

「気をつけるよ、それでは失礼するよ」


 そう言ってアンリは修練場を去っていった。


「疲れた……」


 シロが呟くとヒルトンが肩をポンと叩いてくる、こうして騒がしい恋愛相談は幕を閉じた。



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