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Free story  作者: 狐鈴
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迷子

 空に浮かぶのは邪魔をされることな輝く星空と月

 それを木々の隙間から射しこんでくる月の光を浴びながら


「困ったな……」


 と、ため息混じりに呟いたのは

 成瀬(なるせ) (しろ)

 月明かりに照らされる白髪が印象的な、普通の高校生だ。


「参ったなー、鞄はあの子の所に置いてきちゃったし…携帯も圏外だし、そもそも此所で迷うとは思わなかったよ」


 と彼が言う此所とは、彼の学校の通学路にある公園を囲う森の事である、

 そこは子供達にとっては良い遊び場であり庭である。


 それは彼にとっても同様で、家路についていた彼が泣いている子供を見つけ、

 その子供のネコを探しに森に入るのに問題などないはずなのだ


 ──はずなのだが……


「完全に迷った! っていうか、この森こんなに広かったっけ!? どうしようあの子また泣いたりしてないかなぁ!?」


 取り乱しても状況は変わらない。とりあえず森を抜けるのが先決と嘆くのをやめ足を進める。

 そしてようやく森を抜けた彼が見たのは前方に広がる山脈だった。


「山の……中?」


 自分は確かに街の中にある森にいたはずなのに気づけば山の中、となれば動揺もするが、彼がいた街の周りには山といえるものはないので、彼は自分が置かれているこの状況が厄介なことだと理解はできたがその不安を振り払うように頭を横に振り歩きだした。





「よし、ここにしよう」


 と、大きな岩に背中を預け座り込む。

 あれから小一時間ほど歩いてから川を見つけたので喉を潤して休む事にした、野宿には少し肌寒いが凍死の心配はなさそうだ。

 クマとかに襲われたらアウトだが…


「気にしてもしょうがないしなー、歩き疲れたし……はぁ」


 と、何度目かわからないため息をついてから


「ハル心配してるかな……きっと夕飯食べずに待ってるんだろうな。」


 そこまで口にしてから気が重くなる、泣いていると分かってしまうからだ。

 帰らなきゃいけないと逸る気持ちを落ち着けて目を閉じた。





 朝になり筋肉痛による痛みのため気怠そうに立ちあがり、川に沿って山を下りはじめた。

 出発してからしばらく歩くと下流の方に人影が見えた。


「第一街人発見!?」


 嬉しさのあまり、ヒャッホウと言わんばかりに走る。

 人影が自分を見つけて一瞬逃げるような素振りをみせたが、彼のあまりにも余裕のなさそうな顔を見てか止まってくれた。


 近づくにつれて、人影が自分と同い年くらいの女の子だと分かった。

 明るい茶色の髪と同じような色の瞳をした可愛らしい子だった、着ている服は簡素な作りの布服で日本では見ない服だなと考えるもすぐに女の子に目を向けた。


「はあっはぁ……すみません迷ってしまったんですけど此所どこですか?森を歩いていたら山にいて街も近くにないみたいだし、もしかしてこの辺の人ですか?」


 呼吸を整えながらも質問する。

 そんな彼に女の子が少し驚いたような顔をしたが、すぐに安心した顔をして警戒をとき口を開いた。


「お爺さんかと思ったら男の子だったのか、髪の毛真っ白だからわかんなかったよ」


 と、楽しそうに笑う。


「はぁ、お爺さんって……まあよく言われるから別にいいけどさ~」


 ため息をつきながらそう言うと、女の子が


「ごめんなさいね、悪気はないんだけどね。私はレイナって言うのあなたは?」


 悪いとは思っていないらしく簡単に謝ると自分の名を告げると、シロもそれに倣うように名乗る事にする。


「えっと夜戸神高校(やとがみこうこう)の二年──」

「やと……こうこう?」


 そこまで言いかけて、レイナのまるで聞いた事のない、というような反応をみてすぐに言いかえる


「あぁ、そこはやっぱいいや俺は成瀬(なるせ) (しろ)、よろしくレイナさん」


 そう名乗るとレイナが指を顎にあて考えるような仕草をしながら


「なるせ……しろ? 名前が二つついてるなんて珍しいね、もしかして貴族様?」


 なぜに貴族? と疑問に思いながらも違うと答える。


「そうなんだぁ、ん〜とっ」


 そしてまた指を顎にあてて考えてから口を開く


「じゃあシロって呼ぶからシロも私のことレイナって呼びすてていいからね」


 その言葉に了解と頷いてからシロは


「ねぇレイナ、君のいる街ってこの近く?」


 と尋ねてみる。


「町ってほどじゃあないよー? 小さな村だけど皆で暮らしてる。私が言うのもなんだけど暖かい良い村だよ、それにこの辺には魔物もいないから安全だしね」


 ふーん、と話を聞きながら村を想像していたシロだが最後の言葉で思考が止まった。


「ん? まもの?」


 シロがそう言うとレイナが小首を傾げて


「どうかしたの?」と? を浮かべている


(待て待て魔物ってアレか!? RPGとかに出てくるモンスターのことか!? そんなヤバイものがいるのココは?)


 心の中で叫びつつもシロはレイナの方へと視線を向ける。

 そんなシロを見てレイナはなにかを思いつく。


「シロもしかしてお腹すいてるの?」


「……は──っい!?」


 思ってもいなかった問いに遅れながらも答えようとするが言い切る前にレイナに腕を掴まれて森へと連れていかれるシロ。

 レイナに連れられ足早に歩くシロが、片方にシロをもう片方には水を汲み終えた桶を持ちながら歩くレイナをみて、パワフルだなと感心しているうちに森がひらけた。


 そして


「ここがサレット村だよ」


 そう嬉しそうに自分の村を紹介するレイナ、そこには煉瓦のような石材を積んで造られた建物と、

 それらを包むようにして広がる畑があり、どこか懐かしさを感じさせるような村だった。


「シロこっちだよ」


 そう言ってレイナがシロの手を引いて、ひとつの建物に案内してくれた。

 おそらく、ここがレイナの家なのだろう、そう考えながら家にお邪魔させてもらった。

 家の中は、外観から想像がつく広さと造りになっており、物珍しそうに部屋を見ているシロを横目にレイナが食事の準備をし始めた。




「いただきます」


 そういってシロは食事に手をつける。

 シチューのようなスープと穀物類と思われる物で作られたお粥を口に運ぶ。


 昨日から何も食べていないため腹がすいているせいもあってか旨し、というか旨い。

 胃が弱っているであろうことも考慮して、消化の良いものを出してくれる心遣いも含めサイコーです、レイナさん。と心の声


「どう美味しいかな?」


 と、シロが考え事で固まっているので、口に合わなかったのかと心配そうにレイナが尋ねる。


「サイコーです、レイナさん」


 と約一日ぶりの食事に感動していたシロは迂闊にも、心の声の最後の部分を口からこぼしてしまう。

 それを聞いてレイナは一瞬硬直し、すぐに顔を真っ赤にしてしまう。


「な、ななな、なによきゅうに」


 とテンパっているレイナを見て可笑しそうにシロが笑う。

 そんな様子のシロを見てレイナはいじけたように口を尖らせる。


「わ、笑うな!」


 レイナは怒ろうとしたが、シロにつられて笑ってしまい怒る気をなくし、嬉しそうなでいて、どこか懐かしむような表情をしていた。

 そしてひとしきり笑ってからシロがレイナに訊ねる。


「ねえレイナ、この周辺の地図ってあるかな?」

「地図……は、たしか村長が持ってたはずだよ」

「それって見せてもらえないかな?」

「大丈夫だと思うけどシロは地図読めるんだ。――それじゃ借りてくるからちょっと待っててね」

「地形くらいなら分かると思――って、もう行っちゃったか……」


 レイナはこちらの返答を聞かずに行ってしまう。

 話は最後まで聞こうね、と一人でぼやきながらシロはため息をついたあとレイナの帰りを待つことにする。

 そして五分もしないうちに戻ってきたレイナは肩で息をしながら筒状に丸まった紙をシロに手渡す。


「ありがとレイナ、でもそんなに急ぐことないのに」


 シロは感謝しながらも走らせてしまった事に申し訳なく思い、そう口にするとレイナが悲しそうな表情をする。


「だってシロ、辛そうな目をしてたから」


 そういって俯いてしまう。


「せ、責めてる訳じゃなくて、あったばかりなのにご飯もらったり地図借りたりで迷惑かけて悪いなーって思ったりするわけで……」


 焦ってわたわたするシロ。

 その様子をみてレイナがあははと笑いだし、シロがレイナの顔を覗くとレイナがしたり顔でシロを見ていた。


「さっきのお返し、村長の家は近いから走っても疲れる訳ないでしょ?」

「慌てて損した……」


 ぼやくシロにレイナが勝ち誇ったような笑みを浮かべると


「甘いわよ」


 と言い残しレイナは食器を片付け始める。

 ため息をつきながらもシロは地図を丸めている紐をほどき片付いたテーブルの上へと地図を広げて覗きこむ。そして、ざっと全体を見て諦めた……字が読めない、全くといっていいほど理解できるような形状の文字がなかったのだ。シロは英語が得意とかいうことはないが英語で書かれていたのなら少しは読めると思っていたのだが、そんな次元のものではなかった。

 象形文字のように形からある程度読み取れる物でもなく、まったく別の文化として形成された文字なのだとシロは見切りをつけて、周辺の地形だけでも確認する事にした。

 そして地図を見て分かったことが一つある。

 

 それはここが日本ではないという事実だ。


 予想はしていたがやはり堪える、シロはそのまま椅子にもたれ掛かり腕で視界を覆う。

 そんなシロの様子を見ていたレイナが口を開く。


「もしかしてシロ、文字読めないの?」


 レイナの言葉にシロは気を取り直し頷くと、洗い物を中断してシロの隣に来る。


「地図を見たいっていうから文字読めるのかと思ったんだけど、読めないのなら言ってよね」

「あまり期待はしてなかったんだけど、まさかここまで訳の分からない文字だとは思わなくて……」

「魔力が使えないのなら字が読めなくて当たり前なんだし、遠出する時でもなければ地図なんて見たって意味ないでしょ?」


 と、当然のように言うレイナ。

 魔力……つまりは魔法の事だろうか? よくRPGとかにでてくる『ホ○ミ』や『ケア○』的なやつのことなのか? と考えながらもシロは質問を続ける。


「魔法が使えると文字が読めるようになるの?」

「"魔法"じゃなくて"魔力"が扱えるなら、でしょ? 当たり前じゃない」


 いや知らないし……そんな常識でしょ? みたいに言われても知らないものは仕方ないし。

 そこまで考えてからシロは、レイナに自分がこの世界の人間ではないということを説明した。

 レイナは最初、言っている意味が分からないようだったが少し悩む素振りをしてからシロをまじまじと見て納得したように頷いた。


「たしかにシロ、変な格好だしね」

「いやいや、この格好は俺のいたところでは普通ですよ?」


 シロは自分の着ていた制服を指して否定する。


「それにシロが下りてきた山の向こうには人里なんてなかったはずだし」

「そっか、それじゃすぐにレイナに会えたのは運が良かったんだな~」

「そうだね、でもシロがもし本当に"イルティネシア"の住人でないのなら魔力は使えないかもしれないね」

「イルティネシア?」

「私たちが住んでる世界の名前のこと、イルティネシアには3つの大陸があって私たちがいるのはグライア大陸。それで、さっきシロに渡したのはそのグライア大陸の地図だよ」


 レイナの説明を聞いてからシロはもう一度、魔力について聞いてみる。


「それでなんでこの世界の住人じゃなきゃ魔力は使えないの?」

「それは確か、このイルティネシアには神様がいてその神様の加護があって、それを受けている人にしか使えないとかって教わったの、それに魔力は習うより慣れろって感じで教えるのには無理があるの」

「そっかぁ」


 魔法が使えるかもと思って少し喜んでいたシロだが説明を受けてしょぼくれる。


「で、でも魔力が使えない人は多いし、私のほかには村長しか使える人いないよ?」


 シロの様子をみてフォローをいれるレイナ。

 それを聞いてからシロは少し考えてから。


「村長って言うくらいだから、やっぱ物知りだったりする?」

「私よりは色々知ってるはずだよ」

「レイナ、村長のところに案内してほしいんだけど」

「いいけど、どうしたの?」


 訊ねながらも歩き出すレイナ、こちらを気遣ってか遮ることをせずに行動してくれるレイナを見て、まだ会ったばかりなのに良くしてくれる彼女にシロは申し訳なく思いつつ説明する。


「村長ならもしかすると、俺がいた世界に帰る方法を知っているかもしれないと思って」


 成程と頷いてレイナは村長の家への道を歩く。

 家を出て道なりに歩いてすぐに他の家と同じ作りではあるが年季の入った家が目に入った。

 レイナがその家の前で止まるとドアを開けて入っていった。

 どうやらそこが村長の家のようだ、なるほど確かにレイナの家に近いなと思いながらも家に入る。


 家に入ると一人の老婆が座っていて、その人が村長だとシロは理解した。

 村長の座っているテーブルの上には色々な本や紙が積まれている。

 村長はレイナの後に入ってきたシロを見て呟いた。


「レウルかい?」


 誰かと間違えてるのかな? と考えてから違うと答えようとしたらレイナがさきに答える。


「レウル兄さんじゃないよ、おばあちゃん」

「おや、そうかい。ようやく帰ってきたのかと思ったのに……」

「町に行っちゃったから、そんな簡単には帰ってこないよ」


 寂しそうにレイナが答えた。

 村長がすまなそうな顔をしてレイナを見てからシロの方へと顔を向ける。


「それで、お前さんは? 爺さんかと思ったけど、よく見ると若いようだしこの村には何しに来たんだい?」

「俺は成瀬なるせ しろって言います。実は村長さんに聞きたいことがあって来ました」


 そう言ってシロは自分が此処とは違う世界の日本から来たこと、元の世界に戻る方法を知っていたら教えてほしいと伝えた。

 村長は、ふむと考え込んでから、何かを思い出したように語りだした。


「お前さんが言う、元の世界に戻る方法とやらは知らんが、日本という言葉なら昔に聞いたことがあるの」


 意外なところに知っているという反応があり思わず身を乗り出すシロ。


「どこで聞いたんですか?」

「そんな慌てんでもたいした話じゃないよ、ただ昔にお前さんみたいに日本から来たという男がいたというだけだよ」

「その人はどうしてるんです?」

「3年前に亡くなっちまったよ」


 それを聞いてレイナがハッとした顔をする。


「3年前ってもしかして……おばあちゃんの?」

「そう、あたしの旦那だよ」


 それを聞いて口をあけにくい空気にシロは黙ってしまう。

 それを察してか村長が喋りだした。


「あの人が調べてた内容は知らないけど、最初は色々と調べようとしてたね、でも障害が多くて諦めてこの村に居ついたって訳さ。そしてその後に、旦那と恋仲になったあたしは、得体の知れないやつと一緒にいては駄目とか親や村の連中に言われたけど二人で乗り切って結婚したわけさね」


 最後のノロケの部分はさておき、自分のような人間がいることが分かったのは収穫だった。

 今の話を聞いてシロは自分のような人を探しながら帰る方法を探していこうと決めていた。



 こうして成瀬なるせ しろのイルティネシアという異世界での物語が始まろうとしていた。



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