ワンフォーオール
こんにちは、聡人です。ただいま超絶スプリントで、
近所のスーパーに向かってる真っ最中です。
何でこんなことをしてるのか、これから俺が説明するので安心してください。
この理不尽な状況、叫ばずにはいられないんです。
「くっそ、愛のやろう! 今日の夕食にセールの卵使いたいから、
放課後ダッシュでお願いね、なんて無茶苦茶だ!」
愛の家の食卓のために、他人の俺が全速力なんておかしいと思いませんか。
でも、お願いねの時の愛の目。あの恐ろしさにすごんだ俺。
なんて奴隷体質なんだ。
持たざるものは、持つもののために全力奉仕がグローバルスタンダードなのか。
「愚痴をこぼしながらも、言われたとおり
スーパーに向かうお犬様なアッキーであった……」
「うるせえ!」
こうして付き合うお前も、十分わんころだろうがよ。
でも、その親切が今はちょっとうれしいんだよな。仲間がいるって心強い。
「さっさと買って帰るぞ」
「うん」
スーパーに到着、ターゲット発見。
どうやら最後の1パックだったようだ、走った甲斐があったぜ。
この妙な達成感が奴隷根性を助長しているのかもしれないな。
さぁ帰ろうとスーパーを出て、来た道を今度はゆっくり帰ろうとした時。
「あ、アッキー。ちょっと待って……」
「はぁ?! ちょっと、卵はどうしたのよ卵は」
ミッションを達成できなかった俺らに、愛の怒りが爆発している。
今日の愛は一段と怖いな。
穏便に済ませたいが、方法がわからない。ここは正直に言うしかないな。
「ケン坊がよぉ……」
「スーパーの前でね、卵割って泣いてた子にあげちゃった」
「どんだけお人よしなのよ、あんたは!」
そう、そうなんだ。俺が悪いわけじゃないんだ。この男がお人よしだからで、
俺が怒られるいわれなんてないんだ。
「えへへ、照れるにゃあ」
「言っとくけど、褒めてるんじゃないわよ」
お、少し愛の怒りが収まった気がするぞ。これはケン坊にしか出来ない業だな。
なぜか、俺が愛をなだめようとするといつも逆効果なんだよな。
「まったく、有るものでどうにかするしかないじゃない……」
「……ごめんね、愛ちゃん」
「いいわよ、もう……そのかわり、あんたらも夕食の準備手伝いなさいよね」
「合点!」
どうやら許されたみたいだな、しかし今の言葉に聞き捨てならぬ表現が。
「お、おい愛。あんたらって、俺もか?」
「どうして当たり前の事を確認するの? わかったら返事しなさいよ」
「ひっ……サ、サー、イエッサー!」
凄い目で睨まれてしまった。愛の機嫌、直ったんじゃないのか。
結局いつも通りの役回りかよ。