表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境伯令嬢と堕天大公の恋のe’tude  作者: 篠宮 梢
神の御使いが落ちる時
6/7

 実の所、フェルテシオ王国において、シルヴィートの誕生は完全なる予想外の出来事だった。

 それは第二王子と言う存在を結果的にこの世に産み落とした事で、当時の国王の最後の側妃として召し抱えられてしまった女性自身が、失神してしまうほどの予想外だったと言えよう。


 彼女としては己が主の夫君であり、英傑と名高い国王の子を身籠ってしまったと知り得た後、直ちに後宮を退き、誰に知られる事無く、生まれ故郷に帰り、そこで親子二人で暮らして生きていこうと思っていたのだ。


 だが、そんな彼女を止めたのは国王の正妃たるアンジェリーヌだった。

 彼女は己に誠心誠意仕えてくれていた彼女がどうしても手放せないほど気に入っており、また、娘のようにも愛していた。


 だからと言っては何だが、どうせ下手なヘタレ男や浮気な貴族の息子どもに嫁がせるくらいならば、自分の夫と娘(何かが激しく間違ってはいるが、精神的な面で娘)を正式な夫婦にしてしまえばいいと、恐ろしく突飛な計画を企て、後宮で自分に仕えてくれる女官や医師、果ては夫である国王の侍従長までもこの計画に無理矢理引きずり込み、夫と娘を男と女の関係に強制変化させた。


 勝敗は王妃であるアンジェリーヌに軍配が上がった。


 夫も夫だが、自分の“娘”も良く身籠ってくれたものである。それでこそ毎晩身悶えしながらも二人の閨の様子に聞き耳を立て、覗き穴から監視していた甲斐がある。


 あぁ、これであの方にもう一人、御子を産んで差し上げられるのだわ。


 王妃は慈悲深く愛情に溢れた英明な妃と、国民を始め、フェルテシオの周辺各国の王族達に讃えられてはいたが、事実は少しばかり異なっていた。


 自分は夫の心を自分に縛り続ける為に、“娘”ですら道具の様に扱った。

 夫は間違いなくこれから私の心を慮り、私を悲しませないだろう。

 あの子には悪い事をしてしまったかもしれないけれど、あの子が自分の抱く儚い恋心に気付いてしまう前に、どうしても夫である国王と寝所を共にして欲しかった。


 後宮の規則上、王の手が一度ついた女は例え身分が低かろうが、最低は三年外には出られないし、例外が認められなければ嫁げない。


 どんなに汚いと言われようとも自分は夫の妃で、この国の国母になる身分で、王妃。

 きっと夫は、王は、あの子を私と同じ位には愛して大切にしてくれるはず。

 私は私なりに“娘“を支えてあげよう。


 やがてその娘の腹から産まれた子供に、アンジェリーヌは狂喜した。



(なに!?なんなの、この子っ。なんでこんなに可愛いのかしら!!流石はあの方と私の愛する娘の子だわ!!)


 やはり何処か間違っている彼女の感想は、アンジェリーヌが娘と称している女性の目を白黒させた。 


 王妃の口癖は、「可愛いは正義、カワイイは天使、美しいは女神にも通ずる。」と言う独特なモノだった。


 つまり、王妃の言葉を的確に言い表すとこうなる。


《可愛く見た目が美しく、愛らしければ、大概の事は許される。なお、性格や振る舞いを弁えていられれば、言う事無し。》


 自分が産んだ息子があんな風に育ってしまったせいか(無表情、仕事人間、愛情希薄)、彼女は自分が産んだ訳でもないのに、シルヴィートを愛した。


 それはもう、《孫娘》に接する様に。


 その愛おしくて愛らしくて、可愛らしくて大切で仕方がない《孫娘》であるシルヴィートが、最近妙に生き生きと輝いている。


 少し前ならドレスを着せただけで嫌そうに顔を顰めていたのに、最近はにこにことしている。


 お茶やお菓子を出せばお菓子を貰って帰ってくれる。


 それを素直に疑問に思った彼女は《孫娘》の生母であり自分の”娘”である王の側妃に与えられた宮へと急襲を掛け、シルヴィートが変わった理由を問い質した。


 そして返ってきた答えは・・・――。


『あの子が変わった理由ですか?きっと新しくお友達になった人達と一緒にいるのが楽しいからではないでしょうか。私が王妃様と陛下と一緒にいる様に。』


 ――きっと嬉しくて、楽しくて仕方がないのですわ。



 そう微笑み、突如押しかけてきた自分に、自ら入れたお茶を出してくれた“娘”に、王妃であるアンジェリーヌは思わずポロリと涙を一筋、流していた。


 それは自分が憎まれていないことに安堵したと言う、やはり身勝手な感情から。


「そう。お友達が出来たのね。ならお祝いしなきゃね」


『陛下もそう仰せになられましたが、あの子にハッキリとフラれていましたわ。』


「まぁ。因みにあの子はなんて?」


 クスクスとその時の事を思い出しているだろう年若い側妃を【観察】しながら、探りを入れる。


『確か「へいかはおうたいしさまといっしょにいてさしあげてください。ボクにはははうえがいますから。おくりものはいまはいりません」でした。』


 通りで最近落ち込んでた訳ね。

 あの方は意外にも子煩悩だから。


 結局その日、王妃であるアンジェリーヌは公務以外の時間は、夫の側妃の宮で過ごしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ