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頂き物小説の続きがたまりましたので、第二部として更新☆
大公さまの子ども時代がメインです(^^)
――何だって?私の幼少の頃の話が聞きたいって?
君達もモノ好きだね。
良いよ。愛しい彼女が目を覚ますまで、少しだけ君達の暇潰しに付き合ってあげよう。
その年のまだ肌寒さが残る春の初め、フェルテシオ王国に待望の第二王子が生まれ、王子の生母は国王妃付きから正式に第二妃の位に引き上げられ、誰もが王子の世継を喜んだと言われていた。
が、
「父上は何を考えてらっしゃるのだか。年甲斐もなく、母上の侍女に手を出すなどと」
一人だけそれを良く思っていない人物がいた。――それは後に激しい弟愛を自覚する後世の賢王なのだが、それはまだ一欠けらも片鱗はない。――
その人物の名はルードヴィッフィ・アインセルレイン、当時20歳の若き青年であり、将来有望な第一王太子である。
戦乱の世の中ならいざ知らず、今は戦もない平和な国であるのに、どうしてわざわざ年若い女を孕ませたのかが、理解出来なかったが、それは次代の国王たる者の鍛えた精神で表には出さなかったが、自分から接する事はまずしなかった。
そのせいか、彼は後に後悔する事となるのだが、まぁ、今は関係ないので置いておくとして。
待ちに待った第二王子は先祖返りなのか何なのか、与えられた名前の通りにやけに美しく育ち、成長し、物心つく頃には愛らしい微笑みと振る舞いで【フェルテシオの至宝】とまで囁かれるようになっていた。
彼が微笑めば、どんな老獪なタヌキや女狐も羞恥に悶え、大人しくなり、次には誘拐を企ませてしまう様な非情に危険な色香を彼はその頃から持ち合わせていた。
故にそんな彼には友人が少なく、遊び相手は専ら本当は自分に似た平凡な娘が欲しかった王妃様や、美しいモノが基本大好きな侍女や女官たちで、「着せ替えごっこ」が普通だったのだ。
無論、着せかえられる服は、たっぷりのレースや一流の職人たちによって緻密な刺繍が
施されたドレスで、持たされた物は、当時の貴族や一部の裕福な者たちの令嬢達の垂涎の品の数々。
例えば、ふわふわとした手触りに、真っ黒の石が理知的で愛らしいクマのぬいぐるみや、瞳がルビーのウサギのぬいぐるみ。
例えば、人の形を模り、そのまま縮小したお姫様の様な人形。
「まぁまぁまぁ、あらあらあら、本当に可愛いわねぇ~、シルヴィーは。」
貴女達もそう思うでしょと?と、王妃に仕えている侍女や女官たちは声もなく歓喜しながらも頷いていたらしい。
だが当の好き勝手に己の身体を弄ばれていた第二王子こと後のルシフェル大公(又の名を腹黒の大公、堕天大公でも可)となる殿下は、
「ありがとう、うれしい、コレきれいだね?ボク、カワイイ?」
と言いながら。
(チッ、毎日毎日何が愉快でこんなモン着なきゃなんねーンだよ、クソがッ)
実は全く嬉しいどころか、忌々しく思っていたのだった。それなのに精一杯彼女達に媚を売っていたのは、自分を無益で面倒で仕方のない世継争いに巻き込んで欲しくなかったからだ。
彼からすれば王位など、王都の外れにたち並ぶ屋台より魅力がなかった。
王位など、あの勤勉実直で面白みのない、能面な異母兄が継げばいいのだと思っている。
なのに、良からぬ企てを立てるウジ虫どもはいつでもいるワケで・・・。
ワッサ、ワッサ、と、フリルと何重にも重なったドレープやリボンで飾り立てられたドレスで自室に向かっていた愛らしい幼女にしか思えないし、見えなかった少年は、自分に与えられている宮に戻る途中で、一人の少年を見かけた。
見つけた少年は、あの仕事バカの兄の最年少の側近であり、騎士見習いの、確か今は零落した男爵家の三男のジョエル(後の妻の父で自身の義父となるジョン)、11歳だった。
何故彼はここにいるのだろう。
確か今、あの仕事人間の異母兄は軍の馬術場にて騎乗訓練の最中であるはずなのに・・・。
疑問に思いつつも、とりあえずあの忌々しい魔女どもから逃げだせた事で安堵していた幼き王子は、目の前で音も立てずに樹から飛び降りた異母兄の側近見習いの身のこなしに、自然と魅了されていた。
まるで異国にしかいない獰猛で俊敏な肉食動物の様な、一切隙も無ければ無駄もない動きだった。
自分も彼の様になりたいと思った時、幼き美に恵まれ、祝福された王子は、自然と彼の後を追い、ドレス姿のまま駆け出していた。