01.亡くすということ。
夫が静かに息を引き取った。
まだ若く精悍な死顔は、長年自身を蝕む病と戦っていたとは思えないほど、穏やかだ。
結婚生活は1年と3ヶ月。
短い間だったけど、命の期限が切れるまで、互いに心を尽くして慈しんだ。
「ーーそんなに穏やかな顔されたら、泣くに泣けないよ。」
そっと彼の頬を撫でて、小さく呟く。
数時間前に彼と交わした3つの約束を思い返して、空っぽの胸に大きく息を吸い込んだ。
※
日は浅くても、妻であることには変わりが無い。心がどんなに全てを拒絶しようと、私にしか出来ないことがある。
会社や、親戚、友人などに彼の死を連絡し、葬儀の準備に明け暮れた。
悲しみがジワジワと湧いたのは、遺骨と一緒に2人で過ごしたマンションに帰ってきた時だった。
料理が上手で、美味しいと褒めると、可愛い笑顔で良かったと微笑んでいた彼。
ソファでうたた寝している私にそっと毛布を掛け、髪を撫でて、本当は寝ていないと分かっていても、毎回騙されてくれていた彼。
思い出せるのは、してもらったことばかり。
2人の写真も、ペアのマグカップも、クイーンサイズのベッドも、ここで2人が共に生きてきたこと、そして、もう彼がどこにも居ないことを静かに告げる。
眼の奥が熱くなった。
だけど、私は泣かないのだ。
ーーいや、泣けないのだ。