「オレンジの宝物」
「どうぞ。」
りこちゃんはオレンジ味のガムを私の手のひらに乗せて、にっこり笑った。
新しいクラスになって初めてこの学校の教室に入った時、声を掛けてくれたのがりこちゃんだった。
またひとりぼっちじゃないかって不安でいっぱいだったけど、
りこちゃんの屈託のない人懐っこい笑顔を見たら、パッと緊張がほどけた。
りこちゃんとはそんなに仲良しなわけじゃない。
挨拶くらいはするけれど、一緒にお弁当を食べたり、休み時間のたびに噂話に花を咲かせたり、
そういう関係じゃない。
私は仲良くなりたくて、もっと深いお話なんかもしてみたくて…。
チャンスがある度に話しかけてはみるものの、さわりとすり抜けてしまう風みたいに、
心地いい空気を残して去って行く。
このまま卒業して、離れ離れになったら、もう、りこちゃんを思い出させてくれるものは私の頭の中の記憶だけになってしまう。
りこちゃんと私を繋ぐもの何て、きっと、何もない…。
大事そうにオレンジのガムの包み紙を折りたたんで、机の隅にそっとしまった。