ep.1 ロマン
中央大陸ミルノ国
この大陸でも小さい部類に入る国。この世界では、一定以上の土地を持ち、治める者がいればそこは国となる。そんな小さな国の小さな宿屋で、1人の男が悩み続けていた。
「そろそろ金尽きるなこりゃ」
この宿の宿泊費もここ数日は滞納してるし、なんなら今日は朝食出なかったし。
そんな事を考えながらベットに横たわり考え込んでいると、ドアを叩く音が聞こえた。
「ヴェールさん!!ヴェールさん!!お願いがあるんです!!!」
この声は、この宿の看板娘のリンちゃん。なんだろうなぁーー、お金払ってってことかな。追い出されんのかなぁ。今追い出されたらちょっとヤバいんだけどなぁ。
ちょっと悩んだ末、俺はもう少しだけ待ってもらう様に頼むことに決めた。
そうして覚悟を決め扉を開けた。
「魔族を倒してくれませんか!!」
と彼女が言うのと同時に、俺は事前に決めていた通り渾身の土下座を繰り出した。
「ん?」
俺は、一体この娘は何を言ったのか一瞬分からなかった。
「なっなにしてるんですか。土下座なんてやめてください!!」
彼女は俺の惨めな格好に焦ったのか、土下座を止める様促した。俺は落ち着いたところで、彼女にもう一度説明してもらうことにした。
「さっきなんて言ったの?魔族を倒してって聞こえたような気がしたんだけど」
「そうです!!ヴェールさんにしかお願いできないことなんです」
うーーん。全く話が見えない。
「なんで俺にしかお願いできないの?」
「だってヴェールさんって魔法使いの方ですよね?この宿に初めて来た日杖を持ってるとこ見ました!魔法使いの方は珍しいから印象に残ってたんです」
そこまで見つかってるなら、もう隠す意味もないか。
「たしかに自分は魔法使いだ。でも、そういう依頼は普通冒険者ギルドとか騎士団に出すのが一般的だと思うんだけど...」
「そうなんですけど...えっ..と」
歯切れが悪い。なにか、問題があるのだろうか。
「もしかして、この国の騎士や冒険者じゃ倒せない魔物。もしかして魔族かな?」
まぁ、この辺の地域はヘルシュワーツからも遠い地域だし、魔族はめったに見かけないのだろう。
ヘルシュワーツは、この世界で魔族の棲家と呼ばれている地域。中央大陸よりも北東に位置する大陸の北部にあり、ここでは強力な魔族が多く生息している。しかし何故かそこには謎の結界が張ってあり、魔族が出てくるのを食い止めている。たが全てを防ぎれる訳ではないため、そこから出てきた魔族は人類、亜人族の国に大きな被害をもたらしている。
「でっ、君はその魔族を見たんだね?」
「はい」
魔族は基本的に魔物よりも強い。魔力量も魔物より多く保有し、人類が解明している魔法のはるか高みの魔法を行使する。だからこそ、魔物は冒険者でも勝てるが、魔族ともなれば一国の騎士団を投入する規模である。だがこの国は、それに見合うだけの戦力を保有していない。
そもそもの人口の少なさや、北に大国家があることで、基本的にそこで魔族が食い止められるためこの国では魔物に対抗できるだけの騎士は常駐していない。
「魔族討伐に騎士を使えば、この国は多くの騎士を失うことになる。おそらく、冒険者の中にも魔族を倒せるほどの実力の持ち主はいないんでしょう?」
だとしてもおかしいな。
「なんで君は、僕に頼んできたの?やっぱり不可解だよ。いくら魔法使いとはいえ、普通だったらとりあえずギルドや国に依頼するものだ」
そう、たとて知り合いが魔法使いだとしても初めから自分に頼んでくるのはどう考えてもおかしい。そもそも、この世界で魔法使いの立場はそこまで特別視するほどのものではない。人によっては、死ねと言われる様なものだ。
すると彼女は重そうな口を開けて
「だっておにいさん、強いですよね?」
「なんでそう思うの?」
「見えるから。」
.....。そういうことね
「分かった!引き受けよう。でももちろんタダじゃ厳しい。そうだなーー...ここ数日滞納してる宿泊費面倒見てくれない?」
「わかった!それでいいよ!ありがとうお兄さん。宿泊費は私からお母さんに言っといてあげる」
さて、帰ってきた時に女将さんの怒号を聞かなければいいけど。
そうして彼女に頼まれた魔族討伐のため、数週間ぶりに門をくぐることになった。
この国を出ると、周りは平原と森に囲まれている。彼女が魔族を見かけたのは、東に広がる高原の村でだそうだ。買い出しに向かった時、村が襲われているのを見かけたそうだ。それがさっきの出来事らしいから、生き残りがいればいいが。
距離に換算すれば村までは数キロ。このまま誰も気づかなければ、ミルノまで来ていたかもしれない。この国は彼女に救われたかもな。
走り始めて20分後。着いた村は全ての家が燃やされ、初見では生き残った人は見当たらなかった。そして、その村の中心に強大な魔力を感じる。
その魔力の塊が、自分の方へ向かってくる。
「いるのだろう?魔法使いと呼ばれる人間が」
俺の数メートル先に現れた魔族は、ぱっと見は人間と変わらない顔つきと身体。来ている服も、どこかの貴族が着ていそうだ。
「なんで俺が魔法使いだって分かったんだ?」
「普通の人間は魔力を統制することはできていない。無意識に流れる魔力を無意識に使っているだけだ。だが、お前は魔力の流れを操っている。それを魔族の私が分からない訳ないだろう」
「そこまで評価してもらえるなんて光栄だね」
「私は褒めているわけではない。人間が魔法を使い初めて数年だが、お前たちが程度の低い魔法を使っていることに対して私は憤っているだけだ」
程度の低いねぇ。
「まぁたしかに、お前たち魔族が使う魔法と比べれば人間の使う魔法は火遊び程度に感じるだろうな。だけど、そこまで舐めてると痛い目を見る..」
俺がそう言いかけると魔族は魔法を放った。
「ほう...よく防いだな今の魔法を。今まで殺してきた魔法使いは今の一撃で終わりだったのだが」
今こいつが使ったのは「ファー・ドューシオ」。炎を矢に変えて放つ魔法。その威力は大木数本を貫通するほど。
「まぁ、俺を殺す気満々だったからな。防御魔法で防いだだけだよ」
「なるほど...その防御魔法というのは我々魔族が使うものではないな。お前たち人間が独自に生み出した魔法か?」
防御魔法は、人類が魔族への対抗手段として魔族の使う防御系の魔法を応用し完成させたもの。純粋に守りに特化しているため、一つの魔法陣の中に衝撃吸収や魔力を硬質化するなどのシンプルな効果を詰め込んでいる。
「そうかそうか。人類の魔法技術は独自開発の域までは到達しているか。だが、それ以上にお前の反射神経は異常だ。たとえ私の殺意を察しても、防げるかどうかは別問題。構築する前に私の矢が貫くはずだ」
「だから俺は、お前と話している途中から防御魔法の構築を始めていた。防御魔法は、衝撃吸収の効果を取り除き魔力硬質に魔力を多く割けば術式構築も簡単になる」
魔法は基礎が完成されていれば、付与する効果は自由に選択できる。というより、そこが魔法使いの腕の見せ所だ。
防御魔法の基礎は魔力を硬質化し展開する。これはとある魔族が使う結界魔法を応用している。この効果を生み出すのに必要なのは魔法文字18字で完成する魔法言語。魔法ではこの魔法言語が長いほど発動に必要な最低魔力と発動にかかる時間が増える。
そして、防御魔法はこの効果さえ組み込めれば、他に付与する効果は定められていない。今回は他の効果を全て取り除き、魔力を普段よりも多く硬質化に割いたことで炎の矢を防いだ。
「なるほど!敵を警戒し事前に構築をするのはいい心掛けだ。だが、分かっていながらも防げないのもあるのだよ」
「ファー・ドューシオ(貫け炎の矢)」
炎の矢が今度は連続で向かってくる。俺は、防御魔法の連続構築で防ぐしかなかった。
「へ・ルース(風の球)」
隙を見て放った風を圧縮して放つ魔法は、簡単に奴の炎の矢に相殺された。
「よく今の隙間に反撃したな。タイミングを見誤えば、炎の矢に貫かれるというのに」
「このままだとジリ貧だからな。お前と俺では魔力に差がありすぎる」
「そこまで分かっていて諦めないのは何故だ?」
1分は経っただろうか。あいつの魔力は途切れる気配なく、炎の矢は止まることなく降り注いでいる。
「そろそろ諦める...」
奴がそう言いかけた時、俺の放った魔法は心臓を貫いた。
「それ..は俺.の魔法。な..ぜ?」
奴は起こっている状況に対して理解できていないようだった。
「俺は、この魔法を見たのは初めてじゃない。前回は分析できなかったけど、今回はお前が大量に撃ってくれたおかげで陣の構成まで理解できた」
「そんなことできるはずが....。絶え間ない炎の矢の中で私の魔法を防ぎながら分析したというのか?できたとしても、私の身体はその辺の魔法で傷がつくものではない」
「そうだな。だけど、そこが魔法使いの腕の見せ所だろ?炎の温度や方向・角度などは最低限だけ付与し、付与効果は速度に全振りした。基礎効果の炎の矢にも削った分の魔力を割いた。あとはさっきの風魔法で相殺されるタイミングは分かった。それよりも数コンマ早く撃てばいいだけだ」
「そんな応用...覚えたばかりの魔法で、ましてや人間ができるわけ...」
「俺たち人間が魔法を使えるようになったのは、人間の魔法に対するロマンがあったからだ!空を飛びたい、物を動かしたい、炎を出したい...下着の色を知りたい。そんな人間の魔法に対するロマンが人間に魔法の力を与えた。俺は、それがどんな魔法にも溢れているだけだ」
俺がそう言うと魔族は不思議と納得したような顔になり
「リューシス。私の名前だ。最初で最後の敗北を私に教えてくれたお前に感謝す..る」
そう言いながらリューシスの身体は崩れて消えていった。
俺は空を見上げながら
「あの娘、ちゃんと女将さんに言ってくれたかな?」
そんなことを呟きながら帰路についた。




