第5話:無職ギャル、騎士邸で目覚める 《ルート状態:一時保護/居場所:騎士邸/睡眠効率:92%/寝具補正:+32%》
朝。
――鳥の声がする。
(……え、なにこの自然音アラーム)
ゆっくりと瞼を開けると、視界いっぱいに白い天蓋。
柔らかい光がカーテン越しに差し込んでいた。
「……あ、ここ異世界だった」
『おはようございます、アヤカさん。
睡眠ログを解析しました』
「え、なにそれ急に」
『昨夜の睡眠は――
深い睡眠:2時間12分
うとうと:1時間48分
ぐっすり:4時間6分』
「待って待って。
アタシの睡眠、可視化されてるんだけど!?」
『総合評価:
とてもよい眠りです』
「なにそれ!
起きた瞬間に褒められるの最高なんだけど!」
『睡眠効率は92%。
高級寝具による補正が確認されました』
「ベッド、SSRだったか……」
満足しきった顔で起き上がり、軽く伸びをする。
『高品質寝具です。
睡眠効率は通常比で約32%向上しています』
「なにそれ。
もう一生ここで寝たい」
ベッドから起き上がり、窓の外を見る。
庭は手入れが行き届き、朝露に濡れてきらきらしていた。
(騎士んち、やっぱすごいな……)
身支度を整え、案内された食堂へ向かう。
長いテーブル。
温かいスープ。
焼きたてのパン。
(ホテルの朝食じゃん……)
すでに席についていたラインハルトが、軽く頭を下げる。
「……おはようございます、セレナ殿」
「おはよーございます!」
「……よく眠れましたか」
「爆睡! 秒で意識飛んだ!」
ラインハルトは、少しだけ安堵したように視線を落とす。
数秒の沈黙。
やがて、彼が口を開いた。
「……それで。
これから、どうなさるおつもりですか」
来た。
(朝イチ進路相談)
「うーん……」
アヤカはスープをひと口飲んでから、あっけらかんと答えた。
「とりま、バイトでもするかな!」
「………………」
数秒の沈黙。
「……ばいと、とは」
『補足説明を行います』
ジョミりんが即座に割り込む。
『“バイト”とは、
短時間労働によって対価を得る雇用形態の俗称です』
「そそ!
前の世界ではクレープ屋でやってたんだよね〜」
「……くれーぷ」
未知の単語が増えた。
「住み込みとかあると最高なんだけどな〜
家もないし!」
ラインハルトの眉間に、じわりと皺が寄る。
「……待ってください。
なぜ“働く”前提なのですか」
「え?」
ラインハルトの眉が、わずかに寄る。
「……セレナ殿は、貴族です。
そのようなことは――」
「あー、今それ言われるとさ」
パンをちぎりながら、軽く肩をすくめる。
「実家から追い出されたお陰で、
今、アタシの肩書き、無職なんだよね!」
『身分的安定度:極めて低下しています』
「追い打ちやめてー!!」
ラインハルトは、言葉を失ったまま黙り込む。
(……冗談ではない)
(だが、軽すぎる)
目の前の少女は、
昨夜と同じく、未来を“悲劇”として見ていない。
「……行く当てはあるのですか?」
「今のところゼロ!
でも、意外とどうにかなるっしょ!」
その楽観に、
騎士の胸がざわつく。
(放り出すわけにはいかない)
(だが、囲う理由もない)
沈黙が流れる。
そのとき――
『提案があります』
ジョミりんが、淡々と割り込んだ。
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