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運に左右される魔法でも無双したいんだが  作者: シガ
0章 転移

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第5話 最悪の再開

森をさまよいつつ今後のあれこれを考えていると、いつの間にか周囲がどんどん暗くなっていることに気づいた。おや、ひょっとしてもうすぐ夜?そんなまさか……僕は時計が無ければ正確な時間把握ができない現代人。スマホが無いだけでこんなに時間を意識しなくなるものなのかと衝撃を受ける。確か魔族領域っていうんだっけ、ここ。えっじゃあ僕今かなりまずい状況なんじゃ……。


周囲には木々に紛れて岩肌が見え始めており、近くには川が流れているようだ。そして遠くからは獣の遠吠えのようなものが聞こえる。怖い……。とりあえずここで夜を明かすのは危険すぎる。何処かに隠れられるところがあればいいんだけど……そんなタイミングよく洞窟とか無いよなぁ……。


あった。滅茶苦茶タイミングよく見つけちゃった。大きな岩壁がありその表面にはポカンと穴が空いていた。入り口も人間一人がぎりぎり通れるぐらいだから大きな魔物とかが居つくことはなさそうだな。よし入ろう。警戒しながらも薄暗い中へ足を進めていくと、入り口と比べて中は広く、天井もかなり高い。これなら一晩過ごすのにもピッタリだ。


しかし油断してはならない。こんな場所に魔物がいない保証はない。周囲を見渡し耳を澄ませると……聞こえた。微かだけど呼吸音が聞こえる。その方へ目を向けると、焚き火?焚き火がある!ということは人がいるのか?そろりそろりと近づくと焚き火の近くで寝ている少女の姿があった。肌は白く、髪は白と黒が入り混じっており、年齢は十歳前後ぐらい。服装は十字架やら鎖などがアクセントに入っている奇抜なデザイン。身長は僕と同じぐらいで、近くにはフード付きの黒マントが置かれている。おっとこのフードは.....今日町で会ったあの盗賊と同じやつではないか?


近くにある杖も、彼女の体格も合わせてあの盗賊にそっくりだ。というか同一人物だろう。こんな無防備に眠る姿を見せられているせいだろうか。ちょっと意地悪をしたくなった僕は彼女の背後にゆっくり回り込み、背中を軽く蹴った。蹴ったといっても軽く脛を当てる程度である。これぐらいする権利あるだろう。何せ僕はこの女に脅され金貨を奪われかけた被害者なのだから。


蹴ったところで僕はスッキリしたのでこの場所を離れようと出口へ戻ろうとしたその時、僕の脇腹に鈍器で殴られたかのような凄まじい衝撃が走った。痛い!骨が折れたんじゃないだろうかと思うぐらい。鋭すぎる痛み。脇腹を抑えながら背後を見ると、寝ていたはずの少女が鋭く冷たい目でこちらを見下ろしている。原因を探るまでもなく、あの少女がなぜか起きて僕にハイキックを食らわせていたのだ。


「....いやぁ君いい度胸してるね。まさかこの僕が寝てる最中に蹴ってくるなんて……」

「い、痛い痛い......僕こんな強く蹴ってなかったでしょ」

「うるさい!とにかく謝れ!土下座して詫びろボケが、恥ずかしくないのか女の子にこんなコスい真似してさぁ!」

「はい……すみませんでした」


とりあえずここは謝っておくしかない。下手に逆らえば殺されるかもしれないし。大人しく土下座をしておく。いやぁそれにしても魔族なんかより嫌な奴に遭遇しちゃったなぁ。なんでここにコイツが一人で居るのかは不明だけどさ……。


「まったく……まぁ僕の背中に足をぶつける程度でよかったよ。もっと酷いことをしようもんなら……」


「……いや~今日もたんまりと稼がせて貰いましたな~!」

「大漁!大漁だ!」

「ガウ!」


そんな時洞窟の外から複数の男の声と狼のような鳴き声が聞こえてきた。どうやらこの洞窟に入って来るらしい。何者だろうか。少女と僕は互いに目を合わせ、焚き火から離れて岩陰に隠れる。男たちが松明を持って入ってきたのを確認した途端に少女は僕の頬を抓り


「喋るなよ」

「……言われなくても静かにしてるよ」


喋らずジッとしていると2つの人影がランタンを持ちながら中を照らしているのが見えた。一人は小柄で、もう一人はシルエットからして人間ではないな。尻尾が生えているし間違いなく魔族ってやつだ。二人組は僕らが隠れている位置に一歩一歩近づきながら話し始める。狼の姿はない。どこへ行った?


「今日は上手くいったなぁ。しかも途中、ゾンビが急にデカくなってみんな逃げて行っちゃったけど、あれお前がやったのか?」

「違う。あんなの俺には到底出来ねぇ。多分どっかのアホ冒険者が魔法を間違えたんだろ。まぁおかげで俺らは物質をいつも以上に奪えたわけだし感謝しねぇとな」

「違いねぇ!」


ゲラゲラと笑いながら語る彼らの話を聞いて僕は今日起こったアヴァロニアでの騒動が彼らの手によって引き起こされたことを理解した。そしてこのまま放って置けばいずれ他の街も同じように襲われるかもしれない。見過ごしたくはない。だけど戦闘能力が不安定な僕じゃ太刀打ちできないだろう。となれば隣にいる奴頼みか。


「……ねぇ」


僕は彼女の服の袖を引っ張り尋ねようとしたがバッと振り払われ拒絶された。ちきしょう、どうやら彼女は僕に協力するつもりはないらしい。


「ん?ここに焚火があるぞ……俺たちのじゃないよな、これ」

「ふむ……しかもまだほのかに温かいな。ついさっきまで我々以外の魔族か....人間がいたということになるなぁ~」


しまった!気づかれたか!?冷や汗をダラダラと流しながら少女の様子を見てみると彼女は落ち着き払っていて特に焦っている様子はない。というか面倒くさいことが起きたって顔だ。


「おいピクルス、フェン太をアイテムボックスから出せ」

「へーい……追加の仕事だ!匂いを嗅いで索敵しろ!」


アイテムボックスってのはなんだ?異空間から物を取り出せるやつか?というかフェン太ってフェンリルのことか?僕はこっそり様子を覗き見る。ランタンを持った緑色の魔物...いやゴブリンは反対の手から魔術でキューブのようなものを手に作り出す。するとそれはまるで映画フィルムみたいにグルグルと回転し始め穴が開き……。


「ガルル……!」


出てきたのは灰色の毛並みを持つ巨大な狼型の魔物。体高だけでも2mぐらいはありそう。肉をくわえており、出てきてからもバリバリと食べている。なんと恐ろしい魔物だろうか。


「おいおいコイツまた俺の空間でかっぱらった肉勝手に食いやがったのか」

「いいじゃねぇか別に、食料は二の次、俺達が求めてるのは装備薬草金銭だからなぁ。まっ、とりあえずフェン太頼んだぜ」


ゴブリンに声をかけられたフェンリルは大きく吠えると鼻をクンクンさせながら匂いの痕跡を探す。こっちに来るのは時間の問題だな。どうする?隣にいる彼女の顔を伺ってみるも一向に動く気配がない。本当に何もしない気か?そんなことしている間にもフェンリルはとうとう僕たちがいる方向へ向かってくる。どうする!?どうする!?!?!僕はもう覗き見るのをやめ、口を抑えて縮こまる。体長2mの狼なんてどう戦えばいいんだ!?そしてついにフェンリルが岩の上から顔を出し、僕たちを視認した瞬間……


「キャイン!!」


突如悲鳴のような鳴き声が響き渡る。隣を見るとあの少女が尖らせた岩をフェンリルの目玉に突き刺しているではないか。いつあんなの準備してたんだ?あっという間の出来事に唖然とするしかなかったけど、すぐに我に返ってその場から離れる。


「アース・レジク。ごめんねぇ~可哀想だと思うけどさぁ、僕を見つけた自分の嗅覚を呪ってね」


彼女はそう叫びながら隠れ蓑にしていた岩を魔術でゴブリンとリザードマンへ飛ばし、続けて地面を削り作った多数の岩を高速で射出する。


「ピクルス!」

「よくもフェン太を!!」


ピクルスと呼ばれるゴブリンはリザードマンの前に立ち、アイテムボックスを展開してその攻撃を防いだ。なるほど!アイテムボックスってのは使い方によっては身を守る為の鎧としても機能するのか!そんなことに感心している場合ではない。かなり厄介な戦法だ。


「おいリザルド!ゾンビは!?」

「ダメだ....ここに素体となる死体が無い。とってきたやつは襲撃で使い果たした……!出せない!」

「……じゃあこれをフェン太に!」


ピクルスはアイテムボックスから液体の入った瓶を取り出しリザルドに渡す。見た感じ薬草とかを煮詰めたポーションの一種だと思うけど……だとしたらまずいな。フェンリルにそれを飲ませたら僕たちに勝ち目がなくなる。少女がゴブリンを止まぬ石の雨で止めているのなら、あのリザードマンは俺がやらなくては。


「クソッ……ボッカス・ポーカス!」


魔法陣から出てきたのは、金色の剣。柄の部分と鍔に宝石が埋め込まれていることから高価な物であることがわかる。持ってみたら意外と軽い。これなら振れる.....戦える……。とにかくアイツがフェンリルの元へ行く前に止めなきゃならない。駆けていく奴の横から体当たりして止める。体幹が弱いのかなんなのかわからないが思いのほか吹き飛び地面を転がった。だけど僕も尻もちをついてしまい慌てて立ち上がる。


「邪魔すんじゃねぇ!お前みてぇな雑魚に何ができるってんだ!」

「ぐぅ……お前もだろ強がってんじゃねぇぞ!あれだろ?魔術が使えなきゃ大したことができない。違うか?」

「くっ……調子に乗るなよ人間め!例えゾンビが召喚できなくとも俺はリザードマン、魔族の中では上位種族……お前らみたいなのとは訳が違うんだよ!」


ブンと横に杖を振ってくるのに対し僕は剣でそれを受け止める。重い!と思ったその瞬間、剣先が一瞬にして吹っ飛び、少女の方へと飛んでいってしまう。


「うわっ!?……危ないじゃないか何するんだ!」

「なっ……折れた!?」


少女は身を翻して躱すが間髪入れず飛ばしていたピクルスに対するアース・レジクがこれで止んでしまった。まずいまずいまずい……!リザードマンの奴はさらに杖を縦に振ってこちらを攻撃、剣の残った部分で受け止めるが刃がほぼ無くなった今となってはただの棒きれ同然であり意味を成さないし、力が弱いので押し合いに負け体制を崩してしまう。ならばもう一度魔法を。


「ボッカス・ポーカス!」


その言葉と共に現れたのは絵。水彩画で描かれた動物が宙に浮かび上がる様子を描いた摩訶不思議な絵だ。何の役に立つんだコレ……。


「なんだこれは?こんなもので俺の相手になるとでも?」


呆れたような表情をするリザードマンは懐からナイフを取り出し僕へヤクザの鉄砲玉みたいに飛び込んでくる。すぐさま水彩画を持ち、一か八かナイフを受け止める態勢に入る。その判断を瞬時に行ったおかげかなんとか突進を受け止めることができた。


「ええっ!?」


ナイフは絵のキャンバスとぶつかり火花を散らしてペキリと折れた。どういう原理でそうなったんだ?絵の裏に鉄板が入っているのか?それとも……。よくわからないが好都合だ。この絵で殴打すればきっと相手を倒せる!僕はそれを武器に見立てて両手で握るとフルスイング。奴の脳天クリーンヒット。


「がっ……!」


鈍い音がした直後彼はフラつきよろめいてぶっ倒れた。心拍が高まる。冷や汗が流れ出る。アドレナリンでブレーキがマヒしてるからか、容赦なくもう一撃入れようとするとこちらにさっきまで悶えていたフェンリルが突進してきた。第六感が働いてギリギリのところで躱し、フェンリルはそのまま洞窟の壁に激突。平衡感覚を失ったのか倒れた後、死にかけの虫みたいに足を藻掻く。非情に見ていて苦しい光景。可哀想すぎて直視できない。目を背けゴブリンと少女の戦闘が行われている方に顔を向けた。


「え?」


信じられない光景だった。僕がその時目撃したのは、ゴブリンの一閃によって壁ごと横に真っ二つにされる少女の姿だった。ま、負けたとでもいうのか?さっきまで優勢だったのに?暗くてよく見えないから、きっと幻覚にちがいない.....はず。

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