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運に左右される魔法でも無双したいんだが  作者: シガ
1章 拒絶反応

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第16話 虫けらは英雄の夢を見るか

200年前、とある森の中。複数ある黒い楕円形の陰は腐葉土にまみれ、じめっとした洞穴のなかから次々に現れた。


木々の隙間から零れた日の光は既に落ち、月は雲に隠れ星すら見えない。だけども彼らにとっては対して気にすることではなく。日課の狩りを始める。


「最近、この湿地帯にもやたらフェンリルが現れるらしいぞ兄貴。危険だから近づかないようにしろってコウロギどもが言ってた」

「へっ、どんな魔族が来ようがアニキがいればどうってことねぇさ、俺たちゴキブリが滅びることはねぇ!」

「油断はするな。我々は依然として弱肉強食の世界で生きているのだ。気を抜いた瞬間に死ぬ。依然として表を歩かずコソコソと影から襲撃することを忘れるな」


その言葉に周囲のゴキブリ達は畏怖の念を抱きつつも、闇夜でぎらついた目をさらに輝かせて無秩序かつ野性的に森の中へと広がっていく。


グロスは当時、ゴキブリの一族のまとめ役だった。彼自身のスキル、インセクトコネチェビスも唯一彼が所持しているものであり、ある程度魔族の襲撃を防ぐ力になっていた。当時、川が近くにある平野は人間やエルフといった人族が多く支配しており、逆にこういった森林は昆虫族が他の魔族に比べ繫殖力が高く、また先んじて存在する種だったため大いに栄えていた。


しかしそうして居場所を大きく制限される形となった魔族たちはどうしていたかというと、最初はその少ない領域を奪い合っていたが、次第に協調し始めて人族や昆虫族に侵攻するものが増え始めた。フェンリルもその1つ。


「我が種を増やすために栄養を蓄えるのだ!!イャッハー!!!」

「ちょっ!!おいクライア!お前先行するなよ!!」


木々の中で、一匹負傷しよぼよぼと歩くフェンリルを見つける。クライアはゴキブリ族の中でも血気盛んな若者であり、自慢の顎は彼らの中でも一番手入れされているからか固く尖っている。フェンリルは昆虫族のゴキブリよりも一回り大きいとは言え、手負いではなかなか勝てそうにないだろう。


「ひゃっほう!雑魚がぁああ!!!」

「グルル・・・」


フェンリルは体躯を丸め蹲ったかと思えばクライアに反応し不気味な笑みを浮かべ、鳴いた。


「何ぃ!!?」


グロスが嫌な予感を触覚で受ける。次の瞬間、木の上から別のフェンリルが一匹クライアに襲いかかる。振りかざされた鋭利な爪が、彼の胸部を捉えた。


「なっ・・・!?」


グロスは前足をカマキリに変え飛ぶ勢いで横槍を入れるがクライアはすでに事切れており、それを火ぶたに次々と周りの木陰からフェンリルたちが襲ってきた。この場にいるだけで7匹以上、ゴキブリは14匹。これだけ見ればゴキブリの方がまだ優位だが相手にはすでに手練れの連携攻撃。こちらはスペックが抜きんでてるのはグロスしかいないし、チームで動くことに全く慣れていない個々バラバラの部隊。


「グロス!!俺たちハメられたんだ!!!」

「チィ!!皆!!引き返せぇえええ!!!ここは我が時間を稼ぐ!!逃げろ!!」

「は・・・はいぃいい!!!!」


全速力でカサカサ逃げるゴキブリ達。中には羽で飛ぶものもいた。グロスはインセクト・コネチェビスで体色をわざと派手な色に変えつつ目の前の相手に対峙した。自分より大きいくせに身軽なフェンリルを何度も捌いていく。木々の揺れる音とともに周囲から同胞の叫びが聞こえて不安が広がる。しばらく激しい応酬が続き、最後に残ったのはグロスと先ほど罠を仕掛けたボス格のフェンリルのみとなった。


「ふぅーー・・・ふぅーー・・・・・・」

「ふふっ・・・なかなか楽しめたぜ。ゴキブリ」

「・・・話せるのか?」

「まぁね。魔王様は僕に対して特別に発声する権利を与えてくださった。あの方は魔族の救世主だ」

「魔王だと?そんなものが魔族の後ろに付いているのか?」

「まぁ君はもうすぐ死ぬからどうでもいいか。ここで無様に死んでくれ」

「いいや」


ボスフェンリルは牙をむき出しにして飛び掛かるがその瞬間、グロスはインセクト・コネチェビスによって自分自身の色を黒にする。透明ではないが夜の森と同じ色となったグロスは姿が掻き消えフェンリルが辺りを嗅いで探そうとする。


「馬鹿だなぁ、僕らフェンリルは鼻が利く。いくら姿を隠そうと無駄......ぐおおっ!なんだこの臭いは!!」


この時フェンリルが感じ取ったものは腐った肉を燻したような悪臭。人間の嗅覚ならば倒れそうなほどの強烈な悪臭にフェンリルは嗅覚と同時に平衡感覚まで麻痺させられてしまった。


「ど・・・どこだゴキブリィ!!くそっ!!殺してやるぞ!!」


ふらつきながらも我慢強さが結構あるのか立っていることができていたボスフェンリルだったが、グロスが自分の口にタランチュラのような牙を作り伸ばし首筋を突き刺した。


「うっ!?」

「これは俺の仲間たちの報復だ。苦しんで死ね」


そのまま毒を流し込み内側を破壊する。ボスフェンリルは息苦しさを覚える暇もなく、内蔵の機能が次々に失われていき絶命した。


「・・・仇は討ったぞ・・・」


最近はこうした強敵との戦いがかなり多くなってきている。フェンリル、オーク、ゴブリン、リザードマン。確かにグロスを含めゴキブリは数が多いが所詮昆虫族だ。他種族より戦闘力はない。このままではいずれ、戦争になった際大敗する可能性が高いだろう。それどころか、自分たちの住処である森林も魔族の住む領域と変わって行ってしまうかもしれない。


「兄貴ぃ・・・」

「おぉテガルか。今回も生き残ったんだな。偉いぞ」


生き残りであるゴキブリ達は巣に仲間の遺体やフェンリルの死骸を運び、狩りの締めに行う儀式の準備をする。ゴキブリは古来より分解者であった。こうした生物の死骸や落葉を食べ分解し、栄養素を土壌へ戻す役割を担っている。当然それが昆虫族全体の繁栄にもつながっている。この時代において森林は昆虫の楽園だったのだ。因みに似たような役割を担う種として魔族にスライムがいたりもする。


「兄貴!!今日は兄弟が....沢山死んでしまいやした・・・」

「そう悲観的になるな。我々は既に次世代へと生命を繋いでいる。我らが彼らと同じように土へ還ったとしても、次代への糧になるのだけなのだ」

「わかりやした兄貴……」


グロスは他のゴキブリ達と死骸を解体し始め、群れのゴキブリ達へと届けていった。明日のために、未来のために今を食らい続ける。今日や過去は顧みない。自分たちには変わりが大勢いるのだから。そう言い聞かせながらグロスは明日への活力を貪り喰らった。


半年後、ついに魔族は魔王を中心に兵を上げ人族、昆虫族へ宣戦布告を表明した。昆虫族は魔族による支配に抵抗すべく戦闘要員を集め迎え撃つが、魔族側は魔王から一人一人スキルを授かっていたこともあってか昆虫族が圧倒的不利に追い込まれていった。人間やエルフ、ドワーフの人族らも当時はスキルという概念が一部を除いて無かったため武術や人海戦術で奮戦するほかなかった。しかし、日に日に追い詰められていき、森林を占めていた昆虫族も遂に追い込まれる。


「魔族どもめ!よくも皆の巣を......」

「大人しく死ね!虫けらどもめ!」


パワーと防御力を一定時間上げるスキルを持ったオークが、次々と仲間の体を粉砕していく。なんとかスキルで抵抗を試みるが、一体倒すだけでもかなりの時間がかかってしまう。そんなことをしている間にも、家族や仲間や同胞が踏みつぶされるかの如く殺されていく。


「なんてことだ……奴らはどんどん数を増やしているのにこっちは減る一方だ!!兄貴ぃ!!どうしましょう!」

「テガル....ここは逃げるしか無い。ともに無事な場所へ向かうしかないだろう」

「な!?何言ってんですかい?この先の平野は人間とかエルフが支配してる土地じゃないですかい!!」

「だからこそだ。彼らも魔族によって傷つけられているのだろう?ならば協力を提案するべきだ。例えこちらの立場が少々低くなってもだな」

「いやだ!!人族なんかと組みたくねぇですぜ!!奴らは我らとは考え方姿も違う!!協力なんて到底....だから俺は、ここでお暇を頂きます」


昆虫族と人族にも、古来から争いがないわけではない。ゴキブリと人族が合わさることなど到底できないとテガルはグロスに訴えかける。しかしそれではこちらの負け戦は必至だ。


「そうか、お前はここに残るんだな」

「兄貴たちが人族に媚びへつらってでも生き延びたいと言うなら勝手にやってくだせぇ!!俺は同じ考えの仲間たちと共に魔族どもに挑んでやりやす!!」

「わかった。好きにすれば良い。このまま大地の肥やしとなるならそれも良き運命だろう」

「.....おさらばです!生きていられるといいですねぇ!!」


テガルは憤りを感じながらも仲間と共に奥へ飛び立っていった。彼の後ろ姿を見て、グロスはただただ残念に思っていた。彼は自分と違って過去に一度人に会った事があるからああやって頑固に拒んだのだろうか。長く付き合った腹心との別れに、肩をしばらく落としていた。


グロスはその後、生き残り人間と協力する意思のある昆虫族をまとめあげて一団となり北へと逃れ、やがて人間たちが築きあげた陣へたどり着いた。ドワーフ、エルフ、人間の3種族はそれぞれが集まって構成している軍は自分たちゴキブリを含めた昆虫族が現れた際非情に警戒をしていたが、グロスが自分たちの目的を伝え、協力しないかと提案するとやがては受け入れてくれた。3族の代表、いわゆる王様たちにもグロスは昆虫族の代表として赴き提案を持ち掛けた。


「なんだと!?そんな事をしなければいけないのか!!」


エルフの王はプライドの高さ故にそもそも3族同士での協力も渋々といった感じだったので昆虫族がこれに加わることに否定的だった。


「いや・・・これは私たちにとっても良い申し出ではないか」

「同感じゃ。上手く協力できればこの状況を打破する起点となるだろう。わしら二足歩行の種族だけじゃできることにも限界はあるからの」


対して人、ドワーフはそれぞれ申し出に肯定するような意見を出していた。猫の手も借りたいような厳しい状況が彼らを後押ししていた。


「.....くぅ....私も彼らを受け入れよう」

「・・・人族同士で意見が纏まったようでよかった。我々も誠意を持って尽力致し.....」

「だが条件が一つある」


エルフの王はグロスに指を向け、鋭く言い放った。他の二族は困惑した表情で立ち上がったエルフの王を見上げていた。


「我が受け入れる代わりに、戦後昆虫族が元々占める森林の領土を半分我々エルフに譲渡しろ」

「何!?それは少し言い過ぎではないか!」

「そうですぞ、貴殿の欲の深さには困りますな」

「五月蠅い!!お前たちがこ奴らの助けを借りねばならないというのは理解できるが、別に我は最初から協力などなくとも魔族どもに勝てると思っている。だからこの"取引"を断りたければどうぞご自由に。我はこの連合を抜ける」


当時、エルフはこの世界において偉大な発明の一種とされるポーションの生産に成功していた。またスキルの研究についても被検体が滅茶苦茶少なかったとはいえ他の種族以上に進んでおり、ドワーフがいないことで装備や建築の質が、人間がいないことで美味しい料理や戦士の不足に陥る可能性があったが、それでも単体で魔族に立ち向かえる算段が王の中にあったのだ。


「ふざけすぎだ!!何を勝手な……」

「私はそれで構いません」


 グロスが食い下がろうとしたドワーフの王を制しエルフの要求を呑むと言ってしまった。当然王たちは驚愕の表情を浮かべる。


「ええ!?お主本気か!」

「もちろんです。そうせざるを得ないほどに、魔族は強大なのです。我々は既に大勢の同胞が犠牲になっています。ここで3族の協力を取り付けなければ最終的に我々全員が滅亡してしまうでしょう。それくらいならば.....」

「いやぁ本当に助かりますなあ……。よしよし。そういうことであれば共に戦いましょう!共に魔王を打ち果たすのです!」


 エルフの王はすました顔で席に座ると、グロスに向かって頭を下げた。2種族も貢献度が大きいエルフにこれ以上文句を言うわけにもいかず渋々了承。


 こうして昆虫族と3族の同盟は結ばれ、ついに4種族全てで魔族に対抗する軍隊が出来上がった。

それからグロスは最前線にてインセクト・コネチェビスを使い、常に変身し続けることで自身の生存率を高めながら敵を錯乱させていった。


「なんだあのゴキブリ!?今度はハチみたいに飛んで針飛ばしてきたぞ!?」

「嘘だろ!!アイツクモになって宙に巣を作ってるぞ!!」


 大活躍だった。彼のスキルは昆虫族にある特性を一人で補うことができるまさにオールマイティで魔族達の進行をことごとく阻害するのであった。昆虫族だけでなく、人間やドワーフ、エルフの一部までもが彼の行動に注目し賛辞を贈った。


「あれがゴキブリの王……グロスか。素晴らしい能力だ」

「あれが羨ましいな。俺たちもあんな風にスキルが扱えればどれだけ良かったか」

「ああ。人間もエルフもドワーフも虫も関係ない。あいつは本物の英雄だ」


 だがその一方で、昆虫族は他の種族とあまりにも違う見た目や文化故に、異常なほどに軽視される傾向があった。大多数のエルフは人族同士の団結を深める上で昆虫族の立場が邪魔になると考えていた。


「なぜあの蟲に我々が敬意を払わなければならない?本来は地上を這い蹲り木の汁を啜り土を貪り生きていくだけのモノ共。愚劣で下等な昆虫族が私たちと肩を並べて戦うなんておかしいだろう。決して越えられない壁があるのだ」


そうした風潮故に、戦場での昆虫族の生還率は低かった。エルフたちは連合内における昆虫族の地位を封じるために一部を魔族への囮として使い捨てたり、ポーションを使うふりして水をかけ、効き目が悪いということにして見殺しにしたりなどおかげでグロス以外の生き残りのほとんどが徐々に数を減らし、当初いた兵力はいつの間にか3分の1ほどになっていた。


「どうなってるんだ!なぜこんなに皆が死んでいる……」


 その違和感に気づいても、具体的な証拠を掴み抗議する余裕はグロスになく、最前線で酷使される日々が続いた。連合軍はそうした協力?の甲斐もあってか勝利を重ね続け、戦線をじりじりと押し込んでいく。だがそんなある日……。


「グロス、非情に不味いぞ。俺たちは今、リザードマンに囲まれ、孤立してしまっている……」


 ドワーフの若い副将は息を切らしながら状況を報告した。グロス率いる部隊は森林を進行中リザードマン達の奇襲によりエルフの王が率いる部隊から切り離され、というか見捨てられ今はわずかな兵と共に狭い洞窟へと逃げ込んだ。グロス含めわずかな人間、ドワーフは外で敵で索敵してるであろうリザードマンの大群の侵入に備え武器を構えていた。もはや人数は両手で数えられる程度まで減っており誰もが死を覚悟していた。


 しかも自身のスキル、インセクト・コネチェビスを使おうにもMPが切れている状態だ。自分も大地へ還る時がきたかと、覚悟していた。

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