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第一話 推しのライブに行くこと程難しいことはない

 探偵クラブQ。古今東西すべての謎を解き明かしたと言われる4人の名探偵によって設立された組織。世界各国の警察組織を動かすことができ、彼らの存在により、未解決事件は解決を待つだけの事件となった。という設定の探偵系ライブアイドルグループ。そんなグループのキャッチコピーは「あなたの謎を解いてもいいですか?」デビュー曲は「安楽椅子みすてりー」。

 

 探偵がコンセプトのアイドル「探偵クラブQ」。大好きなアイドルグループ。ライブアイドルとして活動している4人組女性グループで大人気とまではいいかないけれど、そこそこの人気を誇るグループだ。日本語で鹿打ち帽や鹿狩り帽などと呼ばれるディアストーカーを頭にちょこんと乗せて、インパネスコートをアレンジした衣装はまさにアイドル版シャーロックホームズ。かわいいなんて言葉じゃ足りないくらいにかわいい。かわいさで世界中の謎が解けてしまうぐらいかわいい。彼女たちがなぜこんなにかわいいのか、それは世界で唯一解明できない謎であるといえるだろう。特にグループのリーダーである夢宮のぞみ、通称ゆめみゃーはつり目が特徴的な猫顔で、ちょっと不愛想ながらもパフォーマンスの時たまに見せる笑顔がたまらない。フェスで一目見て心を奪われてしまった。それ以来毎週行われる定期ライブに行くのが楽しみであり、きゅーろきあんと言われる熱心なファンの仲間入りをしてしまったのだ。今日も定期ライブが行われる日であるため、授業が終わったらすぐにライブハウスに向かわねばならない、が。

 「お願い。今日のライブ、動員が超重要なの。だから、ね。」

 授業終わりにつかまってしまった。同じ専門学校に通う江島春香が目の前に立ちふさがったと思ったら、手を胸の前で合わせ、小首をかしげて、上目づかいでお願いしてくる。あざとい。短かく茶色い髪にに白い肌、大きな瞳、人懐っこい笑顔、幼い見た目ではあるが胸にはしっかりと女性らしさを持つ。人気者になる素質をすべて備えている。

 春香からのお願いは断りづらい。昔からそうなのだ。人から頼まれると断れない性格もあるだろうが、特に春香のは断れない。王子様じゃないのに。幼馴染であり家が近かったこともあって春香とは仲がいい。かわいいと地元では有名で、今は専門学校に通いながらライブアイドルグループ「真夜中の太陽は綺麗だった」のメンバーとして活動している。

「最近ライブ中の盗撮とか窃盗騒ぎがあってお客さんが減ってるの。だから龍乃介に来てもらえたらなって。」

 駄目かなあと、こっちの目をのぞき込んでくる。かわいいけれどゆめみゃー程じゃない。甘えるなと言いたいとこではあるが、その大きな瞳が不安そうにこちらを射抜くと断れない。そうやって多くの男を釣ってきたのだろう。

 「……場所は。」

 観念したようにライブに行く意思を見せると春香の表情が一瞬にして笑顔へと変わる。その笑顔は思春期の男の子への破壊力は効果抜群であろうが、昔から見ている自分には効果はいまひとつ。ダメージは四分の一以下。それでも緑の体力ゲージが赤くなる。

「新宿。詳しくはメッセージで送るから。絶対来てよ、約束だからね。」

 そう言って走り去っていく春香を見送りながら、ため息をつく。場所を聞いただけで行くとは言ってないのだから、行かなくても約束を破ったことにはならないが、来栖龍乃介、さすがにそこまでひねくれた人間でもない。どちらかと言えば探偵クラブQの定期ライブに行きたいが仕方がない。今日の定期ライブでは新衣装のお披露目と言っていたから絶対に行きたかったのだが……。そう思いながら新宿へ向かう準備を始める。サイリウムは常にカバンに入っているから問題ない。タオルも。一応ゆめみゃーの推しタオル以外にも春香のタオルも持ち歩いているからこのままライブに行ける。あくまで春香の推しタオルは一応持っているだけ。ライブでも使わないだろう。買うように頼まれたから買っただけだ。勘違いしてはいけない。推しはゆめみゃーだ。

 どうせ翔も行くだろうから一緒に行くか。そう思って写真コースの坪井翔へ会いに行く。今通っている東京未来インテリジェンスカルチャー専門学校は2年制の専門学校。主な学科に写真コースやブライダルコース、キャビンアテンダントコース、パティシエコースなど、ひと昔前の小学生が夢見る将来の職業のコースが多数ある専門学校である。プロのカメラマンを目指して写真コースへ通う坪井翔は被写体を常に求めている。人を、特に動きのある人を撮りたいらしい。そんな彼にアイドルのライブはうってつけ。地下アイドルのライブではほとんどが写真の撮影が可能であり、それを目的にライブへ来ている人も多数いる。アイドル側からしても立派なカメラで撮影してくれて編集までしてくれる、その写真がネットで話題になればお客さんが増えるというわけでお互いメリットがあるのだ。

 校舎の二階にある写真コースの教室の前についたところで、ちょうど教室から先生が出てきた。授業はもう終わったようだ。

 「坪井、今日暇か。」

 教室のドアを開けながら中を見渡す。帰る準備をする生徒、仲の良い友達と話す生徒、日課の終わりをそれぞれがぞれぞれの方法でかみしめている。そんな中、教室の後ろに10人ぐらいの生徒が集まって何やらパソコンをのぞき込んでいる。のぞき込む生徒の顔は興奮しいて鼻息が荒い。時々歓声が上がっており、身を乗り出して、パソコンの画面を一瞬たりとも見逃したくはないとその気迫が伝わてくる。異様な熱気を感じる。近づきたくないが仕方がない、どうやらその中心が目的地のようだ。熱気の中心にいるのは坪井翔。誇らしげな顔をしている。

 「よう、龍乃介。お前も見に来たのか。」

 何を見ているかなんとなく想像がつく。男がそんなに興奮しながら見るならアレしかないだろう。モザイクと肌色の多い動画。女の子もいる教室で見るものではないだろうが、20歳だから問題はないか。

「個人サイトのやつなんだがネットで話題になってる、段階的に進んでくやつなんだよ。デートから始まって最後は裸になるんだけど、構成や進行が素人とは思えない。どうだ、いいだろ。」

 お前も見てみろよと坪井翔がひっぱって画面を見せてくる。やはり予想は当たっていた。ただ思ったよりも過激なものではなく、まだ盛り上がりのシーンではないようだ。画面が2つに分かれており、片方の画面では女の子の表情が、もう片方の画面ではスカートの中が移されている。同時進行で両方を見せるタイプの動画のようだ。おもちゃを使いながらデートするやつか。悪くはない。興味はある。男だから。だが今回の目的は違う。

「そうじゃなくて。今から新宿行くけど行くか。春香のライブ。」

 聞く前からわかってる。翔はライブに行く。誘えばよっぽどな理由がない限りは乗ってくる。

「いいね。最近行ってないし行くか。」

 ほらね。二つ返事でライブに行くことを決めると、翔はパソコンをかたずけ出す。残念そうな顔をしたその他の生徒たちが、蜘蛛の子を散らしたかのように去っていく。何人かは絶対続きを見るだろう。頼むから公共の場で見るのだけはやめてくれ。

 「じゃあ行くか。ラ前の中華。」

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