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書庫と異世界と悪夢  作者: 橋下悟
第一章 罠師
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第7話

「あのねぇ。そんなことのためにお金は使えませんよ」

俺は再びスクワタに頼み込む。

「そこをなんとか」

金を使って急ピッチで堀と壁を作れば間に合うかもしれない。


「この町の財源だって限られているんですよ?」

その割にこの豪華な部屋はなんだ。

コイツが金を使っているんだろうが。


「だいたいねぇ、余計なことはしないでくださいって言ったばかりでしょう」

「簡易的な壁、いや柵でも構わない」

柵があれば、それを囲むように俺が【落とし穴】を使えば堀のかわりになるだろう。


「そんなに言うならご自分で資金をお集めになられては?」

「……………………」


クソ。ダメだな。

こいつは全く金を出す気が無いようだ。

しかし、自分で稼ぐといってもな。

「では私から父上に、スクワタの働きが見事で非常に勉強になっていると手紙を送っておこう」

スクワタの眉毛がピクリと動く。

「ふぅむ……(今更見捨てられたマガタの手紙なんぞ読まんだろうに)」

ダメか……


「それでは、町の出入り口を限定するのは構わないか?」

「それならやってますよ。勝手に人間が出入りしたら、領内の人間を把握できないでしょう?」


「あぁ、ありがとう。その出入り口以外には、人間が近づかないようにしてもいいか?」

「はぁ。それくらいならいいですよ。まぁ勝手にやってください」

スクワタはため息混じりに言う。

しかし、自分の領地の金をコイツに握られているのは厳しいな。

これじゃ何もできないだろう。



「ということだ。ギンジョウ、カホク、領地の外周には人が近づけないようにしてほしい。お前たちで簡易的な柵を作ってもらいたい」

「承知しました」

「はぁ……別にいいっすけど……」

ギンジョウはともかくカホクは乗り気ではないようだ。

まぁ乗り気でなくてもやってもらおう。

町の外周の一部には、既に木製の柵がある。

先程スクワタが言っていたように勝手に人間に出入りされないようにだ。

しかし、簡易的な柵だ。

飛び越えようと思えば簡単にこえられるだろう。

脆くなっているところや、穴が空いているところをギンジョウとカホクに修復してもらう。

それから俺自身は、柵の周りに【落とし穴】を設置していく。


一つ……二つ……三つ……


ダメだな。

脱力感、倦怠感が半端ではない。

何かMP的なものを消費しているのだろう。

レベルが上がっているので以前よりは設置できているが、8つで限界である。

これから魔物が攻めて来るまで毎日【落とし穴】を外周に設置していこう。



数日間【落とし穴】を設置しまくった。

何度かひっかかったものがいたようで、レベルは二つほど上がり10だ。

レベルが9から10になるときに、胸元にあった小さな9つのひし形が少し大きなひし形一つになった。

大きなひし形はレベル10をあらわすようだ。

身体能力は多少上がっているな。

そして、何やら屋敷が騒がしい。

「マガタ様!!マガタ様はいらっしゃいますか!?」

ギンジョウだ。


「どうした?」

「魔物です。魔物の軍勢が街へ向かってやってきます!」

来たか。


「そうか。状況は?」

「それが、数が尋常ではありません!」


「よし、ついて来い」

一度自分の目で様子を見る必要があるな。


はい無理。

詰んだ。


地平線を埋め尽くすほどに魔物がやってくる。

遠くに土埃が見える。

ここ数日柵の補強と【落とし穴】を作っていたが、そんなんでどうにかなるとはとても思えない。

「お、おい。この町には冒険者が大勢いるんだよな?」

「はい。しかし、冒険者に町を守る義務はありません。ある程度の数でしたら、報酬を得るために戦いに行くでしょう。しかし……」


「あの数になると、逃げてしまう……か?」

「そのとおりです」


「では、スクワタの兵は?隊長のヨネィザはかなりの手練なのだろう?」

「えぇ、おそらく現在兵を統率しているでしょう」


「よし、一旦スクワタの兵を見に行こう。状況によっては、ギンジョウとカホクも加勢してもらう」

「はい!」

「……はい(俺はまだ死にたくないっすよ)」



「馬鹿な! 私にここを破棄しろというのですか!?」

「当たり前だ! 状況を見ろ! こんな何の産業もない町を守る必要はない!」

スクワタと一人の女声が言い争っている。

白銀の鎧に銀髪のポニーテールだ。

なかなか美人なお姉さんだな。


「おい、状況を確認したい」

俺は話に割って入る。

「どうこうもありません! ではマガタ様! 生きていれば、いずれどこかでお会いしましょう」

「待ってください!」

スクワタは大急ぎで部屋を出る。

銀髪の女性騎士もスクワタの後を追って出ていく。


部屋を見ると、豪華だった部屋から金目のものが無くなっている。

「なるほど、私財を持って逃げたか」

「情けない限りですな……」


俺は窓から外を見る。

豪華な馬車にスクワタが乗り込んでいる。

周りを囲んでいるのはスクワタの兵だろう。

「とにかく、現状を確認しよう」



俺とギンジョウ、カホクは逃げ惑う町の人々とは逆方向へ走っていく。

町の正門に着くが、誰ひとりいない。

詰んだ。

冒険者が数人いるかとも思ったが、一人もいない。

「マガタ様……無理ですって、逃げましょう」

「……………………」

ギンジョウは無言だ。

完全に詰んだからな。

かなり遠くに魔物の群れが見える。

あれは無理だ。

スクワタの兵も全員退避しているし、仮に兵と冒険者達が全員残っていても無理だな。


「よし、逃げるぞ!」



チュンチュン……

朝だ。

別荘地に鳥の鳴き声が聞こえる。


シャッ!

俺はカーテンを開ける。

二階から見える木の奥から、朝日が見える。


マジか。

死ななくても、領地を放棄した時点でアウトってわけね。

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