第6話
俺は不本意ながらもスクワタの部屋に来ている。
「もちろん存じていますよ」
スクワタは周辺の魔物が増えていることを既に知っているようだ。
「では、何か対策をたてなければ」
「はぁ……これだから何もわからん貴族様は」
呆れたようにため息をつき、首を横に振る。
いちいちムカつく野郎だ。
「どういうことだ?」
「説明が必要ですか?」
そうだっつってんだろ。
「頼む」
「では、きちんと頭を下げて」
「は?」
こいつは何を言ってるんだ?
「はぁ~……もう一度言いますよ。頭を、さ・げ・て」
うおぉ……
なんてムカつく表情だ。
「よろしく頼む」
俺は頭を下げて頼む。
「ま、いいでしょう」
スクワタは満足そうに腕を組む。
「ではマガタ様。この町の産業はなんだかおわかりになりますか?」
「炭鉱だったのではないか?」
「かぁ~……何年前のお話ですか。炭鉱の鉱物なんぞとっくに枯れていますよ」
「では、冒険者が多いと聞いたが」
「そうですよ。我々がいたずらに魔物を狩ってしまっては、彼らの仕事が減ってしまうでしょう。わかりますか?」
「なるほど。では、放置しておくということか?」
「そうですよ。くれぐれも余計なことはしないでくださいね」
こいつが放置したせいで魔物の群れに町が破壊されるんじゃねぇかよ。
◇
「マガタ様、危険です」
「いや、しかしスクワタが何も対応しないのであれば、俺がやるしかないだろう」
じきに魔物の群れが来ることはわかっているからな。
「魔物が増えているあたりまで案内してくれ」
「しかし、私とカホクだけでは……」
「マガタ様、やめましょうよ。マガタ様ただでさえ弱いんだから」
ギンジョウもカホクも乗り気ではない。
「あのな。もうすぐ……」
あれ?
もうすぐ魔物の群れが襲ってくることを言いたいのだが、途端にしゃべれなくなる。
「なんすか?」
俺が話を途中で辞めてしまったので、カホクが聞いてくる。
「いや、だからもうすぐ……」
やっぱりダメだ。
魔物の群れが襲ってくることを話そうとするとしゃべれなくなる。
マジかよ。
ネタバレ禁止ってことか。
しかし、この前ギンジョウに食料庫が襲われる可能性があることは話せたよな。
「例えば、魔物の……」
ダメだ。
魔物の群れについては、可能性についても言うことができない。
ネタバレの内容によるのだろうか。
もう少し頑張ってみるか。
「もし、もしもの話なのだが、魔物が町に襲ってくることはあるか?」
おぉ!
言えたぞ。
濁せばネタバレでも言えるっぽいな。
「いやいや、ここは冒険者の町っすよ。そんなに魔物が出るなら、栄えるんじゃないっすかね」
「なるほど。ギンジョウ、そうなるのか?」
「はい。魔物の素材は比較的需要があります。それに、このあたりの魔物は比較的弱い部類です。炭鉱の魔物は若干強いようですが、それでも冒険者がいる町が襲われることは考えにくいでしょう。それにスクワタ様の戦力もあります」
「そうなるか。では、仮に魔物の軍勢がきても問題が無いと?」
「軍勢……ですか。それは想定が難しい話ですが、恐らくそれでもなんとかなるでしょう。スクワタ様の側近の兵をご覧になりましたか?」
「いや、見てないな。スクワタの部屋に護衛が数名いた程度だ」
「スクワタ様の軍は、正確には私設軍でスクワタ様個人が指揮しています。隊長のヨネィザという者はかなりの手練です。魔物が軍勢で来たとしても、私とヨネィザがいればある程度戦えるでしょう」
「なるほど。ヨネィザか」
俺は物語のマガタと違って、スクワタに従っている。
この場合、食料庫も襲われず、スクワタが私設軍で協力してくれればなんとかなるんじゃないだろうか。
今俺ができることといえばレベル上げくらいか?
いや、籠城だ。
籠城ならできるな。
今のところ食料庫は襲われていない。
籠城すれば、魔物が襲ってきても多少は耐えられるだろう。
「堀だ。魔物が襲ってきても大丈夫なように、堀と壁を作ろう。それならば危険は無いだろう?」
しかし、あのスクワタが協力してくれるだろうか……