第53話
再び夢の中に戻ってきた。
薬師の家族を守らなければならない。
毒消し草の倉庫が燃えるのは日が暮れる直前、夕方だった。
そのとき、薬師とその家族はすでに全員が死んでいた。
奴は真っ先に薬師を殺しに来る。
そろそろだな……
レベルが上がったとはいえ33だ。
【鉄壁】のスキルもあるが、おそらくまだ相手にならないだろう。
しかし奴を倒す必要も勝つ必要もないのだ。
とにかく帰ってもらえればいい。
ザッ……
!?
一瞬黒い影が横切るのを確認した。
ザシュッ!!
◇
チュンチュン……
はいはい、ゲームオーバーですね。
強過ぎだろ。
レベル上も一気に上がったのに即死ってどんだけだよ。
かろうじて黒い影が横切るのが見えるようになっただけだ。
俺は本を確認する。
チギーが一瞬黒い影を確認したところにしおりを入れておく。
夢に入った瞬間に【鉄壁】を発動するしかねぇな。
◇
ザッ……
黒い影が……
【鉄壁】!!
ガキンッ!!
よし!!
全くタイミングはわからないが、しおりのおかげで【鉄壁】のタイミングが合う。
やはり【鉄壁】は効果時間中無敵だ。
あれほどの斬撃なのに一切ダメージが無い。
「お、お待ちください!!
私は味方です!!」
とりあえず嘘をつく。
なんでもいいから、こいつには帰ってもらおう。
「!?」
ザッ!!
金髪は距離を取って警戒している。
「計画は失敗です……」
「なに!?
失敗だと……そんなことが許されるわけないだろう!!」
「オシバラ様のご命令です!!」
確か、こいつオシバラって貴族の近衛騎士だろ。
よくわからんが、上からの命令って言っとけば帰る可能性が……
ザシュッ……
「なん……で……?」
「バカが……その名をこんなところで口にするな!!」
なるほど、そういうことね。
◇
チュンチュン……
クッソが!!
ダメだ……
この世の金髪みんな嫌いになりそう。
クソ強い。
強過ぎ。
もう一回だ!!
◇
【鉄壁】!!
ガキンッ!!
「お待ちください!!
私は味方です!!」
「!?」
ザッ!!
また金髪は距離を取って警戒している。
「計画に変更がありました。
後のことは私にお任せください。
必ず、任務を遂行してみせます」
俺は金髪にひざまずく。
あとなんか失敗はダメとか言ってたし。
とりあえず引き継ぎって方向に話をもっていく。
「それは、あの方の意思なのか……?」
「はい、ですから問題はありません」
「なるほどな。では、あとのことは任せる」
金髪は剣をしまう。
ムカつくな。
何度も殺しやがって。
ここで一発【落とし穴】でも使ってやりたいが、確実に殺されるだろうな。
「承知しました。
お任せください」
「フン……」
ザッ……
金髪は凄まじい速さで消えていく。
「ふぅ……」
あっぶねぇ……
なんとか生き延びたよ……
!?
身体が軽い。
レベルアップだ。
レベルは61。
上がりすぎだろ!!
あの金髪、どれだけの村人を殺すつもりだったんだ?
そして新スキルゲット。
【金剛壁】
なんだこれ。
【鉄壁】の上位版か?
【金剛壁】!!
だな。
上位版だ。
【鉄壁】よりも若干長く身体が光る。
効果時間が長いのだろう。
「ふぅ……」
なんとかニッコーを守り切ったな。
一旦戻るか。
俺は指輪を外す。
◇
チュンチュン……
別荘である。
しかし、なんともスッキリしないな。
罠で盗賊を谷底へ落とし、金髪ロン毛を嘘で追い返す。
熱血漢のチギーさんはこれでいいのか?
ブー……ブー……
着信だ。
渋谷先生だな。
「はい。書咲です」
「おはようございます、書咲くん。
この前のさ振り込みの件あったじゃない?」
「はい。70万が振り込まれていた話ですね」
「そう。
それなんだけど、振り込んでる会社わかったよ」
「ほんとですか!?」
「うん、僕今日午前中大学にいるからさ、来れる?」
「はい、もちろんです。
準備してすぐにうかがいます」
さすがは渋谷先生だ。
ネットで調べても出てこなかった謎の会社なのに。
俺は急いで準備をする。
ただし、コーヒーだけはゆっくり飲む。




