第52話
よし、一旦引こう。
多分だが、これで野盗の侵入は防げたはず。
だが、金髪の方は単体で村に迫っている。
奴は単体で行動を起こすか?
ありえるな……
奴なら単身で村人全員を皆殺しにできる。
野盗を遠ざけても、結局奴をなんとかしなければならない。
奴が来る前に、村へ戻るべきだな。
◇
!!
不思議な感覚がある。
間違いない……
【落とし穴】が発動した。
そして身体が軽くなっていく。
レベルアップだ。
俺は胸元のアザを確認する。
33だ。
レベルが33まで上がっている。
これは間違いない。
野盗どもが吊り橋から落ちたな。
これにより村人が助かり、レベルが上がったということだ。
そしてスキルだ。
レベルアップにより、スキルを習得している。
【鉄壁】
おぉ……
戦士系っぽい。
今までは全部罠だったからな。
【鉄壁】を発動してみる。
「………………」
身体が光った……
1秒くらい身体が光ったな……
防御スキル、だよな……
攻撃をくらう直前に発動させろってか。
訓練所で試してみるか。
昨日カガシに案内された訓練所へと向かう。
この前と同様に少年たちが訓練をしている。
「すまない、ちょっとこれで攻撃してくれないか?」
「え?」
「あぁ、ちょっとスキルを試したくてな。
頼む」
「そういうことですか」
俺は少年に訓練用の木の剣を渡す。
「思い切り攻撃してみてくれ」
「はい!!」
【鉄壁】!!
ガキンッ!!
木の剣で攻撃されたにも関わらず、金属音が鳴り響く。
「て、手がしびれる……」
少年は手首をおさえている。
「すまん、大丈夫か?」
「はい、別に怪我ではないので……」
防御スキルだな。
攻撃の無効化?
いや、単純にこの少年が弱かっただけの可能性もあるな。
まぁ無効化まではいかなくても、ダメージの軽減は間違いないだろう。
しかし、金髪の方は来ないな。
どこかで野盗と合流するつもりだったのか?
諦めてそのまま帰還してくれればいいが……
◇
昼になるが、やつは来ないな……
やはりあの盗賊達と合流し、それからやってくる手筈だったのだろう。
これで村人全員を救ったことになるのか?
なんだか落ち着かないな……
とりあえず変化がないか村を見て回ろう。
まずは薬師のところだな。
ニッコーの村が存続していても、キヌガルに毒が盛られる可能性は十分にあるからな。
毒消し薬は買っておくべきだろう。
「もうすぐ仕入れの人が来るよ」
「わかってる!! 毒消し草、どんどん持ってきて!!」
薬屋のところへやってきた。
この前と同じように、若い男が大きな袋を店の奥へと持っていく。
「姉さん、ここにもう一つ置いておくよ」
男は俺に気づく。
「すみません、お客さんでしたか」
「あぁ、毒消し薬を購入したい」
「ありがとうございます!!
少々お待ちください」
男性は奥へと入っていく。
この前と同じだ。
「こちらです」
ゴト……
これでキヌガルの死は再び回避だ。
◇
結局金髪ロン毛はこなかった。
奴なら単身でも村の壊滅は可能だろう。
しかし、一人も残さずにというのは難しいのかもしれない。
まぁ本業は近衛騎士だからな。
見られたらまずいのだろう。
野盗はそのカモフラージュのための協力者ってか?
そろそろ日が暮れる……
初回ではとっくに全滅している時間帯だ。
乗り切ったな。
戦闘なしで乗り切ることができた。
これで大幅レベルアップはでかいぞ。
今後の護衛が確実に有利になる。
「火事だ!!
火事だぞ!!」
なんだ!?
バタン!!
俺は宿屋の窓を開け、外を見る。
あれは、毒消し草の倉庫か?
やられた……
毒消し草の処分てことか……
!!
てことは、まずい!!
薬師が危険だ!!
俺は宿屋を飛び出て、薬師のところへ向かう。
「おい!!
無事か!?」
勢いよく扉を開ける。
!!
遅かったか……
店番の男と薬師、そして小さな女の子まで……
ゲス野郎め……
村全体を救ったにしてはレベルアップの幅が小さいと思ったんだ。
全員を救えたわけではなかったんだな。
これはやり直しだ。
「………………」
俺は指輪を見つめる。
あのメモにはこう書いてあった。
『回帰を望むのならば、指輪を外すべし』
青白く輝く指輪を外す。
◇
チュンチュン……
別荘に戻ってきた。
やっぱりこういうことね。
回帰を望む……やり直しをしたいなら指輪を外せってことだ。
リセットだな。




