第5話
「レベルが上がると、身体能力は上がるのか?」
「はい。個人差にもよりますが、鍛冶や料理のような生産職であってもレベルが上がれば身体能力が上がります」
マガタのレベルが罠によって上がることが確定した。
今のレベルは5だ。
それから、変な感覚がある。
身体が軽いのだ。
そのあたりについて、薄汚い屋敷の庭でギンジョウに確認をしている。
「なるほど」
「マガタ様……まさか」
「あぁ。レベルが上がった」
「な、なんと!!」
ギンジョウは目をうるませてこちらを見る。
マジかよ。
そんなに苦労してたんだな。
「そ、それでレベルが上がった恩恵というのは、身体能力のみなのか?」
「そうですね。それも個人差があります。私やカホクのような兵士は、基本的に身体能力が上がり、稀にスキルを習得することがあります」
「スキルか……見せてもらうことはできるか?」
「はい」
そういうと、ギンジョウは抜刀し構える。
「【強斬撃】!」
ビュンッ!
空気を切る音と風圧がここまでやってくる。
ピシッ!
庭の石に亀裂が入る。
「岩をも砕く斬撃か」
「はい。通常の攻撃の3~4倍の威力がございます」
「それは凄いな」
なんというか俺自身も、違和感はあるな。
発動できそうな気はするんだが……
俺は地面に手をつき、集中する。
「【落とし穴】!」
地面に変化はない。
俺は片手で持てる手頃な石を先程【落とし穴】を発動した場所に投げる。
ボゴ……
地面に穴が開く。
「おぉ……ス、スキルですな」
ギンジョウは微妙なリアクションだ。
まぁ【落とし穴】ですからね。
しかし、この穴結構深いぞ。
昨日掘った穴と同じくらい、3mくらいあるだろう。
「ギンジョウ、このスキルのことは誰にも話さないでくれ。
もちろん、俺のレベルのこともな」
「ははっ! 承知しました!」
◇
俺はスキル【落とし穴】について検証をする。
どうやら使える回数はある程度決まっているようだ。
【落とし穴】を使ったあとに独特の倦怠感があるのだ。
MP的なものを消費しているのだろう。
まぁそれでも実際に穴を掘るよりも遥かに効率が良い。
あ、誰か【落とし穴】にひっかかったな。
恐らく門番のやる気のない兵士だろう。
出迎えもせずにやる気がなかったので、やつの行動範囲と思われる場所にこっそり【落とし穴】を仕掛けておいた。
ざまぁみやがれ。
「何をしておる!」
スクワタの怒鳴り声が響き渡る。
馬鹿め。
【落とし穴】にひっかかったな。
馬車が傾いている。
片輪が穴に落ちたのだろう。
ざまぁみやがれ。
◇
おかしい。
いつまで経っても、食料庫が襲われることが無いのだ。
俺がマガタの行動を変えてしまったからだろうか。
あれから門番の兵士を何度も【落とし穴】へと落としレベルが8まで上がった。
しかし、新しいスキルを覚えることはない。
外から食料庫を襲う場合に通りそうな場所にも【落とし穴】を設置したのだが、ひっかかるのはスクワタの部下だけだ。
そして、屋敷周辺にできる謎の穴と俺がコクテに来た日にちが近いので、ちょっと疑われている。
俺とマガタの行動の決定的な違いはなんだろうか。
一つは、レベルが上がり【落とし穴】を習得したことだ。
もう一つは、スクワタと敵対していないこと。
まさかとは思うが、スクワタと敵対したことで、ヤツが意図的に食料庫を襲わせたってことか?
しかし、魔物に襲われたときに村は壊滅する。
そんなことをすればスクワタだって困るはずだ。
いや、そもそも村が襲われることについてスクワタは知らないんだよな。
それに、村が襲われたときにスクワタが何をしていたのかまでは本の内容に書いていなかった。
そんなことを考えていると、ギンジョウが駆け寄ってくる。
「魔物が増えている?」
「はい。マガタ様が領内から出ることは無いと思いますが、念のためお知らせしておこうかと」
なるほど、村が魔物に襲われるフラグだな。
「何か対策をしなければならないな」
「ふぅむ……しかしできることは限られていますな」