第46話
無事に毒消し薬を手に入れることができた。
俺はニッコーの村を後にする。
あれは確実に負けイベントだからな。
物語終盤ならまだしも、序盤であの金髪ロン毛を倒すのは不可能だ。
今は毒消しをキヌガルに渡し、バッドエンドの状況を良くしていくしかない。
あれは無理……
無理なんだ……
俺は自分に言い聞かせる。
夢がリアルな分、嫌な気分にさせてくれる。
負けイベントだと自分を納得させるしかない。
俺は人の少ない近衛騎士の訓練所へと戻る。
近衛騎士たちのほとんどは今遠征中だ。
一部がスーナの護衛として残っているのだろう。
今回俺はターワラへは帰らずに、ニッコーのみに行ってきた。
ターワラで得られる情報はもうないからな。
毒消し薬だけを手に入れ戻ってきたわけだ。
◇
「それで、里帰りでは何か収穫があったのか?」
キヌガル近衛騎士長が遠征から帰還してきた。
「いえ……残念ながら……」
俺はニッコーへ行ったものの、今回ターワラへは帰っていない。
得たものは毒消し薬だけだ。
チギーの強化、レベルアップについての情報は得られなかった。
「そうか……お前はまだ若い、あまり気を落とすな」
「はい……」
最初の訓練ではうっとうしいおっさんと思っていたが、キヌガルはいい奴だ。
休暇をとって帰省し、さらに何の成果も得られなかったにも関わらず、励ましてくれる。
「来週の舞踏会では、近衛騎士全員がスーナ様の護衛任務をおこなう。
お前も例外ではない。
これまで同様訓練に励むように」
「はい!!」
舞踏会……
そのあとキヌガルが毒をもらってしまうはず……
まずはそれを回避だ。
◇
なげぇ……
かつてないほど夢が長い。
訓練を数日続けるが、一向にレベルアップはしない。
しかし、収穫はある。
身体の動かし方に慣れてきたのだ。
身体能力の向上は無くても、多少強くなっているはずだ。
そして、今日から舞踏会の会場までスーナを護衛だ。
野盗だけでなく、魔物が出る世界だからな。
近衛兵全員で馬車を守りながらの移動となる。
ここでスーナを守ればレベルが上がる可能性がある。
ただ気になるのは『近衛騎士』の本の中で、チギーが成長し強くなったという描写がほとんどなかった。
道中スーナを守り切ったとして、チギーのレベルは上がるのだろうか。
「整列!!」
ザッ……
俺を含めた近衛騎士はスーナとその両親を含めた馬車を中心に隊列を組む。
こいつら一人一人がチギーより強いわけか。
そこそこ強い魔物が出てきても余裕で倒せるな。
装備もそれぞれ違う。
槍や大盾も結構いる。
一番多いのは片手剣と盾の装備だ。
ちなみにチギーもそれだ。
弓も少しだけいるな。
◇
道中魔物が出現するが、すぐに討伐される。
近衛騎士たちマジつえぇ。
キヌガルが近衛騎士長ってことは、この中で一番強いんだよな?
キヌガルは馬車の真前におり、さらにその周りに3人。
明らかに強そうな人たちが馬に乗っている。
しかし、どのくらい強いのかはわからない。
彼らが戦うまでもなく、道中の魔物は殲滅されてしまうからだ。
◇
「舞踏会って何やってるんですかね?」
「さぁな、貴族様のやることなんて俺らにはわからねぇよ」
先輩騎士のクロイソと話をする。
長い長い陸路を経て、大きな都市へやってきた。
中世の大都市そのものだ。
「ただ、かなり重要らしいぞ」
「そうなんですか?」
ただの食事会ってわけじゃないのか。
「あぁ、場合によっては爵位が上がることもあるらしい」
「なるほど……」
偉くなって権限が増えるってことか。
だとすればそれが原因でスーナの命が狙われることもあるということだな。
「飯だ飯!!
やっといいものが食えるぜ!!』
「ですね」
道中は干し肉と魔物の肉、木の実がメインだった。
空腹はどうかというと、実はそれほど感じていない。
この夢はリアルだが、やはり現実ではない。
痛みや恐怖などの感情が緩和されている。
それでも痛いのだが、現実に比べると軽減されている。
じゃないと人間なんて殺せない。
そして空腹については、痛み以上に軽減されている。
まぁ腹が減らないわけではないのだが……
まずは食事に注意だ。
本に詳しい描写はなかったが、キヌガルの毒は食事で与えられた可能性もある。
しかし近衛兵全体が毒になったという話はなかった。
ということは、キヌガルだけが毒を盛られるということだ。
念の為、キヌガルの食事は注意してみておくべきだろう。
「しかし、すごい人の数ですね」
「そりゃそうだろ。
ここは地方の中枢だからな。
ほら見てみろ、ほかの貴族の近衛騎士たちも来てるだろ?」
「なるほど」
立派な鎧を着た騎士たちが続々と集まってきている。
団体ごとに鎧のデザインが異なり、よく見るとそれぞれ紋章があるようだ。
「おい、あんまりジロジロ見るなよ」
「まずいんですか?」
「中にはプライドの塊みたいなヤツもいるからな。
近衛騎士同士のトラブルは絶対に許されない」
「はい」
でしょうね。
近衛騎士を抱えているスーナに迷惑がかかるってことね。
ん?
あの鎧……
見覚えが……?
「おい、だからジロジロ見るなって」
金髪ロン毛の鎧と同じだ……




