第43話
ターワラに一泊し、翌日出発することになる。
「もう戻るのかい!?」
「あぁ、近衛騎士の仕事もあるし、帰りも商人の護衛があるからな」
「記憶が戻るまで村にいるわけにはいかないのですか!?」
「あぁ、俺にはやるべきことがある」
そして、ここで得られる情報はもう無い。
とにかくレベルアップの条件を見つけなければ詰みだからな。
「それは……記憶がなくても兄さんらしいですね……」
ノザキは目を伏せる。
ちょっとやめてくれよ……
物語の人間に罪悪感を抱く……
それは、彼がチギーの弟だからだろう。
まぁ生意気な俺の弟とはタイプは異なるが……
「大丈夫、安心しろ。
なにしろ近衛騎士の仕事は重要だからな。
次に戻ってくるときには、ちゃんと賃金を持ってくるよ。
美味い肉を食わせてやる」
俺はノザキの頭をつかみ、ゴリゴリと撫でる。
「はい、待っていますよ!!」
◇
ターワラを出発して1日。
ここまで来たときと同じ道だ。
「ここから古い道に入っていきます。
少し遠回りになりますが、ニッコーで毒消し草を買うことができますよ」
「助かります」
とりあえず毒消し草を買って、キヌガル騎士団長の死亡を回避だな。
彼が生き残った場合、どのくらい影響があるのかはわからないが、物語は良い方向に向かうはずだ。
◇
「静かな村ですね」
商人と俺を含む護衛はニッコーの村に到着する。
しかし、村が静まりかえっている。
「あまり活気のない村なんですか?」
「いえ……ターワラとそう変わらない村なのですが……」
「止まって!!」
護衛の一人が声をあげる。
「妙だ……人の気配がない」
「確かに……」
村が静まりかえっており、人の気配が全くないのだ。
「あなた方はここで護衛を。
私は街の様子を見てきます。
みなさん、すぐに移動できる用意だけしておいてください」
「わかりました」
この場の全員に緊張がはしる。
街になにかあったのだろうか……
「近衛騎士のあなた、ついてきてくれませんか?」
「あぁ、もちろん」
俺は護衛のリーダー的な人に指名される。
彼と一緒に一番近い家の前まで来る。
「………………」
やはりまったく人の気配がない。
「………………」
ノックもせずに家の扉をゆっくりと開ける。
なるべく音を立てないようにだ。
!!
死体だ……
「これは……」
護衛のリーダーと周辺を確認する。
部屋が荒らされている。
野盗の仕業だろうか。
「やられてからほとんど時間がたっていない……
まずいな……」
「近くにいるってことか?」
「あぁ……戻るぞ……街全体がやられている可能性が高い。
この護衛の規模では全滅させられる可能性がある」
「了解……」
マジかよ。
確かに相手が野盗なら、行商人もターゲットになるだろう。
街全体を壊滅させる野盗の集団が近くにいるとすれば、この護衛だけでは対応できないと判断したわけだな。
さっさと逃げるべきか。
「………………」
俺たちは足早に行商人のところへ戻る。
「な!!」
行商人たちを取り囲むように野盗がいる。
10人……いやそれ以上いるな。
「逃げるぞ!!」
「商人たちは!?」
「無理だ!!
街に戻ってこのことを報告する!!」
クソ……マジかよ。
商人は見捨てろってか。
「そいつはこまるな」
野盗だ。
こっちにも4人。
俺たち前を塞ぐように立ちはだかる。
「あなただけで行ってくれ!!」
チギーは強い。
近衛騎士の中では弱い方だが、野盗相手ならある程度戦えるはず。




