第4話
だから夢が長いのよ。
それから何度か野営をしてようやく東の領地コクテに到着する。
夢の中で数泊するとかあり得ないだろ。
長いのよ、マジで。
これ起きたときに2,3日経ってるとか無いよな。
「出迎えがありませんな……」
ギンジョウが顔をしかめながら言う。
普通は出迎えがあるもんなのか。
「仕方ありません。屋敷へ行きましょう」
町並みは思ったよりは荒んでいないな。
確かに建物は綺麗とは言えないが、思ったほどボロくはない。
10数年前までは栄えてたらしいからな。
ただ、ガラの悪い連中がたくさんいる。
冒険者が多いと言っていたけど、こいつらがそうなのだろうか。
しばらくすると、大きな屋敷にたどり着く。
「おい! 出迎えはおらんのか!?」
ギンジョウが大きな声をだす。
すると、一人の兵士がやってくる。
「マガタ様。中でスワクタ様がお待ちです。どうぞ……」
なんともやる気のない兵士だ。
俺は馬車から降りると、兵士の案内で屋敷へ入る。
屋敷はわりと豪華だ。
まぁ一応領主なわけだしな。
部屋に入ると、中年の男が椅子にふんぞり返っている。
「これはこれはマガタ様。このスワクタ、お待ちしておりましたぞ」
どう見ても待っていた感じは無い。
出迎えもなければ、さらに屋敷でふんぞり返っているとはな。
「今日からこのコクテを管理することになった。よろしく頼む」
とりあえず、挨拶しておく。
「ははは、管理ですと? 管理ならお任せください。マガタ様は何もしなくて結構」
「なるほど。わかりやすいな」
余計なことはするなってことだろう。
かといって、この町は賄賂が横行し治安も悪い。
こいつに任せておいたら、改善は期待できない。
ん~……。
確か、本ではマガタが不正を正し、治安を良くしようと頑張るんだ。
その結果、このスクワタとかいうヤツに目をつけられる。
ここは見逃して、敵を増やさないようにしておくべきか……。
「頼りにしている。よろしく頼む」
俺は握手を求める。
スクワタは立ち上がり、こちらへ来る。
手を伸ばし、握手を返すのかと思ったが……
「よろしく、マガタ様」
スクワタは伸ばした手を俺の頭の上に乗せ、ポンポンする。
この野郎……
「ご自分の立場をよくご理解しているようですな。わはは!」
「…………………………」
◇
翌日、俺は案内された自室にいる。
領主の部屋とは思えないほどにみすぼらしい。
スワクタの部屋とは比べ物にならない。
なんとか状況を改善しなければならない。
まず、数日以内に屋敷の食料庫が襲撃される。
何か対策を講じなければ……
しかし、何をするにも情報が足りないな。
数少ない味方のギンジョウに聞いてみるか。
俺はギンジョウのもとを訪れる。
「これはマガタ様。長旅の疲れは癒やされましたかな。お呼びしてくだされば、そちらへ行きましたのに」
ギンジョウは律儀だな。
こんな状態のマガタに尽くしたところでなんの見返りもないだろうに。
「この屋敷の警備の状態を教えてほしい」
「警備……ですか?」
なんと言えばいいのだろうか。
数日以内に食料庫が襲撃される、とは言えないよな。
「町を通ったときに、貧困に苦しんでいたものがいただろう? 例えばあの者たちが、税として徴収している食糧を奪いに来ることはあり得ないだろうか」
「それはまずあり得ません。スワクタ殿がいますからな。そんなことをすれば、見せしめに一家を皆殺しにされるでしょう」
「なるほど……」
しかし、「罠師」を最初に読んだときは、マガタが町に到着してすぐに食料庫の襲撃があった。
「では、それを承知で攻め込んでくることは無いのか?」
「それもあり得ません。マガタ様も彼らを見たでしょう。彼らにはそのような武器や体力はございません」
確かに。
反乱を起こすにしても、最低限の武力と体力が必要だよな。
それすらも無いような人々ってことか。
「それならば、こっそりと食料を盗みに来ることは?」
「その可能性もかなり低いです。わざわざ警備のいるこの屋敷を狙うなら、比較的裕福な店を狙ったほうが安全でしょう」
「そうか。それだな。では、食料品を扱っている店に行ってみるか」
◇
「やられましたよ。先週も、先々週も」
店主がうなだれながら言う。
「警備はしていないのか?」
「それが、冒険者を警備に雇っていると何も盗まれないんですよ。抑止にはなるんですが、常に冒険者を雇っておく金なんてないんですよ」
「なるほどな」
俺はあごに手を当て考える。
警備がいないときに盗みに入る……か。
それなら一つ気になっていることがある。
この物語のレベルシステムだ。
カホクから話を聞いたときから引っかかっている。
タイトルの「罠師」だ。
試してみるか。
◇
ザクザク……
「あの、マガタ様。一体何をなさっているのです?」
「あぁ、罠だ。罠を作っている」
俺はひたすら穴を掘っている。
罠といえば落とし穴だろう。
というより、それ以外の罠は作り方を知らない。
「そういうことでしたら、私もお手伝いをしましょう」
「いや、大丈夫だ。俺にやらせてくれ」
この罠作成は俺が一人でやらなければいけない気がする。
俺の考察が正しければ、罠でレベルが上がる可能性がある。
ザクザク……
◇
かなり疲れたが3mくらいの穴を掘ることができた。
穴の上に、薄い木の板を乗せ、土を被せる。
「ふぅ~……」
まぁ夜ならばパッと見わからないだろう。
とりあえず明日また見に来よう。
◇
!!
バッ!
俺は薄汚れた部屋で目を覚ます。
ここは別荘……ではないな。
まだマガタの物語の中だ。
不思議な感覚がある。
誰かが罠にかかった!!
俺は部屋を飛び出し、落とし穴へ向かう。
◇
これは……
誰かが引っかかったあとがあるな。
穴の上の板が崩れ、落とし穴が丸見えなのだ。
しかし、中に人はいない。
マジかよ。
3mだぞ。
ここから抜け出せるのか?
いや……いけるな。
この物語にはレベルがある。
マガタのレベルは極端に低く、一般人と変わらない。
しかし、ここコクテに来る途中、ギンジョウやカホクの動きを見ていた。
俺が知っている人間の動きではない。
レベルがあるからだろう。
身体能力が極端に高いのだ。
彼ら兵士ほどのレベルが無くても、このくらいの穴ならば抜け出せてしまう可能性が高い。
しかし、誰かが罠にかかったときに変な感覚があったな。
頭の中に通知音が鳴ったような……
もしかして……
俺は胸のひし形を確認する。
!!
胸にあるひし形が5つになっている。
レベルだ。
レベル3だったものが5なっている。
仕掛けた罠に誰かがかかることで、マガタのレベルが上がるのだ。
予想通りだ。
この物語のタイトル「罠師」は主人公マガタのことだったのだろう。