第36話 罠師エピローグ
あれ?
ショウナスが見当たらない。
大きな衝撃とともに、激しい斬撃が繰り出された。
以前のマガタならどうにもならないほどの強さだが、今の俺にはそれほど脅威ではないはず。
【鉄格子】には小さな傷がついたものの、破壊されたわけではない。
なるほど……
うまく抜け出したな。
確かに【鉄格子】の弱点だ。
斬撃の影響で地面が大きくえぐれたのだ。
その瞬間に抜け出したのだろう。
そして……
ガキンッ!!
俺はショウナスの剣を身体で受ける。
防御なしだ。
剣は俺の肩で止まっている。
高レベルの肉体だからな。
ショウナスの剣であっても俺の体を傷つけることはできない。
「なっ!!」
おぉ、いいね。
ビビってるわ。
ヤツは剣に力をこめたまま目を見開いている。
「今、何かしたか?」
もちろん攻撃されたことはわかっている。
しかし、一度は言ってみたいセリフである。
「はぁぁぁああ!!」
ショウナスが吠えると、地面が大きく揺れる。
確かにギンジョウやヨネィザより強いな。
剣が強く光出す。
まぁ何かのスキルだろう。
「ハッハッハ!!
いいぞいいぞ、もっと全力で来なさい」
もはや悪役のセリフだな。
自分で言うのもなんだが、普段クソ真面目だからな。
夢の中くらいはおふざけしたいわけだ。
「【シャインソード】!!」
ショウナスは剣を振りかぶってスキルを繰り出す。
ズドオォォォ!!
斬撃に沿って、地面が大きく割れる。
しかし、俺は無傷。
俺の背後だけ、地面の亀裂はない。
ザッ……
俺はショウナスの背後に周り、肩に手を置く。
「今のは……攻撃か?」
もちろん攻撃なのはわかっている。
「バ、馬鹿な!?」
ショウナスはその場にへたりこむ。
「ハッハッハアァ!!
ようやく実力差が理解できたか!?」
「 …………(この俺が、見ることもできなかったというのか?)」
「おい、命乞いをしてみろ」
「………………」
「おい、聞いているのか?」
「殺せ……」
「は?」
「殺せ……ここまで侮辱され、生きてはおれん……」
完全にへこんでいる。
ちょっとやりすぎたか……
しかし、ここでこいつを殺しておくのはありだろう。
ふざけた書簡を出してくるヤツや、金を横領する輩への牽制になる。
少しやり過ぎのような気もするが、こいつの死を利用させてもらうべきだな。
「お望み通り、殺してやろう。
苦しまないようにな……」
ザシュッ!!
俺は抜刀し、一撃でショウナスを真っ二つにする。
◇
チュンチュン……
あれ?
別荘?
別荘の朝である。
シャー……
とりあえずカーテンを開けて光を部屋に入れる。
マガタは死んでませんけど?
俺は『罠師Ⅰ』を確認する。
しおりを挟んだところだ。
あれ?
なにもない。
最終ページにしおりが挟んであるだけ。
夢の内容が反映されていないのだ。
やっぱりクリアした後はもう無いってこと?
うーん……
俺は『罠師Ⅰ』を持ったままキッチンへ行き、コーヒーを淹れる。
「………………」
お湯を沸かしながら考える。
夢が終わり、別荘へ戻ってくるパターンは……
マガタが死ぬ、
うまくいっている、
領地を放棄する、
この3パターンだったはずだ。
今回マガタは死んでない。
なんか……うまくいってるって感じじゃないよな……
うまくいっているときは、夢で日をまたぐときに切り替わっていたし。
てことは?
領地を放棄したパターンな気がする。
マガタの意にそぐわない……ってことか?
俺は軽く身支度を整えると、隠し部屋にいく。
目当ては『コクテの歴史』だ。
あったあった。
とりあえず、『コクテの歴史』を応接室へ持っていく。
地下の隠し部屋はあまり長居をしたくない。
そしてコーヒーを飲みつつ、パラパラとページをめくる。
あ、いたいた。
こいつだ。
ショウナス。
マガタの異母兄弟だな。
ん?
『ルオカやアテラザにはあまりいい感情を抱いていない』
え?
なにこれ?
『マガタを出来の悪い弟として心配している』
嘘だろ……
あの態度で?




