第32話
「おぉ、書咲。お前来るなんて珍しいじゃん。
バイト忙しいんじゃないの?」
「忙しいよ。秋元に誘われたからシフト空けてきた」
俺は久しぶりにテニスサークルに顔を出す。
名前だけで実際はあまり活動に参加していない。
飲み会の参加もかなり久しぶりである。
ちなみに、渋谷先生とは会えていない。
どうやら今学会で出張中らしい。
帰ってきたら、あの明細書について聞いてみよう。
さすがにバイト代70万は何かの間違いだろう。
「あ!! 書咲先輩!!」
後輩が俺を発見して近づいてくる。
「おぉ、久しぶり」
「あの、必修のレポートとテストの過去問今度貸してもらえません?」
「会っていきなりそれかよ。別にいいけど、ちゃんと返せよ」
「お前よくやるよな。終わったテストなんてその日のうちに捨てるだろ」
「俺はね、お前らと違って真面目なの」
「クソ真面目な」
「あぁ、ありがとう」
褒め言葉として受け取っておく。
「いや、マジでありえねぇよ。
一般教養含めて、終わったテストとかレポート全部ファイリングしてんだぜ?」
「でもそのおかげで俺たちは助かってますけどねぇ」
確かに、よく後輩にファイルを貸してくれって頼まれる。
「おぅ、お前もきたのか書咲」
「お久しぶりです」
大学院生の若林先輩だ。
「おい、今日は面白いもんが見れるぞ」
「なんですかそれ?」
もしかして、今日の秋元のこと若林先輩も知ってる?
「面白いもんは面白いもんだよ」
「はぁ……」
なんだかな。
この先輩苦手なんだよな。
まぁ大学院生なのに、サークルの飲み会に来てるって時点でちょっと変わってるんだよな。
あ、秋元だ。
秋元が座敷に一人で座っている。
「ちょっと秋元のとこ行ってきます」
「おぅ」
気のせいだろうか……
若林先輩は半笑いのリアクションをいていたような……
俺は自分のお酒を持って秋元の隣へ行く。
「よ」
「お、おぉ。書咲か」
「お前、すでに酔ってね?」
「あ、あぁ……」
「あれ? てか、緊張してる?」
「あ、あぁ……」
秋元は手元のビールをぐいっと飲む。
「おいおい、今日カミングアウトすんだろ?
そんなんで大丈夫かよ」
「お、おぅ!! だ、大丈夫だ」
明らかに緊張している。
まぁそりゃそうだよな。
これから付き合います発表をわざわざこの人数の前でするわけだ。
正直意味はわからんが、緊張もするだろう。
そして、俺の方までテンションが上がってくる。
百均でクラッカーまで買ってきてしまった。
もちろん、店に許可はとってある。
なにしろ俺は真面目だからな。
店内で勝手にクラッカーを使うなど言語道断である。
「いや、この前お前から話聞いたときは、浮かれてんなよとか思ったけどさ。
なんだかんだ、こういうイベントは面白いよな」
「そ、そうだろ?」
「そうだよ。
お前もさ、これからの田村さんとの付き合いを考えたらテンション上がるだろ?」
「だ、だな!! あ、なんかテンション上がってきた」
「おい単純かよ。緊張解けたか?」
「まぁちょっとな。ありがと」
秋元は両手で頬をパンと叩く。
「よし!! 行ってくるぜ」
「行ってこい!!」
秋元は、みんなの前に移動をする。
「ちょっと聞いてください!!」
「なんだなんだ?」
サークルのみんながざわつく。
「留年決定か?」
「ちげぇよ!!」
まぁ当然茶化すやつも出てくるわな。
「………………」
秋元は無言になる。
緊張感が伝わってくるな。
「………………」
みんなも話を聞く体勢だ。
「田村さん、聞いてください」
「「「「おぉぉ!!?」」」
「は、はい」
田村さんは立ち上がる。
「す、すすす好きです!! 付き合ってください」
「え!?」
田村さんはドギマギする。
あれ?
なんか想定とリアクションが違くないか?
「えっと……」
田村さんはあたふたと困っている。
「あの……秋元くんは……おもしろいし、とても頼りになる…………ていうか…………
だから、これからも友達としてサークル活動頑張ってもらえたらいいなって……」
「え?」
秋元はショックで固まっている。
「ざんねぇん!!」
「おい、秋元!! 今日は朝まで飲もうぜ!!」
サークルのみんなが振られた秋元を慰めに行く。
秋元は呆然と立ちすくんでいる。
何が起きたのか理解できていない様子だ。
おかしい。
どういうことだ?
事前に聞いていた話とは違う。
秋元がわざわざ俺にあんな嘘を言うとも思えない。
あいつはそんな嘘をつくようなやつじゃない。
となると……
俺は田村さんのほうを見る。
「田村さんはモテるよなぁ」
「そ、そんなことないよ……」
上手にぶりっ子している。
あの女、秋元をハメたな。
みんなの前で告白されたいってか。
悪趣味だ……胸糞が悪い……




