第31話
怒涛の勢いだ。
魔物の勢いが止まらない。
ガキンッ!!
ザシュ!!
俺は魔物を斬って斬って斬りまくっている。
これまで同様にこの先に罠も仕掛けまくっている。
ガキンッ!!
ザシュ!!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
しんどい……
「マガタ様!! まだですか!?」
「まだだ!! もう少し、もう少し頑張れ!!」
他のみんなも限界が近いだろう。
ザシュ!!
ザシュ!!
ザシュ!!
なんだこれ……
そういえば夢……なんだよな?
ガキンッ!!
ザシュ!!
「はぁ……はぁ……」
なんで……
なんでこんなに頑張ってんだっけ……
ガキンッ!!
ザシュ!!
ザシュ!!
「はぁ……はぁ……」
正直、この世界に思い入れなんてない……
ガキンッ!!
ザシュ!!
ザシュ!!
ギンジョウやカホク、コクテの街に情がでたのか?
いや、こいつらはいいヤツだけど所詮夢だし……
「はぁ……はぁ……」
ダメだ。
限界だ。
俺は剣を突き刺し、それを杖のようにして寄りかかる。
「はぁ……はぁ……」
マガタが……マガタの意志がそうしているのか?
まだ頑張れと?
「クッソ!!」
ザシュッ!!
俺は気力を振り絞って中型の魔物をぶった斬る。
マガタの意志か……
実力もないくせに、正義感だけ強い。
そのせいでスクワタにいいように使われ……死んでいく。
無力だな……
正義感だけ強くても、何にもならない……
そんなのは当たり前、当たり前なんだ……
「うぉらぁ!!」
ザシュッ!!
俺は周辺の魔物もぶった斬っていく。
けど、そんなマガタに共感してしまったのかもしれない。
正義感が強く、無力で、母さんを……自分の家族を救えない俺は……
「クソがぁ!!」
ザシュッ!!
ザシュッ!!
ザシュッ!!
俺は感情を吐き出すように魔物をぶった斬っていく。
「マガタ様……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
あれ?
気づくと周囲の魔物を一掃している。
「はぁ……はぁ……みんな、よく頑張ってくれた」
ようやく1時間経った。
【バリスタ】が発動できる。
「いくぞ……くらえデカブツがぁ!!」
俺は【バリスタ】を発動させる。
ズドンッ!!
【バリスタ】から槍が発射されると、その勢いで周囲の地面が揺れる。
どでかい槍が砲となり、サイクロプスのところへ吹っ飛んでいく。
「すっげぇ……」
カホクがつぶやく。
俺も同じ感想だ。
バシュッ!!
槍がサイクロプスの顔面に突き刺さる。
ドス!!
ドス!!
ドスーン!!
サイクロプスはバランスを崩し、その大きな巨体が地面にぶち当たる。
「「「「おおおぉぉぉ!!!」」」」
皆が歓喜を上げる。
疲労感は無い。
さっきのでレベルが大幅に上がっている。
そして新スキル【鐵巨人の拳】
名前からしてヤバそうである。
俺は剣を天に掲げる。
なんか、ポーズとった方が気持ちいいし。
そして【鐵巨人の拳】を発動。
「な、なんだ……?」
空が少しだけ薄暗くなる。
拳だ……
巨大な鉄の拳が空に現れる。
ズドーン!!
ドシャッ!!
鉄の拳は地面にめり込み、魔物の群れを押しつぶす。
「これ……罠じゃ無いだろ……」
◇
「マガタ様が帰還されたぞ!!」
「マガタ様、民衆に応えてあげてください」
ギンジョウが俺に言う。
カホクやヨネィザたちも俺を見る。
信頼の眼差しってやつだ。
「あぁ、わかっている」
コクテの街が歓声で湧き上がる。
それに俺は手を振って応える。
そうそう。
これだよ、これ。
これが主人公ってヤツだ。
民衆や冒険者たちに見送られながら、俺たちは屋敷へと帰っていく。
「今日はご馳走っすね」
「金ならクソ役人の財産があるからな」
よし、豪華なものを食って、あとは酒だな酒。
リアルな夢だからな。
うまいものならガッツリ食っておくべきだ。
この世界で、マガタとしてコクテの街を救った。
夢の攻略は達成である。
あとはエンディングか?
いや、攻略はできたがやりたいことがあるな。
俺は胸のアザ、自分のレベルを確認する。
謎の紋章が一つ、そして大きな菱形がふたつと、小さな菱形が4つ。
「なぁギンジョウ、この紋章、わかるか?」
「いえ……存じ上げません。
これは、一体……」
「ギンジョウでも知らないか」
「はい」
「レベルが100より上の人間っていうのは、結構いるもんなのか?」
おそらくだが、この謎の紋章はレベル100だろう。
となると、俺の今のレベルは124だ。
どうやらレベル99がカンストってわけじゃないらしい。
「いえ、そのような話は聞いたことがありません……まさか……」
ギンジョウが胸のアザを見て気づく。
「フ……」
俺は不敵に笑う。
今のマガタはこの世界で最高レベルだろう。
あれだけの魔物の大群を処理したからな。
一気にレベルアップしている。
今の俺ならば、ギンジョウやヨネィザなどの手練れでも相手にならない。
レベル60前後の奴らなら100人相手でもかすり傷すら負わないだろう。
さてさて、この力を持って帰還したらどうなるか。
ルオカやアテラザ、奴らと全軍を以てしても俺一人に敵わないだろう。
ボコボコにしてひざまずかせてやろうではないか。
◇
チュンチュン……
別荘の朝である。
なんだよ。
これから美味いもの食って、ルオカをボコボコにしようってのに……
いいところで目覚めてしまった。
「ふぁ〜……」
俺は大きくあくびをし、背筋を伸ばす。
さっと顔を洗い、キッチンへ向かう。
朝のコーヒーである。
今は挽いてあるコーヒーの粉を使っている。
バイト代が入ったらコーヒーミル買おうかな。
それくらいならいいだろう。
俺はコーヒーを飲みながら『罠師』の中身を確認する。
……あれ?
「皆、我に続けぇ!!」
いやいや、なんか口調違くない?
俺、我とか言ってないし……
いや、口調が全部もとのマガタのものになっている。
ざっと内容を確認する。
中身自体は、夢と同じだ。
ただ、マガタの口調が俺じゃ無くなっている。
そして最後のページを開く。
おいおいおい……
『こうして、コクテの街はマガタの活躍により救われた』
『完』
「はあぁぁ!?」
俺は思わず大きな声を出してしまう。
ったくふざけんなよ。
これからルオカをボコボコにしようってのに……
!?
ん?
いや……変化はマガタの口調だけでは無い。
表紙だ!!
『罠師 Ⅰ』
1!?
1ってことは2があるだろ、これ。
カーンコーン……
別荘の呼び鈴だ。
伊藤さん以来の来客である。
ガチャッ……
俺は大きな扉を開ける。
「書き留めです。
書咲様、でよろしいでしょうか?」
「はい、書咲です」
俺に?
ここ、渋谷先生の別荘だぞ。
俺はサインをして、封筒を受け取る。
「なんだって俺に……?」
ぶつくさ言いながらキッチンへと戻り、封筒を開ける。
は?
なんだこれ?
明細書だ。
70万?
いやいや……
は?
ちょっと混乱してきた。
これはとりあえず渋谷先生に連絡だな。




