第23話
チュンチュン……
鳥の鳴き声が聞こえる。
あれ?
別荘だ。
シャッ!!
俺はカーテンを開ける。
何気にこの部屋から庭を眺めるのを気に入っている。
今回も死なずに戻ってきた。
てことは、間違えてないってことだよな?
多分……
俺は『罠師』の本に目を通す。
確かに、俺の行動が文章になっている。
とりあえず、しおりはここに挟んでおこう。
俺はコーヒーを淹れる。
あくびをしながらスマホを確認する。
日にちの経過はいつも通り1日だ。
あまりに夢が長いから、感覚が狂う。
しかし、2、3日経っていたら本気でやばいからな。
とりあえず朝食を食って、本の整理をする。
わけのわからない夢のことを考える前に、やるべきことをやるのだ。
自分で言うのもなんだが、俺はクソ真面目だ。
その真面目さが買われて一人で監視のないバイトができているわけだ。
渋谷先生の期待を裏切るわけにはいかない。
そして上場企業の内定をいただく。
◇
しっかし、整理しても整理しても終わらないな。
そんなに広いわけじゃないのに。
まぁ今日はこの辺にしておこう。
さっとシャワーを浴びて夕食を済ます。
今日は『コクテの歴史』を確認しておきたいので、コンビニ弁当で済ませる。
まずは周辺の地図だな。
以前も確認はしたが、今回はより詳細に確認する必要がある。
【岩石落とし】が使えそうな場所をチェックだ。
炭鉱では狭い通路が無数にあったため、比較的簡単に罠を使うことができた。
しかし、荒野では使える罠が限られる。
魔物の大群がやってくる方向で、高低差があるところは全部チェックしておきたい。
前回【岩石落とし】を設置したところ以外にも、いくつかあるな。
魔物の大群が来るまでに、全部に設置できるだろうか。
◇
「今日も罠っスか?」
「カホク、お前ついてこなくてもいいぞ」
罠の設置をひたすら続けるだけだからな。
俺一人でできる。
「まぁ街にいてもやることないっすからねぇ」
「そうか? ギンジョウは忙しそうにしてるだろ」
「いやぁ、そういうのやりたくないんスよ」
「結局ついてくる理由はそれか」
「!!」
カホクの間の抜けた表情が急に引き締まる。
「誰か……来るっス……」
「誰かって?」
「多分、敵です」
「あ……」
そうか。
俺としたことがうっかりしていた。
あれだけ街の有力者を粛清したのだ。
命が狙われるのは当然のことだな。
「まぁけど、スクワタ周りの兵士は雑魚だったよな?」
「はい……けど、多分強いのが来てるっス」
「なるほど。
おそらく強いのを金で雇ったな」
「そうっスね!!」
ガキンッ!!
カホクが話終わる直前に岩陰から斬撃がくる。
カホクは斬撃を受け止め、交戦を始める。
ガキン!!
ギンッ!!
「こいつ、結構強いっス!!」
「今行く……」
ボワッ!!
俺はカホクに加勢しようと近づくが、目の前を炎の玉が猛烈なスピードで横切っていく。
「危な!!」
レベルが上がっていなければ直撃だ。
ボワッ!!
ボワッ!!
ボワッ!!
クソ!!
カホクに近づけない。
罠なんて発動させている暇もない。
さらに、遠距離から【炎魔法】が連続で飛んでくる。
今のレベルでも避けるので精一杯だ。
ピシィッ!!
しまった!!
【氷魔法】だ。
足元に氷が張り、身動きが取れなくなる。
「もらったぁ!!」
クソ!!
前衛がまだいたのか!?
ズバッ!!
俺は胴体を真っ二つに斬られる。
◇
ガバッ!!
俺は別荘のベッドから飛び起きる。
「はぁ……はぁ……」
久しぶりに殺されての退場だ。
汗がすごい。
もちろん最悪の寝起きである。
やられた。
まぁ甘かったよな。
あれだけ圧力をかければ、当然命を狙われるだろう。
これから魔物の大群がくるわけだから、そっちばかりに気を取られていた。
しかし、なかなかの手練れだったな。
マガタは前衛職ではないとはいえ、レベルがかなり上がっていた。
向こうのほうが人数もレベルも上だったわけだ。
【岩石落とし】の設置はギンジョウかヨネィザを連れていくべきだろう。
そうすれば、暗殺されるようなことはない。
……………………
いや、待てよ?
俺は『コクテの歴史』を確認する。
さすがに暗殺者の情報までは載ってないな。
パラパラ……
俺は炭鉱の地図を確認する。
以前にやられたとき、効率よく炭鉱を攻略した。
その中には、罠に向いている炭鉱がいくつもあった。
狭い通路だからな。
罠が仕掛け放題なわけだ。
この炭鉱がベストだな……
フフフ……
敵が来ることが分かっていれば、何もギンジョウやヨネィザに守ってもらう必要はない。
返り討ちだ。
狭い炭鉱でトラップ地獄をお見舞いしてやろう。




