第20話
俺は朝から優雅にコーヒーを飲む。
別荘地での朝のコーヒーは格別だ。
あのふざけた夢さえなければ……
おかしな本に、おかしな夢、おかしな管理人……
やっぱり渋谷先生が俺に書庫の整理を頼んだことと、この不思議な現象は無関係ではないよな。
しかし考えても仕方がない。
俺はすぐに切り替える。
「よし!! やるか!!」
俺は朝食とコーヒーを済ませ、書庫の整理をする。
なにしろ一流企業の内定がかかっているのだ。
本気にならざるを得ない。
昼まで休憩なしで本の整理をしたあと、俺は徒歩でコンビニへ行く。
先輩に格安で譲ってもらった軽自動車があるのだが、一日中書庫の整理は気が滅入るからな。
あえて徒歩でコンビニへ向かい、食料を買っておく。
夜の分も買っておこう。
昼休憩の後、夕方までひたすら本を整理する。
今日の分は終わりだ。
そして、仕事が終わったら隠し部屋へいく。
気になることがある。
あの夢は無理ゲーだ。
昨日の夢では、最高効率で魔物を倒し、金を稼いだ。
しかし、それでも不十分だ。
それにスクワタに邪魔される。
自力で稼いでも届かない。
ならば、スクワタの財宝を奪うしかないだろう。
他に何か情報がないか、『コクテの歴史』という本で確認をする。
この本は『罠師』の中に出てくるマガタの領地コクテの詳細だ。
炭鉱のマップもこの本で覚えた。
俺は今回、炭鉱以外の周辺の地図を確認する。
街にたいした壁が作れないのならば、街の外から魔物の大群を迎え撃つことになる。
となると、地形を利用するべきだよな。
魔物の大群は北の方向から来たはず……
何か利用できる地形を探しておこう。
よくあるのは水責め。
近くの川の水をせき止めておき、魔物が来たら一気に放流だ。
で、それは無理。
あの辺は川がない。
だからあんなに土地が乾いており、農作物もそれほど育たない。
荒野だ。
水責めは無理だな。
それから火責め。
これも無理。
森もない。
荒野だ。
高低差は少しあるみたいだな。
この地図だといまいちわかりにくいが、ここら辺は少し谷のようになっているのか?
細い道と高低差があれば、そこから岩なんかを落とし、攻撃することができるよな。
魔物の大群が来るまでの時間で、大量に仕掛けておけば役に立つだろうか。
次に人物についてのページを見る。
スクワタについてもある程度記載があるな。
あ!!
こいつ、やっぱり税金をちょろまかしているな。
アテラザに送るはずの税金をかなり着服してるっぽい。
それで隠し部屋に財宝か。
金策はやはり、こいつの財宝を根こそぎ使ってやるしかないようだな。
◇
コクテの街で意識が戻る。
夢の続きだ。
夢はヨネィザたちと炭鉱のボスを倒した翌日。
前回目覚めたところよりも、少しだけ時間が進んでいる。
伊藤さんに渡されたしおりの効果を確かめるため、数ページ進めたところに挟んでみた。
すると、前回よりも少し時間が進んでいる。
しおりを挟んだところからスタートで間違いない。
まずは地形を確認したい。
本で地図を見ただけだからな。
実際の場所で高低差などを確認しておく必要がある。
「今日は北の方面へ行く予定だ」
俺はギンジョウとカホクに言う。
「また廃炭鉱の調査っスか?」
「いや、今日は周辺地形の確認だな」
「北の方角ですか……」
ギンジョウがつぶやく。
「北に何かあるのか?」
「逆です。北にはなにもございません」
「なるほど」
「マガタ様って炭鉱の道知ってたのに、そういうのは知らないんですね」
「お前は一言多いな。黙ってついて来い」
「へーい」
◇
「確かに何もないな」
「これを見に来たんですか?」
カホクがつまらなそうに言う。
「そうだ」
まんま荒野だな。
「確かに何もないが、それは廃炭鉱や資源という意味だな」
しかし、ゴツゴツとした岩や段差はある。
切り立った断崖もある。
魔物が突っ込んできたときに、上から岩を落とせばそれなりに倒せるだろう。
金を稼いで大掛かりな罠をしかければ、大群の勢いを抑えられるはずだ。
となると、やはり金が必要だな。
「戻るぞ」
「えぇ!! マジっすか……」
カホクが愚痴を言うが俺はそれを無視する。
ここで得られるものはこれ以上なさそうだ。
街に戻って金策だな。
◇
俺は夜スクワタに面会を申し入れておいた。
しかし、ヤツからの連絡はない。
スルーされているのか?
マガタはとことん舐められているな。
どうやらこちらから出向くしか無さそうだ。
「ギンジョウ、ついてきてくれ」
「はい。承知しました」
俺はギンジョウを連れてスクワタの屋敷へと行く。
「スクワタ様は既にお休みです。
後日来てください」
入り口の兵士がほざく。
「面会の予定は伝えたはずだが?」
「スクワタ様は既にお休みです。
後日来てください」
なんだこいつ。
NPCかよ。
「とりあえず入るぞ」
「通せません」
「それは困ったな……そうだ。
これでなんとか面会できないか?
こっちは君の分で、こっちはスクワタに渡してくれ」
俺は兵士に金貨を渡す。
「………………」
兵士は無言で金を受け取ると、中へ入っていく。
「おい、お前はダメだ」
ギンジョウは外で止められる。
マジか。
できればギンジョウにも来て欲しかったが。
「どうぞ、こちらです」
戻ってくると中へ案内される。
相変わらず豪華な屋敷だ。
ゴンゴン
俺は扉をノックすると、中へ入る。
スクワタはふんぞり返って高そうな酒を飲んでいる。
「これはこれはマガタ様。
今回は面会方法を学習してくださったようですな」
スクワタはほくそ笑むと、俺が渡した金貨を見せてくる。
「今後は、面会のたびに金貨を用意しておく必要があるということか」
「ハッハッハ!! その通りです。
よく学習できてい……」
スパッ!!
俺はスクワタの首を切り落とす。
レベルが上がっていたこともあり、一瞬で切り落とすことができた。
ゴトッ!!
奴の首が床に転がる。