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書庫と異世界と悪夢  作者: 橋下悟
第一章 罠師
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第2話

どうなってんのこれ……


「いやぁ、流石にそれで斬られたら起きるだろ」


俺の勘違いか?

いや、昨日はこんなセリフ無かった。

そもそも、主人公のマガタはこんな話し方ではない。


本が夢のとおりに?

いやいや、バカバカしい。

そんなはず……。


ブー……ブー……。


通知のバイブ音に俺は驚く。

「おい、隠し部屋はどうなったんだよ」

あ、そうだった。

とりあえず返信をしておく。

「ただの書庫だったわ」

「なんだつまんねぇな」


ふぅ~……

友達とやり取りをしたことで、若干落ち着いたな。

とりあえず水飲んでシャワー浴びたい。


ゴクゴクゴクッ!

喉がカラカラだったので水を飲み、シャワーへ向かう。

別荘なだけあって、浴室は古いが一般家庭よりやや大きい。


水回りはリフォームしたのか、古い感じはしない。

最新というわけでは無いが。



軽く朝食を食べ、本の整理を始める。

昨日の夢はなんだったんだろう。

そしてあの本……

まぁ考えても分かることではないが……

非常に気になるが、バイトをサボるわけにはいかない。

何しろ俺は真面目なのだ。

さっさと本を整理してしまおう。



昼飯を食べながら、「罠師」の本を読む。

「うるっせぇ!」

これ、俺が夢で言ったヤツ。

「おい、今喋ったやつ。全員顔覚えたからな。笑ったやつもひとり残らず!」

これも俺が夢で言ったヤツ。

「ウォオイ! 誰が、しゃべっていいつった?」

これはルオカが言ったヤツ。


マジか。

マジで夢のまんまじゃん。

昨日読んだ内容と全然変わっちゃってるんだけど。

あれか。

そもそも昨日読んだ内容を勘違いして……

いや、それはないな。

内容が少しだけ違うとか、そんなんじゃないし。

全く別物なわけだ。

勘違いとか記憶違いとかそういうレベルではない。


まぁ……

夢のとおりに本が書き換わったってことだよな……

「んな馬鹿な……」

つい独り言を言ってしまう。


もう一度隠し部屋に行ってみるか。

俺は、「罠師」を持って隠し部屋へ行く。

昼間に行っておかないと、夜ちょっと怖いし……



「罠師」を元あった場所に戻す。

気味が悪いんだよな……

部屋に持ち帰ったのが間違いだったような気がする。

そして隠し部屋の扉の鍵をしっかりとかけ、本棚をスライドさせる。

マジで勘弁だわ。



夕方まで本を整理するが、全く終りが見えない。

本の整理が終わったら別荘で優雅に過ごそうか、と思っていたがまず無理だろう。

別荘自体は居心地が良いんだよな……昨日のような悪夢がなければだが。



俺は近くの温泉にやってきた。

別荘地には、日帰り浴場もある。

なんと、バイトの俺に回数券を与えてくれたのだ。

バイトの間、来ようと思えば毎日来ることができる。


俺はSNSや動画を見ながら注文したカツカレーにがっつく。

近くの温泉といっても、少し距離があるので車できている。

小さい軽自動車だ。

だからここで酒を飲むことはできない。

帰りに少しお酒とつまみを買って別荘で食おう。



プシュッ!

今日はハイボールだ。

さっきカツカレーを食ってきたので、ハイボールとアイスクリームを食べる。

デザートで酒を飲むのは割りと好きなんだが、あまり共感は得られない。

というか、友達もあんまり酒を飲まないのだ。

一通り動画をみると、寝る時間になる。


今日は大丈夫だよな……?



「マガタ、東の地コクテをお前の領地とする」

マジかぁ……

本は隠し部屋に戻したんだけどなぁ……

それだけじゃダメってこと?

「おいおい、返事もろくにできねぇのかよ……」

それ、昨日も聞いたよ。


「ったく……やってられるかよ」

俺はため息混じりに言う。

「な!」

あたりがザワつく。

そりゃそうだろう。

マガタの父アテラザは領主様。

この物語ではバリバリ偉い人だ。

逆らうなんてあり得ない。


けど、俺には関係ない。

「汚え馬車に、最悪の領地。やってられっかっつーの」

あと夢だし。

マジで俺には関係ない。

「ふざけるな!!」

怒鳴ったのは父アテラザではなく、異母兄弟の兄ルオカだ。

「うるせぇクソ野郎。いつもふざけてんのはてめぇだろ」

そして、この物語の主人公マガタは不遇だ。

妾の子ということで、この正妻の子ルオカには絶対服従。

毎日毎日しいたげられ、哀れな人生を送っていたのだ。

「ルオカよ……もうよい」

アテラザが言う。

その表情は極めて冷たい。

心底マガタに興味がなさそうだ。


たしか、マガタが不遇なのは妾の子ってだけじゃ無かったはずだ。

剣や魔法の才能が無いことで、父親のアテラザにまで見放されているんだった。

そう、この物語は剣や魔法が使えるファンタジーなのに、肝心の主人公が剣も魔法も使えないのだ。

それに対し、異母兄弟であるルオカは剣も魔法も一級品。

肩身が狭いはずだ。


まぁでも俺には関係ない。

「我が命に従えないのならば、牢屋にでも入ってもらおう」

「は?  嫌だよ。くたばれ老いぼれが」

俺は悪態をつく。

何故なら俺には関係ないからだ。

「なんという……」

「不敬だぞ!」

あたりが再びザワつく。

「父上、どうかこのルオカにこの不届き者を始末させてください!」

「またてめぇかよ……」

こいつに昨日斬られてるからな。

「許可する」

俺が身構える間もなく、ルオカが接近し抜刀する。


はやっ!

抜刀したと認識した瞬間に、ルオカが目の前にいる。


ズシャッ!



がばっ!

目覚めると、別荘の寝室だ。

なんだよ……なんなんだよ……。

目覚め超悪いんですけど。

俺の気分とは真逆に、天気がよく、窓からきれいな朝日と庭の木が見える。


あ~……。

なんだかすごく嫌な予感がする。


グビグビグビッ!

俺は水を一気に飲み、足早に書庫へ向かう。

本棚をどけ、隠し部屋の鍵を開ける。


カチッ!


地下室の電気をつけ「罠師」を手に取る。


「父上、どうかこのルオカにこの不届き者を始末させてください!」

「またてめぇかよ……」


マジかぁ……。

やっぱりマジかぁ……。

やっぱり夢のとおりの本が書き換わってる。

この本どうなってるわけ?

俺は本を入念に調べる。

本自体は豪華だが、年季が入っており昨日書き換わったような形跡はない。


ん?

こんなのあったっけ……。


「どうか、どうかマガタをお救いください。書咲現夢かきざきげんむ様」


!!

ちょ!!

俺の名前!!


マジか!

マジなのか!?

しかし、書咲なんて名字はあまり無い。

同姓同名なんてあり得ないだろ。


それに、これまで起きてきた不思議な現象を考えると、これは俺へのメッセージなのかもしれない。


そもそもこの「罠師」最初の内容より悪化してるよな。

最初に読んだとき、マガタは東の領地に到着していた。

東の領地が治安が悪く、貧困も酷い。

賄賂が横行していた。

マガタは正義感が強く、まずは賄賂を止めようとしたんだ。

その結果、配下の役人に目をつけられたうえに、城の食料が強奪される。

さらに魔物の軍勢まで迫ってきて、領地を守ろうとするも、食糧が無いのでろくに籠城もできずに絶命。

不遇である。


これをなんとかしろって?

バイトの俺が?

お救いくださいって言われてもな。

何かできることなんてあるのだろうか。

まぁもし今日も同じ夢を見るようだったら、少し頑張ってみるか……。



「マガタ、東の地コクテをお前の領地とする」

ですよね。

「謹んでお受け致します!」

俺はビシッと跪く。

「フン……クズが……」

ルオカが聞こえるように言ってくる。



「おいおい、汚ねぇ馬車だな」

「お兄様、お見送りありがとうございます!」

俺はルオカにひざまずく。

コイツちょっとしたことでマガタを殺すからな。

ルオカに元気よくお礼を言うと、若干引いているように見える。

「フン……せいぜい領地運営に励むことだ」

「ハイッ!」

さて、殺されずに済んだな。

出発するか……

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甘い物には黒糖焼酎 和にも洋にもオススメ
セーブポイントがないとつらいな・・・
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