第19話
だから、夢がなげぇのよ。
死ねば目覚めるだろうけど、前回みたいに途中で起きたりしないのかな。
あれから効率よく廃炭鉱を攻略していった。
俺のレベルも爆上がりしている。
なにしろ、炭鉱は罠を仕掛けるのに適しているのだ。
そして、マガタのレベルも大幅に上がっている。
今のマガタのレベルは32だ。
レベルアップにより、身体能力も上がったが、さらにスキルも習得した。
ヨネィザと炭鉱のボスを倒した時に使っていた【落とし穴】と【ウォールプレス】の他に、【グランドニードル】というスキルを習得したのだ。
【グランドニードル】は地面に仕掛ける罠だ。
そこを通ると、地面から無数の鋭い針が出現する。
スケルトンは骨なので、あまり相性のいい罠ではないが、【ウォールプレス】と違って、外でも使えるのが利点だな。
「マガタ様ぁ、見てくださいよ」
「なんだ?」
カホクが機嫌良くアピールしてくる。
鎧だ。
カホクの鎧が銀ピカに光っている。
「いい鎧だな」
「でしょぉ!! これ、高かったんスよ!!」
効率よく稼げてご機嫌のようだ。
俺とギンジョウ、カホクで稼いだ金の一部はきっちり報酬として渡しているからな。
「マガタ様は装備新しくしないんスか?」
「いや、俺は必要ないな。
前線で戦ってもレベルは上がらないし、罠の方が戦力になるだろ。
だから身動きが取りやすい今の装備で十分だ」
「やっぱマガタ様は変わってますね」
「そうか? 効率を考えれば普通だろ」
「普通領主様って言ったら、そういう装備にこだわるんスよ」
「フ……」
俺は鼻で笑ってしまう。
まぁ俺はこいつらと価値観が違うからな。
正直くだらねぇとしか思えない。
それから、ヨネィザが狩りを手伝ってくれたのも大きい。
ただし、現地集合でこっそり手伝ってくれていた。
ヨネィザは父の遺品が見つかったときに、スクワタの兵としての仕事を辞めている。
その直後にマガタとともにいると知られてしまうと、スクワタと敵対してしまう可能性がある。
そのためヨネィザにはこっそり手伝ってもらっていたのだ。
炭鉱での稼ぎとしては、かなり効率が良かった。
しかし、これだけであの魔物の大群をなんとかできるのか?
なにしろすごい量だったからな。
そしてスクワタの許可をもらい、なんとかヤツの館の防壁を作ることができた。
こっちが無償でやるっていうのに、異常なほど嫌がっていた。
あいつ、屋敷の中に相当貯め込んでいるいるからな。
前回魔物の群れが街にやってきたとき、馬車に金銀財宝を積んでいた。
屋形のどこかに隠しているそれを見られたくないのだろう。
◇
「ま、魔物です!! 魔物の大群が街へ向かっています!!」
来たか。
「街の冒険者を集めろ!! 金ならある!!」
嘘である。
ここしばらく、炭鉱の魔物狩りで最高効率を出している。
暗記した炭鉱マップと冒険者の遺品や掘り出されていない金属。
それらを集めまくったが、時間が足りない。
ぶっちゃけ金は最低限しかない。
しかし、ここで冒険者に残ってもらわなければ太刀打ちできないのだ。
俺はすぐにスクワタの屋敷へ向かう。
壁を強化したあの屋敷なら少しはもつだろう。
籠城しながら罠で魔物の数を削るしかない。
「スクワタ!! ここで籠城させてもらうぞ」
「ご自由にどうぞ!!」
あれ?
まためんどくさいことになるかと思われたが、スクワタは素直に応じる。
「他に馬車はないのか!?
冒険者にも声をかけろ!!
通常の3倍、いや5倍の金を出すぞ!!」
「な!!」
マジか。
そうだった。
こいつ街を放棄して逃げるんだ。
防壁を作ったところで、その選択は変えられないか。
まずいな。
街の防衛に残ってもらうはずだった冒険者がスクワタに取られる。
そもそも冒険者全員に残ってもらったとしても微妙な状況なのに、スクワタに足を引っ張られてはどうにもならない。
「お、俺たちも逃げましょうよ」
カホクが言う。
確かに……今回も詰みだな。
「わかった。街を放棄して避難するぞ。
準備してくるからお前らは先に行っていろ」
俺はカホクにそう言うと、別行動をとる。
やることがあるのだ。
スクワタはこのコクテの街を放棄するときに財宝を持ち出している。
その場所を確認しておく必要がある。
俺は金属の胸当てや脛当ての装備をはずす。
動くときに金属音が出ないように、動きやすい服と剣のみの装備にする。
バタバタとしているスクワタの後をつける。
スクワタが部下に指示を出しては、周りをキョロキョロとしている。
そして、部下2人に声をかけている。
奴ら3人は周囲を確認しながら移動を始める。
財宝を運ぶためだろう。
一人では運びきれない量ということか。
奴らは周囲を警戒しつつ移動はしているものの、街全体が魔物に大慌てしており、この屋敷も例外ではない。
スクワタ以外にも自分のものを持ち出している兵士や執事、メイドがバタバタと動いている。
だから、俺があとをつけていても、それほど目立つことはない。
そして、奴ら3人はスクワタの寝室に入っていく。
なるほど、ここにお宝があるわけね。
奴らが寝室に入ってから少し時間が経つ。
遅いな……
ギィ……
俺は扉を開けて中を覗く。
あれ?
誰もいない。
中に入るが、やはり誰もいない。
俺は部屋の中を確認する。
あ……暖炉だ。
暖炉から薪が出されて周囲にススがある。
なるほど、暖炉の奥に隠し部屋ね。
出てこないってことは、そのまま外に繋がってるのか?
俺は屈んで暖炉の中へと入っていく。
「急げ!! 最悪価値の高いものだけでも持っていくぞ」
スクワタは自身と部下で財宝を持ち出している。
やはり外につながっているようだ。
外のどの辺りに繋がっているかも気になるな。
「誰だ!!」
やべぇ、見つかった。
「俺だよ、俺!! 貴族様だよ!!」
俺は開き直って大きな声をだす。
だって今回もう詰みだし。
「んで落とし穴!!」
俺はスクワタと部下の真下に落とし穴を発動させる。
「な!!」
ドゴッ!!
マガタの謎のハイテンションに驚き、隙だらけの奴らは簡単に落とし穴に落ちる。
「ハハハァ!! バァーカ!! ざまぁ!!」
俺は奥の通路を走り抜ける。
ここから外につながるはずだ!!
◇
チュンチュン……
小鳥の鳴き声が別荘の朝を告げる。
「ふぁーぁ……」
俺は大きく背伸びをする。
枕元にある『罠師』の本を確認する。
「ハハハァ!! バァーカ!! ざまぁ!!」
このセリフ、明らかに本の内容に合ってないよな……




