第18話
渋谷先生の別荘へと戻ってきた。
結局伊藤さんが何者なのか、どうして渋谷先生の叔父さんが書庫の管理について言及していたのかは謎のままだ。
渋谷先生の方でも調べていて、何かわかったらすぐに連絡をくれるとのことだ。
バイト代と内定のために、別荘での書庫整理を続けるしかない。
そう思った矢先に思い出した。
客間のテーブルには、木箱が置いてある。そういえば伊藤さんが置いて行ったんだ。
パカ……
俺は木箱を開ける。
中には装飾された金属の板がある。
幅3cm、長さ10cm程度の薄い金属の板だ。
しおり……に見えなくもない。
「………………」
俺はなぜだかそれをしおりだと思った。
そして、それを部屋へと持ち帰り、『罠師』の本に使う。
本はヨネィザたちと炭鉱を攻略したところから白紙だ。
一体今日の夢はどうなるんだろうか。
全てがただの夢と俺の勘違いで、明日から普通のバイトになるような気もする。
何事もなければ、ただの割のいいバイトだ。
◇
目が覚めると、別荘ではない。
自宅でもない。マガタの自室である。
ということは、本の中へ戻ってきたということだ。
しかし、これまでとは違う。
いつもの夢は、王座の間から始まっていた。
アテラザにコクテの街へ行けと言われるところだ。
今回はすでにコクテにいる。
前回の夢の続きだ。
おそらく、あの金属のしおり。
あれがセーブポイントの役割をしているのだろう。
直感的にそうわかる。
ここまでの夢で、ヨネイザの信頼を得ることができた。
あとはマガタのレベルアップ、そして、炭鉱にあった冒険者の遺品で少しのお金も手に入っている。
しかしこの程度では、あの魔物の量はどうにもならない。
コクテの街を防衛するために、堀や塀を作る必要がある。
そしてそのためには、まだまだお金も必要だ。
実質この街を仕切っているスクワタは、金を出す気が全くないからな。
俺自身で稼ぐ必要がある。
現状マガタができることといえば、炭鉱で魔物を狩り、冒険者の遺品や魔物の素材を売るくらいか。
幸い炭鉱の通路は罠を使うのに向いている。
しかし、それだけで街を囲むほどの塀を作る金が集まるかといえば、きびしいだろうな。
街を囲むまで行かなくても、魔物が来る方向はわかっている。
そこだけでも、塀を作り、あとはマガタのレベルを上げて、罠でなんとかするしかない。
いや、なんとかなるのか?
まぁ知らんけど。
書庫整理のバイトとは違って、夢の攻略は本に頼まれただけだからな。
俺ができる範囲でやれることはやってみるけど……
◇
「承知しました」
「今日も、炭鉱っすか? イイッスねぇ」
ギンジョウとカホクを連れて、冒険者ギルドへ来ている。
炭鉱で稼ぐなら、魔物の討伐でついでに金が稼げるからな。
「しかしカホク。お前、乗り気だな」
「いやぁ、昨日だけで結構稼げましたからね。
まさかマガタ様があんな穴場を知ってるなんて驚きですよ」
確かに、俺しか知らない炭鉱で、しかも道や遺品の場所まで頭に入っているからな。
稼ぎとしては、かなり効率がいいはずだ。
「ですが、マガタ様。
冒険者ギルドに依頼を出すならまだしも、冒険者として魔物を討伐するのは厳しいでしょう?」
「そうなのか?」
「はい。
冒険者ギルドは領主から独立した組織ではあるものの、完全に独立しているわけではありません。
場合によっては、領主様がその税収から報酬を出すこともあります」
「あぁー……なるほど。
つまり、本来報酬を出す側の人間が、なんでそこで稼ぎにきてんのかって話になるわけか」
「その通りです」
「いやしかし、税収はスクワタに取られてるからな。
ギンジョウ、他に稼ぐために何かいい案はないか?」
「我々で倒した魔物の素材やアイテムを直接商人に売却するくらいでしょうか」
「なるほど。それはむしろギルドを通すよりもお金が入るのではないか?」
商人と直接やりとりをするならば、ギルドの手数料がかからないはずだ。
「確かに、良い商人に巡り会えればギルドを通すよりも良い収入になりますが……」
「良い商人か」
なんだか含みを持った言い方だな。
多分厳しいのだろう。
安く買い叩かれてしまうってことか?
「まぁマガタ様が昨日みたいな穴場を知ってるんなら、かなりの収入になるんじゃないっすか?」
カホクが言う。
どうやらよっぽど昨日の収入が良かったらしい。
冒険者の遺品や魔物の素材は、ヨネィザが全て売っ払ってくれた。
そして、その一部をギンジョウとカホクに分けたのだ。
「かなりの収入か……」
とはいえ、必要な金は膨大だ。
できれば街全体を大きな塀で囲みたいが、規模的にも残り時間的にも無理だろうな。
だとすると、街で籠城に使えそうな場所はスクワタの屋敷だ。
あの屋敷の塀を、今あるものよりも強固なものにし、そこに籠城しながら戦うしかない。
しかし、あのスクワタが屋敷の塀を強化することを許可するだろうか。
まぁ俺が金を出して、スクワタの屋敷が強化されるなら悪い話ではないよな。
どっちにしろ金がなければできない話だ。
ぐだぐだと考えても仕方ない。
「行くぞ!!」
俺はマップを記憶している炭鉱の中で、お宝があり、効率の良い順に回っていくことにする。




