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書庫と異世界と悪夢  作者: 橋下悟
第一章 罠師
17/53

第17話

ブー……ブー……着信だ。


「はい、書咲です」

「渋谷です」


「おはようございます。渋谷先生」

「今日は午前中から研究室にいるから、時間があるときに来てよ」


「はい。わかりました」

俺は早速大学の研究室へ向かう。



コンコン……


「失礼します」

「どうぞ」


「やぁ、早かったね」

電話があってすぐに出発したので、10時には大学に到着する。


「コーヒー、ブラックでいい?」

「はい。ありがとうございます」

渋谷先生がコーヒーを淹れていくれる。


渋谷先生の研究室は圧迫感がある。

本が多すぎるのだ。

部屋の左右の壁には、本棚やラックが天井まであり、難しい専門書やファイルが所狭しと置いてある。


コト……

「どうぞ」

「ありがとうございます」

研究室の無機質なテーブルの上にコーヒーが置かれる。


「早速なんだけど、これ、見てくれる?」

「写真……ですか?」

テーブルの上に、アルバムが置かれる。

中には古い写真がたくさんある。

白黒だ。

いつの時代だろうか。


渋谷先生はアルバムをペラペラとめくっていく。


「あ……」

あの別荘だ。

建てた当時の写真だろう。


「見て欲しいのはこれなんだけど」

大きな白黒の写真。

写っているのは、あの別荘だ。

そして、別荘の前には15人くらいの人。


「これは、先生の?」

「そう。ご先祖さまってほど古くは無いんだけど、祖父の祖父くらいかな?」

なるほど。


「誰か見覚えある?」

「いや……先生の一族ですよね?」

俺は一人一人顔を確認していく。


「え……この人……」

俺は写真の一人を指さす。


「この人?」

「伊藤さん……」

写真の一人が伊藤さんとよく似ている。

当時の写真なので、画質が粗く一人一人の顔がはっきりと見えるわけでは無い。

しかし、背格好が同じなのだ。

ただ似ている人、と言われればそれまでだが、同一人物と言えばそのようにも見える。

しかし、同一人物なんてのはタイムスリップでもしない限りあり得ない。


「やっぱり……」

「やっぱり?」

渋谷先生が気になることを言う。

何か知っているのだろうか。


「あの別荘ね、僕が相続する前の前は叔父さんのものだったんだ。

 叔父さんがさ、この別荘は特別だって言うのよ」

「はぁ……」


「それで、ずいぶん前のことだから僕も忘れちゃってたんだけど、叔父さんがさ、もしお前が相続して管理するなら、書庫は絶対に管理しろって。

 それで、伊藤さんて人が現れたら、お前自身で管理しろだって」

あれ?

でも書庫は俺が整理しちゃってるよな。


「じゃあ伊藤さんが現れなかったら?って聞いたら、誰かに管理させてみろって」

「それが俺ですか?」


「そう。それで、そのときに伊藤さんが現れたら、必ずその人に管理をしてもらえって」

「はぁ……え?」

返事をしてから気付く。

それって俺が管理するってことか?


「まぁ叔父さんも亡くなってるからさ、別に言う通りにしなくてもいいだけどね……

 僕小さい頃結構叔父さんに遊んでもらったし、なんとなく気にはなるんだよねぇ」

渋谷先生は、そう言うと棚から大きなファイルを持ってくる。


ゴトッ!!


先生は大きなファイルをテーブルの上に置くと、バラバラと広げる。

何かの資料かと思ったが、そうではないな。

何枚ものカードが入ったファイルだ。


カード……?

いや、名刺だ。


「ここの研究室って実験がメインじゃない?

 だから実験の機材なんかをメーカーに発注してるんだよ」

「はい、先輩から聞いています」

僕はまだ3年生なので、研究室には所属していないのだが、実験系の研究室はそういうものだという話だ。


「普通には販売されていないものを発注するわけね。

 それがさ、すっごく高いのよ」

「みたいですね」


「発注するとすっごいお金がかかってさ、まぁ僕のお金じゃなくて大学のお金なんだけどね。

 これ、いくらしたと思う?」

先生は10cm程度の金属の輪を見せてくれる。


「何か特殊な金属なんですか?」

「いや、普通の金属だよ」

ただの輪っかだよな。

普通の店で売っていたら数百円だろう。


ただ、高いって言ってたからな。

「5000円とかですか?」

「いや、6万だよ」


「え!?」

マジかよ。

こんなゴミ捨て場に捨ててあるような金属が6万?


「高いからさ、新しい実験を始めるときには、だいたい営業の人が二人来るのよ。

 それでね。そのときに名刺を置いていくんだよね」

「なるほど」


「書咲くんさ、就職に興味あるメーカーってある?」

「え!?」

興味のあるメーカー?


「まぁさ、バイト頑張ってくれたら、推薦するのもやぶさかではないよね」

なんだって!?

「マ、マジっすか……」

教授推薦ってやつか!?

有名企業とかもはいってるぞこれ。


今の俺には金が必要だからな。

就職するのは2年後だが、弟の学費もできればなんとかしたい。

奨学金なんかも借りることはできるが、お金があることに越したことはない。

それに、早くに内定がもらえたら、きっと母さんだって安心できるはずだ。


「バイト、続けさせていただきます!!」

「いいよねぇ。僕、書咲くんのそういうところ、嫌いじゃないよ」

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