第16話
俺は学内で弁当を買って帰る。
大学は学食だけでなく、弁当も安い。
夏休み中も営業しているのはマジでありがたい。
「ただいま、飯買ってきたぞ」
俺は弁当を持って居間に入る。
「あれ? 兄貴バイトは?」
「あぁ、今日休みになってさ。お前の飯も買ってきたぞ」
「おぉ、ナイス」
「んで、勉強進んでる?」
「帰ってきてすぐにそれかよ」
「だってお前、受験生だろ」
弟の時次は俺とは年が6つも離れている。
中学三年の受験生だ。
「楽勝だよ、楽勝。俺を誰だと思ってんだよ」
「お前、わかりやすいくらい調子に乗ってんな」
「そりゃそうだろ。あんなの授業中寝てても余裕だぜ」
確かに時次は頭が良い。
家でゲームばかりやってるくせに、成績は常に上位だ。
「あのなぁ、そんなの中学までだぞ。進学校に入れば、お前と同じようなヤツばっかりだからな」
「それなら高校行ってから勉強すればよくね?」
クソ可愛くない弟だ。
小学生まではあんなに可愛かったのに……
「それ食ったら母さんの見舞い行くぞ」
「へーい」
◇
午後には病院に着く。
俺はノックをして、病室に入る。
「母さん、来たよ」
シャー……
俺は病室の仕切りになっているカーテンを開ける。
「あら、現夢、時次。今日は来る予定だったかしら?」
母さんは起き上がろうとする。
「いや、寝ててよ」
俺は起き上がろうとする母さんを止める。
「今日バイトが休みになってさ」
「そう」
「渋谷先生の紹介だから、変なバイトってことはないんだけど不思議な感じでさ」
俺は母さんにバイトの話をする。
「おぉ、スッゲ! なにそれ、超面白そう。ホラーじゃん!」
時次のテンションが上がる。
「いや、マジで面白くねぇよ」
「そう? でも話を聞くのは楽しいわね」
母さんが笑顔で言う。
「おい、母さんまでそんなこと言う?」
「あら、ごめんなさい」
「それで、時次がゲームばっかりで全然勉強してないんだけど、母さんからも何か言ってよ」
「はぁ? 兄貴はバイトだろ? 俺はその間に勉強してんだよ」
「ウソつけ。お前のバケモノハンターのプレイ時間見たぞ。
この時期に200時間超えてるってどんだけやってんだよ」
「クソ、見られてたのかよ」
こいつは、夏休みにクソほどゲームをやっている。
「だから、母さんからも何か言ってよ」
「時次も第一高校に合格してくれると嬉しいな」
母さんは控えめに言う。
第一高校は、県内トップの進学校だ。
俺の出身校でもあり、ギリギリで合格した高校である。
「楽勝楽勝、A判定しか出てないわ」
時次は相変わらず調子に乗っている。
「ダメだな。コイツ一回成績下がんないと、勉強しないわ」
「それこそありえねぇよ。俺の成績が下がるとか、うんこ漏らすより確率低いわ」
ムカつく。
俺は必死で勉強してギリギリだったってのに。
◇
「それじゃ、そろそろ行くよ」
「また不思議なアルバイトの話聞かせてね」
「うーん……正直続けるかわかんないんだよね」
「なんだよ、ビビってんじゃん」
「うるせぇな、帰るぞ」
俺と時次は病院をあとにする。
「なぁ兄貴」
「ん?」
「俺が第一高校に合格すれば、母さん喜ぶかな」
「だろうな。入ってほしいって言ってたし」
「じゃぁさ、第一高校にトップで入学すれば、もっと喜ぶよな」
「だろうなぁ」
「そしたら母さん、良くなるよな」
「だな。入学式までには退院だ」
俺は弟に嘘をつく……
母さんは癌だ……
長くはない……
家のことやお金のこと、弟のことで心配をかけたくない……
俺が……
俺がしっかりしなければ……
ハッピーエンドです。
書咲は全てを解決できるイケメンです。