第12話
「…………います、大型です」
バナッザがヨネィザに言う。
この奥は確か少し広くなっている。
おそらく魔物も大量にいるだろう。
本には書いてなかったが、ボス戦だろうな。
「戦えそうか?」
ヨネィザが確認する。
「通常のスケルトンも多くいるようです。通路に引き込めばこの人数でも対応できるかと」
「なるほど、ちょっと待て」
俺は通路に【落とし穴】を設置しまくる。
「通路に【落とし穴】を設置した。みんな壁沿いをつたって歩いてくれ」
「マガタさまぁ、【落とし穴】じゃダメージになんないじゃないッスか。さっきの壁で押しつぶすやつのほうが良くないですか?」
カホクが聞いてくる。
最もな疑問だ。
「すまんな、【ウォールプレス】は数に限りがある。奥に魔物が大量にいるならば、【落とし穴】で進行速度を落とせば、魔物がなだれ込んでくることは無いだろう?」
「あ~、そうッスね」
しばらく【落とし穴】を設置していると、身体に脱力感が出てくる。
最後に通路の壁に【ウォールプレス】を3つ仕掛ける。
これ以上は無理だな。
「よし、魔物をおびき出してくれ」
「はい、ここは私が」
バナッザが前へ出る。
「優秀だな、敵の先導もできるのか」
「お任せください」
カタカタカタカタ……
バナッザが戻ると、奥から大量のスケルトンがやってくる。
ズドッ!
【落とし穴】に落ちた音だろう。
ズドドドッ!
大量のスケルトンが【落とし穴】に落ちている。
ん?
レベルアップだ。
身体の倦怠感が若干無くなる。
「よし、みんなもう少し下がってくれ」
俺は下がりながらさらに【落とし穴】を発動する。
そして、スケルトンの軍団は【ウォールプレス】のあたりまでやってくる。
今だ!
ズドンッ!
壁が突き出て、スケルトンが押しつぶされる。
【ウォールプレス】を発動したことで、同時設置数に余裕ができる。
現在地で再び壁に【ウォールプレス】を発動。
そして、スケルトンが進んでくるその先には再び設置した【落とし穴】。
「これは凄い……」
「けど、なんか卑怯っすよね」
感心するギンジョウと呆れるカホク。
確かに、戦ってる感じはあんまりないな。
◇
敵がほぼ片付いた。
「よし、奥へ進もう」
一同うなずく。
奥の方には、罠にかからなかったスケルトンも数匹いる。
「ちょっと俺に殺らせてくれ」
「おやめください。危険です」
「マガタ様。罠じゃまだいいスけど、剣では無理ッスよ。スケルトンは弱くないッス」
ギンジョウ、カホクともに近づくのを辞めるように言う。
「まぁ見ててくれ」
俺はそれを無視し、単独で奥へ突っ込む。
「マガタ様!」
スパッ!
凄まじい剣速だ。
半端ない。
スケルトンの骨を切ってやった。
ガシャ……
崩れ落ちる骨。
一撃である。
「おぉ~、やっと主人公っぽくなってきたな」
「す、すげぇ! どうなってんスか?」
「フフフ、カホク君。レベルアップだよ、レベルアップ」
「素晴らしい」
ギンジョウが涙ぐんでいる。
炭鉱は暗くてよく見えないが、間違いないだろう。
「大型は我々にお任せを」
ヨネィザが前に出る。
「頼んだ。我々はマガタ様を護衛する」
「おいおい、もう護衛なんて必要ないぜ」
バゴーン!!
「私の役目だ」
盾役のベノが前に出て、大型スケルトンの攻撃を受け止める。
ブワッ!
その衝撃でここまで風圧が来る。
「前言撤回。全力で守ってくれ」
あれをくらったら今のレベルでも無理だな。
ズバババ……
なんだあれ……
ヨネィザの残像が見える。
大型スケルトンを切り刻んでいるのだろうか。
速すぎてよくわからん。
大型スケルトンが振りかぶると、必ずベノが前に出て、危なげなく盾で受け止める。
強っ!
ダメだな。
レベルアップしたといっても、雑魚しか倒せない。
あの戦いに入れそうもないのだ。
けど、少し違った感覚がある。
罠を少し離れたところにも発動できそうなのである。
やってみるか。
俺は、大型スケルトンの足元に【落とし穴】を設置する。
ズド……
大型スケルトンは片足が地面に埋もれ、大きく体勢を崩す。
「今だ!」
ヨネィザの刀身が青白く光る。
「ハッ!」
ズバァッ!
すっげ……
大型スケルトンは真っ二つになり、地面に深い亀裂が入る。
「マガタ様、アシストありがとうございます」
「お、おぉ」
いや、そんなん無くても普通に勝てそうだったな。
魔物がいなくなったことで、俺たちはあたりを見渡す。
「ひどいな……」
冒険者や炭鉱夫の亡骸が多く散らばっている。
さっきのスケルトンたちにやられたのだろう。
「マガタ様、このあたりを調べてもよろしいでしょうか」
ヨネィザがこちらを向き、聞いてくる。
父親の遺品を探したいのだろう。
「もちろんだ」
俺たちも遺品を探す。
◇
「マガタ様、これらの装備品をいただけないでしょうか」
ヨネィザがこちらにひざまずき、聞いてくる。
「もちろんだ。持って帰るといい」
「え!? マガタ様! それ、結構高価なヤツッスよ」
カホクが言う。
「構わないよ。父親のだろ?」
ヨネィザが驚いてこちらを見る。
そりゃそうだ。
何故か俺が知ってるわけだからな。
「肉親を亡くすってのは、体験したものでなければわからないからな……」
父さんか……。
生きていれば、ギンジョウと同じくらいの年齢だろうか。
「ありがとうございます……」
ヨネィザは深々とお辞儀をする。
「その代わり、困ったときにはその武力で助けてほしい」
「はい。私にできることならば、なんなりと」
「よし! それ以外の装備品なんかは全部売っぱらってくれ!」
この金があれば、できることが少しは増えそうだ。