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1.避暑ってこんなに楽しいの?

果物屋夫婦のお話です。

世界暦は何年なのか不明。


アタシはエカミナ。喋るのが大好きな果物屋の若女将さ。

 勿論、最初から果物屋だった訳じゃあないさ。アタシは果物屋の息子・岩精霊のアレクサンドライトに一目惚れしたんだよ。

 結婚してまだ2年しか経ってないけど、最近は果物屋として板について来たと思うんだけど、どうかねぇ。

 この喋り方? あぁ、アタシの武器さね。

 アレクを探して歩くうちに身に付いたんだよ。

 じゃあ、アタシの冒険譚でも聞いて貰おうかねぇ。

 とっておきの恋物語さ。お代はいらないよ。え、聞きたくない?

 そんな事言わずに聞いておくれよぉ。

 遠慮しないでねぇ。

 それは精霊の歳で9歳の時だったさ。

 小さな女の子が、小さな美少年に出会ったのよ。


◆◆◆


 あたしはエカミナ。

 9歳になったばかりの水精霊。

 といってもまだ人間でいうと5歳くらいの外見なの。

 今日はなんだかしらないけど、めいっぱいオシャレさせられてアド市の中心街に連れて来られてたわ。

 ママが言うには、とてもワクワクする事が起きるって。

 だからあたしも期待する事にした。

 いったい何が起きるんだろう?


 ママとパパはあたしの手を片方ずつ繋いで、はぐれないように大通りを歩く。

 たしかに、ワクワクするわ。

 ルクラァンきっての大都市、アド市。

 その中心街といえば屋台がずらりと並んでいて、砂漠の向こうのオアシスから来たあたしは訳もなくはしゃいでしまいそう。

 ううん、両親に両手を繋がれていなければ、とっくに走り出してるわ!


 だって、屋台を見るのは初めてなんだもん。本当は1軒ずつ見て回りたい。

 店先に飾られたあの光る石の数々はなに? あっちの店の、煙を上げる肉の串焼きはどんな味? あの豪華な首飾りは……あたしにはまだ早いかな?


「ママ、パパ。おみせがみたい」

「ごめんねエカミナ、荷物が大きいから後でゆっくり回ろうね」

「パパとも約束だよ。エカミナ」

「……うん」


 あたしは残念そうに両親の顔を見上げる。

 確かに大荷物。パパとママは避暑に来たと言ってたわ。砂漠は暑いものね。

 特に今年は燃えるような暑さで……。

 ううん、いやなことは今日は忘れよう!


 と考えていたら、ある果物屋の前まで来てしまった。

 ここかしら? ママの「しんゆう」がいるのは。


「サリー!」

「来たわね!」


 果物屋では、砂色の髪の派手なお姉さんが出迎えてくれた。


「お招き頂きありがとう! 会いたかったわサリー!」

「私もよ、エマ。そっちはガレンね。我が家だと思って、ひと夏ゆっくり過ごして。……この子がエカミナね。エマ譲りのなんて綺麗な青髪かしら。はじめまして。私はあなたのママの親友、サリエリよ。サリーと呼んでね」


 派手なお姉さん、サリーはしゃがみこんであたしに視線を合わせる。

 淡い緑の瞳。綺麗な、ママの親友。


「息子と夫を紹介するわ。あなたたちもきっと気に入るはずだから! あなたー! アレクー!」


 サリーは店の奥に振り向いて家族を呼んだ。その声はとても元気で輝いている。


 ばたばたと小さな足音と忙しない足音。

 あたしは逆光の中、店の奥を思わず覗き込んだ。


「こら、エカミナ。人様の家を覗きこんじゃダメよ」

「あはは、エマは厳しいところが昔と変わってないね」


 当のあたしはそんなことおかまいなしだ。

 だって、灰色の長い髪を靡かせた、とっても綺麗な顔をした男の子が現れたんだもの。

 ポチャンって、あたしの胸に何かが落ちて来て、胸の中を波立たせる。

 それが恋だって解ったのはそう遠くない。


「はじめ……まして、アレクサンドライト、です」


 恥ずかしそうにぺこりとお辞儀をした綺麗な男の子、アレク。

 これが将来の夫との出会いだった。


 ───────


 荷物を果物屋に運び入れ、店番はアレクのお父さんのスピネルがやることになった。

 あたし達は砂漠よりずっとずっと涼しい果物屋の中で一息ついた。

 砂漠ではなかなか見られないレモンの輪切りを一切れ浮かべた一杯の水が、体に沁みわたる気がする。

 喉が渇いていたのもあるけど、こんな贅沢な水の飲み方はした事がない。

 砂漠では水以上に果物は貴重だ。


「アレク、エカミナと遊んであげて」

 サリーがそう言うので、アレクは何して遊ぶ? と小さく聞いてきた。

 あたしは今すぐこの男の子のお嫁さんになりたくて、新婚さんごっこ、と答えた。


「それじゃ、エカミナが僕の奥さんだね!」

 アレクがニコリと笑う。

 ぴしりと固まったのがあたしのパパ。

「エカミナ~、遊びでももうお嫁に行っちゃうのかい?」

「あはは、ガレン、うちのアレクにエカミナはもったいないよ」

 もったいなくないわ。あたしは本気よ。

 あたしはこの子が気に入ったの!

 アレク、あたしをみてなさい!


「おかえりなさい、あなた!ご飯にする?お風呂にする? それとも あ・た・し?」


 あたしの科白に室内の温度が下がる。

 どうしたのかな? 涼しくなったわね?

「エマ? 子供の前でこんな科白……?」

「ちが……」

 ママが半泣きになる。恥ずかしがらなくていいのに。ママがたまにパパにこっそり耳打ちしてるの聞こえてたのよ?

「た、ただいま……ご飯がいいな。でもその前にほっぺにキスがしたい」

 アレクも、もしかしてあたしと同じ気持ちなの!? 胸にポチャンって、あたしの事を入れてくれたの……?


「アレク、大好き!」


 チュッとあたしがアレクの頬にキスをすると、パパがさめざめと泣き出した。

 反対にアレクは真っ赤になっている。

 かーわいい!


「エカミナ、他の遊びにしなさい」

 ママが泣き出したパパにハンカチを差し出しながら、あたしに言った。

 仕方ないなぁ。

「アレク、結婚式ごっこしよ!」

「エカミナ~!」

 パパが一層激しく泣き出した。


 その後もお嫁さんごっこや、恋人ごっこをしようとしたのだけど、その度にパパが泣くので、果物屋さんごっこに落ち着いた。

 あたしが客で、アレクが店番だ。


「こんにちはー、林檎が欲しいの」

「そのまま食べるのに向いてる林檎と、お菓子にした方が美味しい林檎があるよ。どんな林檎が欲しいの?」

「そのまま食べる林檎がいいわ」

「いくつ欲しい?」

「2つください」

「金貨1枚です」

「え!? 金貨1枚!?」

 あたしはびっくりして果物屋さんごっこを中断してしまった。

 金貨なんて見た事ない。

 銀貨1枚あれば、砂漠では子供1人の1日分の食料をまかなえる。

「エカミナ、びっくりさせてごめんなさいね。うちは高級果物店なのよ。仕入れてる林檎も一流だから値段が高いの。エマ達と食べてみる? アレクがびっくりさせたお詫びよ」

 サリーが割って入った。あたしはビクビクしながら訊いた。

「そんな、そんな高い林檎もらうの、いいのかな? ねぇママ」

 ママにすがると、ママはあたしの髪を撫でながらサリーに言った。

「サリー、気を遣わないで。私達、それでなくてもこの一夏、居候するのよ?」

 サリーは笑みを崩さない。

「招いたのは私よ、エマ。この夏、砂漠地方はオアシスが干上がりかねない異常な暑さだというじゃない? 私、貴方達一家に会ってみたかったのもあるけど、異常気象で貴方達一家が危うくなるのも避けたかった」

「好意で呼んでくれたのは解ってるし、正直ありがたい。でもサリエリ、娘の金銭感覚が狂ったり舌が肥えてしまって砂漠に戻れなくなるのも私達は望まないよ」

 やっと泣き止んだパパが口を挟んだ。

 サリーは暫く考えて口を開く。

「解ったわ。ご馳走を無条件で出すのは今日だけ。明日からあなた方も店や家事を手伝うのはどう? その対価に衣食住を提供するならエカミナの成長にも悪影響は無い筈よ」

「元よりそのつもりでサリーの招待に応じたわ。ありがとう、サリー」

 ママがホッとしたように呟いた。

「もう、頑固なんだから、エマは。さあ、エカミナ。今日だけは歓迎の林檎を受け取ってちょうだい。アレク、林檎を3つお父さんからもらって来て」

「はい」

 アレクが立ち上がり、砂色の長い髪をたなびかせながら店の方へ駆けていった。


 サリーが出してくれた林檎はとっても甘くて果汁がたっぷりあって、砂漠では絶対に食べられない味であたしは涙が出た。


 ─────


 その夜、僕はエカミナと同じ部屋で眠りに就いた。

 エカミナは寝苦しそうにしていた。砂漠は夜は寒いと聞くから、アド市の方が夜は暑いのかな。

 エカミナが蹴り飛ばした掛け布を元通り掛けてあげたら、彼女の口からとんでもない寝言が飛び出した。

「ママを泣かせないで……、パパに剣を突き付けないで……お水が必要ならあたしも出すから……やめて………やめて」

 泣きそうな声に、僕はびっくりしてエカミナを揺さぶる。

「エカミナ?」

 ぱちりと、少女が目を開けた。

「んー…………アレク? あたし、変な事言ってた?」

「………ううん。おやすみ、エカミナ。ここには怖いものはないよ」

「アレク、お手て握っていい?」

「うん」

 僕がエカミナの手を握ると、彼女は安心したように、今度は穏やかな寝息を立て始めた。

(砂漠って怖いところなのかな?)

 僕は眠れず、耳を澄ませた。

 両親とエカミナの両親が何か小声で話をしてる。

 普通なら聞こえない筈の声も、気配も僕には解る。何故なら僕の耳は特別製だからだ。

 聞き取った内容はこうだ。


 ルクラァン西部の砂漠には今、干ばつが起きているらしい。

 元々水の元素の少ない土地で、水の精霊のエマとエカミナは水を喚ぶ事を生業としていたが、干ばつで水の元素が更に減り、水を喚ぶ事も難しくなったので仕事を断ると。

 人々は地精霊のガレンを人質に取り……エマを泣かせて渇きを凌いだ。

 エマの涙……すなわち水の精霊にとって血の次に命に最も近いものから水の元素を搾り取ったのだ。

 エカミナはエマの涙から水を喚ぶ事を強いられた。

 逆にエカミナが泣いてしまい、エマが娘の涙から水を喚ぶ事もしばしばある日々。

 エマとガレンは娘を守る為、避暑と娘に偽って砂漠から逃げてきたのだと。

 精一杯着飾って来たのは逃亡者ではなく、観光客に見せかける為……。

 ガレンは、男泣きに「不甲斐ない」と泣いていた。父さんはガレンの杯に酒を注ぐ。

 エマも泣いていた。気配で母さんの腕の中に居るのが解る。母さんもエマ一家の境遇に涙していた。

 小さくガレンの声がする。

「どんな仕事でもするからアド市に住めるように手伝ってもらえないでしょうか」

「馬鹿だな、ガレン。ここまで話を聞いておいてあんたら一家を砂漠に帰せるか! もう戻ったら殺されちまう!」

 これは父さんだ。

「エマ、ここを我が家だと思っていいのよ」

「サリー、砂漠の暮らしが辛くともそれは出来ないわ。どうにかして仕事と家を見つけるまでは居させて」

「勿論よ。さあ、疲れたでしょう? もう休みましょう」

 両親は自分達の部屋へ戻り、エマとガレンは客間でゴソゴソと小さくだけど、床に就く音を聞いて、やっと眠れるかと思った時、僕は通りを渡って、一本小路に入った所に不審な男の気配を感じる。

 どうやら、カッシュおじさんとナティおばさんの時計店の裏口に針金を差し込む音。


(おじさん、泥棒?)


 僕は誰にも聞こえないくらいの小声で呼び掛けた。

 それが僕の運命をねじ曲げて真っ逆さまに落とすとも知らずに。


 男はビクッとして針金を落とし、周囲を見渡すと針金を拾って逃げ出した。

 男もアレクサンドライトと同じく『聡耳(さとみみ)』を持っていたのだ。

エカミナ、最初は好奇心旺盛なだけの普通の子でした。歳月残酷。

アレク、髪の毛サラサラロングでした。歳月残酷。


若女将エカミナ「あ、そこの読者様。どうだった?

アタシ達の出会いは。アレクったらもうとんでもなく可愛かったじゃない? この先引き裂かれる? やだねぇ、何があってもアタシはアレクひとすじだし、アレクもアタシひとすじだよ! 愛こそパワー! パワーこそ愛! え?なに、林檎が欲しい? 『エカミナ印の林檎』を3個オマケするからさァ、いいね押してっておくれよぉ? ね? ね?」

アレク「………(いいねポチ)」

エカミナ「さすがアレク! アタシの願いを叶えてくれるんだねぇ! ……で? 読者様はどうだい?」


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