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2話 ヒイロちゃん

 


 (あれ……? 僕、まだ生きてるの?)



 カマキリの魔物に攻撃されてもうダメだと思い、ふと目を瞑った。僕がゆっくりと目を開けると、その視線の先ではカマキリの魔物の死骸が転がっていて、銀髪の綺麗な女性が立っていたのだ。



  (凄い綺麗な人だ……)



 日本では滅多にお目にかかれないような美人さんだった。アニメに出て来る様な僕のタイプの美少女だ……めっちゃ綺麗だ。


「ねぇ! 貴方大丈夫!? 怪我は無い?!」


 鈴の音のような心地良い声を聞いた途端に、僕は恐怖心から解き放たれて思わず泣いてしまった。


「ふぅえええぇぇん!!」


 この身体になってから、情緒不安定である。これは、どうしようもないのだ……



 ・・・あっ……この感触は、もしや!?



 股間が濡れていることに僕は気付いた。下を見ると案の定水溜まりが……僕の太腿から暖かい何かが伝う感触。



(あっ、ああああああああぁぁぁ……!?)



 精神年齢25歳のコミュ障独身男は、そうして異世界で初のお漏らしを経験してしまうのであった。恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい気分である。



(うぅっ……暖かい……)



 銀髪の綺麗なお姉さんに優しく抱きしめられて、僕は人との温もりに久しぶりに触れ合いました。僕がさっきまで感じていた恐怖心は、まるで嘘だったかのように綺麗さっぱりと無くなっていた。




 ―――――


 千尋は母子家庭だった。 父親は千尋が幼少の頃に病気で倒れて帰らぬ人となり、母親は千尋が小学2年の時に父親の後を追うようにして他界してしまった。


 両親が亡くなってから、僕はしばらく独り暮らしの祖父の家にお世話になったが、僕が成人してから2年後に祖父は天寿を全うするかのようにして、静かに息を引き取った。


 もう家族が自分には居ない、それを実感してから千尋は自分自身の心にそっと蓋を閉じたのだ。


 ―――――




 抱かれるのも悪くない……お姉さんめちゃくちゃ良い匂いがする。優しくてほんのりと甘い匂い。


「えっと……私の名前はエリスって言うの! 貴方の名前はなんて言うの? どうしてこのマーレの森に居るのかなぁ?」


 やばい、こんな綺麗なお姉さんと話すなんて僕にはハードルが高すぎる! 自慢じゃないけど、家族以外の女性と話した事無いんだぞ!? ど、どうしよう……


「え、えと。その……あのぉ……」


 ここに来てやはり僕はコミュ障を遺憾無く発揮してしまった。もう本当に自分が嫌になりそう。


「よしよし♪ そんな怯えなくても大丈夫だからね♪」


 僕は正直に言うべきか悩んだ、僕自身が何故この森に居るのか、そしてこの現状を理解してないのだ。それに僕みたいな日本人の名前は変ではないのだろうか、この容姿でこの名前はおかしいのではないかな?


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ~ほら、怖くない怖くな〜い♪」


 銀髪の美人なお姉さんは、僕に向かって優しそうな笑みを浮かべている。僕は嘘をつきたくなかったので、ここは千尋と正直に名乗ることにした。


「チ………ヒィロ………でしゅ」


 あっ! 噛んだ、しかもボソボソとした聞き取りづらいであろう声だ。脳内ではこう話したいのに、実際に口に出すと上手く言葉を発せない。



(僕、こんなに人と喋るの苦手だったけ……それともこの身体になってから声が出づらい?)



 これは一種の呪いなのかと疑うほどに、僕のコミュニケーション能力は欠けていた。お姉さんには本当に申し訳無い。


「ん? ヒロ? ……あっ! ヒイロちゃんって言うのね!!」


 はい、違います。というかもうそれで良いです。



「うん……」



 訂正するのも面倒くさいので、もうヒイロでいいや。僕はコクコクと首を縦に降って頷きました。


「ヒイロちゃん♡ 可愛い名前だね♪」


 そして僕はこの瞬間から、金髪ロリエルフのヒイロちゃんとなったのである。






 ◆エリス視点





(このままでは、日が暮れちゃうわね)



 私は、金髪の幼い少女ヒイロちゃんを家まで連れて帰ることにしました。え? 誘拐? いえ違いますよ! こんなところにか弱い幼女を置いておくなどそれこそ論外です!


 これは……そう! 保護なのです!


 帰ったら一緒にお風呂に入って、ご飯を食べて色々お話しをして、可愛いお洋服を着せて夜は同じベッドで抱き合いながら一緒に寝るのよ!



(あぁ~私ったら……ついっ……うふふっ……)



 今から楽しみですね♪ 可愛い過ぎてぺろぺろしたいくらいです♪ 


「さてと」


 謎だらけの金髪エルフことヒイロちゃんは、満身創痍で疲れきっていてウトウトしていました。


「ヒイロちゃん、ここは危ないから私の家に行きましょうか♪」


 ヒイロちゃんはウンと首を縦に振った後、立ったままこちらをずっと目つめています。



 (どうしたのかな……?)



 原因が分かりました。ヒイロちゃんの足が僅かに震えていることに。私はくすくすと笑いながらヒイロちゃんを抱っこして歩き始めました。



(ヒイロちゃん軽いわね、ちゃんとご飯食べてるのかしら?)



 抱っこしてから、歩いてすぐにヒイロちゃんはこくりこくりと船を漕いだかのようにして、それから直ぐにスヤスヤ……と寝てしまいました。小さな寝息がすぅすぅ……と聞こえます。疲れちゃったのかな? うふふ♡


 こんな森の中で幼い少女が1人、ボロ布1枚を纏い擦り傷だらけの足、たどたどしい言葉……


 事情は彼女が落ち着いてから、聞いてみることにしよう。私はしばらくマーレの森を歩き続けました。歩き続けてかなりの時間が経過した頃、ようやく森の出口が見えてフローラの街がここから小さくですが見えますね。


「後もう少しだね」


 マーレの森を出て、道なりに歩きはじめてから約1時間くらい。フローラの街の門が見えて来ました。さて、門番さんにどう説明しよう。



(マーレの森で美少女エルフを拾いました! てへっ!でなんとかならないかしら)



 もうすぐ日が暮れる頃合いだったので、人通りは少なかったです。私は人が居なくなるのを遠目で確認してから門へと向かいました。幸いフローラの街の門番さんとは、顔見知りであるのが唯一の救いです。


「あっ! エリスさん、おかえりなさい! その少女は……ん? 耳が長い!?」


 私に声を掛けてきたのは、門番のマクイルさんです。年齢は恐らく20代、長身の爽やかな雰囲気の男性です。


「マクイルさん、こんばんは。事情がありまして……この子森で1人でしたので、魔物に襲われると行けないと思い連れて来ました。この事はどうか、内密にお願いできませんか? 安全は私が責任を持って保証しますので、お願いします!」

「う〜ん……エリスさんが大丈夫というのなら……分かりました。私は見なかったことにします。こんな小さな女の子がマーレの森で1人は確かに、危険ですからね」


 マクイルさんは少し悩んでから、「ちょっと待ってて下さいね」と言って小走りで門の近くの建物に入り、フード付きの衣服を持ってきてくれた。


「街の中ではその子目立つと思ったので、これを少女に着させてあげて下さい」


 マクイルさんから、フード付きの衣服を手渡された。本当にありがたいです。感謝の極みです!


「マクイルさん、有難うございます! 助かります!」

「いえいえこれくらいなら、エリスさんの頼みならお易い御用ですよ!」


 気のせいかマクイルさんは、少し照れたように顔が赤かったです。熱でもあるのでしょうか?


「マクイルさん、顔が赤いですが大丈夫ですか?」

「へっ!? だ、大丈夫ですよ! この通り元気ですよ♪」

「そ、そうですか……なら良かったです」


 気持ち良く寝ている所を起こしちゃうのは少し申し訳ないですが、私は寝ているヒイロちゃんを起こしました。


「ヒイロちゃんちょっとごめんね、この服を着ましょうね」

「んん……ふぇ?」


 ヒイロちゃんは寝惚けていてまだ夢見心地の状態であったが、私は素早く服をヒイロちゃんに着せてから、フードを被せて再び抱き上げました。


「よし、人が少ない今のうちに……」


 私はヒイロちゃんを抱っこしながら、足早に家へと向かいました。




  ◆ヒイロ視点





「ヒイロちゃん、着いたよ~」


 僕が目を覚ました時には、鬱蒼とした森ではなく見知らぬファンシーな部屋の中に居ました。中は茶色の大きな机が有り、壁側を見ると沢山の書物棚が有って、熊さんや猫さんのぬいぐるみが沢山飾られている。壁はピンクをイメージしたような、女子力の高い清潔感ある部屋です。僕が居て良いのだろうか……場違い感半端ない


「あっ……あにょ!」

「ご飯食べる前にお姉ちゃんと一緒にお風呂入ろうね~」

「え……お、お風呂っ!?」


 お姉さんとお風呂……そ、それはいくら何でもまずいですよ! 僕は1人で入りますよと言おうとした直後に素早く服を脱がされ、がっちりと後ろから抱っこされてお風呂場に強制連行されました。このお姉さん油断ならないです!



 *お風呂場*



「さて、ヒイロちゃん♪ お身体キレイキレイにしましょうね~♪」


 僕は緊張と恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤となり、もじもじしていた。女性とお風呂に入るのは初めての経験であり、僕の頭の中は真っ白になっていた。


「あらあら、そんな恥ずかしがらなくても女の子同士だから大丈夫だよ♪」

「あ、あぅ……」


 中身はThe 男!の僕なので、お姉さんの方を見るのは罪悪感と後ろめたさがあった。でも見てみたい欲はある。綺麗なお姉さんの裸……さっき抱っこされてたから分かりますが、このお姉さんお胸がデカい! めちゃくちゃ美人でお胸デカくて、スタイル抜群とか最早チートですよ!


「うふふ……ヒイロちゃんの肌モチモチして綺麗だね♪」


  しかし今の僕は見た目はともかく、中身は30歳の男である。お姉さんの身体に物凄く興味があります。


「おおぉ……」

「ん? どうしたのヒイロちゃん? 私の胸気になるの? 触る?」

「だ、だだだだ大丈夫でしゅっ!!」


 噛んでしまいました……でもお姉さんのボンッキュッボンな身体を見てからは、僕の貧相な罪悪感は綺麗に消え去ってしまいました。お姉さんの身体を触ってみたいと言う欲が段々と大きくなって来ているのです!


「ヒイロちゃんの肌ぷにぷにだね! 頬っぺたもモチモチしてて気持ちいし、ずっと触りたいくらいだよ!」

「あ、あぅ……」


 僕はお姉さんの膝の上に乗せられて、されるがままに洗われました。お姉さんと密着……はぅ。背中越しに伝わるお姉さんの大きな胸の感触。柔らかい……ごくりっ……こ、この状況は童貞の僕にはハードルが高すぎる!


「ふっーふふ〜ん♪ ヒイロちゃん洗い終わったよ~♪」


 え、いつの間に? それとも僕が呆然としていただけなのか……まあ良いか。それはさて置き、僕はお礼を言おうとお姉さんの膝から降りて、後ろを振り返ろうとしましたが、お姉さんは一向に僕を離す気配がありません……何故だろう?


「うふふ……」


 お姉さんは目を細めてクスクスと笑い始めた。


「今からお姉さんが、とっておきの笑顔になれる魔法をかけてあげるね!」


 何となく嫌な予感がした……そして予感は直ぐに現実となった。お姉さんは笑いながら、僕にくすぐり攻撃を仕掛けてきたのである。


「ヒイロちゃんほーら! 笑顔笑顔♪ ニコッ♪」

「っっっ!? く、くすぐったい……でしゅ!! む、むりぃぃ!! ひゃぁああああんんんっ!?」


 し、死ぬ!? 笑い死にしちゃう! 僕は必死に抵抗して、暴れましたがここでやらかしてしまいました。


「やん♪ ヒイロちゃんのえっち♡」

「は、はわぁっ!?」


 僕が咄嗟に掴んだ柔らかいお山の正体はお姉さんのお胸でした。僕は顔が赤くなっているであろう……恥ずかしさと申し訳無さで頭がパンクしそうでした。


「あ、あぁ……」

「じゃあ……私もお返ししちゃおうかな♪ えいっ!」

「みゃあっ!? や、やめ……」


 僕はお姉さんに自分の貧相な胸を揉まれて……いや、揉む程の胸は無いので撫で撫でされて、身体がびくんっと反応してしまいました。女の子の身体はこんなにも敏感なのか……これ以上暴れるとまたお姉さんのえっちな所を触ってしまいそうでしたので、僕はお姉さんの膝の上で借りて来た猫のように大人しくされるがままでした。



 *



 お風呂から上がった後、僕は色々と満身創痍であった。


「ごめんね~ヒイロちゃんが可愛いくてお姉ちゃんつい、いじわるしちゃいました♪ てへっ」


 可愛い……あざといぞこのお姉さん。そしてお姉さんは、いつの間にか用意していた白いワンピースを持ってきて僕に着るように促すのです。


「妹の……お下がりなんだけど……着れるかしら? もう何年も前の服だけど」


 お姉さんは何処か寂しそうな顔でそう言いました。僕はお姉さんに妹が居るということに少し驚いたが、今はそれは置いておこう。というより、僕は女装する趣味なんてありません! 身体は女の子でも、心は立派な男なのだ! 断固拒否する!



 ・・数分後・・



 はい、抵抗虚しく……惨敗です。 結局僕の方が折れてお姉さんに可愛らしい服を着せられてしまいました。そして白いワンピースを着せられた後、お姉さんを見上げる形となり……


「!?」


 お姉さんは急にぽかーんと口を抑えて、プルプルと身体を震えさせております。


「もう……無理ぃっ!! ヒイロちゃんムギュっ♡」


 その直後に再びお姉さんに抱かれました。僕はお姉さんに抱き着き癖があるのでは無いかと疑がい始めたが、抱かれるのは暖かくて心の奥底がポカポカするので嫌ではありません。



 ◆エリス家 食卓



「ご馳走様でした!」

「ご、ごちそう……さまでした!」


 お風呂を上がってから、お姉さんがシチューと何かの果物のパイを作ってくれました。お姉さんの料理はどれも美味しくて、僕はバクバクと食べてお腹いっぱいになり満足です♪


 でも、ちょっと食べすぎたかも……


「あらあら♪ ヒイロちゃんお眠でちゅか?」

「うみゅ……」


 気付くと僕は睡魔に襲われてしまいました。眠過ぎて少しでも油断したら寝ちゃいそうです。睡魔と格闘して数分……僕がウトウトしていたらお姉さんに優しく抱っこされてベッドへと運ばれました。


「ヒイロちゃん♪ お姉ちゃんと寝んねしましょうね♡」


 お姉さんもベッドに入って来て、僕はお姉さんに抱きしめられながら夢の世界へと旅立つのでした。




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