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9 王女と聖女



 王女として生まれ、いずれ嫁ぐ身だというのが嫌で嫌で仕方がない今日この頃に、私は聖女に呼び出されました。

 なぜという疑問符が浮かびましたが、呼び出しに応じない理由もないので、聖女と会うことにしました。


 勇者が魔物討伐に出ている間、なぜか私が呼び出したという形になって、聖女が私のもとに来ました。


 形式的な挨拶が終わって、気づくと人払いがされていて、なぜと疑問に思って警戒すると、聖女は自分が国王に頼んだと言って、笑います。


「あなたと、内密に話がしたかったんだ。エリーゼ王女。」

「私とですか?いったいどのようなお話しでしょうか。」

「エリーゼ王女、ずっとこの城で暮らしたいと思わない?もしそうなら、私がその手段を教えてあげるけど、どうかな?」

 驚きました。まさか、ほとんど付き合いのない聖女が、私の思っていることを言い当てて、願いを叶えるための手段を思いつくなんて。

 世間知らずの、学のない聖女だと思っていましたが、そうではないようですね。いえ、話を聞くまではわかりませんね。


「とても興味があります。ですが、それを教えていただいたら、私は何をすればよろしいのでしょうか?」

 私が支払えないようなものを望むなら、これでこの話は終わりです。聖女の望むもの、そう考えて思いつくのは、勇者からの解放です。ですが、それは私にはできないことです。


 お金や物であったら、用意できる可能性はありますが。


「王女様にしてもらいたいことは、王女様がこの城に残るために必要なことだけ。」

「まさか、本当にそれだけですか?」

「うん。なんで私がこの話をあなたにしたと思う?あなたが私の言う通りに動いてくれれば、私の利になるから。もちろん、あなたの望みも叶う。ウィンウィンってこと。」

「・・・あなたにも、私にもいい話・・・わかりました。聞かせていただきますか?」

「もちろん。簡潔に言えば、あなたには未亡人になってもらう。」

「・・・はい?」

 全く思いつかなかったことを言われて、私はもしも未亡人になったらと考えます。結婚して、たとえば貴族に降嫁されたとして、夫が亡くなったとします。

 未亡人になった後は?その家に残りますよね?あれ?


「未亡人になったとして、ここに帰ってこられるわけではありませんよね?」

「それは誰を想定してのことかな?それに、あなたは出て行かない。この城から一歩も出ることなく、未亡人になってもらう。」

「まさか、そんなことが可能なのですか?」

「わからない?ここまで言っても・・・ううん、私が未亡人になってもらうと言った時点で、検討くらいはつくと思うけど。」

「・・・まさか、勇者様と?」

「うん。エリーゼ王女には、ケントをおとしてもらう。ね、ウィンウィンでしょ?」

 絶対に無理だと、私は思いました。だって、勇者が聖女を深く愛しているのは周知の事実で、そんな勇者を私が誘惑し結婚の意思を固めさせることなど、できるわけがありません。


 私は困った顔をして、無理だと伝えました。


「難しく考えることはないよ。私が勇者から愛想を尽かされて、あなたが勇者に愛されればいいだけの話だよ。」

「・・・無理です。聖女様に愛想を尽かす勇者様など想像ができません。」

「それは、エリーゼ王女の想像力が足りないだけだよ。まず、私が愛想を尽かされるのは簡単。勇者に媚びて媚びまくり、甘えて甘えてしがみつく。そして、何もしない。これを続けて数年・・・最近やっと効果が出てきたような気がするの!あとは、別の好みの女の子がいれば、ケントはそっちになびくはず。」

「申し訳ありませんが、やはりそのようにうまくいくとは思えません。」

「そう・・・なら、エリーゼ王女は諦めてどこかのお嫁さんになるの?」

 絶対にできない、無理としか頭にありませんでしたが、もしもうまくできたなら、私の願いが叶うということを思い出しました。

 お嫁になんて行きたくない。ずっとこの城で優しい家族に囲まれて生活したい。そんな願いが叶うなら・・・


「ちょっとは希望を持って、動いてみたらどう?別に、ケントを殺せと言っているわけではないし、失敗してもちょっとケントとの関係が気まずくなるくらいだし。」

「勇者様との関係・・・犠牲になるのはそれくらいですね、確かに。」

「今まで交流がほぼない相手だから、どうでもいいよね。まぁ、ここから交流を持ってもらう予定なんだけど。」

 それでも、問題はないでしょうと聞いてくるように聖女は笑いました。確かに、何も問題はありません。私には。


 ですが、勇者が死ぬことに関して、聖女は何とも思わないのでしょうか?

 私が勇者と結婚し未亡人となるには、勇者が私と結婚した後に死ななければなりません。

 聖女が、勇者をよく思っていないことはよく知っていますが、それでも同じ世界から来た、同じ立場の、この世界で唯一理解しあえる人が死ぬことを、聖女は受け入れられるのでしょうか?


「やるかどうかは、エリーゼ王女に任せるよ。まずやることは、ケントを護衛騎士に任命すること。それで交流をもって、ケントに好印象を持ってもらえるように振舞う。」

「お待ちください。」

「とりあえず最後まで聞いてくれる?それとも、もうわからないところがあった?」

「えぇ。まず初めからわかりません。あなたは、なぜこの方法を・・・勇者様の命を失うような方法を選ばれたのですか?方法はいくらでもあるはずです。」

「ないよ。というより、方法ではなくて、目的だから。」

「方法ではなく、目的・・・?」

 私は、勇者から解放されたい聖女が、勇者が死ぬことによって解放されようとしているのかと思いました。ですが、その考えが違ったのです。


「エリーゼ王女は、この城に残りたいからケントと結婚します。私は、ケントを殺したいから、あなたに協力します。」

「勇者様を殺したいから・・・?」

「まぁ、殺すのは私ではないけどね。」

「・・・私は、まだ最後まで話を聞いていませんでしたね。私がなぜ未亡人になるのかを。」

 聖女の目を見て、私は彼女のことについて聞くのはやめました。話す気はないのでしょう、なら聞く必要はありません。

 私は、私の望みを叶えるために動けばいいのですから。





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