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6 違和感



 久しぶりに、まともにチカを見た。

 王女と話をして、チカから求婚のネックレスを返してもらうために場を設けた。正直チカがどうなろうが知ったことではないが、自分が渡したものを返せというのはあまり見られたくない。俺はチカを自室に呼び出し、チカをひさしぶりにまともに見た。


 何かがおかしいという違和感を感じたが、いつもそばにいてもまともに顔を見ていなかったせいだと納得して、ネックレスを返すように言ったが、結局チカからネックレスを返してもらうことはなかった。


 俺が何もしなくても、王女が結婚式の準備を進め、ドラゴン退治の出立式と合わせて行うことになった。

 披露宴というものだろうか、大々的なものはドラゴンを倒して帰ってきたときにという話だが、出立式と合わせて行う結婚式で、俺たちは夫婦になる。


 こんなにとんとん拍子に進むとは思わなかった。前は、3年たっても進展がなかったのに。そう、俺がチカのことを好きだった時は、好きだと返してくれることもなかった。


 異世界で、たった2人しかいない同郷の者。俺は強大な力を持つ魔物を次々と倒し、この世界での地位を固めていった。傷ついた俺を、チカは治してくれた。

 俺といるのは嫌だと言いながら離れないチカを見て、俺は求婚のネックレスを送った。きっといい返事がもらえると思って。

 しかし、帰ってきた答えは「嫌」という一言。


 異世界の人は信用できないと言って、俺がもらった離宮に住み、引きこもったチカを見て、もう一度求婚しようと思ったが、前回のことが頭によぎって言えなかった。

 言えないまま、チカと一緒に過ごす日々が続き、俺は仕事、チカは引きこもり・・・それも、何かにおびえている様子で、怖いから窓に鉄格子をはめて欲しいだとか、警備を固めて欲しいだとか、何かと要求してきたのを俺はすべて受け入れて暮らし続けた。


 俺の世界は城と離宮だったが、チカの世界は離宮の中だけとなって、俺と使用達の人間関係だけがチカの世界になった。そのせいか、チカが俺に好意を抱くようになった。

 仕事から帰ってくる俺を出迎えて、座るときは俺の隣に座るようになり、時折俺の体に触れる。好きな子にそんなことをされて、俺の毎日は満ち足りる・・・ことはなかった。これで求婚し、晴れて結ばれればよかったのかもしれないが、なかなか求婚ができず、そんな自分自身と、嫌と言ったチカに対して苛立ちがつのる日々。


 絶対に大丈夫だと、いい返事がもらえると自信が持てるのに、前のことがよぎって求婚することにしり込みしてしまう、そんな弱い自分が嫌だ。


 俺の求婚を断っておいて、俺に甘えて、俺に依存して、それでも好きと言ってくれないチカが・・・嫌だと気づいた。


 好きだった子を、いつの間にか嫌いになっていたと気づいた俺は、気づいた瞬間から次々とチカの嫌いを見つけるようになって気が滅入った。

 でも、俺に好意を持っているのを隠しもしないチカに悪いと思い、表面上は好きなふりをつづけた。


 そんな時、チカが誘拐された。俺は、そのまま俺の前から消えてしまえばいいのにと思った自分の心にぞっとした。

 流石にそれはないと。


 誘拐されたら、何をされるかわからないのだ。下手をすれば命の危険だってある。それを喜ぶなんて。そう、俺は喜んでいた。だが、そんなことは駄目だと、俺は本心を押し殺して、チカを助けに向かった。

 無事にチカを助けてしまった俺は、また息苦しい日々を過ごす。


転機が訪れたのはそれからだ。チカの、聖女誘拐事件を即座に解決したことを認められ、王女の護衛任務が与えられた。正直これに関しては疑問があるが、今まで魔物しか倒せないと思われていて、人間を倒すこともできると分かったから、今更王女の護衛という仕事を割り振られたのだろうと思っている。

 この仕事が、俺に新しい恋をもたらした。いや、これこそ真実の恋だったのだと、今ならはっきり言える。




 色とりどりの光が降り注ぐ教会で、俺は本当の恋人、王女エリーゼと共に神の前で誓いを立てた。

 お互いが、お互いに一生を捧げると。


 俺たちを祝福するように、降り注ぐ光が多くなったように感じた。


 くるりと体の向きを変えて、退場しようとすると、視線がスッと一人の人物に自然と向いた。


「・・・は?」

 そこにいたのは、チカだった。それが信じられなくて、俺は何度も見返してチカがいることを確かめる。3度確かめたが、チカはそこにいた。


 確かに、チカも招待はされている。しかし、まさか出席するとは思わなかった。それも、俺が贈った求婚のネックレスを身に着けて現れるなんて。

 何か、よからぬことを企んでいるのではないか。




 結婚式、出立式が終わり、パーティーが開かれた。出立式に引き続いて行われているパーティーなので、本日の主役は俺のはずだが、俺を含め会場中の視線を集めているのは、俺の妻となったエリーゼとチカの2人だった。

 仲がいいなんて聞いていないし、何で仲良くなれるのかわからない。


 一体何を考えている、チカ。何が起こっているんだ・・・


 いまだに違和感を感じるチカを観察し、何かあれば即座に対応しようとした俺だったが、なんと動いたのはエリーゼだった。

 俺にも教えていないサプライズとやらを、チカに贈るという。意味が分からない。


 そして、サプライズの内容が披露されても、全く何が起きたのかわからなかった。


 エリーゼは、バーシャス王国の王子をパーティーに招待していた。バーシャス王国の王子と仲がいいという話は聞いたことがないし、名前すら初めて知る王子だ。

 エリーゼは、王族なのでまだわかる。だが、この王子とチカとの関係が全くわからない。黙って見守る俺に、王子は軽く挨拶と討伐の応援を俺に送って、チカに向き直った。


 唐突に跪いた王子に、周囲がざわめく。


「これで2度目になりますが、どうか受け取ってください。」

 王子が差し出したのは、緑色の宝石。緑と言えばエメラルドだろうか?それしか知らない俺は、他に思い当たる宝石はない。

 しかし、その宝石の意味は知っていた。そして気づいたのだ。違和感の正体に。


 チカが身に着けているネックレスは、俺が贈った求婚のネックレスではないことに。


「そうですね。時が来たということでしょう・・・ワーゼルマン様、どうかその色を私に身に付けさせてください。あなたの色を、私のものにさせてください。」


 王子は求婚し、チカはそれに応えた。


 俺が昔望んでいた光景が目の間に繰り広げられるが、一つ違うのはチカの相手が俺ではないことだ。


 俺の前で、王子とチカが結ばれた。それに対して苦いものが込み上げるが、俺はそれを飲み込み声をあげた。


「おめでとう、チカ。」

 痛いほどの拍手をすれば、周囲から割れんばかりの拍手が起こった。





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