始まりの出会い その4
思いっきり長く打っちゃった
馬車から飛び降り歩道に足をついたアズマは路地裏に目線をずらすことなく、その場に足音を立てずかつ歩道をすれ違う通行人にぶつかることなく走り出す。
この時、通行人はアズマが馬車から歩道に着地をした瞬間を見かけた者はいない。
それはアズマが『忍び』特有の能力『隠密』と『縮地』を発動していたからだ。
『能力』とは『種族』や『職業』が、その人それぞれが持つ『才能』や『個性』に伴ってその『能力』が確定する。
例えば、『人間の戦士という職業』があった場合、その者は『職業である戦士』故の『剣術能力』と『体術能力』の二つの『能力』が獲得でき、さらにはその人がが戦士に最適な『能力』を持っていることで、戦闘が有利になることがあるのだ。
そしてアズマは、『忍びという職業の能力』、生まれである武家の独自の流派が持つ『刀剣術の能力』、大和の民が持つ『神術の能力』と『大和流体術』の四つの『能力』を持っている。その中の『忍びの能力』の『隠密』は人混みや遮蔽物がある際に発揮でき、周囲の人間に気づかれなくすることができるのだ。しかし、アズマの『能力』は大和の中で厳しい修行の中で研鑽し磨き上げ獲得したため、『才能』というよりかは『努力の賜物』というものであるが・・・。
薄暗い路地裏に入ったアズマはフードの人物を囲んでいる三人の男に声をかける。
「あの・・・。こんな薄暗いところで何をやっているのですか?」
声をかけられた三人は一斉にアズマの方に顔を向ける。さっきまで路地裏でこの三人と一人で何か話しており、そこへ何者かが突然声をかけたのだ。当然、予想もしなかった出来事に三人の男は苛立ちを覚えていた。
その三人のうち一人目は『人間種』で肌が黒く、髪の長さは極端に短く、クセ毛であった。背丈はアズマより大きいが少し細目に感じる。
二人目は『魔族』の中でも『オーガ』という種族で、肩までかかる長いグレーの髪にコブのような角、黒に近い肌に体格は隣にいる人間種より、筋骨隆々である。
そして三人目は『亜人』の中でも『獣人種のレオニン』と呼ばれる種族であり、特徴は猫というよりかはピューマの頭を持ち、全身黄褐色の毛で覆われており、背丈はアズマと少し高いくらいだが、体格は三人のうち中間にあたるくらいである。
三人の服装は歩道に歩いていた者より、汚れが目立ち服のあちこちがツギハギだらけとなっていた。
三人のうち肌が黒い者がアズマを睨むように口を開いた。
「なんだぁ~?てめぇはよぉ~?なんか俺たちにようでもあるのかよぉ~。」
「あなたたちが後ろの人に対して何かをしてたのを馬車で見たので、ちょっと確認をしたくて・・・。」
アズマは自分自身がただの思い込みにより先走ってこの三人に迷惑をかけていることをわずかながらにそうでありたいと願っていた。なぜなら、アズマは自分の勘違いで回りに迷惑をかけていたため、また同じようなものなのかと思っていたからだ。ミレリア自身にも詳しい説明をしていなかったため、正直申し訳が立たなかった。もし自分が間違った思い込みだったらただただひたすら謝っていくしかないと思っているからだ。
すると、レオニンの一人が続けて強い口調で話した。
「このガキがオラ達にケチ付けているんだよ!オラ達のダチに肩をぶつけておきながら『ぶつけてない』とかぬかしやがるんだよ!」
とレオニンが話すと後ろにいるフードの人物がすぐさま否定をした。
「そんなことない!ボクは君たちにぶつかった覚えはないよ!」
その人物は全身を白いフードマントで覆っており、背丈はアズマより少し小さい。顔もはっきりとは見ることはできない。しかし、声の特徴からすると少年の様に高い声が聞こえる。
フードの人物がそう話すが、『オーガ』の男はその言葉を否定するように話した。
「ほぉ~?オレ様にぶつかっておきながらそんなこというのかよ?しかもよ、オレ様はてめえに肩ぶつけたことで肩の骨が折れて、筋が切れちまったんだぜぇ~?その責任は取るべきなんじゃあねえの?」
『オーガ』はアズマの二倍の太さもある腕を回しながら、フードの立場をわからせるように説明した。明らかにちょっとやそっとでは筋肉質の体をぶつけて折れたり、傷つくことはできないだろう。そもそも腕を回している時点で、折れていないことは明確であるはずなのだが、
しかし、フードの少年は折れずに自分の主張を続ける。
「そんな太い腕がどうやって折れるのさ!?それに念のために『癒しの魔法』をかけてあげたじゃないか!」
しかし、さらに『オーガ』フードの少年に対して怒鳴るように口を開く。
「うるせぇ!!!誰がかけて良いと言ったんだよ!?大体、そんなもんやったってやったことに変わりはないだろうが!!!」
「ボクは君たちに謝罪をしたし、治すようにしたのにこれ以上ボクに何しようっていうんだ!」
そう、フードの少年が三人に問い詰めると三人はニヤッとしながら黒い肌の男が本来の狙いを答える。
「わかっているんだろう?俺たちは『誠意』を求めてるんだよ~?『誠意』ある考えは『誠意ある行動』で示さなくちゃならねえんなのを知ってるか?金だよ!金!『オ・カ・ネ』!」
男たちの狙いを伝えると、フードの少年はたじろいだ様子でいた。おそらく、本来の目的を聞いてまずい状況なのを理解したのだろう。
アズマは男たちの目的を聞いて、完全に呆れていた。つまりは俗にいう『恐喝』であることに。アズマはこれを聞いて素直に答えてしまった
「資金集めなら、『セントラ』へ行って海へ潜ればいいのでは?」
さすがにこの言葉を聞いて一瞬だけ固まったが、男たちはアズマに怒鳴り散らす。
「なんでオラ達がそんなことをしなきゃいけねえんだ!つーか、問題はそこじゃねえんだよ!」
「てめえは、俺たちの話をちゃんと聞いていたのかよ!?」
「第一、てめえはオレ様たちとは全然関係ねえじゃねえか!どっか行けよ!てか、ホントに誰なんだよ!?顔平った過ぎなんだよ!」
三人の怒鳴り声とどうでもいい難癖を聞いて一瞬後ろにのけ反ってしまったが、アズマは三人の言葉を無視してフードの少年に尋ねた。
「ねえ。君は困ってないの?困っているなら助けるよ。」
そう尋ねるも、フードにより顔は見えないが首を横に振っている様子が見えた。
「確かに、今は困っているが君を巻き込むわけにはいかない。これはボクの問題だ。ボクに任せておくれよ。」
そう言って、フードの少年はそうアズマに伝えた。確かにアズマは三人の男とフードの少年から見ればただの第三者にしか過ぎない。アズマは勝手に来ただけで結局のところ関係ないのだ。しかし、アズマはフードの少年が言った言葉に対して、一呼吸入れてから否定した。
「そう言って君に任せてどこか行くほど、私は気が利いていませんよ。どちらかと言えばお人好しな部分が強いですよ。それに・・・。」
そう言ってさらに思いっきり息を吸うと、腕を前に出し『構えた』。
「『困っている人を助けるのは当たり前』のことだから。」
その言葉を聞いてフードの少年は心なしか嬉しそうに見えた。アズマが構えたことで三人は当然怒りを露わにした。
「なんだぁてめぇ!!俺たちとやろうってのかぁ!?」
その言葉に平静するアズマは淡々と次の行動を説明する。
「『やる』というよりかは、『助ける』だね。私は少なくとも君たちを打ち負かすことができるから大丈夫だと思うけど。」
そうアズマは余裕を持ちながら話すが、その三人にとってその発言は挑発であり明らかに相手を下に見る発言だった。当然ながら三人のうち『オーガ』は行動が早くアズマに渾身のストレートパンチを右腕から繰り出す。
「なめんじゃあねえぞ!!!」
しかし、アズマはその拳を簡単に避けオーガの右腕を左腕で掴み、首の裾を右腕で掴んだ。左回転しながら、右足でオーガの足を払い、投げ飛ばした。オーガの拳の勢いが巨体を大きく投げることができた。
この技は『大和流体術』の『山鯨』である。本来、投げ技は『受け身』を行うことで痛みを和らげることができるのだが、それはあまりオーガには慣れていない防御法であり、あまりの速さに何が起こったのか理解できなかった。そのままドスンっという音と共に頭から落下した。『オーガ』は体を強打してしまったのか気を失っていた。残りの二人も何が起こったのか理解できず呆然としていた。アズマは二人に振り返り質問した。
「まだやるつもりかな?僕はこれで勘弁してほしいんだけどなぁ・・・。」
黒い肌の男はアズマに抵抗するかのように、ナイフを取り出し襲い掛かった。黒い肌の男は素手ではなく武器を出せば相手を精神的に怯みこちらが優位に立つことができると思ったのだろう。襲い掛かった男はナイフを持った手でアズマの方へ突き出した。アズマは男のナイフを持った手を手刀で叩いてナイフを落とすことに成功する。
そのまま男に懐に入ったアズマは相手の顎に向かって掌打を打ち出す。アズマの掌打を受けたは男はそのまま思いっきり後方にのけ反り、勢い余って後ろに倒れこんでしまった。背中を強打した男はかなり痛そうに悶絶していた。
最後のレオニンの男は両手の指から出ている爪を出し、攻撃を仕掛けるための準備をしていた。アズマは足をうまいこと使ってナイフをアズマの腰より高く飛ばしナイフの柄を掴む。刃先を上に向けたまま、レオニンとの間合いを一瞬で詰め寄りナイフの刃をレオニンの首元に突きつける。あまりの速さに対応することができなかったレオニン。一瞬息を呑んでしまった。
アズマは『忍びの能力』である『縮地』を使用した。『縮地』は忍びの走法の一つである。足に重心を乗せ膝を曲げ、前進する際に一気に利き足を伸ばし進む。この際、片足に力を入れるが地面を抉るように前進するのではなく、音を立てず静かに移動するのが目的である。レオニンから見れば音もなくアズマが至近距離にまでに近寄ったように見えたのだが、実際はアズマが忍びらしくただ速く走っただけなのだ。
アズマはレオニンに刃物を突き付け、まさに脅迫している状態でレオニンに対して冷静に警告する。
「さすがにこの状況は、完全に私がやりすぎちゃってるからさ。ね?あとの二人は君がしっかり連れて行ってほしいんだけどいいかな?」
レオニンもこれには頷くしかなかった。二回ほど頷いてすぐに残りの二人を起こして人の多い歩道へと逃げ出してしまった。その場を置いてかれるアズマとフードの人物の二人。アズマは三人に対しての過剰防衛と帝都まで案内してくれたミレリアのことを思い出し、サーっと顔が青冷めてしまう。
(まずい・・・これはまずい・・・!!あの三人にかなりやりすぎちゃったなぁ。大怪我してないかな?完全に過剰防衛だよな?それにミレリアさんにも詳しく話していなかったなぁ・・・なんて説明すればいいいかなぁ・・・?それに他国で問題起こして責められたりしないかなぁ・・・?)
そう考えながら頭を抱えてしまう。すると、頭を抱えているアズマを見てフードの少年は近づいて嬉しそうに話しかけてくる。
「ねえ、君ってば人間にしては結構強いんだね。さっきの三人はおそらくこの国の兵士ではないとしても人間よりかは強いと思うんだけど・・・。」
そう、フードの少年がアズマに話すもアズマ自身が話を聞く精神状態ではいなかったため少年の話していることが全く耳に入っていなかった。そのため、フードの少年はさっきより大きな声でアズマの耳元に話しかけた。
「ねえ!君は聞いているのかい!?」
やっと聞こえたが、耳の奥が痛くなるなってしまいフラっとしてしまった。アズマから見ればいきなり大声で言われたため、ただただ驚いてしまった。その大声を出した本人はアズマに対して完全に呆れていた。
「な、なに急に大声出してきて・・・?」
「あのねぇ・・・。ボクは君に声をかけたんだよ?それでも聞いていないのは君の方だよ?どんな状況であろうとも少なくとも人の話くらいは聞かないと。」
フードの少年は右手の人差し指を立てながらアズマにお小言を言う。話を聞いていないアズマは少年に謝罪する。
「そうだね、聞いていない僕が悪いね。ごめんね。」
「いいよ。君はをさっきの男たちからボクを助けてくれたから、許すよ。」
フードの少年は上から目線でアズマの謝罪を受け入れるが、イマイチフードの少年に納得がいかなかった。
しかし、二人の間に何かが近づく音がする。この音は何かが走って近づく音だ。路地裏の入り口に骨の姿をした馬が引っ張っている馬車が止まる。アズマにとって身に覚えのある馬車に少し安心感を抱く。 そう、ミレリアの馬車である。馬車が止まったと同時に扉が開き、ミレリアが下りてくる。先ほどの取り乱した様子ではなく少し焦っている様子でアズマに近づき目線を合わせながら安否を確認する。
「アズマ様!お怪我はありませんか!?」
「え?あ、はい。大丈夫です。すみません、ご迷惑をおかけしました。」
アズマの予想通り心配をかけされてしまったアズマ。アズマ自身は馬車がついたと同時にどう言い訳すればいいか考えていたが、言い訳しても碌なことがないため伝えたいことを言うようにしていた。アズマはミレリアに安否を伝え自分の行いを謝罪する。するとミレリアはホッとした様子であったが、呼吸を整えてさらにミレリアは話を続ける。
「それは、ご無事何よりです。もしアズマ様にもしものことがあれば一大事でした。ですが、もし御要件があれば事前に申してくだされば私も協力します。行動を起こす前にまずは私に相談してください。この場合、もしアズマ様にお怪我があった場合大和の国に賠償金が生じることとなります。さらに言えば私が処罰の対象となりますので重々お忘れなきよう。いいですね?」
「はい・・・すみませんでした。」
話というよりお説教を始めてしまったミレリア。当然、自分のした事の重大性にわかっており、当然ながら聞いて申し訳ないと思っているアズマは項垂れミレリアに謝罪をする。ふと、ミレリアはアズマの後ろにいるフードの少年に目移りする。ミレリアから見れば、誰かが立っているという認識しかできないが、ミレリアはアズマにフードの少年のことを尋ねる。
「アズマ様。あのフードの者は一体何者ですか?」
「ああ。この方は先ほど三人の男に絡まれていたんです。それが、私が飛び出した理由でして・・・。」
アズマはざっくりと少年と飛び出した理由をミレリアに伝える。ミレリアは納得したように頷く。
「ならば、なおさら私に伝えておけばよかったですね。恐喝による金品の強奪は罪に問われますから。それに私たち貴族が介入をすれば、市民は貴族に暴行をできません。貴族による暴行は死罪になることだってありますから。」
「さらりと怖いこといいますねぇ!?」
「当然です。貴族は臣民を守る義務がありますから。逆らうものは帝国に仇なす大罪人扱いになりますから。」
ミレリアは帝国の厳しい法律を知らないアズマに伝える。アズマ自身もミレリアには逆らわないように心に誓ったのである。その二人に話を無理やり切るようにフードの少年がアズマの手首をつかみ、路地裏の奥へと走り出した。
「お願い、走って!!」
「ええええ!?」
あまりにも唐突でかつ強力な力で引っ張られた。アズマ自身も腕力にも自信はあるのだが、なぜかフードの少年の力に負けてしまった。何が何だがわからなかったアズマはとりあえずは転んだら危ないので少年の言われたとおりに引っ張られ走り出してしまった。そして、唐突に走り出した二人にミレリアは驚いてしまった。
「えええ!?ちょ・・・ちょっとお待ちください!!」
ミレリアは二人に対して静止の声をかけるも二人とも意外と足が速いため、路地裏内で見失ってしまった。ミレリアは走り出したくてもドレス姿のため走り出すこともできず。後ろへ振り返り、急いで馬車に乗って二人の後を追うように御者に命令した。
「ちょっと!あの路地裏の奥へと走り出した二人を追って!!」
「ええええ!?無理ですってば!路地裏は入り組んでてどこから出れるか全く掴めんもん!!」
御者はミレリアの命令を否定し、ミレリアは苛ついてしまい、ついに奥の手を使いだす。
「では、『アダムス』様の城へと向かって!この状況は私には手に負えないから応援を呼ぶしかない!早く!!!」
「へ、へい!」
ミレリアは帝国の随一の知恵者の『アダムス』にこの事態を報告し一刻も早くアズマ見つけるための知恵と増援を呼ぶために馬車を走り出した。ミレリア自身もここまでの事態になるとは思わなかった。アダムスにこの事を伝えどんな処罰が下されるかはわからないがミレリア自身は焦っていた。
「焦っていても変わらない・・・。私の私兵だけでも捜索に当たるように連絡し、できることはしないと・・・。」
そう言って、ミレリアは馬車に置いてある丸い水晶を両手で持ち、魔力を込めると水晶の中は紫色に光出し、誰かに話しかけるように口を開いた。
「私兵よ。たった今客人が何者かと共に逃げてしまった。必ず生きて捕まえるのです!」
そう、ミレリアが魔力を込めたものは『魔力球』と呼ばれるものである。『魔力球』は様々な用途で使われるがミレリアの持つ『魔力球』は主に誰かに連絡用の魔力球である。ミレリアは魔力球を使って自分の兵を使って捜索に当たるようにしたのだ。そして、もう一人の人物に連絡をした。
「アダムス様。大和の民の案内を仰せ頂いた、ミレリア=ウルワルド子爵婦人です。緊急事態が発生いたしました。謁見のお時間をいただきたく存じ上げます。」
ミレリアは魔力球に対してそう伝えると魔力球から低い男の声が聞こえた。そう、この人物こそ『十王』の一人である『アダムス』である。
「ふむ。例の件についてならば、分かった。詳しいことは私の城で話せ。」
「お心遣い感謝申し上げます。」
アダムスが了承しミレリアは魔力球から手を放す。すると、魔力球から光はなくなりミレリアは目的地へと向かう。
ミレリアの馬車がアダムスの城へ向かっている様子を路地裏にある建物の屋根からその様子を眺めている者がいた。その男は全身が光すら反射しない黒い忍び装束を着ており顔は黒い顔のした大和に住まう『妖』の一種である。『鬼』の顔をした仮面を被っていた。その男は先ほどのアズマが三人を打ち負かす様子を眺めていた。その男は一連の様子を眺めてアズマに好奇心を抱いた。
「へぇー・・・。面白いことになってきてんじゃん。さてと、もう少し見ていくとしますかな。」
そう、黒づくめの男は建物を飛び回りながらアズマたちの方へと向かっていった。
一方そのころ、フードの少年に引っ張られていたアズマは完全に混乱をしていた。アズマの予定ではフードの少年を助けてミレリアと合流して『アダムス』と謁見する予定だッたのだが、今は謎の人物に手を引っ張られて何処かへ連れていかれている。この状況は極めて悪いとわかってはいる。しかし、いくら足で止めようとも腕で止めようもフードの人物はアズマ以上の力で引っ張っており、これ以上力を加えたら、『こちらが転んで怪我をしてしまう。』と。試しにフードの少年との会話をしてみる。
「ねえ!もう止まってもいいんじゃないかな!?私はもう疲れているから少し休ませてくれないかなぁ!それとさっきの人知り合いだから別に問題ないから大丈夫なのに!」
「でも、君の知り合いって貴族じゃないかぁ!?貴族はボクにとってまずいんだよぉ!!」
アズマとの会話は可能だった。しかし少年にとって貴族に対して何かしらの理由があってあの場から離れたということを理解した。しかし、それでもアズマにとって連れていかれているというのは厳しいのである。
「一回・・・止まって・・・ホントに・・・息が・・・も、もたない・・・。」
アズマはヒィヒィと息切れをしながら、少年に要望をする。アズマは少年のあまりにも走るスピードが速かったため、追いつくので精一杯である。それに加えペースが速いためすぐにスタミナ切れとなりアズマの走るペースがだんだんと落ちていった。さすがに少年はこれに察知したため、座れる場所を見つけ、そこで足を止め休憩する。
足を止めたアズマは全身汗だくで座った途端、肩を上下に揺らしながら思いっきり呼吸をする。少年は疲労困憊のアズマを見て申し訳なさそうな感じをしていた。
「なんか・・・ごめんね。ボクが無理やり連れまわしたばっかりに、君には君の事情があるもんね。」
「そう・・・だけど・・・どうして・・・私を・・・連れてったの?置いてけば・・・良いのに・・・。」
そうアズマはゼエゼエと大きく呼吸しながら会話をした。しかし、少年はそこでなぜか顎に人差し指をあてて悩んでいた。
「うーん。うーーーーん。うーーーーーーーーん?そうだなぁ?」
と頭を捻りながら考えていたが、とんでもないほどのあっさりしていた理由があった。
「なんとなく。君を連れてった方がいいかな?みたいな?」
「ハァ!?」
あまりにもあっさりというよりかは全く根拠のない理由でアズマは少年に振り回されていたのだ。あまりの根拠の無さにアズマは絶句した。理由の無さにアズマは疲れて足がふらつきながらも立ち上がり、少年の肩を掴み体を揺さぶっていた。
「それは困るよおおおおお!!わ、私はそんな、そんな理由で連れて回るほど暇じゃあなかったのにいいいいいい!!どうしてくれるんだよおおおおおおお!!!
アズマは少年に今までさんざん走りまわされ、クタクタになった挙句根拠の無い理由で振り回されていたことに不満を持って疲れていても少年に強く当たる。少年もアズマに揺さぶられていて頭がクラクラしていても少年は必死に反論しようとしていた。
「い、いやあ、それは根拠があるようでないような理由というか。これにも深い理由があって・・・」
「何が『根拠があるようでない』なんて!全然理由になっていないじゃあないか!!どうしてくれるんだよぉ!!」
「そんなに揺さぶらないで送れよ!顔が見えちゃうじゃないか・・・・・あっ。」
少年が揺さぶられている中フードが後ろの落ちて顔が見えないことに危惧していたが、気づいた時にはすでに手遅れ少年の顔がはっきり見えてしまった。
頭には黒いカチューシャを付けており、それには白い花の飾りがついていた。真っ白に近い銀髪の髪の色に髪は肩を通り越してマントの下に隠れるほど長く、茶色の瞳。整った顔立ちに透き通った肌をしていた。そして、アズマはその少年を見て思った。否、少年だと思っていた人物は少女であったのだと。アズマは衝撃の事実に電流が走る。そして驚きのあまり言葉が出ずにいた。
「ふえええぇ!?き・・・き、君は、お・・・お、女の子だったの!?えええええええ!?」
やっと言葉が出ても叫んでばかりだったアズマ。少女は驚いているアズマに完全に呆れていた。
「ハァ、そんなに驚かなくてもいいんじゃないかな?少なくともボクは君を騙す気はなかったし、それにボクにも事情があるからさ。それ以上は突っ込まない方がいいと思うよ。」
「え、ああ。うん。そうだね。でも、私はずっと男だと思っていたからなんか驚いちゃったというか。」
アズマは衝撃の事実を知って少女に対してぎこちない接し方をしていた。というのもアズマは姉妹以外の年の近い異性との会話はほとんどなかったのである。幼い頃に一度異性との交流はあったのだが、本人は覚えておらず。それに目の前にいる少女は『絶世の美少女』と言われてもおかしくないくらいの美貌を美しさを兼ね備えいているため、アズマは見惚れてしまうほどであった。
アズマ一度深呼吸をしてから彼女の言葉を整理するようにした。彼女が言う『根拠の無い理由』には深い理由があるという言葉に気になった。言い訳としか思えないが、それでも聞いて納得する理由を引き出そうとしていた。
「それで、君の言う『根拠の無い理由』を聞きたいんだけど?納得する理由を言ってくれないとさすがに困るよ。」
少女は思い出すように顎に人差し指を当てて、そして思い出したのかパンっと音を立てながら手を合わせる。
「そう!『おじ様』が昔言ってたの。人と人との出会いには偶然はなくすべてが『人同士の引力』に引かれるんだって。」
「ふむ。ふむ。それでそれで?」
「それでね。君とボクとの出会いは何かに引かれたんじゃあないかな?って思ってさ。これで納得いくかい?」
少女は腰に手を当てて『ふふん』と何か誇らしげな表情でいたが、アズマはその理由に対して全く納得ができずさっきより強い力で少女の肩を掴み揺さぶった。
「全然納得いいわけないよおおおおおおおおおお!なにその『引力』とか!?全く理由になっていないいじゃあないかああああああああああああああ!!!」
「えええええええええええええええ!!これ以上理由なんてないよ!!しかも、ボクの理由はホントに教えられてたことなのに!!」
少女の言い分には嘘をついていない様子はなく、むしろ本当のことを言って納得してくれないアズマに対して不満な表情をしていた。アズマは少女の表情を見て、とりあえずは『そういうことにしよう』と話を置いておいた。
「はあ、じゃあそういうことにしておくから次は君の番。どうしてあの場から逃げたの?」
アズマは気乗りはしなかったが少女が逃げ出した理由を聞こうとした、先ほどミレリアと遭遇した際に逃げ出していったのだ。何かしらの理由があったはずなのだ。話を振ってみたが、少女は頬を膨らまして不機嫌な顔をしていた。その顔を見てアズマは少女に尋ねる。
「どうしたの?急に不機嫌になって?」
「名前・・・。」
唐突に少女は何かしゃべっていたがアズマは何を言った全然聞こえていなかった。
「今なんて言ったの?」
「名前で呼んで欲しいんだけど。」
「はい?私、君の名前を知らないんだけど?」
少女はどうやら名前を呼んで欲しかったが、アズマは全く彼女の名前を知らない。自己紹介をする機会なんて先ほどにはなかったのだから。どうやら少女はアズマと自己紹介をしたかったそうだ。それに察したアズマは自己紹介をした。
「ああ。そういえば確かに自己紹介をしてないね。ボクはアズマ。大和から来ました。それで、君の名前は?」
アズマは自己紹介をすると少女は口角を上にあげてとてもうれしそうにアズマを見つめていた。
「私の名前は『マリー』。よろしくね!アズマ!」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
二人はお互いに握手を交わしにこやかに顔を見合わせた。
『マリー』が言った『引力』という言葉を信じる者はいるだろうか?人との出会いというものには『偶然』というものはなく、生きとし生きる者があらゆる者と出会うのは『必然』ということなのだ。
アズマは『マリー』と名乗る少女と出会うこととなったのだがこの出会いは『偶然』ではなく『必然』であるのだと、二人はまだ知る由もなかった。
そして、二人がこの場で出会うことでこの物語は今始まったのだ。
次はサブタイ変えます。