7話
最初はサイラスの結婚式が終わって一段落したため、イライザの家へと訪れた。いつものように、ふたりで気兼ねなくお茶をするためだ。
しかしリンゼイは疲れがどっと出てしまい、お茶を終える頃には少々熱っぽくなってしまっていた。
馬車でそれほどかからない公爵家に留まったのは、伯爵家に戻ればそれはそれで使用人たちの腫れものにさわるような態度でリンゼイに接しており、単純に気まずいからだ。レオは思い出せないまま態度だけ妻として扱ってくれる。サラはなんとかしようと手を尽くしてくれていたが、それもリンゼイにはこの頃煩わしかった。誰もがリンゼイというより、「記憶を失くしたレオの妻」として扱ってくることに耐えきれなかったのだ。
邸の主人であるレオの記憶から抜けているリンゼイは、誰の目から見ても不幸で同情を誘う立場になっていたのだ。
そんな邸の雰囲気に嫌気がさしていたのもあり、イライザの「ゆっくり泊まっていけばいい」という言葉にリンゼイは甘えることにした。
ところが、モントワール公爵が急に忙しくなったそうで公爵家がばたばたしていた。その状況で泊まるのはさすがに居心地が悪くなってしまった。
イライザはもう少しいていい、と言ってくれたが、リンゼイは実家に連絡をつけて王都のはずれにあるスカラット伯爵家の別荘にやって来たのである。
自分から提案しておいて早く切り上げることになったのをイライザは申し訳なく思い、この別荘までの馬車を手配してくれたうえに、別荘に行くには足りない衣服などを貸してくれた。
この別荘は普段夏に来る程度で、夏が始まろうとしている今は回りに点在する他家の別荘も人はなく、ひっそりとしている。王都から馬車で二時間もすればたどり着く湖の湖畔にあり、森に囲まれていて避暑や休養、療養などとして訪れる貴族御用達の別荘地だ。
昔からスカラット家の別荘で仕事をしてくれる馴染みの女中はこの近くの村に住んでおり、しばらく滞在する、と伝えればリンゼイの身の回りの世話をしに通いで来てくれている。
サラもいない。レオもいない。執事も、メイドもいない。自分のことは自分でできるため、女中がすることと言えば食事の支度と別荘のちょっとした掃除くらいだった。
今ここでリンゼイは本当にひとりになった。
誰に会うわけでもないため、服装も軽装だし、髪をしっかり結う必要もない。
ただこうしてひとりになって少し気持ちを落ち着けたかったのだ。
住んでいる王都の邸では急な来客もあれば使用人たちがいて気を抜くことは難しい。いつか伯爵家を継ぐレオのためにも、妻としてしっかりしなくては、という意識が働いてしまい、いつもその場の状況に合わせて仮面を被ってきたのだ。それは結果として自分の感情は置き去りにしてしまった。
置き去りにすれば確かに日々はうまく回る。
けれどそれはレオとの関係も「これまで通り」になってしまう。リンゼイが思い描く結婚生活とは大きく違うものでもあった。
ひとりになって二階のテラスから広がる景色を眺めてぼんやりしていると、レオとの思い出がよみがえる。
この別荘でリンゼイとレオは出会った。それはもうずいぶん昔のことだ。この中庭でダンスの練習をし、かくれんぼをした。中庭の奥にある大きな木の下で叱られて泣いていたリンゼイをレオが宥めたこともある。十二のときにレオから結婚して欲しいと言われ、リンゼイが恋をした場所である。
今はもうあまりレオと話すことすらなくなっていることを思うと、こうして思い出の中にいる方がよほど幸せな気がしてしまう。それは過去であって決して戻りはしない。
そして、リンゼイがあの恋におちた約束の日からずっと片恋をしていると思うと、なかなか年季が入っていることに苦笑いしてしまう。
「……本当に精霊がいたら、こういう恋って叶えたりしてはくれないのかな」
スカラット家はかつて精霊使いの長だったという。それは千年も昔のことで、いくらその血筋とは言え、リンゼイにそのような能力はない。
スカラット家の教育として精霊に関することと精霊と一族の関係は学んだが、それはもはや歴史の中の話であり、リンゼイには実感のないことだった。
それでもテラスから見える木々が風に揺れる音を聞いていると、もしかして精霊がいるのかもしれない、と信じたい気持ちになる。
精霊が恋を叶えてくれる、なんて伝説があるわけでなく、ただ見えない何かに都合よく片恋を叶えて欲しいという傲慢な願いだ。
そんな思いを抱いてしまうくらいにリンゼイの心は疲弊していた。
「リンゼイ様、リンゼイ様!!」
リンゼイが別荘に来て二日ほど経ち、昼食を終えて部屋で読書をしていたら、通いの女中がかなり大声で叫びながら入って来た。
「どうしたの?」
男が、不審で、馬が、と言っていることが要領を得ない。危険だと言って女中はなんとかリンゼイを部屋の中へ押し戻そうとしているが、この邸の主は今リンゼイしかおらず、対応しないわけにもいかない。
伯爵家に出入りする商人などとのやりとりで多少の度胸はあるつもりだが、女ひとりで太刀打ちできるかと言えば心もとない。リンゼイは女中に助けを呼んで来るように、と頼もうとした時だった。
「リンゼイ、いるのか!?」
荒々しい足音をさせながら自分の名を呼ぶ苛立った声にびくりと驚く。女中もまさか自分の主人の名が出てくるとは思わずふたりで声のした方をゆっくりと見る。
そこには息を切らせたレオがいた。
「……レオ?」
「どうして勝手に別荘に来ているんだ?僕に何も言わず、どういうことなんだ」
王宮へと出仕するときのような服ではなく、いくぶん簡素な格好のレオがそこにいた。
レオの怒りに怯えた女中はリンゼイの後ろで震えている。リンゼイは女中に、彼は夫だから、と言うと、女中ははっとしたようにレオに頭を下げた。
リンゼイは女中に飲み物を持ってくるように指示し、レオと共に応接間へと入った。
普段物腰が柔らかいレオらしくもなく、どかりと音を立てて長椅子に座った。その様子にリンゼイも動揺を隠せない。
「……馬を、走らせて来た……。きみがモントワール公爵家にいないと言われて」
レオがうなだれて大きく息を吐く。
王都からこの別荘のある避暑地まで馬車で二時間ほどだ。馬であれば半分ほどの時間でここまで来ることができる。レオのふわふわとした髪は馬を走らせてきたせいか乱れており、レオの様子はそれ以上に疲れているように見えた。
女中が飲み物をレオに差し出すと、レオは少しぶっきらぼうに受け取ると一気に飲み干した。
「王宮はいいの?すぐに戻らないと王宮つくまでに日が落ちてしまうけど……」
リンゼイは言外に帰った方がいいとにじませると、レオはきつくリンゼイを睨みつけた。
「……妻が帰って来ないという一大事に仕事なんてしてられるわけないだろう」
ちゃんと許可はとってある、とレオはリンゼイを凝視した。
「帰るつもりはあるから、そんなに心配しないで」
「じゃあどうして嘘を?公爵家に泊まっていると思ったら全然違うじゃないか」
「それは、急に公爵様がお忙しくなったらしくて……さすがにちょっと」
「……そうか、確かに公爵は……。なら、こっちに来ているとなぜ黙っていたんだ」
――それは、レオにどう思われているのか分からなかったから。
リンゼイは言葉をのみ込んだ。黙ってここに来たのは、記憶を失くしたレオとの関係に不毛なものを感じていたからだ。この先何十年とあるだろう夫婦という関係に希望が持てなかった。
そして同時に下心があった。少しは心配してくれるのではないか、そうして自分を気にして欲しかった。リンゼイ自身子供っぽいことは自覚している。
かぶり続けた仮面を剥ぐことは難しく、リンゼイにとっては精一杯の反抗であり、意思表示だった。
応接間に沈黙が落ちる。リンゼイはこの重い空気を払うように明るく言った。
「……夕食と、ベッドの準備しないとだね。女中に頼んでくるから少し待ってて」
「まだ話は終わっていない」
これまでになく強い言葉にリンゼイは思わず後ずさる。
「きみも、座ってくれ。ちゃんと、話がしたい」
リンゼイはおどおどしながらレオの向かいに座った。
「ここに来る前、公爵家に使いを送ったら僕自身が呼びつけられたよ」
「え?」
「公爵夫人のイライザ様だ。きみのことをどう思っているのか、そこまで仕事が優先なら文句を言わない子を選ぶべきだったと散々だ。正直、きみがいない上で言われたから、泣きっ面に蜂だよ」
イライザはシュイランテ家からの使いが来るまで数日かかったことに怒り心頭だった。
仮にも夫婦であれば、体調を崩したリンゼイに何かしら使いが来ると思っていたらしい。ところが、伯爵家にリンゼイが泊まる、とイライザが使いを出したあとは全く音沙汰がなかった。友人としてつき合いの長いイライザにとって、この一年落ち込んでいたリンゼイをずっと心配しており、その根源であるレオにひとこと言ってやりたかったのである。
「……きみは、どうしたい?僕の記憶が戻らないことは申し訳ないと思っている。かといって今のままでもよくないと思っている。記憶を失くす前の僕たちは、そんなに夫婦としてだめだったのか?使用人たちはそんな風に思ってなかったようだが」
落ち着く暇もなく、レオがリンゼイに問い質す。
そのレオのあまりに真剣なまなざしに誤魔化すことは難しいとリンゼイは腹をくくった。
「元々、婚約期間が長くて……国境警備任務も半年を越えたら手紙も来なくなってた。レオは、たぶん私に負い目があるんじゃない?」
「負い目?」
リンゼイはずっと胸の内にしまってあったことを言葉にする。声が少し震えてしまうのは仕方がなかった。国境警備任務についてから間もなく手紙が来なくなったことから話が始まることにリンゼイは自分で恥ずかしくなってしまう。
「きっと、レオが今更引けなくなってしまったと、そう思われてる気がして……」
このときですら、十二の約束からすでに四年、婚約からは二年経っている。気持ちが変わっても仕方ない、とリンゼイは諦めすらあった。
「だから、ちょっとしんどかったの。離縁は……、まわりが納得してくれるかどうかわからないけど、私はそれでもいいと思ってる」
離縁、という言葉にレオは顔をしかめた。記憶がなくてもレオはそのように考えていなかった。まして貴族の離婚は正当な理由がなければ王宮から許可が下りない。だからそう簡単にできることではなかった。
離婚経験のある貴族の婦人など、どこへ行っても後ろ指をさされるし、実家に戻れるとも限らないため生活の手段さえままならない。それは貴族の男も同じだ。ひとりの女を放り出した無責任な男として悪評が立ち、仕事への影響も少なからずある。貴族には自由な結婚もなければ自由な離婚もない。だからこそ貴族たちは利益優先で相手を選ぶのが普通だ。
「離縁したところで、きみはどうやって暮らしていくんだ……スカラット伯爵に頼るのか?」
「どうしようね……それは自分でも悩みどころ。実家に頼るって言っても、離縁した娘なんて邪魔なだけだし」
リンゼイはどこまでも落ち着いていた。それはもう、ずっと前から思い描いていたことを話すようだった。
そこまで思いつめていたのか、とレオの頭の中ではこのままではいけない、警報が鳴り響いていた。記憶を失くしてから二ヶ月ほど経っている。しかし婚約期間は五年近くある。その間、リンゼイとの仲で育んでいた何かがあったのだろうとレオは考えていた。ところが、まさかそれよりも前からリンゼイが悩んでいたとは思いもよらなかった。結局、レオは結婚前ですらリンゼイをちゃんとみていたのか自分が信用できなくなってしまった。
「僕は、きみに負い目がないとは言わない。だがきみはどうなんだ?僕たちはそれなりに恋愛結婚だったと聞くのに、きみは僕に縋りもしない。僕のことを思っていないのはきみの方じゃないか」
レオはずっと抱えていた感情をリンゼイにぶつけた。記憶を失くしてから、妻というにはあまりに事務的なリンゼイに違和感しかなかった。それは自分の父から「レオがのぞんで」リンゼイと結婚したと雑談の中から聞き出した時にはっきりとした疑問となった。
あまりにレオの妻としてきちんとしていてそつがない。ちょっとした失敗や、だらしないところなど見たことがないのだ。
いくら仕事で帰りが遅かったりしていても、たとえば化粧などしていない妻の顔を見ていない。今、こうして追いかけてきて初めてゆるりとした身なりの妻を見ているのだ。普段邸での妻は、気を張っていた、という証左でもあった。
「……リンゼイ様、夕食はお二人分でよろしいでしょうか……」
女中が気まずそうに応接室に入ってくると、今日の予定を聞いてきた。確かに、通いの女中ひとりであるため、はやめに準備に取り掛からなくてはならなかった。
リンゼイは夕食と客間のベッドメイクを頼むと、ふたりは大きく息を吐いた。
「僕は客間で寝るのか。本当に、他人扱いだな」
リンゼイは固く唇を結んだ。
「明日、一緒に帰ろう。馬車の手配はさっきの女中に頼んでみる」
レオはそう言うと、さっさと客間に行ってしまった。
思わずリンゼイはレオを引き留めようとするが、自分から離縁、という言葉を出しておいてそれはできなかった。
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女中に馬車を手配してもらってレオとリンゼイは王都にある邸に戻って来た。執事や使用人たちがふたりを出迎える。
「レオ様、こちらの方は……?」
レオに手を引かれて馬車から降りたリンゼイを見て執事がきょとんとしている。それは他の使用人たちも同様だった。不審なものを見るような視線に、リンゼイの足が凍ったように動かない。
「え……?」
「おい、待ってくれ。リンゼイだ。僕の妻じゃないか。君たちがリンゼイを思い出せ、としつこく言っていたじゃないか」
レオが慌ててリンゼイを抱き寄せ、必死に言い募る。しかし使用人たちは顔を見合わせ、疑問に思っているように見える。玄関前には執事の他四人ほどが出迎えや荷物を下ろしたりするためにいるが、確かに誰も「おかえりなさいませリンゼイ様」とは言っていなかった。
「リンゼイ様!」
唯一リンゼイの名を呼んだのはサラだった。その声にリンゼイは安堵で膝から崩れそうになるも、レオがそれを支えてどうにか倒れずに済んだ。
「どういうことだ……僕だけでなく、使用人までリンゼイのことを忘れてしまったのか……?」
「まずは奥様をお部屋にお連れします。……私は、リンゼイ様のことを忘れてはおりませんので」
「頼むサラ」
夫に忘れられ、今度は使用人にも忘れられてしまった。リンゼイは今自分がどういう存在なのか分からなくなっている。
(何が、起きているの……?)
レオとサラに抱えられてようやく自室へと入ると、リンゼイはその場にへたりこんでしまった。玄関からここまでの間にも顔を合わせた使用人たちがひとことも「おかえりなさいませ」とは口にしなかった。見ず知らずの女が運ばれていく様をただ不審そうに凝視していた。
「奥様、大丈夫です。私がいますから」
「サラ……」
「休まれた方がいいかと。馬車に揺られてお疲れでしょう」
リンゼイは茫然としたまま、サラにされるがままに着替えさせられ、長椅子へと座らされた。朝別荘を出たため、時間で言えば今ごろは昼食だが、とても食事をする気にはなれない。サラに出された紅茶さえ喉は通らなかった。
レオは不思議に思っていた。自分だけでなく、使用人までもが記憶から抜けてしまったことが不思議でならない。レオは使用人たちに説明はしたが、誰も納得はしていなかった。それは少し前の自分を見るようだった。
これまで原因は自分にあると考えてきた。
しかし、今の状況はそれを否定する。記憶を失くしたレオと使用人に共通しているのは、リンゼイと言う存在だ。だが、サラだけはリンゼイを忘れていないことも説明がつかない。ぐるぐると思考を巡らせてはみても、使用人たち全員が影響を受ける何かがあったとして、なぜサラだけが影響を受けないのか、そしてなぜリンゼイだけが忘れられてしまうのか――もしや、思ったよりも大ごとなのではないか、とレオは思い始めている。
例えば、邸内で飲むものに薬が仕込まれていた、ということが最も理にかなった仮説だ。しかしそれではサラの存在が説明できない。だとすれば、サラ自身が裏切りの可能性が浮上してしまう。
サラという侍女は、果たして何者なのか――リンゼイの幼い頃から仕えている、というサラが今更裏切る理由も分からない。レオに対しても、リンゼイを思い出して欲しい、と願い出たことだってある。サラだけに効果がなかった何か、という方がずっと自然な気がするのだ。しかしそれはレオの都合のいい解釈にすぎない。現時点では、サラという存在がどういうものか判断しかねる。そうなると、レオは先ほどサラにリンゼイを預けたこと自体が間違いであった可能性に背筋が凍る。
レオは急いでリンゼイの部屋のドアを焦る気持ちのまま乱暴にノックした。中からはリンゼイの細い声がして、入室を許される。
自室の長椅子でひじ掛けにもたれるように休んでいたリンゼイがレオが座れるように少し寄った。
「ふたりにしてくれ」
レオはそう言って人払いをした。それはサラも例外ではない。サラはいつものように人形のような感情の見えない表情でふたりに頭を下げると、足音もなく部屋を出ていった。
リンゼイはひどく憔悴していた。
無理もない、とレオは思う。リンゼイはこの先も忘れられてしまうのではないかという恐怖心でいっぱいになっていた。これまでレオが見ていたのは、必死で気丈に振る舞っていたリンゼイだ。そしてそれはいろいろなものを見ずに済んでしまっていた。今はもう見る影もなく弱っているリンゼイをレオはただ優しく抱きしめる。
「昨日、あの女中に昔の話を聞かされたんだ」
リンゼイはレオにさるがままレオの胸に顔をうずめる。
「僕のことを思い出したらしくてね、よくリンゼイの手を引いては庭で散策してはふたりだけで木陰でひっそり話していたらしい。僕もきみも行儀がよくて、控えめにふたりだけで席をはずすなど、いじらしいほどに仲睦まじかったそうだよ。それに、僕はあの庭の木の下できみに結婚を申し込んだらしいな?我ながら、どれだけ昔からきみのことが好きだったのかとちょっと恥ずかしくなってしまった」
リンゼイはぼんやりとあの頃を思い出した。レオに結婚を言われたあの日、あまりに感激して誰かに言いたくて仕方なかった。しかし、両親に言ってしまうのは気が引けて、かと言ってやんちゃ盛りの弟に言うべきことではないこともリンゼイは分かっていた。だから通いで来ていたあの女中にだけひっそりと秘密を明かしたのだ。まさか、それを覚えているとは思わなかったが。
「女中から聞かされて、きみのことを思い出せないのはかなり悔しい。なんだか大事な時間を奪われてしまったようで。でももうそんなことは言っていられない。僕はこれから君を愛していく。だから、離縁するなど言ってくれるな」
今度はレオがリンゼイの細い肩に顔をうずめる。
それは懇願とも言えるほどに切なる言葉だった。
「過去の自分がそうだったように、もう一度君に恋をしよう。何度でも愛を告げる。だから……妻のままでいてくれ」